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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
41/135

第38話 ちょっと良い方法を思いついた

続ワイバーン戦です

 慎也が動いた。正面のワイバーンに向かって駆け出す。

 ワイバーンは完全に自分をターゲットにしている。攻撃してきた場合、結衣やユフィアの近くにいると、2人まで巻き添えになってしまう。それなら、自分が先行してワイバーンの注意を引きつつ、結衣とユフィアには離れた場所から魔法で援護してもらうのが最適だと判断した。彼女たちはすでに魔法の詠唱を始めていて、いまは完全に無防備だ。


 ワイバーンが翼を大きく羽ばたかせた。生じた突風が剥き出しの地面の土埃が舞い上げられ、慎也は一瞬、視界を奪われて急停止を余儀なくされた。その間にワイバーンは空高く舞い上がり、慎也の手の届かないところまで急上昇する。


(なんだ? 逃げた?)


 一瞬、飛んで逃げる気かと考えた慎也だったが、すぐに違うと気付いた。上昇したワイバーンが空中で弧を描き、勢いを付けて急降下に転じた。


(芸の無い)


 こちらに向かって真っすぐ降下してくるワイバーン。慎也はあえて狙い易い、開けた街道のど真ん中に突っ立ったまま、新たな魔法を発動させた。


 空いていた左手を、街道の端に転がっていた人間サイズの巨大な岩にかざす。途端、重さ1トン近い巨岩がガタガタと震え始め、次の瞬間、見えない手で持ち上げられたかのように宙に浮き上がった。


 物理系魔法《見えざる手(アステロイド)》。物理魔法としては初級で詠唱も必要としない。効果としてはテレキネシスに酷似しており、手で触れなくとも物を浮かせたり動かしたり出来るというもの。


 この《見えざる手(アステロイド)》は、慎也がこの世界に来て最初に覚えた、ある意味記念すべき魔法だった。

 黒い戦闘服を着ている慎也が、これを使ってゴブリンを掴み上げたり、投げ飛ばしたりしているのを見た結衣からは「暗黒卿みたい」と辛辣な感想を口にしていたが。


 慎也が左手を薙ぎ払うと、《見えざる手(アステロイド)》で持ち上げられていた大岩が、弾丸のように瞬時に加速し、急降下してくるワイバーンに向かって飛んでいく。

 文字通り慎也しか眼中になかったワイバーンが、誰もいない場所から突然飛んできた大岩に気づいた時には遅かった。ただでさえ小回りの利きにくい巨体で、さらに猛スピードで急降下している状態ではどうしようもない。

 結果、右斜め前から飛んできた岩の直撃を受け、潰れた悲鳴を発して弾き飛ばされ、錐もみ状態で地面に叩き付けられるという無様な姿を晒してしまう。


「……頑丈な奴だな」


 自身が猛スピードで急降下している最中、重さ数百kgの大岩を、こちらも猛スピードでぶつけられて地面に激突したというのに、ワイバーンのHPは大して減っていなかった。実際、すぐさま起き上がり、さらに増大した憤怒を雄叫びに乗せて放ってくる。


「《爆火の炎矢エクスプロード・アロー》!」

「《聖なる光弾(ホーリー・ボール)》!」


 そこへ、結衣とユフィアの魔法が炸裂した。

 2人の使える魔法の中では、最も威力の高い攻撃魔法。それ故に詠唱時間が長く、動きの速いワイバーンに命中させることは困難だったが、いまみたいに地上に降りて動きが止まった状態で、しかも意識を慎也(他のもの)に向けていると来れば、魔法を当てる千載一遇の好機だった。


 爆炎の矢と、聖なる光の弾の群れが、赤と白の光の尾を曳きながらワイバーンに殺到し、轟音を発して大爆発を起こす。真っ赤な炎と純白の爆光が入り混じった混合魔力の爆発に混じって、ワイバーンの悲鳴が聞こえた。

 どちらもボブ・ゴブリン程度なら跡形もなく吹き飛ばせる威力があるだけに、それを同時にくらったワイバーンはさすがにそれなりのダメージを受けたようで、HPゲージがこれまでに無くぐんと減った。だがそれでも、削れたHPは500程度でしかなかった。

 もちろん、ワイバーンは健在で爆炎の残滓を振り払って起き上がり、再び空中へと飛び上がった。それが逃亡の為の行動でないことは、目に宿る、もはや憎悪にも近い憤怒の色を見れば明らかだ。


 ワイバーンが再び高速で滑空する。だが、慎也ではなく結衣とユフィアに向かって。


(チッ! さっきの魔法攻撃で、オレよりも2人の方が危険だと判断したか!?)


