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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
68/135

第65話 会いに行くのだろう?

第2章、終了ですm(__)m

「では、いまここで聞いたことは、この場にいる者以外には口外しない、ということで構わないか?」


 一通り異世界人に関する情報が出終わったところで、イアンは全員を見回してそのようなことを提案してきた。


 要は、慎也たちの希望を尊重して、彼らが異世界人であることは内緒にしておく、というものだ。


「オレは構わねぇぞ?」

「私もだ」


 マクレーンとエミリータがすぐさま賛成票を投じる。


「りょうかーい!」

「私も秘密にします」


 シアーシャとフェルナも同意する。


「それはありがたいんですが、イアンさんは構わないんですか?」

 

 気になった慎也が訪ねた。

 さっきの会話から察するに、領主であるスアード伯爵は自分たちの素性を調べる為に色々と調査をしたみたいだし、イアン自身、領主の命令を受けているだろうことは間違い無い。


「まあ、一応、報告はしなければならないだろうが、伯爵はあくまで君たちが異世界人か否かを確かめたかっただけだからな。問題行動を起こしたのならともかく、そうでないのなら、君たちになにかを強制する理由も無いし、素性を知られたくないという君たちの希望を尊重なさるだろう。それに、伯爵はウィル殿には借りがおありのようだし」


 イアンが視線を向けると、ウィルは黙って肩を竦めた。


「2人が異世界人だということに関して、口を噤むということで、この話は終わりだ」


 この話は、というイアンの言葉を聞いて、ふとマクレーンが眉を顰めた。


「そう言えば、お前、爺さんになにか聞きたいことがある、って言ってたな?」

「それについてはいまから話す。断っておくが、このことに関しても秘密にしてほしい」

「このタイミングで持ってくる秘密の話、ね……なんとなく読めたぜ」

「ああ。その読みで正解だ」


 イアンとマクレーンのやり取りを側で聞いていた慎也たちも、イアンがなにをウィルに尋ねようとしているのか、予測が付いた。ヨルグとケーナだけは首を傾げていたが。


「ウィル殿。まずはこれを見ていただきたい」


 そう言ってイアンは懐から折り畳んだ1枚の紙を取り出して、机の上に広げて見せた。

 予想通りと言うべきか、そこに描かれていたのは、先日、ゴブリンの遺跡の最深部で見つかった巨大な柱状の物体のスケッチだった。


<絵画>のスキルを持つ者が描いたらしく、かなりリアルに描かれているだけでなく、ご丁寧に人間との対立比まで記されていた。


「なんでいやがりますか、これ?」


 真っ先に質問したのは、事情を知らないケーナだった。


「先日のゴブリンの一件で、遺跡の最深部で見つかった構造物だ。今日、私がここへ伺ったのは、シンヤたちの素性のことの他に、ウィル殿にこの柱について意見を求めて来い、との伯爵の命を仰せつかったからだ」


 ウィルは元1級冒険者で、若い頃は世界中を旅して周り、様々なアルティカ文明の遺跡や遺物を見てきた経験がある。なので、遺跡の奥底から見つかった謎の柱についても知っているのでは、とノーマは思い、イアンをここへ使わしのだたそうだ。


「……」


 イアンに渡された絵をじっと見ていたウィルだったが、ややあってポツリと呟くように言った。


「これは恐らく《神柱》と呼ばれる物だろう」

「!」


 ウィルの言葉に、その場にいた全員が色めき立つ。

 やはり彼は知っていた。この柱の正体を。


「その《神柱》というものについて、詳しく教えていただけますか?」

「いや、すまないがわしも詳しくは知らんのだ」


 首を横に振って、ウィルは続ける。


「だが、わしは以前、これと同じものをセント・クウィールで見たことがある」


 もう40年も前のことだ、とウィルは言った。

 セント・クウィール魔導王国は北のアルタニア地方に存在する国家で、魔法使いが多い国として知られている。本来は人が居住できないような極寒のアルタニア地方にあるにもかかわらず、温暖な気候を保っていられるのはアルティカ文明時代の天候を制御する古代神器(アルティカ・ノーツ)のおかげなのだという。

