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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
4/135

第4話 本当に異世界に来ちゃったんだね

慎也と結衣の森林散策ですm(__)m

「もう大丈夫だぞ」


 茂みに向かって声を掛けると、青い顔色の結衣が恐る恐る顔を出した。


「……もう、ゴブリンいない?」

「ああ」


 そう言うと、ようやく結衣は茂みから出てきて、ゴブリンの死体を見てまた青くなる。


「大丈夫だ。死んでる」

「う、うん……」


 生まれて初めて純粋な殺意を向けられ、死の危機に直面し、しかも人型の生き物の死体を目の当たりにして、さすがの結衣もさっきまでの余裕は消え失せたようだ。

 とは言え、結衣のそれが現代の日本人の中学生としての普通の反応であり、殺されそうになったとはいえ、平然と相手の武器を奪って返り討ちにする慎也の方が異常と言えた。


「……剣崎君、武術とかやってたの?」

「まーな。『親』の都合で色々やらされてたんだ。空手、キックボクシング、剣術、棒術、エトセトラ」

「……なんていうか、凄いね。戦国オタクだけじゃなくて、武術オタクでもあったんだね」

「言っとくけど、武術に関してはオレは嫌だったんだぞ? なのに無理やり……でもまあ、いまは感謝しても良いかな。嫌々やってた習い事がこんな形で役に立つなんて、世の中判らないもんだよな。まあ、オレの知ってる「世の中」とは違うみたいだけど」


 ゴブリンの死体を見据えながら、慎也は嘆息した。


「風美の考えが正しかったってことだ」

「私の考え?」

「ここが異世界で、森の中は怪物だらけだ、って言ってたろ?」

 

 慎也に言われて、結衣も自分の言ったことを思い出したらしい。


「本当に異世界に来ちゃったんだね……」

「信じたくはないが、ゴブリン(これ)を見ると信じざるを得ないな。しかもなんかゲームっぽいし」

「うん。なんか、ゴブリンの名前とかHPみたいなのが頭の上に浮かんでるのが見えた」

「実際、HPゲージに間違い無いだろ。殴ったりしたらゲージが減ってたし、0になったら死んだからな。まあ、死体は消えないみたいだが」


 ゲームであれば、倒したモンスターの死体は消えてしまうが、ゴブリンの死体は死んでからしばらく経つのにそのままだ。

 ちなみに、ゴブリンの名前とHPは見えていたのに、慎也と結衣、お互いの名前やHPは見えなかった。


「ドロップ品も無いね」

「その辺りは現実と違わないってことだろ。訳が判らんけど」


 吐き捨てるように言ってから、慎也は落ちていたゴブリンの剣を拾った。小柄なゴブリンサイズなので慎也には短いが、武器が無いよりはましだ。


「先を急ごう。さっき逃げた奴らが仲間を連れて戻ってくるかもしれないし、こいつらの血の匂いを嗅ぎつけて他の化け物が来るかもしれない」

「う、うん」


 ゴブリンたちの屍を放置したまま、慎也と結衣は再び川沿いを川沿いを下流に向かって進み始めた。


「一応聞いとくけど、格闘技とかの経験は?」

「あるように見える?」

「見えないから聞いたんだ」

「実際、まったく無しだよ。強いて挙げるなら、登山とハイキングが趣味で部活は水泳部だったから、山歩きと泳ぎは得意だよ」

「ああ、どうりで」


 女子にしてはやたら体力があると思いきや、案の定アウトドア派だったらしい。


「ちなみに図書委員で、好きな本はラノベ系ね。一番好きなのは異世界転移物で、軽く20作くらい読んでるよ」

「あ、そう……」


 どうも完全なアウトドア派では無く、半分はインドアらしい。自分が言うのもなんだが、変わっただな、と慎也は思った。


「という訳で、私はまったく戦えないから、ちゃんと守ってね?」

「善処する」

「むー、なんか政治家みたいな言い方」


 確約しなかったのが不満だったのか、結衣は軽く頬を膨らませた。

 とは言え、慎也は結衣のことを見捨てるつもりなど無く、さっきみたいに襲われたときは可能な限り助けるつもりでいるが、なにしろ異世界である。常識がまったく通じないだろうし、出てくる怪物によっては自分の力ではどうにもならないかも知れないのだ。


