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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
57/135

第54話 いかにも「ボスの部屋」って感じ……

遺跡探索です(=゜ω゜)ノ

 入口に続いていた階段を下ると、その先は石造りの荘厳な雰囲気の廊下になっていた。広さもかなりのもので、床から天井までは10メートル以上、通路の幅は5メートルはある。壁や天井自体は特にこれといった特徴の無いシンプルなデザインだが、床には緻密な意匠の幾何学的な文様が施されている。

 廊下はかなり長いようで、奥は暗くて見えない。


「ここは神殿か、宮殿っぽいな」


 冒険者の1人がそんな呟きを漏らした。


「気を付けろ。どこに罠があるか判らないぞ」


 イアンに言われずとも、騎士や冒険者たちは気を抜いた様子は無い。


「迷宮を思い出すな」

「そうだな」


 マクレーンとエミリータが頷きあっている。


「行くぞ」


 イアンの声で、一行は廊下を進み始めた。息をひそめ、周囲を魔灯杖で照らしながら慎重に進む。幸い罠も、ゴブリンの気配も無い。


「下り坂になってるな」


 騎士の1人が気付いたのだが、どうやらいま歩いている廊下は徐々に下り道になっているようだ。

 やがて一直線だった廊下の先に、左右への分かれ道が現れた。左右の廊下を魔灯杖で照らしてみるが、かなり奥まで続いているようで先が見えない。


「どうする? 左右か前か、どっちへ向かう?」


 マクレーンがイアンに尋ねた。


「いっそ3班に分かれて進むか?」


 冒険者の1人がそのような提案をしてきたが――


「ちょっと待って下さい」


 騎士の1人がそれに待ったをかけた。さっきのリネットだ。彼女はその場に膝を付くと、魔灯で照らし出された床に注意深く目を走らせた。


「……たぶん、まっすぐ行くのが正解です」


 ややあって、立ち上がったリネットは全員に聞こえるようにそう告げた。


「なんで判るんだ?」


 先ほど、別れて進むべき、と進言した男性冒険者が胡乱気な目でリネットに尋ねた。


「ゴブリンの気配が奥から続いているからです」

「気配?」


 男性冒険者が訝し気な声を発する。慎也も気になって周囲の気配を探ってみるが、<気配察知>スキル400の数値を以てしても、ゴブリンの気配などまるで感じられない。


「リネットの<気配察知>のレベルは840だ」


 イアンが代わって説明すると、そこかしこで驚きの声が上がった。スキルレベルが800ということは、相当な高レベル、天性の才能の持ち主ということになる。


 気配と言うものは、それを発する生き物が立ち去った後でもその場にしばらく残るそうだ。特に地下や閉鎖された空間――つまり、空気の流れが淀んでいる場所ではそれらが顕著で、<気配察知>のレベルが700以上になると、そういった「以前この場にいた者の気配」まで探知出来るようになるのだとか。


 リネットによれば、この遺跡内にいたゴブリンたちの気配は一様に奥の通路から現れて出口の方へ向かっているそうだ。なので、ゴブリンを生み出しているなにかは通路の奥に存在する可能性が高い、と。


「そう言う訳だ。行くぞ」


 そこまで言われれば異議を唱える者は出ない。一行はイアンの後に付いて遺跡の奥へと足を踏み入れる。


 しばらく進むと、飾り気が無く、ただ広いだけの無機質な廊下がさらに広くなった。

 天井までの距離は20メートルを超え、左右に渡り廊下のようなものが出現した。その手すりの部分には、天使を思わせる翼の生えた女性の石像が一定間隔でいくつも設置されている。


「ここは宮殿だったんでしょうか?」


 騎士の1人がイアンに尋ねた。 


「前に1度、伯爵に伴われて王城に行ったことがあるが、ここまで豪華じゃなかった」


 唖然とした様子でイアンが呟いた。


「リネット。ゴブリンの気配は?」

「変わりません。奥から続いています」

「よし――」

「ちょっと待った!」


 前身の合図を出そうとしたイアンを、慎也が慌てた様子で静止した。


「どうした?」

「……なにかいます」


 慎也が言うや、周りの騎士や冒険者たちがさっと周囲に目を走らせ、警戒体勢に入る。


「……なにもいないぞ?」


 騎士の1人が呟く。

 確かに気配は感じられない。しかし、慎也の<空間把握>のスキルが、近くに生き物が存在することを彼に伝えてきていた。しかも、虫や動物の類ではない。明確な意志を持った、魔物――


「おい――」


 神経を焦らすような沈黙に耐えかねた誰かが声を上げた、その時――

 慎也の<危機感知>が鋭く反応した。


 ヒュ!


