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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
52/135

第49話 まだ生きているのかもしれん

ウィル教授の講義です(=゜ω゜)ノ

 ゴブリンの大群がたむろする遺跡から街に帰還した一行は、その足ですぐにギルドに事の旨を報告した。


 マナクレイの森の一角にある小山の周辺に、数百匹のゴブリンやその希少種がたむろしていたこと――

 断定できないものの、その小山は実際は土に埋もれた遺跡である可能性が高いこと――

 そこに多くのゴブリンが出入りしていたこと――

 恐らくゴブリンの異常増加の原因が、その内部に存在するであろうこと――


 報告を受けた受付嬢(ウィニアさんではなかった)は慎也たちのもたらした報告に驚き、困惑していたものの、彼らから遺跡の正確な場所を聞きとり「後日、詳しい調査が行われると思います」との曖昧な返事を返した。

 依頼達成の有無に関しては一時保留となった。まだ遺跡が原因と特定された訳では無く、調査の結果で判断するとのことだ。ただし「現時点では最も有力な情報です」と受付嬢は付言した。


 その後、用事があるらしいマクレーンとエミリータとはギルドの前で別れた。後日、事態が落ち着いたら<闘気>の習得法を教えてやる、と約束を交わして。

 その時すでに日が暮れかけていた為、慎也たちも寄り道せずにそのまま帰宅した。


「ゴブリンの遺跡?」

「ええ」


 帰宅後、慎也は今日見たことをすぐさまウィルに話した。

 冒険者の仕事を終えた後、その日の成果をウィルに報告して助言をもらうことが、慎也たちの日課になっているのだ。

 3級冒険者であるマクレーンとエミリータと一緒に森を調べていたら、ゴブリン・キングの率いる群れと遭遇し、その後、森の一角にある小山にゴブリンの大群が(たむろ)しているのを見つけ、エミリータが、その山が埋もれた遺跡ではないか、と推測していたことを。


「あの山にはわしも何度か足を運んだことがあったが、そんなものが埋まっていたとは……」

「私も驚きました。そんなの全然気付かなかった……」


 自身の勝手知ったる森の一角にそのような物が埋まっていたことに、さすがのウィルも驚きを隠せないでいた。もちろんユフィアもだ。


「しかも、1000匹前後のゴブリンが集結しているとなると、もはや冒険者ギルドの手に負える事態ではない。まず、領軍が出動することになるだろう。それに合わせて、冒険者ギルドでも強制依頼が出るはずだ」


 強制依頼とは、村や街単位の全滅が想定される非常事態が発生した場合に出される、冒険者の強制召集のことだ。出されると、強制の名の通り冒険者側に拒否権は無い。特に今回の場合、1000匹に達するゴブリンが一カ所に集結しているという異常事態だ。これがもし人里になだれ込めば、小さな村や集落など簡単に滅ぼされて、村人たちに多数の犠牲者が出てしまう。

 よって、領主からギルドに強制依頼が出されることは、新米冒険者の慎也でも容易に想像できた。

 その後でどのような対処が成されるかは判らないが、(遺跡と思われる)小山に終結していたゴブリンについて、慎也には気になることがあった。


「……ゴブリンが群れを作る場合、必ずリーダーがいますよね?」

「? そうだね」

「どうしたの、慎也君?」


 独り言のように唐突に話し始めた慎也に、ウィルは訝し気にしながらも答えた。結衣も眉を顰めて聞き返したが、慎也は答えず、独白を続ける。


「リーダーは、当然、群れの中で1番強い個体が成るもの。多くの場合は希少種だ」

「その通り」

「じゃあ、ゴブリンの希少種の中で一番強いのって、なんでしょう?」


 唐突な慎也の疑問に、ウィルは「ふむ」と顎を撫でながら考えた。


「ゴブリンという種は、最も弱い魔物の一種であると同時に、もっとも環境適応能力に優れた種であるとも言われている」

「環境適応?」


 と、結衣が聞き返した。


「つまり、どんな環境でも生息出来てしまうということだよ。砂漠、凍土、熱帯、高山、果ては迷宮の中までもね。そして、それらの環境に応じた様々な亜種、固有種が存在し、その強さもまばらだが、やはり最も強いのはゴブリン・キングだろう。ただ、迷宮の中にはより強力なゴブリンの亜種が存在するが、基本的に迷宮内の魔物は外には出ないからね」

