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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
55/135

第52話 納得がいきません

理不尽な強要が起こるのも、封建社会の根付くファンタジー世界の鉄則なのです(-_-)

「納得がいきません」


 衝撃の発表からしばらくした後、別動隊、すなわち、遺跡探索組に選ばれた33名の冒険者たちがイアンの元に集められた際、開口1番に慎也は彼に噛みついた。


 なお、それ以外の冒険者たちは他の騎士に先導され、北門を出て領軍との合流場所へと向かったので、さっきまで冒険者で埋め尽くされていた広場は元の雰囲気を取り戻している。


「言ったはずだ。異議と拒否は受け付けない、と」


 慎也の抗弁を、イアンはバッサリと切り捨てた。


「異議でも拒否でもありません。質問です」

「なら聞こう」


 あっさりイアンは頷く。

 エルモント、という名字を持っていることや、騎士団長という立場から、慎也は彼が貴族であることは理解していた。実際に彼が貴族と話すのはこれが初めてだったのだが、それでも尋ねずにはいられなかった。


「オレたちが選ばれた理由が理解できません。オレたちは7級ですが、冒険者になってからまだ1週間程しか経ってないんです。その上、最初の依頼すらまだ達成していない、新米の中の新米です! とてもこんな重要な作戦が務まるとは思えません!」


 そうだそうだ、とばかりに彼の後ろで結衣がうんうんと頷いている。ユフィアに至っては半泣きになっている。

 別動隊に選ばれた他の冒険者たちも、慎也の訴えには納得できる部分があるようで、訝し気な目でイアンの方を見ている。


「撤回が出来ないというのなら、せめて、どうしてオレたちを選んだのか、その理由をお聞かせ願いませんか?」

「いいだろう」


 慎也の訴えに、イアンは抑揚に頷いた。


「まず1つは、彼――マクレーンが君たちを推薦したからだ」

「え? マクレーンさん?」


 慎也を初め、一同の目がマクレーンに注がれる。


「おいおい、そこでオレの名前を出すなよ」


 イタズラがばれた子供の様にバツの悪そうな顔で頭をかきながら、マクレーンがぼやいた。


「事実だろう? 嘘は良くない」

「ったく、変わってねぇな。お前は昔から正直すぎるんだよ」


 イアンとマクレーンの気安いやり取りを見て、慎也は目を瞬かせる。


「知り合いなんですか?」

「昔馴染みさ」


 と、答えたのはエミリータだった。


「私とマクレーンとイアンは、同じ孤児院で育ったんだ。成長した後、私とマクレーンは冒険者に、イアンは領主に士官して騎士になり、いまは名誉士爵の貴族様だがな」


 マクレーンとエミリータが、スアード伯爵の騎士団長と幼馴染だった。思わぬ事実の発覚に、慎也はしばしいまの状況を忘れて驚き入った。


 名誉士爵というのは、主に騎士になった者に与えられる貴族位だ。貴族と言っても最下級で、かつ一代限りのものではあるが。


「蛇の道は蛇だ。冒険者の実力は、同じ冒険者が誰よりもよく判っている。だから今回の強制召集にあたって、事前にマクレーンに相談していたんだよ。知り合いの冒険者で、頼りになりそうな奴はいないか、と。そしたら君の名前を上げたよ」


 きっと責めるような視線をマクレーンに向けると、彼は思わずたじろいだ様子で――


「いや、オレは単に事実を言っただけだぞ? 今回の相手はゴブリンなんだし、お前は1人でゴブリン・ジェネラルを無傷で倒せるくらいだし、打って付けじゃないか、って」


 ゴブリン・ジェネラルを1人で倒したと聞いて、周りの冒険者たちが騒めいた。ゴブリンの多いこの地域でも、ゴブリン・ジェネラルは滅多に現れることの無いうえ、レベル20代後半であるジェネラルは熟練の冒険者でも苦戦するくらいなのだから、それを駆け出し冒険者が1人で、無傷で倒したとあれば、驚くのも無理はない。


「他にもある。君たちは、ウィル氏に弟子入りした後、2年間、ずっとマナクレイの森で多くのゴブリンを狩っている。対ゴブリン戦なら、下手なベテランよりも経験を積んでいるだろう?」

「なんでそんなことまで知ってるんですか?」


 ウィルとのパワーレベリングで、慎也たちは確かに多くのゴブリンを倒したが、そんなことは自分たち以外、ごく親しい人間しか知らないはずだ。


「貴族の情報網を舐めちゃいけない。腕の立つ、将来有望な若手冒険者の情報なら嫌でも入ってくる。しかもそれが、かのウィル氏の孫と弟子であればなおさらだ」


 得意げに話すイアンだったが、さすがに、君たちが異世界人だということも判ってるぞ、とまでは言わなかった。


「3人ともレベルが20代後半で、先日も3人だけでワイバーンを仕留めたほどのパーティを、遊ばせておけるほどの余裕は無いと言うことだ」

「「ええっ!?」」


 その時、イアンの説明を傍で聞いていた2人の女性冒険者――さっきイアンが《槍穹そうきゅうつばさ》と呼んでいた2人組が揃って驚きの声を上げた。


「ワイバーンって、もしかして、私たちを助けてくれた冒険者って、君たち?」


 2人組の片方――弓を持っている女性冒険者が慎也に尋ねた。年は慎也と同じか少し上くらいだろう。スタイルが良く、薄い金髪のショートヘアに愛嬌のある顔立ちをした女性だ。


