第46話 君は変わってるな
リアルが忙しくて執筆が滞り中です(´・ω・`)
「理由は?」
「場所です」
エミリータに尋ねられ、慎也は率直に答えた。
「この森は、ゴブリンの住処に向いているとは思えません」
前に説明した通り、ゴブリンはもっと鬱蒼とした、見通しの悪く障害物の多い森を好んで住処にする。この辺りのように、見通しの良い森は好まない。たぶん、ゴブリン・キングが群れを率いてこの場所を訪れたとしても、すぐに移動するはずだ。
「それに、さっきの群れ、おかしいと思います」
今度は結衣が手を上げて自分の意見を言った。
「あれだけ大規模な群れで、しかもゴブリン・キングがリーダーをしているのなら、どこかに集落を作ってそこから動かないはずです」
ゴブリンは通常、洞窟などの薄暗い場所を巣にするが、100匹前後の大規模な群れとなると、それだけの頭数を収容できる洞窟などそうそうあるはずも無く、大抵は自分たちで集落を形成する。そしてゴブリン・キングなどのリーダーは、集落に留まってほとんど動くことは無い。配下のゴブリンたちを遠征させて人や動物たちを狩らせる。この辺りは人間の国と同様だ。
これらの知識は、冒険者としての一般常識のレベルだ。特にゴブリンの多いスアード領で冒険者をしている人間なら誰でも知っている。
「でも、さっきのゴブリン・キングは自分で群れを率いて行動していました。拠点を持っていない証拠です。まるで、つい最近になってここへ来たばかりみたいに」
ゴブリンの増加はかなり前から見られるようになった。だがそれだけ長期間ゴブリン・キングがこの森に滞在していたのなら、間違い無く集落を作っているはずだ。
ゴブリン・キングが異変の原因だとしたら、理屈に合わない。
結衣の意見に、エミリータも「ふむ」と頷いて顎に手を当てた。その表情には、どこか感心したような色が浮かんでいる。
「オレも嬢ちゃんたちと同じ意見だな」
そこへ、マクレーンが口を挟んできた。
「ゴブリン・キングは異変の原因じゃなくて、異変の1つに過ぎないと思うぜ」
「根拠は?」
「勘だ」
即答するマクレーンに、エミリータはため息を付いた。それでもなにも言わないのは、マクレーンの勘が実際に当たるからに他ならない。
「でも、それなら、いったいなにが起こってるんでしょう?」
不安気なことを口にしたのはユフィアだった。自分の住んでいる森で起こっている怪奇現象に、不安を隠せない様子だった。
「……奴らは向こうからやって来たな」
そう言ってエミリータは、ゴブリン・キングとゴブリン・ジェネラルが現れた方――森の奥に目を向けた。
「私はこの辺りの地理はあまり知らないんだが、この奥にはなにがあるんだ?」
「変わった物はなにも無いはずです。この辺は魔物もほとんど出なくて、私でも1人で薬草取りに来られるくらいの静かな森だったんです」
ユフィアが青い顔で言った。そんな森にゴブリン・キングが出たのでは、不安になるのは当然だろう。
「洞窟なんかはあるか?」
と、今度はマクレーンが訪ねる。質問の内容に深い意味は無く、単にゴブリンの好みそうな洞窟が存在するかどうか確かめたかっただけだ。
「ありません」
ユフィアは即答した。
「少し歩いた先に川があって、その向こうに小高い山はありますが、洞窟なんか無かったはずです」
「ふむ。山、か」
ユフィアの説明を聞いて、エミリータは少し考える素振りを見せる。
「取りあえず、その山を目指してみよう。高い場所に上れば、なにか判るかもしれない」
確かに比較的見通しが良いとはいえ、森の中では視界が遮られて遠くが見えない。調査が目的なのだから、高い場所に上ってみるのは悪くない。
「んじゃ、さっそく行こうぜ……っと、その前に、ゴブリンの魔晶核を回収しねぇと」
「時間がもったいない。魔晶核の抜き取りは後回しだ。取りあえず、死体はアイテムボックスに入れておく」
「あー、キングとジェネラル以外のゴブリンのはどうする?」
「時間が無いと言っただろう? 少しもったいないが、そちらは放置だ」
「だな」
マクレーンとエミリータの会話の中に、初めて聞く単語が出て来たのを耳聡く聞きつけた慎也は2人に尋ねた。
「アイテムボックス、ってなんです?」
