第30話 こちらがお勧めですよ
ポンコツ受付嬢さんは、ヒロインに入るか微妙なところです(´・ω・`)
その後、何事も無く結衣とユフィアの分のカード発行も完了し、晴れて3人揃って冒険者となることが出来た。ユフィアも、ウィルや亡き母と同じ冒険者になれたことを素直に喜んでいたが、結衣の喜びぶりはそれ以上だった。
異世界転移物のラノベマニアだった結衣にとって、冒険者というのは一種の憧れだった。我が身の危険を顧みず、恐ろしい魔物と戦い、弱い人たちを守る者たち。
勇者。冒険者――
幼い頃から、ずっと憧れだった。なりたいと願い続けてきた。
もし、そんな人間になることが出来たなら、自分の人生は違っていたかもしれない……と。
(ホントになれたよ。冒険者に!)
万感にも似た思いと共に、結衣はライセンス・カードをぎゅっと抱きしめるように両手で包み込んだ。
(私、頑張るよ。お母さん)
ともすれば、溢れだしそうになる涙を懸命に堪えながら、慎也たちの後に付いて階段を下りる。
冒険者登録を終え、ライセンスをもらい、正式に冒険者になった慎也たちは、受付嬢に礼を言って別れた後、再びギルドの1階ロビーへと戻って来た。
相変わらず大勢の冒険者で賑わっている。うち何人かが慎也たちに目を向けた後、すぐにすっと目を反らした。
「《鬼神》のウィル……」
「あれがその弟子か……」
「まだガキじゃねぇか……」
「聞いた話じゃ、弟子だけでクイーン・マンティスのコロニーを殲滅したそうよ」
「冗談だろ? 事実なら中堅クラスの実力だぞ?」
関係の無い話に交じって、そんな会話が聞こえてくる。たぶん、さっきのガラの悪い冒険者とのやり取りを聞いていたのだろう。
(すっかり有名人になってるじゃねーか。っていうか、クイーン・マンティスのことまでもう噂になってんの!?)
慎也たちがクイーン・マンティスの巣を殲滅したのはつい先日、しかも冒険者ギルドの依頼とは関係無いことなのに、もう話が伝わっていることに、慎也は内心で愕然とした。
(噂話って怖い!)
基本的に目立つのが好きではない慎也は、冒険者になったばかりだというのに、すっかり有名人になってしまった現状に、内心でため息を付いた。
「それで、これからどうするの?」
そんな慎也に、背後から結衣が声を掛ける。
いまの彼女はすでに冒険者であり、3人はパーティを組んでいる。そして、そのリーダーは慎也だ。
尋ねられた慎也は頭の雑念を振り払い、口を開く。
「せっかくだから、軽めの依頼をひとつ受けとこうか? 試してみたいことも出来たし」
試したいことというのは、ヨルグにもらった魔法銃のことだ。
いままでは、ウィルにもらった初心者用の魔法銃であるヴェレタを使って来たが、本格的な魔法銃を使うのは初めてだ。なので、早めに慣れておきたいという思いがあった。もちろんそれは、冒険者家業も同様だ。
「賛成!」
「私もです」
結衣とユフィアも一概に同意する。
3人の意見が一致したところで、そろってウィルの方に目を向ける。
「好きにすると良い。ただし、わしは同行できない。ここから先は、3人の力だけで戦うことになる。良いね?」
「もちろんです」
「君たちは既にレベルと魔物との戦闘経験だけなら、並みの冒険者以上だが、冒険者としてはまだ駆けだしだということを忘れないようにな」
「「はい!」」
結衣とユフィアが揃って元気な返事を返す。
「では、わしは馬車と一緒に一足先に帰らせてもらうよ。気を付けてな」
そう言って踵を返そうとしたウィルに――
「あ、そうだ、ウィルさん!」
なにかを思い出したように慎也が引き留めた。
「これをお返しします」
慎也が差し出したのは、2年前、ウィルにもらった後、ずっと使い続けてきた魔法銃のヴェレタだった。ヨルグから新しい魔法銃を2丁ももらった以上、ウィルに返却すべきだと考えたのだが――
「これはシンヤ君が持っていなさい」
ウィルは静かに首を振った。
「え、でも――」
「わしは魔法銃は使わないからね。ケーナが言ってただろう? 使う人間がいて、初めて武器は武器になれる。使われない武器はただのガラクタだ、と」
「あ――」
そうだった。このヴェレタは、ウィルが若い頃に手に入れて依頼、ずっと倉庫にしまわれたままだった。つまりその間、ヴェレタはただのガラクタとして、ずっと眠っていたのだ。
「予備の武器は、持っていて損は無い。もしかしたら、今後、君たちの役に立つことがあるかもしれない。だから、ヴェレタは君が持っていなさい」
