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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
67/135

第64話 偶然というか、奇縁だな

偶然って怖いですよね(´・ω・`)

 水を打ったように場が凍り付いた。まったくの予想外だった。

 自分たちが異世界人だと知っているのは、ウィルとユフィア以外はヨルグとケーナだけだった。それ以外の人には自分たちの正体は一切口外していない上、これまで異世界人だと思われるような振る舞いは極力しないよう注意を払っていただけに、まさか会って間も無いエミリータに気付かれているなど、慎也たちは夢にも思わなかった。

 故に、聞かれた直後、彼らが言葉を失い、絶句したのは仕方が無いことだったと言える。もちろん、結衣とユフィア、ヨルグやケーナも同様だ。


「シンヤさんと、ユイさんが……?」

「い、異世界人? マジで!?」


 驚いているのはフェルナとシアーシャも同じだったらしく、目をぱちくりさせ、びっくりした顔で慎也たちとエミリータを交互に見ている。


「そのことについては、私も尋ねたいと思っていた」


 と、イアンまでが尋ねて来て、慎也は軽いパニックになった。


(なんでバレた……?)


 何故気付かれたのか、いくら考えても判らなかった。

 そんな彼の態度自体が答えを物語っているのだが。


「何故そう思ったのかね?」


 と、年の功か、慎也に比べて冷静だったウィルが、平静な口調で聞き返す。


「我々の諜報能力を侮らないでいただきたい」


 と、先ほどまでとは打って変わって真面目な口調でイアンが答えた。


「シンヤとユイの身の上話が嘘だということは、ちょっと調べればすぐに判ることです」


 そう、慎也と結衣は、自分たちが異世界人だということを隠す為、自分たちは故郷の村から身売りされた奴隷で、護送される途中に奴隷商の一行が森の中で魔物に襲われて全滅し、2人で彷徨っていたところをウィルに保護された、という嘘の身の上話をでっち上げて流布していた。

 だが、領主であるノーマ・スアードの情報収集能力の前では如何ともし難く、とっくの昔に嘘だと見破られていた。


「つまり、領主はたった2人の冒険者の身元を調べる為に、わざわざ諜報部を動かして調べさせた、という訳かね?」

「ただの冒険者ならともかく、異世界人である可能性があるのなら、そうするだけの価値があると判断されたまでです。彼らが現れたのが異世界人の来訪が噂になり始めた時期だったのと、シンヤという名前が、過去の記録に残された異世界人の名前とよく似ていたので、念の為に、と」

「やれやれ、相変わらず細かいことが気になる性格は治っていないようだね」


 嘆息交じりにウィルが言った。そう言えば、ウィルと領主であるスアード伯爵は旧知の仲だという話だ。


「ちなみに、君たちはどうしてシンヤ君たちが異世界人と思ったのかね?」


 と、今度はマクレーンたちに話を振った。


「実際に異世界人に会ったからだよ」


 さも何気ないことのように、マクレーンは爆弾発言を漏らした。


「会った!? 異世界人に、ですか!?」


 真っ先にそれに反応したのは慎也だった。なにしろ彼は、同じくこの世界に飛ばされたであろう友人たちと再会することを目標にしているので、当然の反応だったかもしれないが。もちろん、声に出さないまでも結衣も驚いた表情をしている。


「ああ、1年くらい前、旅先でな。そいつの性格と言うか、言動と言うか……雰囲気みたいなもんがお前とよく似てたんだよ」

「自分の知らないこと、出来ないことを覚えようとする意志や気概なんか、君とそっくりだったよ」


 エミリータが懐かしむように付け加える。


「それ、どんな人でした? 名前は?」


 結衣もまた、自分の友達かもしれないと思い、真剣な眼差しで尋ねる。本来なら、うかつな言動だ、と結衣は責められるべきだろう。異世界人にそこまで興味を示すということは、自分たちも同じ異世界人だ、と答えているようなものだ。ましてや、騎士団長と3級のベテラン冒険者が、それに気づかない訳がない。 

