第40話 3級冒険者……
すこし短めですm(__)m
背後から声を掛けられ、振り返った慎也が最初に思ったことは――
(でけぇ!)
――だった。
そこに立っていたのは、身の丈2メートル近い人族の大男だった。がっしりとした筋肉質な身体にごつい鎧を纏い、背中には見るからに上等そうな片刃の大型剣――ツヴァイハンダーを背負っていた。顔はパッと見た感じ、金髪の男前なのだが、右の頬には獣に引っかかれたような傷跡がある。年は20代後半と言ったところだろう。
そしてその隣には、いかにも女騎士と言った目麗しい女性の姿があった。こちらも人族で、年は大男よりも少し下。亜麻色の長髪を三つ編みで纏めた、凛とした感じの美人で、白銀の騎士甲冑を着込み、同じく白銀色の剣と盾を装備している。
「あ、マクレーンさんにエミリータさん。いつ戻られたんですか?」
その名前が出た途端、周りにいた他の冒険者たちの間に騒めきが走った。雰囲気から察するに、かなりの有名人らしいが、慎也たちは初対面だ。
「よう、しばらくだったな、ウィニア嬢ちゃん。昨日戻ったばかりだ」
どうやら大男の名前はマクレーンで、女騎士はエミリータと言うらしい。ウィニアの知り合いのようだ。
「立ち聞きして悪かったな。オレはマクレーン。で、こっちは相棒のエミリータ。3級冒険者をしている。つまり、お前らの先輩だ」
「エミリータだ。よろしく」
美麗な見かけに反して、エミリータという女騎士の口調は固かった。
だがそれよりも慎也を驚かせたのが――
「3級冒険者……」
ウィニアが言っていた、4人しかいない、スアード伯爵領における最上位の冒険者。
(この2人が?)
そんな慎也の視線に気付いたマクレーンが、ふっと笑った。幾つもの修羅場を潜り抜け、幾百もの戦いを潜り抜けた猛者の笑み。ウィルのそれに通じるものが感じられる。よく見れば、女騎士ことエミリータの着ている鎧や盾にも、歴戦を思わせる傷や汚れが多く付いている。
「お前さんがシンヤだな?」
「そうですが、どうしてオレみたいな駆け出しの名前を知ってるんですか?」
冒険者としては大先輩であり、上級者ということもあって、慎也はマクレーンの問いに敬語で返した。
「知ってるもなにも、結構な噂になってるぜ、お前さんたち」
「元1級冒険者であり、《鬼神》ウィルの弟子と孫。冒険者登録をしたその日の内にゴブリンの群れを殲滅し、捕らえられていた新人冒険者を救出。さらに昨日はワイバーンをたった3人で仕留めた、期待の超新星。しかも、非常に珍しい魔法銃まで持っていると来た。恐らく、この街の冒険者で君たちを知らない者はいないだろう」
エミリータが付けたした説明に、目立つのが嫌いな慎也は、うげ、と心中で唸った。
(魔法銃のことまで知られてるのか? あ、そういや、行商人を助けた時に使っちまってたな)
自分の迂闊さを後悔したが、魔法銃を使っていなければ助けることは出来なかっただろうから、仕方ないと諦める。
「それで、オレたちになんの用です?」
「なに、オレたちもこれから森の探索依頼を受けようと思ってな。お前さんらも同じ依頼を受けるなら、オレらと一緒に行かねぇか?」
マクレーンの言葉に、再び周囲に騒めきが起こる。
当然だろう。スアード伯爵領に置ける最高位の冒険者であり、一流と言われている3級冒険者が、登録したばかりの新米冒険者パーティに誘いをかけたのだから。
「いやでも、オレたちこの前登録したばかりのど新米ですよ? 足手纏いにしかならないと思いますけど……」
「いや、そうはならないと思うよ」
今度はエミリータが答えた。
「ワイバーンを倒したということは、君たちのレベルは20以下ということは無いだろう。全員が恐らく、20台半ばから30ほどと見た」
「……」
エミリータの出した結論は、想像の範疇を超えてほぼ正解だった。
「私のレベルは32。マクレーンは35。少なくとも、戦闘に置いて足手纏いになることは無いさ」
確かにレベルだけならそれほど離れてはいなかったが、経験に置いては雲泥の差があるはずだ。
「あの、いいですか?」
そこで、いままで黙って話を聞いていた結衣が手を上げた。
「君の名前は確か、ユイ、だったね? なにかな?」
「はい、その通りです。御二人は3級冒険者で、言ってみれば、大ベテランですよね? それが他の冒険者パーティを力を借りたい理由を教えてもらってよろしいですか?」
「ああ、すまない。それをまだ話してなかったね」
不手際を謝罪した後、エミリータは説明した。
「さっき話した通り、私たちはこれからマナクレイの森の調査に向かうつもりだ。だが知っての通り、いま森ではゴブリンが異常に増えている。私たち2人だけでは心もとなくてね」
「ベテランの御二人でも、ですか?」
驚いた様子の結衣に、エミリータは素直に頷いた。
「ゴブリンは確かに最弱の魔物だが、代わりに知能が高く数が多い。ベテランだからと言って、決して侮って良い敵ではない」
「ゴブリンだけならいくら集まっても問題ねぇんだが、希少種が加わると面倒だ」
「ゴブリン・ナイトやボブ・ゴブリンみたいなのがですか?」