「……はい」
手にしていたヴェレタを、慎也はぎゅっと握り締め、懐のポケットに戻した。
「それじゃ、今度こそわしは帰るよ。改めて、気を付けてな」
「「「はい」」」
馬車に乗って去っていくウィルを見送った後、慎也たちは改めてロビーに戻り、依頼掲示板の前へとやってきた。
受付嬢の説明にあった通り、掲示板は1級から10級までの10種類があり、それぞれ依頼の受注伝表が貼られているが、早速おかしなことに気付いた。
「どうして、1級と2級は張り出しが無いの?」
結衣の言う通り、1級と2級の依頼掲示板には伝票が1枚も張られていなかった。
「キアナの街には、1級、2級の冒険者がいないんですよ」
聞き覚えのある声が背後から説明してくれた。
振り返ると、さきほどの受付嬢が笑顔でたたずんでいた。
「あれ? さっきの――」
「あ、私、ウィニアって言います」
名前を知らなかったのを思い出し、言葉に詰まる慎也を察して、受付嬢――ウィニアは自分から名乗った。
「ウィニアさん。どうしてここにいるんですか? 仕事は?」
「ちょっと休憩です。窓口は先輩に代わってもらいましたから」
先輩というには、さっき彼女を睨んでいたあのベテランっぽい人だろうか、と慎也は思った。
「あの、ウィルさんはどちらに?」
きょろきょろと周りを見回すウィニアの言葉で、休憩というのが嘘で、実はウィルと話がしたくて強引に代わってもらったのだと、3人とも理解した。
「ち、違いますよ!」
じとーっとした慎也たちの視線に気付いたのか、ウィニアは慌てて首と両手を振って否定したが、もう遅い。
「ウィルさんなら、先に帰りましたよ」
「え!? そうなんですか? 残念……」
ウィルが帰ってしまったと聞いて、ウィニアはがっくりと肩を落とした。やはりウィルに会いたかったらしい。
「それで、どうして1級と2級冒険者がいないんですか?」
項垂れるウィニアが少し可哀想になったのか、結衣が流れを切って彼女に尋ねた。
「それはですね――」
すると、ウィニアは受付嬢らしい切り替えの速さで立ち直り、完璧な営業スマイルを浮かべて説明を始める。
「超一流と呼ばれる1級冒険者は、この国には20人ほどしかいないんです。その人たちも、王都か、迷宮のあるメリディスト島、魔物の領域の境界線にある城塞都市クイールなどに在籍していているんです。2級冒険者も同様です。この街、というよりスアード伯爵領は、辺境な上に魔物はそれほど強くないですから、一流の冒険者の方たちにとって、うまみが無いんですよ。ですので、このスアード伯爵領に置いては、3級冒険者が実質のトップということになります。4人だけですけど……」
「……なるほど」
魔物が強くない、と言われても、慎也たちは2年間ずっとこの付近の魔物とばかり戦っていたので、他の地域の魔物がどの程度の強さなのかを知らない。彼らがこれまで見た魔物の中で、1番強いのはウォー・ウルフのレベル42だった。昨日倒したクイーン・マンティスもレベル30だったが、そいう言ったレベル2桁代の魔物は稀で、ほとんどはレベル10以下だった。
「けど、皆さんなら1級冒険者になるのも夢じゃありませんよね! その年であのレベルな上、ウィルさんの弟子なんですから!」
「しーっ!」
目を輝かせて大声を出すウィニアに、慎也は思わず顔を顰めて指を口に当てた。
はっとしたウィニアは口に手を当てて辺りを見回すが、時すでに遅し。周りにいる冒険者たちの好機の視線や、受付やその向こう側の事務室にいる職員たちのじとーっとした凝視が彼女に注がれていた。
「……すいません」
しゅん、として頭を下げた。
(なんというか、ポンコツだよな……)
冒険者の個人情報を喋りまくるのは、受付嬢としてはどうかと思わざるを得ない。まあ、ウィルに憧れているようだし、今回が特別なのかもしれないが。
「ウィニアさんは、お爺様を御存知なんですか?」
ユフィアも同じことを思ったらしい。不思議そうに彼女に尋ねた。
「私は会ったことは無いんですが、母が昔、お世話になったことがあったんです」
「!」
ウィニアの口から出た意外な事実に、慎也とユフィアは驚いた。ただ、結衣だけは「もしかして、そういう関係だったり」などとほざいていたので、慎也が頭に手刀を落として黙らせた。
(そう言えばさっき、母親がどうの、って言いかけてたな)
先ほど、ウィルと会って興奮した時のウィニアの言葉を思い出して、慎也は心中で呟いた。その間もウィニアの話は続く。