 だが、この時点で既に彼らは2人が異世界人だとほぼ確信を持っているようだったので、とぼけても無駄だったかもしれないが。


「ちょうど君たちと同じくらいの年頃の、長い黒髪の少女だった。名前は確か、サユキだったか?」

「サユキ!?」


 自分たちと同じくらいの長い黒髪の少女で、名前がサユキ。

 名前と特徴を聞いた慎也が、思わずぎょっとした声を上げた。

 知っている。同世代に比べて異性との交流がとんと少なかった慎也だったが、その名前の女子生徒は良く知っていた。

 というか、恐らく元の世界で、慎也が最も交流の深かった女の子だ。残念ながら、その内容は色恋沙汰とは正反対のものだったが……


「なんつーか、男みたいな女だったぜ」

「男みたいな女?」


 マクレーンの発した謎単語に、結衣は怪訝な表情になって聞き返した。


「そこは、男勝り、と言ってやれ」

「おお、それそれ」


 エミリータに小突かれてマクレーンが訂正した。


「腕っぷしが強ぇっていうか、デリカシーが無いっつーか、好戦的っつーか……男よりも男らしい女だったな」


 呆れと感心の入り混じったような複雑な顔でマクレーンが言った。


 腕っぷしが強くて、デリカシーが無くて、好戦的な男らしい女――それを聞いて、慎也は確信を深めた。


「カラテとかいう格闘術の使い手だった。私たちと出合った時には既に<闘気>を習得していた。だが、私が魔法戦士だと知るや、自分にも魔法を教えてほしいと頭を下げて頼み込んで来た。残念ながら彼女には魔法の素質が無かったので無理だったが」

「カラテ……って、空手!?」


 空手を使う女子生徒。

 それを聞いて、結衣も思い至ったらしい。同級生に、空手の有段者で、しかも全国大会で優勝したことのある強者の女子がいたことを。


「んで、あいつ自分で言ったんだよ。私は異世界人だ、って」


 マクレーンの何気ないセリフに、慎也と結衣は少なからず驚かされた。

 サユキと言う少女は、自分から他者に異世界人であることを明かしたという。無用な騒ぎを嫌い、異世界人であることを秘密にしていた2人とは正反対だ。

 よほど豪胆なのか、あるいは馬鹿なのか……それとも、知られても問題にならないような、強い後ろ盾があったのか……


(まあ、馬鹿の方だろうな……)


 口には出さず、心の中で慎也は断言した。


「この世界は自分より強い奴がいっぱいいて楽しい――だの、戦えば戦うほど強くなれるのサイコー――だの、今度こそあいつをぶっ飛ばしてやる――だのと言っていたな。なかなか上昇志向の強い娘だったぞ?」

「うーん、それって、戦闘狂って言うんじゃないかなー」

(馬鹿とも言うな)


 腕を組んで感心するエミリータに、結衣は呆れた様子で、慎也は内心でツッコミを入れた。


 もう間違いない。慎也は今度こそ確信した。

 マクレーンとエミリータの話に出てきた少女の名前は久遠くどう沙雪さゆき――

 慎也とは因縁浅からぬ少女だ。

 なにしろ、彼女が「ぶっ飛ばす」と豪語している相手というのが、十中八九、慎也のことだろうから……


(よりにもよって、この世界に来て最初に舞い込んできた友人の手掛かりが、あいつかよ……まあ、あいつは生きてるだろう、とは思ってたけど)


 そして、エミリータの話からして、向こうも慎也がこの世界に来ていて、生きていることを確信しているようだ。


(会いに行かないとダメだろうなー)


 出来れば会いたくないと思っていた相手だっただけに、慎也は少し複雑な気持ちになったものの、無視するという選択肢は無かった。


「あと、向こうの世界より酒が美味い、って言ってたぞ」

「そう言えば、酒場で冒険者と飲み比べをして勝っていたな」

「ほう? そいつぁ面白い娘っ子じゃねぇか」


 大酒飲みと聞いて、ヨルグが感心したように頷いた。


(あの馬鹿!)


 慎也は頭を抱えたくなった。

 慎也の知っている少女も父親と一緒に酒を飲んでいたのを思い出したからだ。その頃は、未成年どころか小学生だったのに。


「……その人と、どこで会ったんですか?」

「メリディスト島の迷宮だ。彼女もそこで冒険者をしていたよ。迷宮専門の探索者(シーカー)だが」


 冒険者がこなす仕事は多岐に渡り、大抵の冒険者は自分の得意な分野を専門として活動している。その内、未発見の遺跡や、迷宮などで活動する冒険者のことを探索者(シーカー)と呼ぶ。ちなみに慎也たちは、魔物狩りを専門とする魔狩人(イェーガー)だ。