結衣の質問に、マクレーンは首を横に振った。
「ナイトやボブ程度なら普通のゴブリンと大差無ぇさ。だが、ジェネラルとかキングとかが出てくると、オレらだけじゃ厳しい」
ゴブリン・ジェネラル。ゴブリン・キング。
どちらもゴブリンの希少種で、ナイトやボブよりもさらに強力な個体だ。
慎也たちは遭遇したことは無いが、ジェネラルはレベル20以上、キングとなればレベル30を普通に超えるという話だ。おまけにその名に相応しく、大抵は多くのゴブリンを配下として引き連れていることが多い。
確かにベテランと言えど、2人だけで相手するには厳しい。
「しかも、ゴブリンが増えたせいで、森にはそれを狙って他の魔物たちが集まり始めている。異変の原因も含め、なにが出るか、なにが起こるかも判らない状況だ。2人だけで調査するにはリスクが大きすぎる」
実際、ワイバーンのようなレベル30を超える魔物が出たばかりだ。しかも慎也たちは2年前、ウォー・ウルフというさらに高レベルの魔物とも遭遇した経験がある。それだけに、2人の話には多分に納得できるところがあった。
「それに、見ての通りオレたちのパーティには魔導士が居ねぇ。一応、エミリータは初歩的な魔法くらいは使えるが、専門の魔導士には及ばねぇしな」
「え? ということは、エミリータさんは魔法戦士なんですか?」
「一応な。あ、ちなみにマクレーンは違うぞ。こいつはガチガチのパワー馬鹿だ」
「馬鹿は余計だ!」
「事実だろう?」
妙な言い合いを始めた2人。
だが、慎也も自分と同じ魔法戦士は、ウィルを除いて初めてだ。
(ベテラン冒険者の魔法剣士か……この人と一時的とはいえ、行動を共にできるメリットは大きいな。盗める技術もあるだろうし)
慎也がそんなことを考えている内に、マクレーンとエミリータの言い合いはひとまず収束したようだ。
「まあ、そう言う訳だから、もし森の捜索に行くというなら、私たちと一緒に行かないか? 共に行動した方がお互いの為にもなるだろう」
「それに……」
エミリータに続いてマクレーンがなにか言いかけたが、何故か途中で言葉を切った。
「? どうしました?」
「いや、新人に戦い方や冒険の知識を教えるのは、先輩としての義務だと思ってな」
明後日の方を見ながらそんなことを言うマクレーンに、慎也は内心で首を傾げたが、傍らのエミリータは「素直じゃないな」と微笑していた。
「で、どうする?」
改めてエミリータに尋ねられ、慎也は考えた。
とは言え、慎也としては、誘いを受けない、という選択肢は事実上、無いものと考えていた。
なにしろ、3級冒険者が7級冒険者を誘う、助力を求めるということはということは、彼らが自分たちの実力を相応に評価してくれているという事実に他ならない。これは非常に名誉なことである。それを蹴るということは、彼らを侮辱するに等しい。そうなると、慎也たちにとっても色々とまずい事になる。
なにしろここは冒険者ギルドのロビー。他の冒険者たちが見ている前なのだからなおさらだ。
それに、慎也たちにとってもメリットは大きい。ベテラン冒険者の戦い方や知識を学べる千載一遇の好機なのだから。特に同じ魔法戦士の戦闘法を直に見学できることは、慎也にとっても魅力的だ。
だが一抹の不安もある。
2人がなにか良からぬことを企んでいる可能性もあるのではないか、というものだ。例えば、人目の付かない森の中で自分たちを殺して装備を奪う、とか。
特に慎也の持つ魔法銃は非常に高価で、キアナの街の冒険者は誰も持っていないそうなのでなおさらだ。
このような冒険的な選択肢を迫られるのも、冒険者の性と言えるかもしれない。
だが幸いなことに、慎也たちは、そのような危機を高確率で回避する術がある。
「オレは良いと思う。大先輩と一緒に行動できる機会なんて、滅多に無いしな。2人はどうだ?」
そう言って、慎也は結衣とユフィアを振り返った。
「私も賛成。ユフィアちゃんは?」
そう、ユフィアだ。
神聖系魔法の使い手である彼女だが、実は<悪意察知><虚偽看破>というスキルを有している。この2つのスキルは、他人の悪意や嘘を見破ると言うもので、しかも結構レベルが高い。相当高レベルな隠蔽スキルが無い限り、ユフィアを誤魔化すことは出来ない。
もし、マクレーンとエミリータが良からぬことを企んでいたら、ユフィアなら高確率で見破れるはず。
そう考えて、慎也と結衣はユフィアに視線で問いかけた。
もちろん、ユフィアも2人の意図を理解している。
「私も構いません。むしろ、ぜひご一緒させていただきたいです」
にこやかな笑みを浮かべてそう答えた。
(大丈夫、この人たちの言葉はすべて真実で、本心です)
視線だけで2人にそう伝える。彼女のメッセージを理解して、慎也と結衣は安堵と共に頷いた。
「全員一致です。マクレーンさん、エミリータさん。ぜひ、ご一緒させてください」
「ありがてぇ!」
「こちらこそよろしく頼む」
こうして慎也たちは、2人の3級冒険者と共に行動することとなった。
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