第56話 君たちの冒険は始まったばかりなんだからな
本番はこれからです(=゜ω゜)ノ
倒したはずのゴブリン・ガーズが再び現れたことに、討伐隊の間に驚きと動揺が走った。
「ちょっと、あいつら復活したわよ!?」
「復活したんじゃないわ。再出現したのよ」
驚くシアーシャの言葉を冷静なフェルナが訂正する。
(まあ、ボスの取り巻きを倒しても再出現する、ってのは定番だったからな)
同世代に比べて人並み以下ではあるが、いちおうRPGゲームをやった経験のある慎也は、やっぱりな、という思いでゴブリン・ガーズを見つめた。
RPGゲームにおいても、ボスに護衛、あるいは取り巻きがいて、同時に戦うことになる、というのは良くあが、そのパターンは大きく3つに分けられる。
1、取り巻きを倒すと2度と現れないタイプ。
2、倒しても再出現するが、数に限りのあるタイプ。
3、ボスを倒さない限り無限に出現するタイプ。
(インペリアル・ゴブリン・ガーズは<特殊召喚>によって召喚された。そしてこのスキルはMPを消費しない受動タイプ……なら、無限出現タイプと思った方が良いな。つーか、あれが無限に出て来たら、エンペラーを倒すどころじゃないぞ!)
6体のゴブリン・ガーズが、再び討伐隊に向かって走ってくる。
恐らく、ゴブリン・エンペラーを倒さない限りゴブリン・ガーズは際限無く出現すると考えて間違い無いだろう。
無限に湧き出す敵程恐いものは無い。
「中衛隊、前へ出ろ!」
イアンが声を張り上げる。
「ゴブリン・ガーズを足止めしろ! 前衛隊はその隙に全員でゴブリン・エンペラーを倒せ! 後衛隊は私の合図があるまで待機!」
どうやら、彼も慎也と同じ考えに至ったらしい。
このままゴブリン・ガーズを相手にしていてもジリ貧になる。ならば、こちらが消耗する前に大元であるゴブリン・エンペラーを叩くしかない、と。
53名の討伐部隊は前衛、中衛、後衛の3班に分かれている。前衛15人、中衛20人、後衛17人。そして、指揮官のイアン。
前衛はマクレーンやエミリータといった、比較的戦闘力が高く経験豊富なベテランによって構成されてる。
中衛は前衛に比べて戦闘力が低く、経験も実績も少ない者たち。シンヤ、フェルナがここだ。
そして、後衛は魔法使いを初め、弓などの遠距離攻撃専門の者たち。結衣、ユフィア、シアーシャ、リネットなどだ。
前衛が敵と戦い、中衛がバックアップし、後衛が援護、回復する、といった手順だ。
イアンは、中衛組にゴブリン・ガーズを足止めさせ、その間に前衛が総力を上げてゴブリン・エンペラーを叩く作戦に出たようだ。必要あれば、後衛の遠距離部隊に援護させる。
(悪くないと思うけど、上手くいくかどうか――)
一抹の不安を覚えながらも、慎也はイアンの命令に従って走り出す。前衛たちの間を抜けて彼らの前へ出ると、眼前からゴブリン・ガーズが迫った来るのがはっきりと見えた。ゴブリン・エンペラーはその後方で相変わらず悠然と佇んだままだ。
その光景に、慎也はふと違和感を感じだ。
(そう言えば、奴は何故インペリアル・ゴブリン・ガーズを6体しか出さないんだ? 6体だけではオレたちには敵わないと判ってるはずなのに)
もしインペリアル・ゴブリン・ガーズを無限に召喚できるのなら、もっと大量に召喚してこちらを数で押し潰してしまえば良いのだ。6体だけでは50人以上の討伐隊相手には勝てないことは、さっきの戦闘で判ったはず。
なのに何故ゴブリン・エンペラーはゴブリン・ガーズを6体しか召喚しないのか?
