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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
46/135

第43話 おいでなすったようだぜ

稲刈りなんて嫌いです(´・ω・`)

 ストレイ・ウルフは狼そっくりの獣系の魔物で、マナクレイの森ではゴブリンに次いでマイナーな魔物だった。レベルは3程度で普通の狼と大差は無いが、凶暴な性格に加えて群れで行動することが多く、集団で旅人や農村、家畜を襲うことがある為、一般人にとっては充分恐ろしい魔物だ。


 それらに加え、ゴブリンに飼い慣らされ、使役されることがよくあることで知られている。

 実際に慎也たちも、ストレイ・ウルフに騎乗したゴブリンの希少種――ゴブリン・ライダーと戦ったことがあった。


(けど、ゴブリン・テイマーってのは初耳だぞ!?)


 名前やさっきの犬笛から察するに、魔物を調教し、使役することに長けたゴブリンの希少種と言ったところか。


 そうこうしている間に、群れの先頭に立って迫ってきたストレイ・ウルフが、あぎとを限界まで開いてマクレーンに飛びかかって来た。


「オレはこう見えても犬が好きなんだ――」


 軽口を叩きながらもツヴァイハンダーを振りかざし――


「心が痛むぜ」


 彼のツヴァイハンダーが慎也の視界から消えた。同時に、ぐぎゃ! という悲鳴と共に、マクレーンに飛びかかったストレイ・ウルフの身体が上下に分断され、死体となって地面に転がった。


(速い。あの大型剣でなんて剣速だ!)


 驚愕に目を見開く慎也を他所に、マクレーンは小枝でも振るうかのようにツヴァイハンダーを縦横無尽に薙ぎ払い、ストレイ・ウルフを次々と屠っていく。

 その横では、エミリータが飛びかかって来たストレイ・ウルフを盾で受け止めた。ステータスによるものか、体当りする様に身体ごと突っ込んできたストレイ・ウルフを、エミリータは盾を持った左腕だけで軽々と受け止め、しかも微動だにしない。そのまま間髪入れず、盾の裏側からストレイ・ウルフの脇腹を刺し貫き、無造作に盾を払って投げ捨てる。


 エミリータの白銀の剣が俄かに魔力の光を帯びる。慎也のそれよりもずっとスムーズで滑らかな魔力操作。美麗なまでの魔光を宿した銀剣は、その凶悪な切断力を持って、一振りで2匹のストレイ・ウルフを同時に両断した。

 騎士のような鎧を着こんでいながら、まるでダンスでも踊るかのように優雅な身の熟しで巧みにストレイ・ウルフの攻撃を躱し、いなし、捌き、屠っていく。


 それは、同じ魔法戦士である慎也の対抗心に火を灯すには充分だった。


(負けてられないな!)


 両手で腰溜めに刀を構えながら前に出る。狙いは前方から向かってくる3匹のストレイ・ウルフ。

<閃駆>を使い、一瞬にして3匹のストレイ・ウルフの間を駆け抜け、すれ違いざまにイクサを3閃する。 背後で、どちゃっ、という湿った音を立てて、輪切りにされたストレイ・ウルフが血と内臓をぶちまけて地面に崩れ落ちた。


「ヒュー♪」

「流石だな。<閃駆>まで使えるとは……」


 ツヴァイハンダーを肩に担いだマクレーンが感心したように口笛を吹き、エミリータが驚き混じりの称賛を口にする。

 2人の足元には10匹以上のストレイ・ウルフが両断された状態で横たわっている。既に周囲に生きているストレイ・ウルフはいない。


「ふわぁ……皆さん凄いです」

「私たちの出番、全然無かったね」


 あっという間にストレイ・ウルフの群れを斬り伏せてしまった3人の剣士に、やや呆然としながらも称賛を口にするユフィア。結衣は出番が無かったことがやや不満なようだ。


「まだだ」


 そんな2人に、抜き身の剣を手にしたままエミリータが言い放った。


「ゴブリン・テイマーは単独では行動しない。まだ他にも仲間のゴブリンがいる」


 エミリータの言葉を証明するかのように、きりきりという、なにかを引き絞るような音が微かに聞こえてくる。


「アーチャーだ!」


 慎也の声と同時に、ストレイ・ウルフの群れがやって来た方向から、無数の矢が彼らに向かって飛んで来た。


「《神秘なる光壁(セイント・ウォール)》」


 空かさずユフィアが神聖属性の魔力壁を展開し、飛来した矢を防ぐ。光の壁に弾かれて宙に飛び散った矢を、慎也は優れた動体視力で瞬時に数えた。


(8本!?)


 その数に愕然とする。矢が同時に8本同時に飛んで来たということは、ゴブリン・アーチャーが最低でも8匹いるということだ。

 ゴブリン・アーチャーはゴブリンの希少種である。当然、普通のゴブリンに比べて数は少ない。10匹程度の群れに群れにつき、1匹か2匹いるかどうかの割合だ。

 それが8匹、さらにゴブリン・テイマーまでいるということは、慎也たちを襲撃しているのは相当大規模な群れか、あるいは強力なゴブリンの個体が率いる群れかのどちらかだ。


 ギギ!?


