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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
40/135

第37話 大丈夫。私たちなら勝てるよ

VSワイバーンですo(*・ω・)○

 キシャアアアア!!


 ワイバーンが唸り声を発し、慎也に向かって飛翔する。

 どうやらワイバーンは慎也を敵認定し、ターゲットを完全に商隊から彼に切り替えたらしい。


(ここまでは想定通り)


 彼らを助けるには、まずワイバーンの注意を逸らす必要がある。ワイバーンが慎也をターゲットにしたことで、ひとまずそれは成功した。


 翔刃斬を放った後、慎也は再度イクサに魔力を込めつつワイバーンに向かって走り出した。滑空しながら向かって来るワイバーンと、正面から相対する形だ。


 ワイバーンは地面から3メートルほどの高さまで降下し、スピードを緩めること無く突っ込んでくる。その状態でワイバーンが、正面から向かってくる慎也に対して取れる攻撃パターンは2つ。


 すれ違いざまに噛みつくか、上体を仰け反らせて脚で攻撃するか、だ。尻尾で攻撃するには高度が足りない。


 結果、ワイバーンが選んだのは前者だった。


 あぎとを大きく開き、鋭い牙を備えた口で慎也を噛み砕こうと迫って来る。


(そんなに喰らいたいのなら――)


 彼我の距離が10メートルを切った時点で、慎也は地面を蹴り、大きくジャンプする。


 ギィ!?


 スピードを出し過ぎていたワイバーンはそれに対応できず、勢いのまま通り過ぎるしか無い。結果、慎也が低空で突っ込んでくるワイバーンを飛び越える形になった。


 慎也の眼下に、ワイバーンの無防備な背中が晒される。


「喰らってろ!」


 真下に向かって再び翔刃斬を放つ。


 ギギャアア!!


 為す術も無く直撃を受けたワイバーンは、真上からの衝撃をもろに受けて地面に接触し、滑空の勢いのまま盛大に土煙を上げながら地面を転がっていく。


 その間に着地を終えた慎也は、すかさず商隊の元へと駆け寄った。


「オレはキアナの街の冒険者だ。ワイバーンあいつはオレがなんとかするから、あんたらは早く街へ逃げろ!」

「判った、すまない!」


 リーダーらしき壮年の冒険者風の男が頭を下げ、仲間たちに矢継ぎ早に指示を発した。


「いまの内だ、お前ら! 怪我人の治療は後回しだ! 馬を落ち着かせて、無事な馬車に全員乗せろ! 急げ!」


 キシャアアアア!!


 そうこうしている間にワイバーンが起き上がってきた。やはり大したダメージは受けてないらしく、元気に羽根を羽ばたかせて宙に舞い上がる。


「急げ!」


 ここで向かって来られたら商隊が危険だと判断した慎也は、魔力を通した刀を振りかざしてワイバーンに突っ込んでいく。対してワイバーンは、今度は地上数メートルの空中にホバリングしたままその場を動かない。


(尻尾だな)


 その体勢から慎也はワイバーンの次手を予測し、その対応策を瞬時に組み上げる。

 慎也がワイバーンにある程度まで接近すると、間合いに入ったのか、ワイバーンが鞭のような尾を薙ぎ払ってきた。当然それを予想していた慎也は跳躍して尾撃を躱し、その勢いのままワイバーンの顔面目掛けて突っ込んでいく。

 ワイバーンは鋭い牙を備えた口で慎也に噛み付こうとする。飛行能力を持たず、空中浮遊状態の慎也には、それを躱す術は無い。


 だが、慎也はワイバーンが噛みつき攻撃も予測していた。


 跳躍しながら魔法銃でワイバーンの顔面を狙い撃つ。碌に狙いを定めない状態での射撃な上、ワイバーンの頑丈な鱗や頭骨を撃ち抜くことは出来なかったが、顔面への不意打ちに驚いたワイバーンは咄嗟に目を閉じて頭を引っ込めた。

 その一瞬の隙に慎也はワイバーンに肉薄し、長い首筋――人間で言えば頸動脈のある辺りに魔力を帯びた斬撃を叩き込む。


 帰って来たのは、ガキンッ、という金属的な衝撃だった。


った!)


 見れば鱗に薄っすらと傷は入っているだけで血すら出ていない。

 ワイバーンの鱗の頑強さに舌を巻く。


(アレを斬るのは無理か……って、やば!)