(ひょっとして、1度に6体しか召喚できないのか? それとも――)
考えている間にゴブリン・ガーズが近づいてくるのを見て、慎也は思考を切り替えた。
ハルバートを振りかざして飛び跳ねた1匹のゴブリン・ガーズに、なにも持っていない左手の掌をかざし、《見えざる手》で拘束する。
ジャンプ中に突然動けなくなって空中停止したゴブリン・ガーズが、驚愕と困惑の入り混じった声を上げるのを他所に、無造作に手を払う。《見えざる手》で掴まれていたゴブリン・ガーズが横に吹っ飛び、別のゴブリン・ガーズに激突して2体共もんどりうって地面に転がった。
他の場所でも、中衛隊の騎士や冒険者たちが複数で1匹のゴブリン・ガーズに挑みかかっている。が、元々前衛のメンバーに比べて戦闘力で劣っている彼らは、数で勝っているにも拘らず、防御力が高く、動きも素早いゴブリン・ガーズに苦戦している。とはいえ、ひとまず足止めという役割は果たせていた。
「いまだ! 前衛、ゴブリン・エンペラーをやれ!」
「よっしゃ、行くぜぇ!」
慎也たち中衛がゴブリン・ガーズのタゲ(ターゲット)を取っている隙に、マクレーンら前衛隊がイアンの合図でゴブリン・エンペラーに向かって突進を掛ける。その先頭を行くのは当然、マクレーンだ。
ゴブリン・ガーズたちが足止めされているいま、彼らとゴブリン・エンペラーの間に遮るのもはなにも無い。
だが、ここに至ってもゴブリン・エンペラーはその場から動こうとしない。ただ黙って、押し寄せてくる前衛隊の猛者たちを見下ろしている。
「部下に戦わせて自分は高みの見物とは――」
ぼっ、という発火音にも似た音を立てて、マクレーンのツヴァイハンダーの剣身から闘気が溢れ出す。その剣から繰り出される斬撃の威力がどれほど凄まじいものになるか、誰しもが容易に想像できるほど力強く、暴力的な闘気の尾を引く大剣を振りかざし、マクレーンはゴブリン・エンペラーに向かって跳んだ。
「――良いご身分だな!」
怒号と共にゴブリン・エンペラーの頭目掛けてツヴァイハンダーを打ち下ろす。
バギャン!!
「な――」
爆音にも似た激しい金属音と、柄を通して腕に伝わってきた固い手ごたえに、マクレーンは愕然となる。
あろうことかゴブリン・エンペラーは、マクレーンが渾身の闘気を込めた必殺とも言える斬撃を、右手に持ったメイスで無造作に、しかも片手で受け止めたのだ。
あまり非現実的な光景に、後続の前衛隊のメンバーも愕然とした表情を顔に張り付けたまま動きを止めた。
次の瞬間、ゴブリン・エンペラーが繰り出した拳がマクレーンの鳩尾にめり込んだ。
「ごっ!」
くぐもった声を漏らしてマクレーンの巨体が弾き飛ばされる。
「チッ――」
マクレーンが殴り飛ばされる光景に、最初にショックから立ち直ったのはエミリータだった。が、彼女は非情にも殴り飛ばされたマクレーンには目もくれず、盾を前面にかざし、剣を水平に構えたまま、まるで弓で矢を引き絞るような形で構えた。
その剣先から生じた魔力の風が剣全体を覆う。《戦具に宿りし風の精》だ。
だが、それだけでは無い――
「はぁっ!!」
裂帛の気合と共に突き出された剣――それに纏わり付いていた風の魔力は、その瞬間、あたかもエミリータの気合に呼応したかの如く膨張した。剣を覆っていた小さな竜巻が一瞬にして巨大化し、猛烈な渦を巻きながらその風力を剣の先端へと集約させたその姿は、まさに風のドリルと呼ぶべきものだった。
刀剣型戦技――トルネード・スパイク。
エミリータの繰り出した暴風の刺突は、床を抉りながら玉座に突き刺さり、刹那の間に玉座を粉々に粉砕した。さらに飛び散った破片までも飲み込み、ほとんど小石と呼べる大きさまで砕いてしまう。
だが、砕かれたのは玉座とその周辺の床だけで、肝心のゴブリン・エンペラーの姿は無い。
「くっ!」
鋭い舌打ちを漏らしてエミリータが背後を振り返ると、後続の前衛隊の集団のど真ん中に、ゴブリン・エンペラーが着地するのが見えた。
どうやらトルネード・スパイクを喰らう直前にジャンプで躱し、彼女を飛び越えて背後に降り立ったようだ。
ギシャアアアアアアアアアアア!!