 もはや耳にタコができるほど聞き慣れたゴブリンの鳴き声。見れば、30メートルほど離れた木々の向こう側に、弓を持ったゴブリンの姿が見えた。



 ゴブリン・アーチャー

 レベル:6

 生命力:30

 魔力値:0

  筋力:23

  敏捷:15

 スキル:<弓術120><潜伏70>


【ゴブリンの希少種。ゴブリンの弓使い。接近戦用の武器しか扱えないゴブリンの中で、弓術に秀でたゴブリンの個体。とはいえ、人間から見れば初心者レベルであるが、小柄な身体を生かして物影や木の上からの不意打ちを得意とする他、矢じりに毒を塗る場合もあるので決して侮れない】



 どうやら不意打ちで放った矢を防がれたことに驚いているようだ。

 その時――


 ウオオオオオオオ!!


 ゴブリン・アーチャーの背後から、新たな雄叫びが発せられた。

 ぞくり、と慎也の背筋を冷たいものが駆け抜けた。いままでのゴブリンとは違う、空恐ろしいまでの威圧感がその雄叫びからは感じ取れた。見れば、同じものを感じ取ったらしく、結衣やユフィアも緊張に表情を強張らせている。

 少なくとも、これまで相手にしてきたゴブリンとは完全にレベルが違うなにかが、この群れを率いている。


 ギャギャギャ!!


 ゴブリン・アーチャーの背後の茂みから、ゴブリンの群れが溢れだした。

 次々と。次々と。


「ちょ、おい、ウソだろ」


 慎也が絶句する。

 ゴブリンの数が尋常では無いのだ。それこそ10匹や20匹どころではない。恐らく100匹近いゴブリンの大群が、雲霞の如くこちらを目指して押し寄せてくる。しかもよく見れば、群れの中にはゴブリン・ナイトやボブ・ゴブリンといった希少種の姿もいくつか見受けられる。


 間違い無く、慎也たちがこれまで見たゴブリンの群れの中では最大規模だ。


「いっぱい来たよ!」

「に、逃げましょう、皆さん!」


 普段は終始のんびりした性格の結衣も、あまりの数にさすがに怯えた様子だ。ユフィアに至っては完全に逃げ腰である。

 いや、そもそも慎也からして、さすがにこれは無理だと判断した。20匹程度ならどうとでもなるが、希少種を含めた100匹近い群れとなると、勝ち目はない。逃げるしかない。

 自分たちだけならば、だが。


「どうやら、大物がいるらしいな」


 100匹近いゴブリンの群れを前にしながら、まるで怯えた様子の無いマクレーンが、不敵な笑いを浮かべて言った。


「そのようだな。なぜこんな場所にこれだけの大群がいるのか、理解に苦しむが……」


 こちらもまた、恐怖の欠片も感じている様子の無いエミリータが、顎に手を当てて冷静にゴブリンの群れを観察していた。


「少なくとも、この森に目を付けたのは正解だったわけだ」

「そうだな。だが、詳しく調べるためには、まずはあれをなんとかしないとな」


 ゴブリンの大群が目前まで迫っているというのに、マクレーンとエミリータはまるで世間話でも躱すかのように普通に会話している。


「心配ない。すぐに片付ける」


 こちらを見たエミリータが笑顔で言い放った。


「オレが、な」


 徐にマクレーンが数歩前に出る。腰を落とし、両手で握ったツヴァイハンダーをゴブリンの大群目掛けて横に振り被るように構える。

 すると、マクレーンの身体から陽炎のような光の揺らめきが突然溢れだし、腕を伝ってツヴァイハンダーにまで流れ込む。


「なにあれ?」

「魔力? いや、そんな感じじゃない」


 結衣と慎也の疑問に、マクレーンから離れるように1歩下がったエミリータが答えた。


「あれは闘気だよ」

「闘気?」


 聞き返した慎也にエミリータが答えを返す前に、マクレーンの”闘気”が爆発的に膨れ上がった。


「くたばれぇ!!」


 咆哮にも似た大声と共に、マクレーンがツヴァイハンダーを真横に薙ぎ払った。


 斬ッ!!


 刹那――


 ゴブリンの首が、身体が、森の木々が、茂みが、岩が、一斉に飛んだ。否、両断された。

 マクレーンの身体を始点に、前方数十メートルの範囲内に存在していた全ての物が、まるで豆腐のように綺麗に切断されたのだ。それも、一瞬で。


(なんだいまの!? なにが起きた?)