「あん? 知らないのか?」
意外そうにマクレーンが目を瞬かせる。
「ほら、これのことだ」
エミリータが右腕にはめている金色の腕輪を指した。青色の宝玉の埋め込まれた綺麗な腕輪で、なんらかの魔導具であることが見て判る。
「アイテムボックスというのは空間魔法を帯びた魔導具で、異空間に大量の物を詰め込めるという代物だ。こんな風にな」
説明しながらエミリータは徐にその場に片膝を付き、マクレーンが仕留めたゴブリン・キングの両断された上半身に手を触れると、ゴブリン・キングの上半身が音も無く消え去った。
「わっ」
「消えちゃいました」
その非現実的な光景に、結衣とユフィアが驚きの声を上げる。
目を丸くする2人に比べ、慎也はその事実を現実的に受け止めた。具体的には、アイテムボックスという魔導具の性能に関して興味を抱いた。
「……それって、どれくらい物を入れられるんですか?」
「物によって違うが、私の付けているこれは結構上等な物でね。だいたい中堅規模の倉庫1つ分くらいだ。しかも異空間内は時間が止まっているから中に入れた物が腐ったりすることも無い。生き物は入れられないがね。あと、盗難防止の為、持ち主以外は使用できない設定になっている」
エミリータの説明を聞いて、結衣は――
(ずごーい、ホントにそんな小説みたいな道具が存在するんだー)
と、素直に感動し、ユフィアは――
(あれ? どこかで聞いたことがあるような……)
と、首を傾げ、慎也は――
(要するに、四〇元ポケットみたいなものか)
と、納得し、3者3様の反応を示したのだが。
「それと、何故か自爆機能付きだ」
「「「自爆!?」」」
エミリータの最後の一言に関しては、3人ともまったく同じ反応を示すのだった。
「なんでそんな物騒な機能が付いてるんですか?」
「製作者の趣味だそうだ。聞いた話では、「自爆は漢のロマンだ」が口癖の男で、自分で作った魔導具には全て自爆機能を付けているそうだ」
「……ダイジョブなんですか? そんな危ない奴が作った物なんて」
エミリータの短い説明だけで、アイテムボックスの製作者が変人であることが理解できる。慎也にしてみれば、可能な限り関わり合いになりたくない人物だ。
「不安な面もあるが、利便性に関しては圧倒的だからな。喉から手が出るほど欲しがる人間は多いよ。ただ、かなり高価な物だから、実際に持っている者は少ないが」
「……ちなみに、いくらくらいするんですか?」
興味本位で慎也は尋ねてみる。というより、彼自身、アイテムボックスが欲しいと思い始めていた。先日、ワイバーンの死体を運ぶのに一苦労した経験があったから尚更だ。
「私のこれは貰い物だが、安い物でも500万。高性能な物となると、1000万は下らないそうだ」
「1000万……」
魔法銃を上回る桁違いの金額に、慎也は我知らず呟いていた。
(出来れば……というか、ぜひ欲しい魔導具だが、入手できるのは当分先だな)
エミリータがゴブリン・キングとゴブリン・ジェネラルの死体を回収しているのを傍で眺めながら、慎也は諦念と共に心中で呟いた。
「そうだ。マクレーンさん、さっきの闘気について聞きたいんですが……」
慎也はアイテムボックスのことはいったん諦め、闘気というものに関して尋ねてみることにした。
「闘気ってのは、魔力とは別の……元は、すべての生き物が持っている生命エネルギーを闘う為の力に変換したもののことだ。魔法ほど便利なものじゃないが、その代わり、魔法の才能が無い人間でも扱える、っていう利点がある。冒険者の割合でみれば、魔法使いよりも闘気使いの方が多い」
なるほど、と慎也はうなずいた。生命エネルギーを戦う力に変える訳だから、生き物であれば誰でも使えるというのは納得できる。
「……それ、オレでも使えますか?」
慎也の感覚からすれば、ごく当たり前の質問であり、好奇心であり、探求心であたのだが、その何気ない質問に、マクレーンだけでなくエミリータまで、何故か目を丸くして驚いていた。
「いや……練習すればそりゃ出来るだろうけどよ……本気か?」
「え? もちろん本気ですけど……何故です?」
「お前、魔法戦士だろ? 魔法戦士で自分から<闘気>を習得しようとする奴なんか、ほとんどいねぇんだよ」