限界いっぱいまで開けられたゴブリン・エンペラーの口から、大気を鳴動させるほどの咆哮が轟いた。
近くにいた前衛隊のメンバーはもちろん、ゴブリン・ガーズと戦っていた中衛隊、その背後で戦いの推移を見守っていた後衛隊の魔法使いたちすらも、戦慄に身を固くしてしまうほどの雄叫び。
「こ、この野郎ォォォ!!」
最初に我に返った冒険者が、武器である曲刀を構えてゴブリン・エンペラーの横合いから斬りかかった。
「よせぇ!」
エミリータの警告の叫びは遅きに逸した。
ゴブリン・エンペラーは、まるでハエでも追い払うように横へ振り抜いたメイスで、冒険者を鎧袖一触で薙ぎ倒す。
「ぎゃっ!」
口から血を噴いて崩れ落ちた冒険者の男に、ゴブリン・エンペラーは止めを刺すべく無慈悲にメイスを振り下ろす。
「野郎!」
「させるかッ!」
間一髪、大剣を持った冒険者と盾を構えた騎士が割って入り、2人掛りでゴブリン・エンペラーのメイスを受け止める。だが次の瞬間、真横から繰り出されたゴブリン・エンペラーの蹴りを受け、2人まとめて文字通り一蹴された。軽く、そして無造作に放たれたように見えた蹴りだったが、喰らった2人は実に10メートル近くも吹き飛ばされ、盛大に地面に身体を打ち付けている。
「てめぇ!!」
先ほど殴り飛ばされたマクレーンが、今度は背後からゴブリン・エンペラーに斬りかかった。その身体を両断せんと真横の繰り出された斬撃を、ゴブリン・エンペラーは、まるで後ろに目が付いているかのような正確さで振り返り、メイスで受け止める。
「スイッチ!」
またも拳を放とうとしたゴブリン・エンペラーから、マクレーンは素早く離れると同時に叫んだ。離れたマクレーンと入れ替わるようにして、今度はエミリータが再びゴブリン・エンペラーの横から強襲を掛ける。
ギシャアア!!
「!!」
ゴブリン・エンペラーがエミリータに左手を翳す。嫌な予感を感じたエミリータは、咄嗟に眼前に盾を掲げる。
一瞬後、ゴブリン・エンペラーの手から放たれた火炎弾がエミリータの盾の表面に炸裂した。
(こいつ、魔法も使えるのか!?)
慎也と違って敵のステータスを見る術の無いエミリータは、この時までゴブリン・エンペラーが魔法を使えることを知らなかった。
完全に虚を突かれた。どうにか火炎弾に耐えることは出来たが、間髪入れずに放たれたメイスの一撃に耐えきれず、為す術無く弾き飛ばされる。
(強い!)
どうにか衝撃を往なし、地面に叩きつけられること無く着地するも、ゴブリン・エンペラーの想像以上の強さに改めて戦慄する。
レベル46と聞いた時から苦戦は覚悟はしていたが、実際に戦ってみると甘かったと言わざるを得ない。これがゴブリンの一種だとはとても思えない。
頭が良く数も多いが、戦闘力は大したことが無い、というゴブリンの認識を改めなければならないだろう。
「ひ!」
一方のゴブリン・エンペラーは、そんなエミリータには目もくれず、すぐ近くに転がっていた――最初に斬りかかって倒された冒険者を見下ろした。どうやら最初の一撃で肋骨を折られたらしく、脇腹を抑えたまま這いずるのが精一杯な様子だ。
そんな絶好の獲物を見逃すほど、ゴブリン・エンペラーは甘くはない。
「まずい! 誰か止めろ!」
咄嗟にエミリータが叫び、周囲の騎士や冒険者が仲間を助けようと駆け出すが、明らかに遅い。既にゴブリン・エンペラーは手傷を負った冒険者に向かってメイスを振り下ろしていた。
間に合わない。誰もが最悪の光景を覚悟した次の瞬間、信じがたいことが起きた。
アバラを負って地面を這いずることしか出来なくなっていた冒険者の男が、突然、見違えるような素早さでその場から飛び退いた。
的を外したゴブリン・エンペラーのメイスが、虚しく地面を粉砕する。
ギ!?