 それ以外にも、セント・クウィール魔導王国はアルティカ文明時代の遺跡が多く存在しているそうだ。


「あの時、わしは折悪く吹雪に見舞われ、遭難しかけていたところ、たまたま近くにあった洞窟に避難して難を逃れたのだが、その洞窟がどういう訳か遺跡に繋がっていてな。その奥底で、これと同じものを見つけた。光り輝く文字がびっしりと刻まれた、巨大な黒い柱。報せを受けてやって来た国の学者たちが、《神柱》と呼んでおったのを確かに聞いた。残念だがそれがどういう物かまでは教えてはくれなかったが、連中はわしに《神柱》に関して口外しないことを条件に、かなりの額の口止め料を渡して来おった。相当重要な物なのだろう」

「なるほど――そして、セント・クウィール魔導王国はそれがどんなものかを知っている、ということですね?」

「恐らくな。まあ、わしが知っているのはこれくらいだよ」

「いえ、充分です。ありがとうございました!」


 そう言うや、イアンは椅子から立ち上がり、戸口に向かって踵を返した。


「おいおい、もう帰っちまうのか?」

「当たり前だ。用は済んだ。それに、昨日の今日だ。シンヤたちも疲れているだろう。あまり長居すると、迷惑になる」


 マクレーンとエミリータ、フェルナとシアーシャは互いに顔を見合わせた。

 今回彼らは、なんとなく面白そうなことが起きるような予感がして、あるいはウィルに会うチャンスだと思ってイアンについて来たものの、確かに自分たちも疲労が抜けていないし、前触れも無くこんなに大勢で押しかけたのは迷惑だったかもしれないと、いまさながら気付いた。


「それではウィル殿、自分はこれで失礼します」

「気を付けてな。騎士団長だからと言って、あまり気負いすぎないように」

「ご忠告、感謝いたします」


 律儀に礼を述べて頭を下げると、イアンは出て行った。ウィルから知らされたことを、さっそく領主に報告するのだろう。


「では、私たちもそろそろお暇するとしようか」

「そうだな。面白い話も聞けたし」


 エミリータとマクレーンも立ち上がった。


「私たちもこれで失礼します」

「そうね。あ、シンヤたちのことは内緒にしとくから、安心してね」


 そう言って、フェルナとシアーシャも2人の後に続いて家を後にした。


「なんか、嵐みたいに現れて、嵐みたいに去っていきましたね」


 元の広さと静けさを取り戻した家の中で、イアンたちが去っていった戸口を見ながらケーナが呟いた。

 確かにその通りだと慎也も思った。

 それも、爆弾みたいな情報を残して。


「シンヤさん、お尋ねしたいことがあります」


 いつになく真剣な様子でユフィアが慎也を見た。


「な、なんだ?」


 若干気圧されたように、慎也が尋ね返す。


「さっきマクレーンさんたちがおっしゃっていた異世界人の女性の方のことです」


 何故か「女性」という単語を妙に強調してきた。


「私も聞きたいな」


 と、結衣まで同調してきた。


「というか、さっきの話に出てきた人って、空手部の久遠さん?」

「知ってるのか?」

「一緒のクラスになったことないからしゃべったことは無かったけど、有名人だったから知ってるよ。空手部の主将で、全国大会でも優勝してたし」


 そう。彼女の言う久遠くどう沙雪さゆきという少女は、女子生徒でありながら空手部の主将を務めていた。中学生にして段級位は4段。組手に置いては先輩男子でも歯が立たたず、全国大会でも敵無しで優勝したという強者だ。

 それこそ、学校1の有名人の1人だった。


「ああ……その久遠だ」

「ふーん……で、どういう関係? 仲良かったの?」


 興味津々で、しかしどこか探るような口調で尋ねてくる結衣に、慎也はどう応えたものかとしばし悩み――


「仲は悪かったよ。それこそ、顔を合わせる度に喧嘩を売られるくらい」

「ほえ?」


 想像していた答えと違ったのか、結衣の口から間の抜けた声が漏れた。


「知ってるかもしれないけど、久遠の実家って空手の道場をやってるんだ」

「うん、それは知ってる」


 そもそも彼女の家が空手道場を経営していたので、彼女自身、物心ついた時から空手一筋で、しかもごつい男たちに混じって育った為か、性格も男勝りになったというのは、周知の事実だった。