「あれより強いゴブリンがいるんですね……」


 ゴブリン・キングの強さを目の当たりにした結衣が、より上が存在すると聞いて、ぶるっと身を震わせた。

 一方で慎也は、ウィルの考察を聞いてなお、腕を組んで難しい顔をしている。


「なにが気になるんですか、シンヤさん?」

「……おかしいと思わないか?」


 不信顔で聞いてくるユフィアに、慎也は逆に聞き返す。


「あれだけの数のゴブリンが、どうしてあの遺跡の周りに集まってじっとしていたのか……」


 慎也の語った懸念。それは、あれだけのゴブリンが大量発生した理由では無く、発生したゴブリンが一カ所に集結していた理由だった。

 先も述べた通り、あの辺りの森はゴブリンの住処には向かない。見通しが良く、茂みや獲物の少ないからだ。あの遺跡の中にゴブリンを生み出す古代神器(アルティカ・ノーツ)が存在していたとしても、それは単に生み出す為の道具でしかない。なら、生まれたゴブリンは、すぐに本能に従って別の場所に移るのが普通ではないだろうか?

 だが現に、1000匹前後のゴブリンとその希少種が、なにをする訳でもなく遺跡の周辺に集結し、じっとしていた。しかも見張りまで立てて。


 そう、まるで遺跡を守っているかのように。


「オレには、あの群れは統率されているように見えた」

「つまり、リーダーがいるってことだよね?」

「ああ。ただしそのリーダーは、ゴブリン・キングじゃない。それよりもさらに強い奴だ」


 ゴブリン・キングより強いゴブリン。その言葉を聞いて、結衣とユフィアが息を飲んだ。


「なぜそう思うのかね?」


 慎也の考察に興味を抱いたのか、ウィルが尋ねる。


「ゴブリン・キングが、群れとは別行動を取っていたからです」


 確証こそ無いが、ゴブリン・キングの率いていた群れが、あの遺跡からやって来たのは間違い無い。だが、もしもあのゴブリン・キングが群れのリーダーなら、普通は拠点、つまり、あの遺跡のあった場所から動かないはずだ。


 ではなぜ、ゴブリン・キングは群れから離れた場所にいたのか?


 慎也たちが縄張りに入って来たのを察知し、自ら手勢を率いて討伐に赴いて来た、とも考えられなくはないが、少数の群れならともかく、1000匹を超える大群だ。わざわざ自分で赴かなくとも、いくらでも手勢はいるのだから、普通は部下に任せるものじゃないだろうか?


「つまり、あのゴブリン・キングは群れのリーダーじゃなくて、サブリーダーだったんじゃないか、って思うんです。リーダーの命令で、別動隊を率いて本隊とは別行動をしている最中に、オレたちと遭遇したんじゃないか、って」

「あ、そっか。ミリィちゃんの時みたいに!」


 結衣の言葉に、慎也は頷いた。


 新人冒険者のミリィのパーティを襲ったゴブリンの群れは、ボブ・ゴブリンがリーダーで、ゴブリン・ナイトがサブリーダーをしていた。ボブ・ゴブリンがミリィを連れて巣穴に戻った後、ゴブリン・ナイトの率いる別動隊が縄張りを見回っている最中に慎也たちと遭遇した。