 声に紛れるようにして響いた微かな音を慎也は聞き逃さなかった。即座に刀を引き抜き、虚空を一閃する。


 キンッ!


 なにも無いはずの空中で金属音が轟き、火花が舞い散る。


(短剣か!)


 慎也の剣閃が捕らえたのは1振りの短剣だった。ご丁寧に闇に紛れやすいよう、切っ先から鍔まで黒く塗り潰されている。

 それが、慎也たちの頭上――渡り廊下の辺りから飛んで来たのだ。もし慎也が弾いていなければ、近くにいた誰かに刺さっていただろう。


 ギ!?


 短剣が飛来した先から、獣のそれとは明らかに異なる声が上がった。散々聞き覚えのある、ゴブリンのそれだ。

 手すりに設置された天使象の影に、真っ黒なゴブリンの姿があった。


 ゴブリン・アサシン

 レベル:8

 生命力:152

 魔力値:0

  筋力:100

  敏捷:82

 スキル:<暗殺132><不意打ち99><忍び足147><消音146><隠形134><擬態106><薬物調合122><投擲123><短剣術80>


【ゴブリンの希少種。ゴブリンの暗殺者。通常の戦闘能力は大したことはないが、隠形に優れ、また周囲の風景に合わせて皮膚の色を変える能力を持ち、これらを生かした暗殺、不意打ちに特化しており、毒物も多用する為、決して侮れない存在である】


(暗殺者タイプのゴブリンか――ステータスは大したことないが、スキルが凄ぇ物騒だ)


 慎也も初めて見るタイプのゴブリンだ。

 不意打ちを防がれ、奇襲に失敗したゴブリン・アサシンは即座に踵を返し、逃走の体勢に入った。暗殺に特化している分、それをしくじるとなにも出来ないらしい。


(逃がすか!)


 慎也は、いまし方自分で弾いて宙に舞い上がり、重力に引かれて落下してきたゴブリン・アサシンの短剣をキャッチし、背を見せたゴブリン・アサシンに投げつける。持ち主のゴブリン・アサシンのそれよりも遥かに速く宙を飛んだ短剣は、逃げ出そうとしたゴブリン・アサシンの後頭部に鍔元まで深々と突き刺さる。

 悲鳴を上げる間も無くゴブリン・アサシンのHPがゼロになり、手すりの向こうへ崩れ落ちた。


「お見事」


 イアンが慎也の肩を労うようにポンポンと叩いた。


「凄ーい。あっという間に片付けちゃったね」

「というか、よく気付きましたね。私は全然判りませんでした」


 シアーシャとフェルナも驚いている。


「特訓のおかげだ」


 肩を竦めて慎也が答える。

 実際、慎也がゴブリン・アサシンに気付けたのは、元々感性が鋭い体質だったことに加え、ウィルの訓練を受けたことが大きい。


 マナクレイの森にはゴブリンが多く生息している。そしてゴブリンは力が弱い分、総じて罠や奇襲などの不意打ちが得意だ。不意打ちが通じなければ数で押し寄せるのが彼らの常套手段である。実際、慎也も初めてゴブリンに遭遇した時に不意打ちを受けた。


 なので、ゴブリンの不意打ちを可能な限り回避できるよう、感知系、察知系といった索敵スキルを重点的に鍛えてもらったのが活かされたのだ。


「リネット、お前は気付かなかったのか?」

「す、すいません。気配に紛れていたみたいで……」


 イアンの叱責に、リネットは神妙な面持ちで頭を下げた。


 暗闇に潜んでいたゴブリン・アサシンに、<気配察知400>がの慎也が気付いて<気配察知840>のリネットが何故気付けなかったのか――


 ゴブリン・アサシンは気配を絶っていた上、ここには以前に廊下を通った1000匹以上のゴブリンの気配がなお残っている。なまじ<気配察知>のレベルが高すぎるが故、過去にこの場にいた気配も察知できるリネットにとって、いわば”気配の密林”状態と言って良い。