「んで、どういう経緯でかはよく判んないんだけど、1度、親父に連れられてあいつの家の道場に行ったことがあって、その時に久遠と手合わせしたんだ」

「え? 慎也君、久遠さんと戦ったの?」

「まーな」

「で、どっちが勝ったの?」

「開始から12秒34でオレの1本勝ち」

「秒殺!?」


 信じられない、といった顔で結衣が声を上げた。

 無理もない。学校最強=久遠沙雪というのは、彼女を初め、教員生徒全員の共通認識だったからだ。それに対し、言い方は悪いが、ただの戦国マニアとして知られていた慎也が、久遠に一本勝ちしたと言われても、信じる人間はいなかっただろう。


「前にも言っただろう? オレは親父に色んな武術を叩き込まれてた、って」

「あ、そうだったね」


 この世界に来て初めて知ったことだが、慎也も父親から様々な武術や格闘技、果ては剣術や銃の扱い方まで伝授されていた強者だったのだ。それを思えば、空手の達人を秒殺したという話もさして不思議なことでもない。


「けど、それでプライドをいたく傷つけたみたいでな。それ以降、顔を合わせる度に勝負(リベンジ)を挑まれるようになったんだ」


 疲れた様に嘆息を漏らす慎也。


「挑まれるようになって、どうしたの?」

「どうしたの? ってお前、勝負(果し合い)を挑まれたら、受けるしかないだろ?」


 武術は嫌々やらされたと言ってはばからない慎也だったが、戦国武将や、その生き様に憧れを抱いている慎也は、一対一、正々堂々の戦いを挑まれたら受けるのが礼儀、と考えていた。以前、ゴブリン・ナイトやゴブリン・ジェネラルと戦った時のように。


「それで?」

「いや、普通にオレの全戦全勝だったよ」

「……」

「けど久遠の奴、諦めが悪いと言うか、負けず嫌いと言うか、何回負けても懲りずに勝負を挑んでくるんだよ。まあ、武術者とか格闘家ってのはそう言うもんだろうけど。けど、オレだって腐っても武術者だからさ、戦う以上は負けたくはないから、本気で負かした。その度に「次は絶対勝ってやる!」とか言って、しばらくしたらまたリベンジを挑んでくる。以下、その繰り返しだよ。オレとしては勘弁して欲しかったけど、勝負を挑まれたら受けるのが礼儀だし、断るってのは逃げるみたいでなんか嫌だったんだ。そういえば、修学旅行の時も「帰ったらもう1回勝負しろ」って言われてたな」

「……もしかして、久遠さんが「あいつをぶっ飛ばす」って言ってた相手って……」

「まあ、オレのことだろうな」


 異世界で出会った誰かかもしれないけど、と慎也は付け加える。


「慎也君、なんで中学で空手部入らなかったの?」


 結衣は不思議に思った。

 空手部主将であり、全国制覇レベルに強い久遠よりも強い訳だから、空手部に入れば活躍できたはずなのに。


「オレがやってたのは空手じゃない。色んな格闘技や武術をごちゃ混ぜにした、総合格闘技みたいなもんだったからな」


 空手でやってれば普通に反則になる技もいっぱいあったからな、と肩を竦める。


「えっと、つまりシンヤさんとその方は、いわゆる「らいばる」というものだったんですね?」


 一連の会話を聞いていたユフィアが聞いてくる。


「ライバルって言うか、向こうが一方的にライバル視していただけだけどな」

「ふむ。その娘は君に勝つ為に鍛錬を積んでいた、ということだね?」


 それまで黙って聞いていたウィルが言った。


「目標に向かって一途に突き進む者は、伸びが早い。うかうかしていると、追い越されるかもしれないよ?」

「……確かにその通りですね」


 ウィルの言うことは慎也も納得できる。

 実際、彼女は再戦してくる度に腕を上げていた。

 自分に勝つ――ただそれだけの為に久遠は鍛錬を積み重ねていたのだろう。一途で、負けず嫌いで、努力家。まさに格闘家という人種を形にしたような性格だった。

 それに対し、当時の自分はただ漠然と鍛錬していただけだった。はっきり言って武術と言うものが嫌いだった。でも『父親』に逆らえなかったから、仕方なくやっていただけだった。自分の意志で武術をやっていた訳では無かった。