 つまり今回のゴブリン・キングとの遭遇は、あの時と同じパターンではないか、と慎也は思ったのだ。


「でも、ゴブリン・キングより強いゴブリンなんて、いったいなんなんでしょう?」

「判らない。っていうか、そもそもオレの想像だからな。的外れかもしれないし」


 不安そうなユフィアに、慎也は肩を竦めて言い放った。


「いや、その想像には一理ある」


 が、ウィルの方は肯定的だった。


「ゴブリンどもが屯しているのが、古代アルティカ文明時代の遺跡だというところが、わしも気になっていた」

「どういうことですか、お爺さま?」


 珍しく懸念の表情を浮かべる祖父に、ユフィアは不安げな表情で尋ねた。ウィルがこういう顔をしている時は、大抵なにか良く無いことが起こるからだ。


「件の遺跡は、ひょっとしたら、まだ()()()()()のかもしれん」

「生きてる? 遺跡が、ですか?」


 ウィルの妙な言い回しに、ユフィアが首を傾げた。


「アルティカ文明は、いまよりも遥かに進んだ文明と技術を有していた。わしも冒険者時代に何度かアルティカ文明時代の遺跡を回ったが、そのうちのいくつかは、文明が滅びて2000年以上経ったいまでも生きておった。その最たる一例が、メリディスト島の迷宮だよ」

「あ、そう言えばマクレーンさんたちもそんなこと言ってました」


 迷宮自体が巨大な古代神器(アルティカ・ノーツ)であり、魔物を生み出したりする機能があるんじゃないか、とマクレーンとエミリータが言っていたのを思い出した結衣が、ぽん、と手を叩いて言った。


「生きている遺跡って、他にはどんなものがるんですか?」


 生きている、というのは、つまり機能が失われていない施設、あるいは装置ということだ。興味を抱いた慎也はウィルに尋ねてみた。


「君たちは、セント・クウィールという国を知っているかね?」

「えっと……確か北の方にある国でしたっけ?」


 地図で見たことがあるだけですけど、と慎也は付け加えた。


「その通り。正式な名前はセント・クウィール魔導王国。北のアルタニア地方にある国でな。魔法使いが多く住む国として知られておる。このヤマト王国とも同盟関係を結んでいる、友好国だ」

「その国と遺跡が、なんの関係があるんです?」

「セント・クウィール魔導王国の領土であるアルタニア地方は、本来は人間が住むことの出来ない極寒の地なんだよ。環境に適応した魔物がわずかに住むだけで、人も動物も生存できない環境にあるにもかかわらず国を維持できているのは、アルティカ文明時代に造られた、環境を変化させる古代神器(アルティカ・ノーツ)とその遺跡が生きているからなんだ」

「環境を変える!? そんなとんでもない古代神器(アルティカ・ノーツ)が存在するんですか?」


 仰天した様子で尋ねる慎也に、ウィルは頷いた。


「そのお蔭で、極寒のアルタニア地方にあるにもかかわらず、セント・クウィールは国土全域で温暖な気候を保っているという訳だよ」


 環境を変化させる、という言葉で慎也は思い出した。確かマクレーンが、メリディスト島の迷宮は階層ごとに環境ががらりと変わると言っていたのを。あるいはそれも、同様の古代神器(アルティカ・ノーツ)を用いているのかもしれない。


「わしが知っているものだけでも、地殻を制御して地震や火山活動を抑制するものや、天候を操作するものも存在していた」

「……アルティカ文明って、なんでもありなんですね」


 常軌を逸したアルティカ文明の技術力に、感心、驚愕、恐怖などの様々な感情の入り混じった表情で、慎也が呟いた。少なくとも、地球よりは遥かに技術が進んでいる。


「……じゃあ、オレたちが見つけたあの遺跡も、なにか特殊な機能があって、それがいまも生きていて、ゴブリンの大量発生に関係しているかもしれない、ってことですか?」

「まだ判らないな。だが、遺跡である以上、領主としては放置することは出来ないだろう。どうにかしてゴブリンを排除して、内部を探索しようとするはずだ」


 その点は慎也も理解できた。ウィルが話したようなとんでもない古代神器(アルティカ・ノーツ)が存在している可能性があり、しかもそれが生きていて、ゴブリンの大量発生と繋がっているかもしれないとあれば、為政者としては放置できるはずが無い。