 マクレーンたちと、初めて一緒に仕事をした時、彼らは迷宮に行ったことがある、と話していたから、たぶんその時に出会ったのだろう。


「――で、その反応から察するに、やはり君たちも異世界人だということで良いかな?」


 話を終えたエミリータが、改めて慎也と結衣を見やる。

 慎也は黙ってウィルの方を見た。彼は小さな嘆息を付いただけでなにも応えず、代わりに小さくうなずいた。


 話しても構わないだろう。

 少なくとも、いまここにいる者たちなら信頼できる。それに、自分たち以外の異世界人――それも、同じ学校の学友の消息を教えてくれた好意には慎也も感謝しているし、それに対して嘘で答えたくはなかった。


「お察しの通り、オレと結衣は異世界人です」


 慎也が代表してそう打ち明けた。

 既に知っているウィル、ユフィア、ヨルグ、ケーナは無反応だったが、半ば以上予想していたイアン、マクレーン、エミリータは、やっぱり、といった反応を示した。寝耳に水だったフェルナとシアーシャは、マジで? みたいな顔でびっくりしている。


「2年くらい前、元の世界で事故に遭い、気が付いたらこのマナクレイ森にいたんです。その後、ウィルさんとユフィアに助けられ、こうして恙なく暮らせている訳ですが……」

「……2人同時にこの森に転移して来たということか?」


 大まかに事情を説明すると、すぐさまイアンが尋ねてきた。


「そうですが?」

「転移して来たのは、君らだけか? 他にはいなかったか?」


 別の世界から、ある日突然、人間が転移してくることがある、というのはこの世界では常識だ。またそれは、大抵の場合、複数人が同時にやって来るということも広く知られている。

 なので、慎也たち以外にもマナクレイの森に転移して来た異世界人がいるのでは? と考えたイアンのそれは当然の疑問だ。


「……オレたち以外にもう1人いたみたいなんですが、見つけた時には魔物に殺されていました」


 2年前、変わり果てた姿でウォー・ウルフの腹の中から出て来た級友の姿が脳裏を過り、慎也は声を落とした。


「……そうか」


 イアンもそれ以上はなにも聞かず、口を閉じた。


「マクレーンさんとエミリータさんが会った、サユキという少女は、たぶん、オレたちの知り合いです」

「なに!?」

「マジか!?」


 慎也の言葉に、2人が揃って驚きの声を上げた。


「たぶん、間違いありません。オレたちが通っていた学校の生徒で、オレの良く知っている女子と名前や特徴が一致します。あいつもオレたちと同じ事故に巻き込まれたはずですから」


 慎也が良く知っている女子、と聞いて、何故か結衣とユフィアがピク、と頬を引き攣らせた。


「偶然というか、奇縁だな」


 感慨深そうにマクレーンが言う。

 確かに、まったく違う、遠く離れた場所に転移した級友に、たまたまキアナの街から迷宮へ遠征していたマクレーンたちが出会い、同じく、たまたまマナクレイの森に転移して、間近のキアナの街の冒険者になったばかりの慎也たちと出会った。

 これ以上ないくらいの偶然であり、奇縁だ。

 そして、奇縁はそれだけでは終わらなかった。


「あのー、ちょっと良いですか?」


 すっかり蚊帳の外に置かれていたフェルナが、遠慮がちに手を上げた。


「どうした?」

「実は、その――」


 イアンに聞かれ、少し言いにくそうにしながらも、フェルナは言った。


「私たちも会ったことがあるんです。異世界の方に」

「!?」


 フェルナの爆弾発言に、その場にいた全員が驚いた。


「いつ、どこで?」

「半月くらい前に、隣のキリスタ領で」


 慎也に真剣な眼差しで尋ねられ、フェルナは若干顔を赤くしながらも、ハッキリと答えた。


「渋い感じのおじさんだったけどね」


 と、シアーシャが付け加えた。


「おじさん?」


 怪訝な顔で慎也が聞き返す。


「そ。たぶん、40歳くらいだったわよ?」


 シアーシャの言葉が確かなら、その人物は慎也たちの級友ではない。

 そもそも、この世界に転移して来る切っ掛けになったのは飛行機事故であり、当時あの飛行機には、修学旅行帰りの慎也たち以外にも大勢の乗員乗客が乗っていたので当然であるが。