 たぶん、この世界に来ることがなかったら、そう遠くない将来、自分は久遠に負けていただろう。


 だが、いまは違う。

 いまは好きでやっている。

 剣術、射撃、格闘、魔法――すべて自分の意志で鍛錬を繰り返している。

 強くなる為に――そして、恩師とも言える、ウィルを超える為に。

 いまなら、何度負けても決して諦めよとせず、しつこいくらい自分を倒すことに拘っていた久遠の気持ちが判る。


「会いに行くのだろう?」

「……そのつもりです」


 出来れば会いたくない、苦手な相手だったのだが、それでもやはり、同じ学び舎で苦楽を共にした友人だ。理由はともあれ、何度も拳を交わした中でもある。会いたいか会いたくないか、と問われれば、当然会いたい。


「ならば、これが役に立つだろう」


 そう言って、ウィルは懐から取り出した物をテーブルの上に置いた。

 硬球くらいの大きさの丸い水晶のような球だった。だが、それが単なる水晶では無いことは、その内に宿る神秘的な青い輝きを見れば誰の目にも明らかだった。


「だ、旦那、こいつはひょっとして!?」


 宝珠を見たヨルグが血相を変えた。


「そう。神授の宝玉(ギフト・オーブ)さ」

神授の宝玉(ギフト・オーブ)?」


 初めて聞く単語に、慎也たちはそろって聞き返した。


「簡単に言えば、人間にスキルを与える効果を持った魔導具だよ」

「スキルを、与える?」


 訳が判らず慎也が聞き返す。

 そもそもスキルと言うものは技術だと、さっきウィルが言っていた。スポーツや音楽などのように、練習を繰り返して初めて習得、上達するものだ、と。

 それを”与える”ということがどういうことなのか?


「さっきは来客のせいで言いそびれたが、スキルを身に付けるには基本的にその技能を何度も練習して習得するしかないんだが、例外もある。それが魔導具だ。つまり、武器や防具にスキルが付属されており、それを身に付けることで使用できるというものだ。シンヤ君のミコトや、ユイ君の精霊樹の杖がそうだね」

「あ――」


 確かに、イクサの壱の型であるミコトにはいくつものスキルが付属されていた。すっかり忘れていたが、結衣が愛用している精霊樹の杖もまた、持っているだけで魔力が高まり、火、氷、雷属性の初歩魔法が使えるようになるという効果があった。


「だが魔導具の場合、それを身に付けていなければスキルは使えない。だが、この神授の宝玉(ギフト・オーブ)は、裡に封じ込められているスキルを人間に直接与える効果がある。そして1度与えられたスキルはその人間のものとなる。つまり、普通は長い年月と努力を重ねてようやく習得できるスキルを、一瞬で与えてしまうという、奇跡のような魔導具さ」

「しかも青色のはユニーク系スキルを与える宝玉だ。こいつはとんでもない貴重品! これを貴族に献上すれば、栄達なんて思いのままだぜ!」


 と、ヨルグが興奮気味に付け加える。

 一方で、結衣は「なるほどー」と冷静に納得していた。後で聞いたら、ラノベなんかでも良く出てくるものらしい。


「これは昔、わしがメリディスト島の迷宮で手に入れた物だ。生憎とわしには必要ないスキルだったのでな。売ろうかとも思ったのだが、いずれ誰かの役に立つかもしれないと、ずっとしまっておいたんだよ。君たちが冒険者として初めての依頼を達成したら、プレゼントしようと思ってな」