「何故です?」
「そりゃ、魔法の方が圧倒的に利便性が高いからさ。その上、魔法はホントに才能のある奴しか使えないが、<闘気>は練習次第で誰でも出来る。つまり、完全な下位互換な訳だ。特に魔法も出来て近接戦闘能力も兼ね備えた魔法戦士ってのは、変にプライドが高い奴が多くてな。魔法戦士は<闘気>を習得するべきではない、っていう暗黙のルールみたいなもんがあるんだよ、昔から」
魔法戦士でも<闘気>は習得可能でけど、習得すべきではない。何故なら魔法の方が便利だし、それが魔法戦士としての矜持だから。要約すればそう言うことになる。
慎也にしては「下らない」としか言いようの無いものだったが、幸いにも口にするのは避けた。何故なら目の前に別の魔法戦士がいたからだ。
「エミリータさんも、同じ考えなんですか?」
「いや。私は別にルール云々についてはなんとも思っていないが、<闘気>を習得する暇があったら<魔法剣>の方を磨いた方が自分の為になると思っている」
確かに、わざわざ下位互換のスキルを覚えなくとも、既にあるより便利なスキルを高めた方が良いというエミリータの考えにも一理ある。
「君は、<闘気>を習得したいのか?」
「出来れば……」
「理由は?」
「役に立つと思ったからですよ。ご存じの通り、オレのパーティメンバーは全員が魔法を使えます。そういう意味じゃ恵まれてるんでしょうけど、如何せん、魔法に偏り過ぎてると思うんです。いまはなんとかなってますけど、もしも魔法が効きにくい敵がいたり、魔法を封じられたりした場合はかなりヤバいことになるはずです。そんな時、魔法以外にも使えるスキルがあった方が良いと思っただけです」
慎也の回答に、エミリータは「ふむ」と呟いて顎に手を当てた。
「君は変わってるな」
「そうですか?」
「ああ。自分たちのパーティの力が不足していると思ったら、それを補える能力を持った者を新たにメンバーに加えれば良いだけだろう?」
「まあ、確かにその通りですけど、そんなに都合良く仲間が見つかるとも限りませんし。それに――」
「それに?」
「目の前で凄い技術を見せられたら、自分もやってみたいと思うのは、男として当然じゃないですか。特に、強さに関しては」
強さと言うものに憧れを抱かない男などいない。
もちろん、「強さ」というものの定義は人によって違う。単なる力だけでなく、勉強だったり、スポーツだったり、ゲームだったりする。
それぞれの分野で、それぞれの強さで、1番になりたいと、誰もが1度は考えるだろう。
慎也の場合、それは純粋に戦闘能力だった。
幼い頃から『父親』に武術を仕込まれ、魔王と呼ばれた男に憧れ、いままた、異世界で《鬼神》と呼ばれた冒険者に師事し、彼を超えるという野望を抱く者にとっての、当然の欲求だった。
ウィルを超えるには、ウィルと同じ技能を習得するだけではだめだ。彼に無い技術やスキルを得る必要がある。たぶんウィルも<闘気>は使えないはずだ。2年間の修行の日々の間に、1度も<闘気>に関しては言及していなかった。
なら、ウィルの知らない<闘気>を習得できれば、魔法が使えない場面に遭遇しても対処することが出来るだろうし、ウィルを超える為の一助にもなるはずだ。
慎也はそう考えたのだった。
そして彼の考えは、この世界の人間にとっては「変わっている」と言わざるを得ないものであり、逆にある種の人間にとっては、それは酷く新鮮に映るのだ。
「お前、面白い奴だな」
例えば、マクレーンのような人間だ。
(やっぱ、あいつによく似てる。こりゃ確定だな)
慎也の変わった言動から、マクレーンはとある確信を抱いたのだが、それはひとまず自分の心の中だけに納めた。
「気に入ったぜ、慎也。オレで良ければ教えてやってもいいぜ、<闘気>の習得法と扱い方」
「ホントですか?」
「ああ、もちろんだ。こんなに面白いと思えた奴は久しぶりだからな。骨の髄まで叩き込んでやるよ」
にぃ、と豪快な笑みを浮かべたマクレーンが、手を差し出して来た。
「ぜひ、お願いします!」
そう答えて、慎也は彼の手を握り返した。
次回更新は10/12日、18時予定ですが、場合によっては少し遅れるかもしれませんm(__)m