「しかし、この時代まで遺跡の機能が失われていないということは、建造したアルティカ文明にとっても、相応に重要な施設であったということになる」


 言われてみれば、迷宮にしろセント・クウィールの環境維持にしろ、現在でも機能している遺跡は聞いただけで重要施設と判るものばかりだ。


「そういった遺跡には、外部からの侵入者に対応する為の防衛機能が備わっているはずだ。ひょっとしたら、そちらも生きているかもしれない」

「防衛機能?」


 きょとんとした顔で結衣が聞き返した。


「いわゆる罠だよ。単純な落とし穴や吊り天井ならまだ良いが、魔法による仕掛けは如何ともし難い。他にも、守護者(ガーディアン)がいる可能性も高い」

守護者(ガーディアン)?」


 今度はユフィアが尋ねる。


「アルティカ文明は、魔物を人工的に発生させる技術を有していた。そういった魔物を、遺跡に配置して守らせているパターンが稀にあるんだよ」

「ああ、迷宮のエリア・ボスみたいなやつですね」

「おお!」


 マクレーンから聞いた話を思い出す。

 迷宮は10階層ごとに強力なボスが配置されている、と。

 そこで、何故か結衣が嬉々とした表情で声を上げた。


(謎の遺跡。隠された神秘。凶悪な罠。強力なボス! やっぱりファンタジーはこうでなくっちゃ!)


 どうやらいまのウィルの話は、ラノベマニアの結衣の琴線に触れたらしい。


「どうしたんですか、ユイさん?」

「ああ、これはつまらないことを考えている顔だから、ほっといた方が良いぞ」

「ひどいよー」


 首を傾げるユフィアに、慎也がしれっと酷い事をぼやき、結衣が抗議する。


「しかし、守護者(ガーディアン)か……文明が滅んで2000年以上経ってるのに、まだ律儀に遺跡を守り続けているなんて、なんか可哀想ですね」

「そういったものを生み出してしまえるところが、アルティカ文明の素晴らしい所であり、恐ろしい所なんだよ」


 哀愁の混じったため息を付いて、ウィルは手元に置いてあったお茶を飲んだ。


「話を戻すが、今回見つかった遺跡は、ゴブリンを利用して防衛する様な機能が備わっているのだとしたら、ゴブリンたちの異常行動も納得がいく」

「あ、なるほど。遺跡の防衛機能がゴブリンたちを操っている、ってことですね」


 ユフィアが納得顔で頷いたが、慎也はまだ気になることがあった。


「けど、遺跡が建造されてから2000年間もずっと生きていたのなら、なぜこれまで同様の現象が起きなかったんでしょう?」

「あ……」


 慎也の疑問に、納得顔だったユフィアが、「そうだった」とばかりに口に手を当てた。

 ユフィア自身が実際に口にしていたのだ。あんな場所に洞窟は無かった、こんなことは初めてだ、と。

 あの遺跡にゴブリンを利用して侵入者から防衛する機能があり、それが2000年以上生きていたのだとしたら、ずっと前から同様の現象が起きていたはずである。


「うむ。いままではずっと機能を停止していた遺跡の防衛機能が、なにかの拍子に再起動したとも考えられるが、実際に調べてみないと判らないな」

「……確かにそうですね」


 実際、ここでこうして考察や推理を重ねても埒が明かない。どうせ後日、実際に調査することになるのだから、結果を待てば良い、という結論となり、この話はお開きとなった。


(生きている遺跡……守護者(ガーディアン)。あの遺跡にもなにかあるならぜひ見てみたいけど、例え今回の件で強制依頼が発動されて遺跡攻略って話になったとしても、登録して数日の新米7級冒険者のオレたちに出番は無いだろうな)


 そのことを少し残念に思いつつ、同時に安堵もしながら慎也もウィルに倣ってお茶を呷った。


 この時の予想が外れだと知ったのは、それから2日後のことだった。

次回更新は10/21日、18時の予定です。

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