第42話 敵はゴブリン・テイマーだ
前回に引き続き、少々短いですm(__)m
森の中は、鬱蒼としたジャングルとは違い、障害物も少なく非常に歩き易かった。
乱立する木々はすべて電信柱サイズの細い幹に、高い場所にだけ枝を付けるタイプのもので、人間が歩く位置には1本の枝も無く、さらに頭上高くに多い茂る葉っぱが日光を阻害している為か、雑草などの植物が非常に少ない。
歩きやすく、見通しの良い森だった。
(なるほど。確かにここはゴブリンの住処には向いてないな)
ゴブリンは総じて小柄で猿のように動きが素早い。茂みに身を隠して不意打ちしたり、木の上から矢を射かけるという奇襲を得意としている。また、木の枝を使って石斧や槍、弓などを作ったりもする。
見通しが良く、茂みも木の枝もほとんど無いこの森は、ゴブリンの特性を活かしにくい場所だった。
(この森の周辺でゴブリンの目撃情報が増えてるってのは、確かに不自然だな)
改めてマクレーンとエミリータの目の付け所に慎也は納得する。
現在5人は陣形を組んで森の中を進んでいた。先頭をマクレーンとエミリータ。その後ろを結衣とユフィア。最後尾が慎也だ。
「あの、お尋ねしてよろしいでしょうか?」
森に入って30分程経ったころ、唐突にユフィアが口を開いた。
「なんだ?」
肩越しに振り返ったマクレーンが訪ね返す。
「さっきギルドで、ゴブリンが増えた原因は古代神器の可能性が高いと伺ったんですが、魔物を引き寄せたり、増やしたりする古代神器なんて、本当にあるんでしょうか?」
「あるぜ」
「あるぞ」
ユフィアの質問に、マクレーンとエミリータは揃って即答した。
「特定の魔物を引き寄せる物であれば、古代神器でなくとも存在する。例えば、ある種の魔物だけが好む匂いを発する香炉の魔導具とかな」
エミリータの説明に、慎也たちはなるほど、と頷いた。
匂いで獲物をおびき寄せるというのは、人間でなくとも自然界の動物や植物とかでも普通にやっていることだ。
(そう言えば、赤ん坊のワニの鳴き声をスピーカーとかで流すと、大人のワニが集まってくるんだっけ)
動物が子供を外敵から守ったり助けたりするのは良く知られているが、それはあくまで我が子に限ったことだ。だがワニは、自分の血縁関係に無い子供でも関係無く救おうとする、非常に子供想いな生物だと慎也は聞いたことがあった。
あと、なにかの古い映画で、子ワニの泣き声で巨大ワニをおびき寄せようとして、自分が喰われてしまうという内容のものを見た記憶があった。
「あと、魔物を人工的に作り出す古代神器も実際に存在しているぞ」
さも当たり前のようにさらっと言い放ったマクレーンの言葉に、ユフィアは戦慄に身を震わせた。
「魔物を作り出すなんて……そんな恐ろしいもの、どこに?」
「迷宮だ」
間髪入れず、マクレーンが答える。
「迷宮って、メリディスト島の地下迷宮ですか?」
ラノベマニアであり、以前から迷宮に1度行ってみたいと、言っていた結衣が即座に喰い付いた。
「そうだ。メリディスト島の地下に広がる迷宮は、厳格な階層構造になっていてね。地下1階が第1層、地下2階が第2層と称されている。言い伝えでは、全部で150層まで存在すると言われている。だが、現在までに攻略されたのは、半分にも満たない73層までだ」
へー、と結衣は興味深げにエミリータの説明に聞き入っていた。結衣ほどではないが、迷宮には興味を持っていた慎也も黙って耳を傾けていた。
「その迷宮と、魔物を作り出す古代神器が、どう関係するんですか?」
当然の疑問をユフィアが発した。
エミリータが続ける。
「迷宮には当然魔物が出現する。そして、地下へ進めば進むほど魔物は強くなっていく訳だが、それだけじゃない。10層進むごとに出現する魔物の種類や、迷宮の環境ががらりと変わるんだ」
「環境が、変わる?」
首を傾げるユフィアに、エミリータは頷く。
「私たちも実際に行ってみたんだが、第1層から10層まではごく普通の洞窟、或いは遺跡のような環境で、出現する魔物はスライムやコウモリ、アリと言ったものだったのが、11層に入った途端、草原に変わったんだ」
「草原!?」
環境が変わる? 地下迷宮が、洞窟から草原に?