 あまりの出来事に慎也は声すら出ず、目の前で起こった非現実的な光景に、瞬きすら忘れて見入っていた。結衣やユフィアに至っては、口を半開きにしてぽかーんとしている。


 津波の如く押し寄せていたゴブリンの大群は、その全てが首や身体を両断されて絶命し、その上に、同じく切断された森の木々が倒れ込んだ。その範囲は50メートル以上に渡って扇状に広がっている。


(恐ろしい技だな。あれだけいたゴブリンを一振りで皆殺しに……いや)


 よく見れると、1匹だけ生きているゴブリンがいた。外見は普通のゴブリンと大差無いが、ストレイ・ウルフのものと思われる毛皮を被っている。運良くマクレーンの大技に巻き込まれずに済んだようだが、遠目にも判るくらい酷く怯えた様子だ。


 ゴブリン・テイマー

 レベル:9

 生命力:41

 魔力値:0

  筋力:19

  敏捷:23

 スキル:<魔物調教150><動物調教100>


【ゴブリンの希少種。ゴブリンの魔物使い。テイマーに特化したゴブリン。個体としての戦闘力は普通のゴブリンと大差無いが、テイミングした魔物を使役している為、他のゴブリンよりも大きな脅威となる。ただし自分よりもレベルの低い魔物しか使役できない。希少種の中でも特に数が少ない】


「あれがゴブリン・テイマーか……」


 初めて見るゴブリンの亜種に物珍しそうな視線を送る慎也だが、目の前で自分の従魔や仲間を惨殺されたゴブリン・テイマーにとってはそんな視線すら恐怖の対象でしか無く、甲高い悲鳴を上げてこちらに背を向け、逃げ出した。


「それは甘いだろ」


 完全に戦意を喪失しているようだが、だからと言って逃がしてやるほど慎也は優しくは無い。ホルスターから魔法銃を引き抜き、ゴブリン・テイマーの背中に狙いを定め、トリガーを――


 ザシュ!


「!?」


 ――引く寸前、突然、ゴブリン・テイマーの首が宙を舞った。

 慎也たち以外のなにかが、ゴブリン・テイマーの首を刎ね飛ばしたのだ。


「おいでなすったようだぜ」


 驚く慎也とは裏腹に、マクレーンは不敵な笑みを浮かべたままツヴァイハンダーを肩に担ぐ。それに呼応するかのように、森の奥から這い出すように出て来た影があった。

 数は2体。


 瞳の無い目や緑色の肌からゴブリンの一種であることが伺える。だが、並みのゴブリンに比べて明らかに巨大な体躯を有していた。ボブ・ゴブリンよりもさらに大きく、2メートルを超えているだろう。はち切れんばかりの筋肉を有した身体に粗末ながら鎧を纏い、スモールシールドと戦斧を装備している。



 ゴブリン・ジェネラル

 レベル:28

 生命力:3920

 魔力値:321

  筋力:987

  敏捷:346

 スキル:<怪力312><斧術251><盾術211><魔力操作339><統率300>


【ゴブリンの希少種。ボブ・ゴブリンを遥かに上回る怪力を誇り、高い戦闘技能を有したゴブリンの将軍。他のゴブリンとは一線を画す力を有し、拙いながらも魔法戦士としての技能も有している。その戦闘力の高さに比べて個体数は少ない】


「ゴブリン・ジェネラル……ステータスがボブ・ゴブリンの比じゃありませんよ」


 戦くようにユフィアが呟いた。


「将軍様だね。上様って呼んだほうがいいかな、慎也君?」


 一方で、結衣は呑気にアホなことを聞いて来た。だが慎也は答えない。というか、そんなことよりもずっと気になることがあったからだ。


「……なんで2匹いるんだ?」

「え?」


 ゴブリンの群れには必ずリーダーが存在する。多くの場合は希少種だ。だが当たり前の話だが、リーダーは1匹だけだ。

 さっきの群れのリーダーがゴブリン・ジェネラルなら、同じレベルとステータスの個体が2率いるのはおかしい。


「簡単だよ」


 そんな慎也の疑問に、エミリータが答えた。


「リーダーではないからさ」


 言いながらも、彼女の視線はゴブリン・ジェネラルに……いや、その背後の木陰を凝視し続けている。

 エミリータの凝視に応えるかのように、新たな巨影が木陰から這い出して来た。

 2メートルを超えるゴブリン・ジェネラルよりも、さらに大きい。恐らく3メートル近い巨体に、見た目にも豪華な鎧を身に付け、頭部には骨で出来た王冠らしきものを被っている。手に持っているのはマクレーンのそれと同じ大剣ツヴァイハンダーだが、それが普通のサイズに思えるほど、尋常では無い巨体を有していた。


「なに、あれ……?」


 さすがの結衣も声が震えている。

 その答えは、盗視の指輪(スティール・リング)によって彼女たちに伝えられた。


 ゴブリン・キング

 レベル:35

 生命力:4002

 魔力値:437

  筋力:1024

  敏捷:329

 スキル:<怪力527><剣術438><体術347><魔力操作393><統率400><物理魔法355><魔法剣399><鬼王の威厳->


【ゴブリンの王。ゴブリン族の中ではトップクラスの戦闘力を有し、魔法戦士としての実力はジェネラルを優に凌ぐ。また統率力にも長け、群れのリーダーを務めた場合、数百匹規模の大軍団を形成する場合がある。まさに戦闘力と統率力を兼ね備えた「王」に相応しい存在である】


<鬼王の威厳->

 配下のゴブリンのステータスを20%上昇させる。

次回更新は 10/1、18時の予定です。

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