 ゴブリン・アサシンが、ただ気配を消して潜んでいただけならリネットは気付けただろうが「以前この場にいた1000匹以上のゴブリンの気配」に気を取られていた為、その中に紛れ込んでいたゴブリン・アサシンの微かな気配を見落としてしまったのだ。


 一方で、慎也はリネット程<気配察知>のスキルは高くなく、過去の気配を感知したりすることが出来ない分、それらに惑わされることが無い。加えて、彼は<聞き耳><危機感知><看破><敵意察知><魔力感知><魔物感知><臭気察知><空間把握>等、多くの索敵スキルを習得し、それを満遍なく鍛えている為、気配以外のものを察知できる為、結果的にリネットよりも早くゴブリン・アサシンの存在を察知できたという訳だ。


「どうやら遺跡の内部までは魔香が届いてなかったみてぇだな」


 マクレーンが肩を竦めて言った。

 外のゴブリンが残らず魔香に釣られていったのに対し、ゴブリン・アサシンが遺跡内に留まっていたのは、遺跡内まで魔香が届いていなかったから。

 つまり、遺跡内にはまだゴブリンが残っている。

 これからはより注意して進まなければならないだろう。

 だがその前に――


「シンヤ、少し良いか?」

「なんですか?」


 少し気になることが出来たイアンは、まずそちらから確かめることにした。


「君の刀をちょっと見せてもらえないか?」

「? いいですけど……」


 慎也は頼まれるがままイクサを鞘から抜いてイアンに差し出す。受け取ったイアンは魔灯杖で照らしながら間近でイクサの刀身を観察する。


「良い刀だな。いつ頃から使ってるんだ?」

「2年前からですけど、それがどうかしたんですか?」


 なぜいまそんなことを聞くのか判らず、慎也は疑問を返した。


「ああ、シンヤ。イアンはこう見えて、刀剣マニアの偏執狂なんだよ」


 そう苦笑交じりに応えたのは、彼の幼馴染でもあるエミリータだった。

 真面目な騎士団長の意外な一面に、彼を良く知らない冒険者たちの間に驚きと波紋が広がる。一方で、部下である騎士たちは知悉ちしつしているのか、驚いた様子は無く、むしろ「またか……」といった呆れ顔になっている。


「偏執狂とは失礼だな。良い武器に興味を抱くのは剣士として当然だろう?」

「時と場所を考えずに興味を持つのは、偏執狂の証拠だぞ?」


 エミリータの言う通り、ここは敵地のど真ん中であり、いつゴブリンが襲ってくるかも判らない中で他人の武器を取るのは、明確な問題行動だろう。


「……そうだな。すまない、シンヤ。ちょっと気になったんでな」


 エミリータの諫言に、イアンは素直に謝罪するとイクサを慎也に返した。


「なにが気になったんです?」


 自分の愛刀なだけに、刀剣マニアの偏執狂と言われたイアンが何故イクサに興味を抱いたのか、慎也は気になって尋ねてみた。


「いや、2年も使い続けている割には、傷ひとつ無い新品同然で、補修した形跡も無いのが気になっただけさ」

「そう言うことですか……確かに、オレも気になってたんですよ。名刀だって聞いてはいたんですけど、どんなに固い物を斬っても刃毀れひとつしないんですよね。いったいなにで出来てるのか……」

「慎也君、自分の刀は自分で手入れがしたい、って、ヨルグさんに弟子入りまでしたのにね」


 おかしそうに結衣が付け加えた。

 生まれて初めて自分の愛刀と呼べる武器を手にした慎也は、せめてイクサの手入れくらい自分でやりたいと、ヨルグに頼み込んで刀の手入れの仕方などのノウハウを教わったことがあった。