さすがにゴブリン・エンペラーも予想外だったらしい。思わぬ結果に困惑の声を漏らす。
「なに?」
「んだぁ!?」
「うわわわわっ!」
エミリータとマクレーンらも驚く中、難を逃れた冒険者の男は、何故か悲鳴じみた声を上げながら空中を飛び続けている。
それを見たエミリータは、遅ればせながら理解した。
(《見えざる手》か!)
冒険者の男が自力で脱出したのではない。止めを刺される寸前、誰かが物理魔法の《見えざる手》を使って彼を助け出したのだ。
そして彼女の知る限り、討伐隊のメンバーの中で《見えざる手》を使うのはただ1人――
グギャア!!
突如、ゴブリン・エンペラーの背中で小爆発が生じ、肩に羽織っていたマントに引火し、炎上する。ゴブリン・エンペラーは燃え上がったマントを素早く脱ぎ捨てたが、そこへ追撃とばかりに飛来した無数の魔弾が、立て続けに着弾し、ゴブリン・エンペラーの皮膚や鎧を穿った。
この戦いが始まって、初めてゴブリン・エンペラーが明確な傷を負い、HPゲージを減らした。
傷口から溢れ出したゴブリン特有の青い血が、ポタポタと床に滴り落ちる。
ゴブリン・エンペラーが、怒りと憎悪を宿した視線を魔弾の飛来した方向へ向ける。
「そう簡単にはやらせないぜ、ゴブリン陛下?」
魔法銃を構えた慎也が、いかにも挑戦的な笑みを湛えながら言った。その間にも、彼は反対の手を、ゆっくりと水平に前から後ろへ流すように動かした。
「のあ――!!」
それに合わせて、負傷した冒険者が後方――魔法使いたちの待機している場所へと飛んでいく。
「誰か治療してやってくれ!」
慎也の《見えざる手》で運ばれてきた冒険者を、数人の魔法使いたちがキャッチし、地面に降ろして回復魔法を施すのを確認して、慎也は再度戦場に意識を向けた。
ギシャアアアアアア!
咆哮。
先ほどの不意打ちでプライドを傷つけられたのか、ゴブリン・エンペラーが前衛隊の冒険者を薙ぎ倒し、慎也に向かって真っすぐ突進してくる。
「そっちへ行ったぞシンヤ!」
イアンに言われずとも、慎也も気付いている。
(やべ! ヘイトを溜めすぎてタゲを取っちまったか!)
周囲では、ゴブリン・ガーズと中衛隊の戦闘が未だ続いている。ゴブリン・ガーズの内の1匹は倒されたが、残り5体は健在だ。ここでゴブリン・エンペラーに乱入されれば中衛隊に動揺と混乱が生じ、間違い無く戦線が崩れる。
(それなら――)
慎也は即座に決断した。
(――オレの方から向かうまでだ!)
中衛隊とゴブリン・ガーズとの戦場にエンペラーを近づけさせてはならない。敵が自分をターゲットにしているのなら、こちらから向かえば良い――そう判断した慎也は、自ら俊足を生かしてゴブリン・エンペラーに向かっていく。
(1対1で勝てる相手じゃない。レベルもステータスも段違い)
ゴブリン・エンペラーのメイスが俄かに紫電を帯びた。《戦具に宿りし雷の精》だ。
(いまのオレのステータスじゃ、あれを1発でも喰らったら大ダメージ確実だ。だが――)
それが判っていても慎也は歩みを止めない。むしろ加速する。
両者の距離が指呼の位置まで迫る。間合いに入った慎也の頭上に、雷を帯びたゴブリン・エンペラーのメイスが轟然と振り下ろされる。
その一瞬を見逃さず、慎也は<閃駆>を使い、ゴブリン・エンペラーを避けるように斜め前に急加速する。
慎也の突然の方向転換と急加速に、ゴブリン・エンペラーは完全に虚を突かれた。攻撃は完全に的を外し、なにも無い空間を虚しく通り過ぎた後、凄まじい破砕音を轟かせて地面を爆砕させ、巨大なクレーターを形成する。さらにメイスに宿っていた雷の魔力が周囲の放電され、蛇のようにうねる雷の帯が地面や空気を焼いた。
だがその範囲内に慎也の姿は無い。
「当たらなければどうということは無い!」
どこかで聞いたことのあるセリフを叫びながら、慎也は前衛部隊の後方まで一気に駆け抜けた。