 実際、単純な攻撃力という意味では結衣とユフィアの方が慎也よりも上だ。だが、魔法使いである2人には慎也ほどの運動能力は無い。一応、2人とも接近戦の訓練はしているが、とてもワイバーンに通用するレベルではない。

 故に、ワイバーンに向かって来られれば、2人には反撃の術が無いのだ。


「《神秘なる光壁(セイント・ウォール)》!」


 だが、防ぐ術ならある。

 ユフィアが発動した神聖系の防御光壁が2人の眼前に展開され、ワイバーンの突進を防いだ。


 ギィ!?


 突然目の前に光の壁が現れ、激突してしまうという不可思議な現象に見舞われたワイバーンは、一瞬、訝し気に啼いたものの、その向こう側に見える2人の少女――自分に煮え滾るような熱と衝撃を浴びせてくれた者への敵意から、雄叫びを発して光の壁を翼の関節部に生えた爪で執拗にひっかき始めた。


「くっ!」

「ユフィアちゃん!」


 ビキ、という音を立ててユフィアの防御光壁にひびが生じた。ユフィアの表情が歪み、結衣が心配そうに声を掛けるが、仲間の危機を慎也が見逃すはずがなかった。


「お前の相手はオレだろーが!」


 がら空きになったワイバーンの背中に飛びかかると、首筋目掛けて至近距離から魔法銃で魔弾を何発も叩き込む。


 キシャアアアア!


 背後からの奇襲に驚いたワイバーンは、背中に取り付いた慎也を振り払おうともがくが、彼も意地なのか鱗をがっちり掴んで離れなれず、魔弾を撃ち続ける。

 業を煮やしたワイバーンは、慎也を背に乗せたまま翼を羽ばたかせて宙に舞い上がった。


「くっそ!?」


 このまま飛ばれたら敵わないと悟った慎也は、すぐさまワイバーンの背から飛び退く。着地した慎也に、息継ぐ間も無くワイバーンの尻尾が襲い掛かった。真上から振り下ろされた初撃は真横に飛んで回避し、地面を沿うように薙ぎ払われた2撃目は後ろへ飛んでどうにか躱した。

 だがそこで、慎也の背中になにかがぶつかった。振り返ると、林道に生えていた大きな木だった。


「やばッ!」


 後方への逃げ道を塞がれた形の慎也に向かって、さらにワイバーンの尾が横薙ぎに払われる。咄嗟にその場に伏せて頭上でやり過ごしたが、彼の背後に生えていた大木が、まるで小枝のようにへし折られ、薙ぎ倒された。

 さらにワイバーンは、立ち上がった慎也を串刺しにしようと尾を引き絞る。


(しめた!)

 

 慎也の脳裏に妙案が浮かんだ。

 いまし方、ワイバーンが薙ぎ払い、街道に倒れ込んだ大木を《見えざる手(アステロイド)》で持ち上げ、次の瞬間、槍のように突き出されたワイバーンの尾と自分との間に滑り込ませた。


 ドゴッ、という鈍い音を立てて、鋭い矛先を備えたワイバーンの尾の先端は大木を容易く貫通したが、それによって勢いを削がれ、慎也の眼前ぎりぎり、ほんの10cmほどの所で止まった。

 慎也はすぐに《見えざる手(アステロイド)》を解除し、その場を飛び退く。


 ギィイイ!!


 追撃を仕掛けようとしたワイバーンだが、尻尾で刺し貫いた大木が、今度は抜けなくなってしまう。尻尾を何度も揺すって引き抜こうとするが、樹齢100年は下らないであろう大木の幹は頑として尾を放そうとしない。巨大な重しを尻尾に付けられた形となったワイバーンは、飛び立つどころかその場を動くことさえままならなくなってしまった。


「シンヤさん、凄いです!」


 咄嗟の思い付きでワイバーンの動きを封じた慎也に、ユフィアが称賛の声を上げた。だが、慎也自身にそれに応えられるほどの余裕は無い。


(これで当分、奴は飛ぶことが出来なくなった。その間になんとかして倒す方法を見つけないと……)


 そう、まだワイバーンの動きを封じただけで、倒したわけではないのだ。空を飛べなくなったいまなら攻撃を当てることも難しくないが、鱗が頑丈過ぎてダメージが碌に通らないという問題がある。


(このまま攻撃を続けても埒が明かない。せめて、どこか一カ所でも隙間があれば――)


 キシャアアアア!!


 相変わらず尻尾を引き抜くことの出来ないでいるワイバーンが、苛立たし気な雄叫びを上げて尾の刺さった樹木に噛みついた。強力なワイバーンの顎に喰い付かれた倒木がメキメキと鈍い音を立てるが、それでも抜けることは無かった。