 日常点検などはもちろん、血脂がこびり付いた時の拭き方、刃こぼれが生じた際の修復の仕方や刀身の研ぎ方などを、何日も掛けて徹底的に学んだ。慎也のスキルに<刀鍛冶>があるのはその為だ。

 だが、そんな慎也の心意気の反して、愛刀であるイクサは2年もの間、ほぼ毎日のように振るい続けていたにもかかわらず、刃毀れひとつ起こすことが無く、彼の努力はまったくの無駄に終わってしまったのだ。


(2年も使い続けて傷ひとつ無いのは、ミスリル以上に価値の高い素材で出来ているか、あるいは――)


 イアンが思考していた、その時――


 ゲギャー!!


 通路の奥からゴブリンの鳴き声が轟いた。思考に没頭していたイアンを初め、瞬時にして隊の面々は戦闘態勢に入る。

 見れば、通路の向こうから数十匹のゴブリンが群れを成して押し寄せてくる。左右のテラスからは、矢を番えたゴブリン・アーチャーが何匹も姿を現した。

 遺跡内に残っていたゴブリンたちが、侵入者に気付いて排除しにやって来たのだ。


「来るぞ! 術師を中心にして陣形を組め。ラウダ班、マクレーン組、レイシア組は前衛。上の奴らは――」


 ダダダダン!!


 テラスにいるゴブリン・アーチャーに対してイアンが指示を出す前に、無数の魔弾の驟雨が、頭上から矢を放とうとしていたゴブリン・アーチャーたちをまとめて薙ぎ払った。

 予想外の光景に、しばしイアンは状況を忘れ、魔弾が飛来した方向に目を向ける。


「ちなみにオレの武器は、刀だけじゃありませんよ?」


 両手に双子の魔法銃、スコールとハティを握った慎也が得意げに笑った。


「……そうだったな。よし、術師組は矢除けの魔法を展開。シンヤは彼らと一緒に頭上の敵を頼む」

「了解」

「おっしゃあ! ゴブリンども、皆殺しだ!」


 隊列の先頭でマクレーンが吠えたのを皮切りに、討伐隊とゴブリンの群れが激突した。


 ◇◇◇


 討伐隊とゴブリンの群れの戦いは、当たり前だが前者の圧勝で終わった。ゴブリンは全滅。討伐隊の方は軽傷を負った者が数名出たものの、いずれも魔法で簡単に治癒できる程度のものだった為、ほぼ無傷と言っても良かった。


 どうやら遺跡内にいたゴブリンは先程襲って来た集団がほぼすべてだったらしく、その後は大規模な戦闘はなく行進は順調に進んだ。

 遺跡の奥へと進む彼らに対し、少数のゴブリン・アーチャーやゴブリン・アサシンが何度か不意打ちを試みたものの、慎也を初めとした探索系スキルに秀でた者たちにすぐに気付かれ、迎撃されて終わった。


 負傷者を出すことなく順調に遺跡内を進んだ討伐隊は、やがて広い吹き抜けに到達した。

 円筒状の吹き抜けの周囲を螺旋状に走っており、討伐隊はその最上層に出てきた形だ。渦を巻くように下層へと続く吹き抜けの回廊には、他にも出入り口がいくつも存在している。


 討伐隊の先頭にいたマクレーンが、手すりから吹き抜けの下層を覗き込んでみた。幸いにして吹き抜け自体はそれ程深くなく、魔灯杖で照らせばうっすらと底が見える程度だ。


「……どうやら、ここが遺跡の中心部みてぇだな」


 マクレーンが独白のように呟くと、エミリータがそれに同意して頷いた。


「この遺跡の全ての通路はここへ繋がる構造になっているらしい。この遺跡、私がいままで見た遺跡に比べてもかなり大きいようだ」


 外側から見ると単なる小さな小山だったのに、内部には城に匹敵する様な広大な空間が存在していた。どうやらこの遺跡はほぼ全体が地中に埋まっているらしく、討伐隊が入って来た入り口はその天辺――最上層のベランダかなにかだったようだ。いま彼らがいる吹き抜けは、かなり地下深くに位置していることになる。


「でもさ、この遺跡っていったいなんなのかな?」


 軽い感じで呟いたシアーシャの言葉は、この場にいる全員の疑問を代弁していた。


 この遺跡は、いったいなんの為に建てられたのだろうか――?