「やっぱり、ワイバーンに襲われてた商隊の冒険者か……」

「そうそう! それ私たち!」

「よかった。助けてくれたお礼を言いたくて、ずっと探してたんですよ」


 今度は背に槍持った方の女性冒険者がほっとした口調で言った。茶色いロングヘア―を後ろで一括りにした、落ち着いた感じの美人だった。


「始めまして、ですね。私、フェルナって言います。5級冒険者です。改めて、ワイバーンから助けていただいて、ありがとうございました」


 槍使いの女性冒険者、フェルナが丁寧に頭を下げた。5級ということは慎也たちよりもランクが上ということになるが、気にした様子も無い。


「私はシアーシャ。よろしくね。同じく5級冒険者ね。あ、君たちは7級らしいけど、ランクとか気にしなくていいからね」


 と、今度は弓使いの方――シアーシャが親し気な感じで挨拶した。


「慎也君、お知合い?」


 くいくい、と結衣が服の裾を引っ張りながら聞いてくる。後ろにいるユフィアも事情を聞きたそうな顔をしているが、何故か不安の色も浮かんでいる。


「知り合いというか、前にワイバーンを倒した時、襲われていた商隊と一緒にいた冒険者だ」


 思えばあの時、悲鳴を聞いて慎也が1番に駆け出して商隊を助けた後、結衣とユフィアが来た時には彼らは既に逃げ去っていた。


「シンヤ、って言ったわよね? 助けてくれて本っっ当にありがとうね! 遠征先からキアナに帰るまでのついでに、軽い気持ちで商隊の護衛を引き受けたつもりが、まさか到着目前になってワイバーンが出るなんて思ってもみなくてさ。襲われた時はどうしようかと思ったわよ!」

「後になって同じ商隊の護衛の人から聞きました。私たちが気を失った後、別の冒険者が助けてくれて、仲間と一緒にワイバーンを倒した、と。命の恩人に対して一言お礼を、と思ったんですが、私もシアもケガをしてしまって、最近まで動けなかったんです」


 そこまで言って、フェルナは姿勢を正した。


「改めてお礼を言います。助けていただいて、本当にありがとうございました」


 再度頭を下げるフェルナ。


「いや、まあ、気にしなくて良いよ」


 教本に載せたくなるようなお辞儀に、少し気圧されつつも慎也はそう答えた。


「話は済んだかな?」

「あ――」


 忘れてた。

 イアンの言葉に、慎也は自分が本来、話をしていたのは彼だということを思い出した。忘れられていたイアンは、そのことを気にする風も無かったが。


「君たちは冒険者にこそなったばかりだが、ゴブリン狩りに慣れている上、レベルも高く、リーダーである君は一対一ならゴブリン・ジェネラルを倒せる実力を持ち、3人で力を合わせればワイバーンにすら勝ててしまう。これが、君たちを選んだ理由だ。理解したか?」

「……ですが、オレたちは集団行動も、遺跡なんてものに足を踏み入れるのも初めてですよ?」

「誰だって最初は初めてだ。良い経験だと思えば良い」

「足を引っ張るかもしれません」

「その時は私が判断を下す」


 きっぱりと言いきるイアンの態度から、なにを言っても翻意を促すことは無理だと悟った慎也は、渋々ながら別動隊への参加を了承するしかなかった。


「シンヤさん……」

「なにを言っても無駄っぽい。覚悟を決めるしかないな、こりゃ」


 なおも不安げなユフィアに、頭を掻きながら慎也はぼやいた。


「仕方ないね。でも、ちょっと楽しみでもあるかな。古代の遺跡とか、私も興味あるし」


 対して、結衣の方はさほど悲壮な感じは見受けられなかった。

 ラノベマニアにとって、ファンタジー世界の古代遺跡は決して外せない重要なファクターなのだ。


「そう緊張しなくても、お前らなら大丈夫だと思うぜ?」

「私たちとしては、借りを返す良い機会になったし、危なくなったら助けてあげるわよ」


 などと、マクレーンやシアーシャが慎也たちを励ましているのを横目で見ながら、イアンは内心でほっと息を付いた。


(すまないな。君たち異世界人が我々にとって有益な存在に成り得るかどうか、見極めろという伯爵の命もあるのでね)


 彼が慎也たちの動向を強引に決めた最大の理由はそれだった。

次回更新は10/31日、18時予定です。

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