「えっと、シンヤさん、覚えていらっしゃいますか? ワイバーンから助けてもらった時、私たちが商隊の護衛に当たってたこと」

「ああ、覚えてる」

「あの商隊は元々キアナに店を構えてる商人の方のもので、商品を取引先のあるキリスタ領へ輸送する為のものだったんです。その往復の護衛として私たちは雇われていたんですが、キリスタ領に入って間もなく、山間部の隘路で盗賊の襲撃を受けたんです」

「あの道は盗賊が出没するから止めといた方が良い、って言ったんだけどさ、なんか急に決まった上に急ぎの取引だったみたいで、遠回りしてたら間に合わないってんで、危険覚悟で突っ切ろうとしたんだけど、案の定、襲われて参ったわよ」


 嘆息交じりにシアーシャが付け加えた。


「私たちや他の護衛も必死に戦ったんですが、盗賊たちの方が数も多く、追い詰められてしまったんです」

「地の利がある場所に罠張って待ち構えてたんだから、当然よね」

「もうダメかと思ったところへ、突然、1人の男性が走って来られたんです」

「なにをしとるかー! って、凄い大声で叫びながらね。私たちまでびっくりしたわよ」

「その方が加勢して下さったおかげで、私たちはどうにか盗賊たちを撃退することが出来たんです」

「撃退、っていうか、あのおじさんが1人でほとんど倒してたわよ。しかも、誰も殺さずに」

「私たちも商隊の方たちも、是非お礼を、と言ったんですけど「お礼は不要です。自分は当然のことをしたまでです」とおっしゃって、固辞されました」

「カッコ良かったわよ? 私が年上趣味だったら惚れてたかも」

「結局、その方は捕らえた盗賊を憲兵に引き渡さなければならないとおっしゃって、先を急ぐ私たちとはその場で別れたのですが」

「今度会ったら、ちゃんとお礼をしないとね」


 と、2人は交互に喋りながらそのようなことを説明した。で、無事に取引が終わり、キアナの街に帰ってきた所で、ワイバーンに襲われて、今度は慎也に助けられた、と。


「で、その人が異世界人だった、と」

「確証は無いんですが、間違い無いと思います」

「そう思う根拠は?」

「彼は、人を探している、とおっしゃってたんです。それで「この男を知らないか?」と尋ねられて、1枚の絵を見せられたんですが、その絵が、とても人が描いた物とは思えないくらい精巧な絵だったんです」

「描いた、ていうか、人と風景をそのまま切り取って紙に貼り付けたみたいだったわ。魔法で人を紙の中に閉じ込めたんじゃないか、って、本気で疑ったくらいよ」

「これはなんなのか、と尋ねたら、これはシャシンというものだ、とおっしゃってました」


 シャシン。

 慎也と結衣は顔を見合わせた。その単語と2人の話からして、間違い無く写真のことだろう。


「それと、別れ際に彼の独り言が聞こえたんです――白昼堂々と人を襲うとは、この世界の悪党共は質が悪い、と」


 この世界の悪党――

 それを聞いたフェルナとシアーシャは、シャシンのことも併せて、後になってから、彼は異世界人ではないか、と疑ったのだそうだ。

 異世界はこちらに比べて遥かに文明や技術が進んでいる、という話を聞いたことがあったので、シャシンのような、現実と見紛わんばかりの精巧な絵が存在しても不思議じゃないだろう、と。


「……ちなみに、その人の名前は?」

「確か、リョウヘイって言ってたわね」


 リョウヘイ。明らかに日本人の名前だ。

 写真シャシンのことや、話の中に出て来たセリフを合わせて考えても、間違い無いだろう。

 ただ残念ながら、40歳前後でリョウヘイという名前の人物に心当たりはない。修学旅行に同行していた教師たちのいずれでもない。まったくの赤の他人だ。


「十中八九、その人も異世界人ですね」


 慎也がそう答えると、シアーシャが「やっぱりかー」と腕を組んで頷いた。


「つまり私たち、旅の行きと帰りに別々の異世界人に命を救われた、ってことよね?」

「言われてみればそうね……なんというか、奇縁よね?」


 感慨深そうにシアーシャとフェルナが頷きあっている。


「そう言う意味では、今日一日で、別々に知り合った人たちから、それぞれ自分の出会った異世界人の情報を教えてもらえたオレたちにとっても、奇縁だな」


 慎也のセリフに、その場にいた全員が無言で頷いたのだった。

次回更新は12/13日。18時予定です。

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