「神殿のようにも見えるが、詳しいことは判らないな。まあ、後の調査で明らかになるだろう。それに、我々は遺跡の正体を突き止めに来た訳じゃないんだからな」


 イアンはそう言ってリネットの方を振り返った。


「リネット、どうだ?」

「吹き抜けの最下層から続いています」


 部下の報告に、神妙な面持ちでイアンが頷く。

 これまで彼らはずっとゴブリンの気配を辿って進んで来た。それが、吹き抜けの最下層に続いているのだ。


「そう言う訳だ。最下層へ降りるぞ。途中の通路には注意しろ。どこにゴブリンが潜んでいるか判らないからな」


 イアンの言葉を合図に、討伐隊はそろって回廊を下り始めた。途中にある通路の出入り口は先が見えないほど真っ暗で、いかにもゴブリンが潜んでいそうな雰囲気だったが、意外にも、そして幸いにもゴブリンたちが飛び出して来ることはなく、彼らは何事も無く最下層まで辿り着いた。


 そこにあったのは――


「でけぇ門だな、おい……」


 マクレーンの言葉通り、重厚な金属製の門が一行の前に聳え立っていた。キアナの街の市門よりも大きく、誰しもが開けることに躊躇を覚えるような、一種の妖気のようなものが沸き出しているように感じられる。

 つまり、結衣の言葉に置き換えると――


「いかにも「ボスの部屋」って感じ……」

 

 彼女の呟きに、討伐隊の何人かが、ぐびっ、と唾を飲み込んだ。


「そう言えば、迷宮のエリア・ボスの部屋の入り口もこんな感じだったな……」


 エミリータの言葉が討伐隊の緊張に拍車を掛ける。出来ればこの先へは進みたくない、というのが彼らの共通の認識だったが――


「ゴブリンの気配は、この奥から続いています」


 リネットの言葉が一行から選択肢を奪った。

 討伐隊の目的が、ゴブリン増加の原因調査で、その発生源が門の向こう側にある以上、入らないという選択肢は無い。


「団長、どうしますか?」


 騎士の1人が確認の意味も込めてイアンに尋ねた。


「聞かなくとも判るだろう?」


 イアンは即答したが、やはり若干の恐れが声に混じっていた。


「我々の使命は、ゴブリンの増加の原因を突き止め、排除すること。ひいては、スアード伯爵領の平穏を守ること――その為に私たちは騎士に、冒険者になった。命を賭けて民の平穏を守る為に。なら、私たちがこの場で取るべき道は1つだ――違うか?」


 強い眼で睨まれながらイアンに問われた騎士は、少したじろぎながらも頷いた。


「――とはいえ、物事には必ず限界と限度がある。もし、この扉の奥にあるものが、いまの私たちの手に負えないものであった場合は、私の判断で撤退することもあり得る――そのつもりでいてくれ」


 イアンの言葉を聞いて、ほっとした雰囲気が討伐隊の間に流れる。

 貴族と言うものの中には、自身の名誉や体面を守る為に、現実を直視せずに功を焦り、無謀な行動を起こしてしまう者が少なからず存在する。戦国時代を紐解いても、そう言った自殺行為とも取れる蛮勇の果てに、自身はおろか一族郎党を丸ごと滅ぼす結果を招いた武将や大名が数多くいる。


 自分たち新米パーティを討伐部隊に招集するといった時、慎也は、イアンもその類の人間ではないか――と疑っていたのだが。


(どうやら杞憂だったようだな)


 イアンが現実と限界を直視できるタイプの人間であったことに、誰にも気づかれないよう、内心でほっと息を吐いた。


「それじゃあ、改めて、行くぞ――」

「「「おう!」」」

「「「はい!」」」


 恐怖、緊張、使命感、勇気――様々な感情の入り混じった返答を背に受けて、イアンは自ら扉を押した。

次回更新は11/6日、18時予定です。

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