怒りに駆られるゴブリン・エンペラーがそちらを振り返った瞬間、横合いから飛来した闘気弾がゴブリン・エンペラーの肩を直撃した。衝撃でぐらついたものの、どうにか倒れることなく踏み止まる。
「てめぇの相手はこっちだろうが!」
闘気弾を放ったのはマクレーンの様だった。そのまま一気呵成にゴブリン・エンペラーに斬り掛かり、その後に数人の騎士と冒険者が続き、たちまち乱戦となった。
「大丈夫か、シンヤ?」
エミリータだ。
彼女は戦いには加わらず、ゴブリン・エンペラーのタゲが逸れて一息付いた慎也に話しかけてきた。
「……どうにか」
難を逃れたと思った途端、いまさらながら恐怖が押し寄せてきた。
レベルで圧倒的に上回る魔物への恐怖。
さっきの一撃がもし当たっていたら間違い無く大ダメージ――悪くすれば死んでいた。それを思うと、身体が小刻みに震え、心が底から凍り付きそうになるが、どうにか意志の力で抑え込む。
恐怖は死だ。戦場で恐怖に負ければ、その時点で戦いに負けたも同然。
そして、敗北=死だ。
「取りあえず礼を言う。君がいなければ、さっきの男は死んでいただろう」
後方で魔法使いたちに治療されている冒険者の男を横目で見ながら、慎也に対してエミリータは軽く頭を下げた。
「別にエミリータさんに礼を言われることじゃありませんよ」
「いや、さっきのは私たちのミスでもある。彼は前衛に属しているのだから、同じ前衛である私たちが救わねばならなかったのだ。それが出来ず、中衛である君の手を煩わせたのだからな」
そういうものか、と慎也は内心で1人ごちた。
「だが、その後のことは感心しないな」
「え……?」
「ゴブリン・エンペラーに銃撃を浴びせたことだ。あの時、君が奴を攻撃する必要は無かったはずだ。死に瀕した仲間を救い出したのだから、君は彼を安全な場所に移動させることに集中すべきだった。なのに、不用意にゴブリン・エンペラーを攻撃した結果、奴の怒りを買い、タゲを取ってしまった。自分だけでなく、周囲の仲間まで危険に晒したんだぞ?」
「……そうですね。エミリータさんの言う通りです」
冷静に考えてみれば、彼女の指摘はもっともだ。あの時ゴブリン・エンペラーを攻撃しなかれば、わざわざさっきみたいな命懸けの博打じみた行動を取らずに済んだはずだ。
「すいません」
「判れば良い。いくら腕が立つとはいえ、君たちは駆けだし冒険者。しかも大規模戦闘は初めてなのだからな」
そう言って、エミリータは微笑んだ。
「ミスは誰でもする。駆け出しなら尚更な。大事なのは、それを認め、反省し、次に活かすことだ。君はパーティ・リーダーでもある。君の失敗はパーティの失敗。当然、彼女たちの危機にも繋がる」
そうだ、と慎也は改めて気付かされた。
自分の肩には、仲間である結衣とユフィアの命が掛かっているということに。
自分の失敗が元で、あの2人が死ぬなど絶対にあってはならないことだ。
「この戦いは厳しいものになるだろう。私も生き残れるかどうか判らないくらいに。だが、君は絶対に死ぬな。死なせるな。君たちの冒険は始まったばかりなんだからな」
ぽん、と優しく肩を叩いてくれた先輩冒険者に、慎也は万感の思いを込めて「はい」と返事を返した。
次回更新は未定です。たぶん土日になると思います。
感想欄で質問があったので、本文にある専門用語について簡単に解説します。とはいっても、良く知られているRPG用語と同じです。
タゲ=「ターゲット」の略。つまり「タゲを取る」というのは「魔物のターゲットになる」という意味です。囮になる為に自らターゲットとなる場合もあれば、意図せずターゲットにされてしまう場合もあります。
ヘイト=「憎しみ」の英単語「Hate」から取られた用語。敵対者に対する魔物の、憎しみ、あるいは怒りと考えてください。魔物はヘイト値が最も高い者を優先的に狙ってきます。当然、自身を攻撃したり、傷つけた者に対しては当然ですが、頭の良い魔物になると回復、補助役に対してヘイトを募らせ、攻撃する場合があります。