「良いんですか? こんな貴重な物……」


 ヨルグからその価値を聞かされ、慎也はすっかり恐縮してしまっている。


「構わんさ」


 ウィルはあっけらかんと言い放った。


「ちなみにお爺様、これにはどういったスキルが入っているんですか?」


 興味津々にユフィアが聞く。確かにそれは慎也も結衣も気になった。


「それは、使ってからのお楽しみだ」


 と、ウィルは悪戯っぽく笑った。


「ただ、これをシンヤ君が使えるようになれば、ユフィアとユイ君にも使えるようになる」

「「え?」」


 慎也がゲットしたスキルを、ユフィアと結衣も使えるようになると聞いて、2人は思わず顔を見合わせた。が、慎也はなんとなくその理由に気付いた。


「パーティ共有スキル、ってことですか?」

「その通りだ」


 正解を言い当てた慎也に、ウィルが満足そうに頷く。


「詳しくはスキルを得れば判る。手に取って「受領(オブティン)」というコマンド・ワードを唱えるだけで良い」

「では――」


 さすがにそこまで言われればどういうスキルか気になるし、受け取らない訳にはいかない。

 意を決して宝玉を手にした慎也は、深呼吸をした上で「受領(オブティン)」とコマンド・ワードを唱えた。

 神授の宝玉(ギフト・オーブ)がひと際輝きを発し、それが一瞬にして慎也の身体を包み込んだかと思うと、次の瞬間には幻のように消え去ってしまう。後に残ったのは、輝きを失ってただのガラス玉のようになってしまった神授の宝玉(ギフト・オーブ)だけ。


「これで終わりですか?」

「そうだよ。スキルをチェックしてごらん」


 ステータス画面を開くと、確かにユニーク系のスキル欄に新たなスキルが追加されていた。


<共有無限収納>

 亜空間に物を無限に出し入れできる。亜空間内は時間が止まっている状態であり、入れた物が劣化することは無い。生物は入れられない。このスキルは《絆の契約パーティ・コントラスト》で結ばれた全員と共有される。収納空間は個人別。ただし、パーティを脱退すると使えなくなり、中の物はその場に放出される。


 スキルの説明を読んだ途端、慎也はその凄さを1発で理解した。

 つまり、四〇元ポケットと同じ機能だ。これがあれば嵩張る荷物をすべて亜空間に収納することが出来る。しかも容量には上限が無い。ということは、倉庫いっぱいの荷物を手ぶらで持ち歩くことも可能ということ。おまけにそれを、パーティ・メンバー全員が使えるようになる。

 まさに、RPGゲームなんかでよく見るストレージと同じだ。


「これ、とんでもないスキルなんじゃ……」

「便利だろう?」


 と、ウィルは朗らかに笑うばかり。


「すごーい、エミリータさんのアイテムボックスの上位互換だね」


 結衣もこのスキルの凄さを理解して興奮している。

 エミリータの持っていたアイテムボックスは、容量に限界がある上、付けた本人しか使用できないという話だった。そういう意味では、このスキルは確かにアイテムボックスの上位互換と言える。


「あ!」


 突然、ユフィアがなにかを思い出したように手を打った。


「思い出しました。アイテムボックスの話、どこかで聞いたことがあると思ったら、お爺様が昔、同じようなスキルを封じた神授の宝玉(ギフト・オーブ)を持っている、っておっしゃってました!」

「そう。ユフィアが冒険者になったらあげよう、って約束していたね」

「そうでした……何年も前のことなので、すっかり忘れてました」


 大事な約束を忘れていたことと、祖父がそれを律儀に覚えていたこと、そしてそれを守ってくれたこと。

 申し訳無さと嬉しさと感謝が入混じって、ユフィアは顔を真っ赤にして手で覆ってしまった。


「メリディスト島はここから遠い。行くのなら、長い旅になる。だがこのスキルがあれば旅に必要な多くの荷物をまとめて収納できるから、手ぶらで旅をすることも可能だ。準備が出来たら、友達の元へ行ってあげなさい。君たちの成長の為にも、友達の為にも、ね」

「……はい、ありがとうございます!」


 もう何度目になるか数えるのも馬鹿らしくなる繰り返した感謝の念を込めて、慎也はウィルに頭を下げた。


(必ず会いに行ってやるぞ、久遠。腕と首を磨いて待ってろよ!)


 遠く離れた場所にいる、かつて何度も拳を交えた戦友に、慎也は改めて再会の誓いを立てた。

 この世界に来る前、修学旅行の時に交わした再戦の約束を果たす為に。


次回更新は今週の土曜日か日曜日の予定です。それまでに主人公パーティのステータス表をアップする予定です。


冒頭でもお伝えしましたが、この話で第2章は終了となります。次回からは第3章を開始する予定です。新たなレギュラーメンバーも登場しますので、楽しみにしていてください。

ちょっとネタバレしておくと、第3章のタイトルは「天〇の章」です。判る方は感想欄などで教えてください。


今後ともご愛読の程、よろしくお願い致します。

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