「あ――」


 それを見ていた慎也は、とても簡単なことに気付いた。

 全身を強固な鱗に守られたワイバーンの弱点。


「……なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ?」


 さっきからごく当たり前のように目に飛び込んできていたのに、まったくそれに気付けなかったことに我ながら恥ずかしくなった。

 焦ると視野も思考も鈍くなるということを、まざまざと思い知らされた。


「シンヤさん?」

「どーしたの?」


 1人で頭を振る慎也に、ユフィアと結衣が不思議そうに訪ねた。


「ちょっと良い方法を思いついた」

「良い方法?」

「ああ。この方法なら、ワイバーンを殺せる」

「ホントですか!?」


 慎也の口から飛び出した望外の言葉に、ユフィアが縋るような目を向けて来た。


「まずユフィアが《封魔の結界牢(ドラウプニル)》でワイバーンの動きを封じろ。次に結衣が、強めの雷魔法を喰らわせてやれ。それで殺す必要は無い。ただ、ダメージを与えてくれるだけで良い。後はオレが決めてやる」

「動きを封じれば良いんですね!? 任せてください!」

「よく判らないけど、やってみるよ」


 2人はすぐさま詠唱を始める。幸いワイバーンはまだ木に繋がれたままで、それを解こうと必死になっている為、詠唱中の彼女らが攻撃を受ける心配は無い。


「おい、こっちを向け!」


 やや離れた場所から、慎也はワイバーンに弱めの魔弾を喰らわせ、こちらに注意を向けさせる。


「お前に恨みは無いんだけどな、悪いがここで終わってもらうぞ、頭の悪い羽根トカゲ」


 ワイバーンに人語を解するはずの知能は無いが、それでも目の前の人間が自分を侮蔑していることは理解出来たのだろう。金切声を上げ、倒木を引きずりながらも翼の前肢と強靭な後足で這いずるようにして慎也に向かって来る。


「《封魔の結界牢(ドラウプニル)》!」


 だがその前進は、ユフィアの作り出した結界牢によって強制的に中断させられた。光の檻に閉じ込められたワイバーンが、魔力の格子に激しく身体をぶつけて破ろうともがく。


「《雷帝の光矢ヴォルカニック・アロー》!」


 そこへ、結衣の雷系の中級魔法が放たれる。《爆火の炎矢エクスプロード・アロー》と同レベルの威力を有する雷の矢が、群れを成して光の格子の隙間からワイバーンの鱗に突き刺さった。


 グギャアアア!!


 強烈な雷撃が一瞬にしてワイバーンの全身を駆け巡り、激痛のあまり凄まじい絶叫を迸らせる。雷系の魔法は、飛行型の魔物に対して非常に有効であるとウィルは言っていた。例え然したるダメージは与えられなかったとしても、強烈な雷撃を浴びれば当然感電し、一時的に筋肉や神経が麻痺して飛ぶことが出来なくなるから。


 だが、慎也は今回、あえて地上にいるワイバーンに雷撃を浴びせるという手法を選択した。


 理由は単純に「痛い」からだ。


爆火の炎矢エクスプロード・アロー》の方が破壊力自体は上なのだが、爆発によってダメージを与えるという性質上、爆撃の破壊力を上回る防御力を有する敵には効果が薄い。だが《雷帝の光矢ヴォルカニック・アロー》は攻撃力こそ劣るものの、雷という性質上、防御力に関係無く、くらえば必ず感電する。

 傷を付けることは出来なくとも、感電によって激痛を与えることは出来る。その痛みは半端ではない。それこそ、大口を開けて絶叫するほどに――


 ワイバーンの身体は頑強な鱗に覆われていてダメージを与えにくい。

 では、鱗に覆われていない口の中なら?


 限界まで開かれたワイバーンの口に、慎也は限界まで魔力を充填した2丁の魔法銃の銃口をポイントし――


「最後の食事だ――」


 ――引き金を引く。


 2つの銃口から同時に放たれた特大の魔弾は、結衣の《雷帝の光矢ヴォルカニック・アロー》を上回る速さで宙を奔り、寸分違わずワイバーンの口の中に飛び込んだ。

 半瞬後、2発の魔弾がワイバーンの口内で炸裂。膨大な爆圧がワイバーンの頭部を内側から徹底的に破壊し、爆砕した。


「――よく噛んで喰えよ」


 慎也の言葉が合図であったかのように、光の檻が消えた。後に残されたのは、下顎から上を吹き飛ばされ、立ったまま屍と化したワイバーンの巨体。檻が消えて支えを失ったことでゆっくりと傾き、力無く地面に崩れ落ちた。

 当然だがHPはゼロになっている。


「……やったりました! 勝ちました! 勝ちましたよ、私たち!」

「うおっ」


 ワイバーンとの戦いに勝ったことに興奮し、頬を上気させたユフィアが慎也に抱き着いてきた。


「私、凄く感動しました! 素晴らしかったです、シンヤさん! 本当に凄かったです!」

「落ち着け、ユフィア」


 夢中で抱き着くユフィアを、慎也がどうにか宥めようとしていると、何故か少し離れた場所でむくれている結衣の顔が目に入った。


「どうした?」

「……出遅れた」

「なにが?」

「なんでもないもん」


 何故か不機嫌そうにそっぽを向く結衣に、慎也は首を傾げた。


次回更新は9/14、18時頃になります

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