意味が判らなかった。
「ありゃマジでびっくりしたぜ。なんせ、地下なのに普通に空があって、太陽まで存在してやがるんだからな。出現する魔物も、獣系や鳥系と言った種類に変わったしな」
しみじみと思い出すように、マクレーンが続けた。
「まあ、興味があるんなら実際に行って確かめたらいいさ。お前さんらのレベルなら、少なくとも上層くらいなら問題無く攻略できるはずだ」
「と、話が逸れてしまったな。迷宮は10層ごとにがらりと環境や魔物の種類が変わる。つまり、10層ごとに区画分けされ、環境に準じた名前で呼称されている。つまり、第1層から10層は『洞窟エリア』。11層から20層までは『草原エリア』といった具合にな。そして、それらのエリアの最下層には、必ず強力なボスが存在しているんだ」
「ボス?」
結衣が興味深げに聞き返した。
迷宮の区画ごとにボスモンスターが存在するというのは、ラノベでもよくある設定だ。
「通称、エリア・ボス。エリア内であれば階段や縦穴を下ることで自由に行き来できるが、エリア間を進むには必ずそのエリアのボスを倒さなければならない。そしてこのエリア・ボスは、倒しても半日ほどで復活するんだ」
ユフィアが息を飲んだ。エミリータが言いたいことを理解したのだろう。
「エリア・ボスは何度倒しても、半日経てば何事も無かったかのように復活する……あるいは、復活ではなく、新たに作り出されているのかも知れないな」
「オレにはさっぱり判んねぇんだが、研究者の話じゃ、メリディスト島の迷宮は、それ自体が巨大な古代神器らしい。エリアごとに環境や魔物が変化するのも、ボスが復活するのも、すべて古代神器の機能じゃないか、って話だ。そもそもエリア・ボスだけじゃなく、迷宮に現れる魔物も全部、古代神器によって人工的に作り出されている可能性が高いらしい」
「そんなものを作り出すなんて……アルティカ文明はどれほどの……」
震える声で戦くユフィア。
気持ちは慎也にも理解できる。人工的に魔物を作り出し、地下でありながらまったく異なる環境をエリアごとに作り出す。そんなことは、この世界よりも遥かに進んだ地球の科学技術を以てしても出来ることではない。
古代アルティカ文明とは、どれほどの文明度や技術を有していたのか、正直想像すら付かない。
「まあそう言う訳で、魔物を人工的に作り出す古代神器が現実に存在している。確かに迷宮に使われている物以外は聞いたことが無いが、類似する機能を有した古代神器が存在しないとも限らない」
「なるほど……」
少し長くなってしまったエミリータの説明に、ユフィアは頷くことしか出来なかった。その一方で、慎也はいま聞いた迷宮の仕組みと現状を重ねて冷静に咀嚼してみた。
(区画ごとに異なる環境を作り出し、そこに適した魔物を人工的に作り出す古代神器……そんなものが実在するなら、ゴブリンだけを作り出す古代神器が存在していても確かにおかしくない……まだそれが原因と決まった訳じゃないけど、仮にそうだと仮定した場合、少し面倒なことになるんじゃないのか?)
少々不穏な可能性が脳裏を過る。
「仮にもし、ゴブリンを生み出す古代神器が存在した場合、オレたちはそれを見つけて、その後、どうしたらいいんでしょう?」
慎也が思い付いた可能性。
もし、ゴブリンを人工的に作り出す古代神器が見つかった場合、今回の調査を依頼した行政側は、それをどうするだろう、というものだ。
「オレらの仕事は、あくまで”原因の調査”だ。見つけたらギルドに報告して終わりだよ」
なに言ってるんだ? とばかりにマクレーンが即答した。
確かに彼の言う通り、原因を見つけるのまでが自分たちの依頼内容であって、それ以降のことは範疇外だ。
だからこそ気になるのだ。もし、ゴブリンを生み出す古代神器が原因だった場合、報告を受けた者がどのような判断を下すのか。
普通に考えれば、ゴブリンなんて邪悪な魔物を生み出す物だ。壊してしまうのが1番だろうが、それほどの古代神器となれば、その価値は計り知れない。邪な考えを持つ者はどこにでもいる。
もし、そういった者が古代神器を我が物にしようと良からぬことを企んだ場合、なにかまた厄介なことが起こるんじゃないだろうか、と。
その時だった。
森の奥の方から、ピーという、明らかに動物の鳴き声とは異なる甲高い音が聞こえてきた。
「なんだ? 笛?」
訝しる慎也を他所に、マクレーンが鋭い舌打ちを発して背中の大剣を引き抜き、エミリータが剣と盾を構えた。
「来るぞ」
緊張を孕んだエミリータの声に、慎也たちも空気を察して即座に戦闘態勢を取る。
「なんなんですか、いまの音?」
イクサを鞘から引き抜き、音のした方を注視しながら慎也がマクレーンと意エミリータに訪ねた。
「犬笛だ」
犬笛というのはドッグトレーナーが犬の訓練などで使う笛のことだ。
何故そんな物が、と考える間も無く、笛の音がした方からガサガサという音が聞こえてきた。
四足歩行の足音と、イヌ科の動物特有の息遣いが複数、真っ直ぐこちらに迫ってきている。
「気を付けろよ、お前ら」
茂みの方を見据えたまま、マクレーンが背後の慎也たちに声を掛けた。
「敵はゴブリン・テイマーだ」
マクレーンの言葉が言い終わると同時に、茂みを掻き分けるようにして、無数のストレイ・ウルフが飛びかかって来た。
次回更新は9/28日、18時予定です