 ワイバーンの背後に飛びぬけた慎也の眼前に、再び尾が迫ってくる。今度こそ躱せないと判断し、咄嗟に魔力を通したままのイクサを盾にして受け止める。


「ぐっ!」


 刀で受けたお蔭で直撃は免れたが、柄を握る右手と刀身を支える左の前腕に激痛が走る。さらに空中に浮いた状態では衝撃を堪えることも出来ず、木の葉のように弾き飛ばされてしまう。それでも<空間把握>と<立体機動>のスキルの力を借りて空中でバランスを取り直し、どうにか2本足で着地した。


(恐ろしい一撃だ。いまのに直撃されたら、オレの防御力ではガードしきれないな)


 なにより厄介なのが鱗の頑強さだ。魔法銃はもちろん、魔力を帯びた斬撃ですら、文字通りの意味で歯が立たない。


(そう言えば、ワイバーンの鱗って防具の素材としては一級品だってヨルグさんが言ってたな)


 その有用性を実物と戦うことで味わわされることになろうとは、と慎也は心の中で唸った。


 ワイバーンがこちらに向き直り、ひときわ大きな雄たけびを上げる。その向こうでは、襲われていた商隊が仲間を救助して離れていくのが見えた。

 ワイバーンは、自分の狩りと食事を邪魔した慎也に怒りを爆発させており、彼らのことは眼中に求めていないようだ。


(さて、ひとまず救助は成功したが、こいつをどうにかしないとオレは帰れそうもないな……)


 キアナの街まで逃げるという手は使えない。そんなことをしてもし、住民や兵士に被害者が出れば重罪になる。街の中へは結界があるので入ってこれないだろうが、門の外で入市待ちをしている人々が襲われる可能性がある。


(逃げようにも、ワイバーンは執念深くて1度狙いを定めると死ぬまで追いかけてくる、っていうしな……となると、ここで倒すしかないのか)


 レベル、ステータスともに高く、しかもウィルの手助けもない。慎也にとって、初めての格上の魔物との戦いとなる。


「慎也君!」

「シンヤさん!」


 そこへ、ようやく追いついたらしい結衣とユフィアが後ろから駆けつけて来た。


「って、ワイバーンじゃない!」

「どういうことですか、シンヤさん!?」


 慎也と相対するワイバーンの姿を見て、2人はそろって驚きの声を上げる。

 ワイバーンは、新手の登場に警戒したのか、ホバリング状態で様子を伺っているようだ。


「行商人の一行が襲われてたんだ。で、助けたはいいが、今度はこっちがターゲットにされちまった」

「その人たちは?」

「なんとか逃げられたみたいだ」


 結衣の問いに、慎也は遠くにまだ微かに見える馬車を示して言った。


「じゃあ、あとはワイバーンあいつをやっつければいいんだね!」


 あっけらかんと能天気に言い放った結衣に、慎也は思わず苦微笑を漏らす。


「簡単じゃないぞ。少し戦ってみたけど、鱗が硬くて魔法銃も魔法剣も歯が立たないんだ。ユフィア、ワイバーンの弱点か攻略法を知らないか?」

「ワイバーンと戦う時は、20人以上のレイドを組んで挑むのが鉄則です。まずは魔法で地面に落とし、翼を斬り裂いて飛べなくした上で、時間をかけて消耗させていくのが常套手段だと……」

「つまり、レイド級の魔物と3人だけで戦わなきゃならないって訳か……」


 暗い表情でユフィアが頷く。

 光明を見出そうとした質問で、逆に絶望感が増す結果になってしまった。


「大丈夫。私たちなら勝てるよ」


 そんな空気を吹き飛ばすかのように、明るい声で結衣が言った。それこそ、全然心配無い、と言わんばかりに屈託の無い笑顔を浮かべている一方で、精霊樹の杖を握る手は微かに震えている。


 結衣にもワイバーンのステータスは見えている。慎也がそうであるように、彼女やユフィアにとっても、初めての格上の魔物との戦いだ。怖く無い訳がない。


(強がりやがって……)


 結衣の強がりに心中で嘆息を漏らす一方で、この状況で強がれる彼女に、慎也は素直に凄いと思った。



 恐れぬのが勇気ではない。恐れて尚、立ち向かえる意志こそが、勇気だ――



 昔、『父親』から言われた言葉が脳裏を過る。

 結衣の強がりは、まさにその「勇気」だと、慎也は思った。


「そうだな。オレたちなら出来る。こんな爬虫類に勝てないはずがない!」

「ワイバーンは爬虫類じゃなくて、竜だよ?」

「判ってるよ!」


 律儀に訂正してきた結衣に、慎也は怒鳴った。


「そ、そうですよ。私たちなら、絶対に勝てます!」


 ユフィアも同意して気合の入った声を出すが、やはり怖いのか、華奢な身体が微かに震えていた。


「戦に勝てるかどうかと兵力は必ずしも比例しない。比例するかどうかは戦術、つまり自分自身にかかっているのだ――って、偉い人も言ってたしな」

「どうせ信長でしょ?」

「その通り」


 慎也が気に入っている、織田信長の名言の1つだった。

 実際に織田信長は、兵力的に圧倒的に不利な戦を何度も覆していた。その際は、必ず大将である自らが先頭に立って戦ったという。

 そのもっとも有名な一例が、今川義元の大軍を打ち破った「桶狭間の戦い」だろう。

 信長本人のみならず、戦国という一時代にとって、大きな転換期となった戦だ。


「それじゃ、いっちょやってみるか」

「おおー!」

「はい!」


 恐怖を吹き飛ばさんと大声を出して応える結衣とユフィアに反応してか、様子を伺っていたワイバーンが雄叫びを発した。


 慎也パーティVSワイバーンの戦いの火蓋が切って落とされた。

次回更新は9/11、18時頃になります

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