「みんなは大丈夫かな……」


 ふと、結衣が呟くように言った。

 自分たちが異世界に来ているということは、あの飛行機に乗っていた同級生を初め、乗員乗客の全員がこの世界に来ている可能性が高い。

 当たり前だが、慎也のような例外を除けば、ほぼ全員が武術や格闘技経験の無い一般人だ。もし、同じ森の中に転移してさっきのゴブリンに襲われればひとたまりもないだろう。


「……無事を祈るしかないな」


 慎也自身はあまり友達の多い方では無かったが、それでも友人と呼べる人間は何人かいるし、心配もしているが、如何せん、いまは自分たちのことだけで精一杯なのだ。

 いつ、どこからゴブリンが襲い掛かってくるかも判らない極限状態。おまけに川沿いとは言え、見通しが悪く足場も悪い。油断していると――


「きゃっ!」


 小さな悲鳴と、どさっ、という物音に振り返ると、石に蹴躓いたらしい結衣が地面に倒れていた。


「おい、大丈夫か?」

「だ、ダウジョブ――痛っ!」


 起き上がろうとした結衣が苦痛に顔を歪め、右足を抱えて蹲った。


「怪我をしたのか? 見せてみろ」

「ちょっと、待って」


 様子を見ようとした慎也を留めて、結衣はなにやら右足に両手をかざして「むー」と唸っている。


「……なにやってんだ?」

「なにって、異世界といえば魔法でしょ? ちょっとした怪我なら回復魔法で簡単に治せるんだよ?」

「……で、使えるのか、回復魔法?」

「……ダメみたい」

「じゃあやるなよ! 見せろ!」


 呆れ顔で結衣の右足を見る。転んだ拍子に石に打ち付けたのか、膝が腫れ上がっている。結衣の了解を得て、少し触らせてもらう。


「骨は折れてない。たぶん捻挫だろう。歩くのは無理っぽいな」

「うぅ~……」


 怪我は大したことなくとも、ゴブリンの徘徊している森の中で歩けなくなるのは致命的だ。


「……ったく」


 慎也は肩を竦めつつも、結衣の前にしゃがみ込んだ。


「これ持て」

「ふぇ?」


 いきなりゴブリンの剣を手渡され、結衣は怪訝な顔になる。


「ほら」


 そんな結衣に構わず、慎也はしゃがんだまま彼女に背中を向けた。


「え? あの……」


 慎也の意図に気付いてか、結衣の顔が赤くなった。


「早くしろよ。置いてくぞ?」


 慎也がそう言うと、結衣は頬を紅潮させながらも「では失礼してー」と背中に負ぶさって来た。


「じゃあ、行くぞ」

「……お願いします」


 顔の赤い結衣。慎也の方は女子と身体を密着させるという役得な状況だが、いまはそれどころではないので背中に伝わってくる感触はなるべく意識しないようにしながら歩き出した。


「ごめんね、剣崎君。いきなり足手纏いになって……」


 背負われたまま結衣が申し訳無さそうに言う。


「なんだよ、さっき助けてくれって自分で言ってただろ?」

「そうだけど、なんか、ごめんね」

「変な奴だ」

「重くない?」

「女性に体重のこと聞くのはタブーなんだろ?」

「男の子は聞いちゃダメだけど、女の子の方から話すのはいいんだよ」

「なんだその男女差別は。ちなみに、重いって言ったらどうするんだ?」

「泣いちゃうよ?」

「そいつは勘弁して欲しいな。ま、実際そんなに重くないから安心しろ。っていうか、むしろ――」

「むしろ、なに?」

「……いや、なんでもない」

「変なの」


 結衣はそれ以上聞いて来なかったので言わなかったが、慎也は先程から奇妙な違和感を感じていた。


(気のせいか? なんか、身体が軽くなった気がする)


 思い違いかもしれない、という程度の違和感だが、慎也はいつもと比べて自分の身体から重しが外れたような奇妙な感覚を覚えていた。


 結衣を背負って歩くこと約2時間。人家を発見できないまま陽が落ち始め、さすがに野宿を覚悟し始めた。


「ずいぶん歩いたが、こんな森の中に人なんかいるのか? ゴブリンはいるし、ワイバーンぽいのが飛んでるし」


 なにが原因で異世界転移などしたのかわからないが、せっかくなら人里近くが良かったと慎也は心底思った。


「私はいると思うよ?」

 

 それに対し、結衣の方はどこか楽観的だった。


「なんでそう思うんだ?」

「ファンタジー物のラノベなんかでは、森の中って結構人が住んでたりするんだよ」

「ラノベの話かよ……ちなみにどんなのが住んでるんだ?」

「例えば、魔法使いのお爺さんとか。エルフとか。未開の部族とか。盗賊とか」

「最後のは出会ったらアウトだろ!」

「ある―日♪ 森のー中♪ 熊さーんに♪ 出ー会った♪」

「縁起でもないもん歌ってんじゃねぇ! ホントに出てきたらどうすんだ!?」

「死んだふり?」

「アホか、古いんだよ。熊と出会った時はな、()()()()()()()()()()()、熊がそれを()()()()間にゆっくり逃げるんだよ」

「熊さーんよ♪ 来ないで♪ ……って、ああ!」


 アホな会話をしていると、いきなり結衣が耳元で叫んだ。


「どうした?」

「あそこ、道があるよ!」 


 彼女が指さした先を見ると、確かに道のようなものが見える。見慣れた舗装道路などではなく、人が一人通れるか否かと言うか細い獣道だ。それが森の中から現れて、川を沿うように下流に向かって続いている。


「道があるってことは、近くに人がいるってことだよね?」

「まだそうと決まった訳じゃない。ゴブリンの通り道かも知れないが、取りあえず歩きやすくなった」


 会話を続けながらも慎也は歩みを止めず、獣道までやって来る。


「さて、どっちに進むべきだと思う? 森の中か? それとも川沿いか?」

「んー? 私は川沿いが良いと思う」

「じゃあ、それで行こう」

「え、いいの? そんなに簡単に決めて」

「陽も暮れて来たし、いまから森に入るのは色々ヤバいだろ? またゴブリンが出るかもしれないし」

「……そうだね。ゴブリンは乙女の天敵だもんね」


 結衣の言葉に苦笑を漏らしながら、慎也は森の中ではなく川沿いの道を進むことにした。

 その選択が正しかったと2人か気付いたのは、それからさらに1時間余り経ち、いよいよ周囲が暗くなり始めた頃だった。


「剣崎君、あそこに人がいる!」

次は明日の同じ時間に投降します。

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