「ウィルさんがいなかったら、お前は生まれていなかった、って、何度も聞かされました。私のウィニアって名前も、ウィルさんの名前から付けたものだ、って。私が冒険者ギルドの職員になって、キアナの街に来たのも、ウィルさんがこの街にいるって噂を聞いたからなんです。直接会って、一言母のお礼を、と思ってたんですが、言いそびれちゃいました」
あはは、と恥ずかしそうに笑うウィニア。
「それより、皆さん、これから依頼を受けられるんですか?」
「ええ、まあ……」
「それでしたら、こちらがお勧めですよ」
ウィニアが指したのは、8級冒険者の依頼掲示板に貼られている依頼伝票だった。
番号:801(常時受け付け)
依頼内容:スライムの討伐
必要ランク:8級以上
成功報酬:1匹につき500テラ
期限:2週間
説明:マナクレイの森やその近辺の水辺にスライムが発生し、村人を襲うこ
とがあるという報告があり、その討伐を依頼したい。知っての通りス
ライムは極めて弱い魔物だが、物理攻撃が効きにくい為、魔法の使え
ない者は注意されたし。なお、希少種を仕留めた場合は、個体によっ
て報酬は増額する。討伐数の上限は無い。
番号:802(常時受け付け)
依頼内容:ゴブリンの討伐
必要ランク:8級以上
成功報酬:1匹につき1000テラ
期限:2週間
説明:マナクレイの森では最近、生息するゴブリンの数が増加傾向にあり、
それに伴って希少種の目撃情報も相次いでいる為、街道を通る旅人
や集落が襲撃を受ける恐れが高まっている為、討伐による間引きを
依頼したい。なお、希少種を仕留めた場合は、個体によって報酬は
増額する。討伐数の上限は無い。
「スライムとゴブリンの討伐か……」
「初めて魔物討伐に赴のであれば、この2つがお勧めです。2つ同時に受注することも出来ますし、どちらもマナクレイの森では事欠かない、しかも非常に弱い魔物ですし、森の奥まで行かなくても、最近は街道沿いにも現れるようになっています。依頼の期間も2週間と長めです。しかも討伐数には上限がありません。いくら仕留めても構わないということですし、倒せば倒すだけ報酬が上乗せされます。実際、つい先ほど、8級パーティの方たちが、初めての魔物退治ということで、この依頼を受注されていました。皆さんなら問題無く遂行できるでしょう。ただ、注意事項にある通り、希少種や上位種も最近では多く見られるようになっていますので、あまり森の奥へは行かない方が良いですね」
「なるほど……」
希少種とは、同じ種類の魔物の中で、突然変異的に生まれる、同種に比べて優れた能力や力を有する個体のことだ。
対して上位種とは、同系統の魔物の上位の魔物のことを差す。
判りやすく説明すると、ゴブリンの希少種は、ボブ・ゴブリンやゴブリン・アーチャーといったものであるのに対し、上位種は、オーク、オーガ、トロルといったものだ。
「そう言えば、ゴブリンの数は確かに増えた気がします」
ユフィアが言った。慎也も同じ感想を抱いていた。
この2年、慎也たちはずっと、それこそ毎日のようにマナクレイの森でレベリングを繰り返していた。その中で、1番多く倒したのはゴブリンだ。彼らが仕留めたゴブリンの数は、それこそ1万ではきかないくらいだ。当然その中には希少種も含まれている。
なのに、信じられないことに、ゴブリンの数はまったく減る気配が無い。むしろ、増えているのではないかとさえ思えてくる。
「この依頼が常時受け付けにになってるのも、それが理由なんですか?」
結衣の疑問にウィニアが残念そうな顔で頷いた。
常時受け付け――つまり、いつでも誰でも何度でも受注できる依頼ということだ。
「その通りです。スライムはともかく、ゴブリンは数が増えると村や旅人を襲いますし、他の魔物を呼び寄せたりもします。なので、安全の為にも少しでも数を減らしたいというのが、この街やギルドの意向なんです。ですが、相手は魔物の中でも最弱の分類に入るゴブリンなので、それほど高い報酬を掛ける訳にもいかず、まさに悩みの種なんですよ」
「なるほど……」
顎に手を当てて慎也は考え込んだ。
確かにゴブリンは大したことの無い魔物だが、高い知能を備えている。簡単な導具や罠を使いこなせる。しかもあの醜悪な見かけによらず、他の魔物の餌にもなる為、ゴブリンが増えると他の魔物まで増えるという厄介な副産物も付いてくる。さらに、人間の女を孕ませて数を増やすというおまけ付きとあっては、ギルドや為政者の立場としては、駆除したいと考えるのは当然だ。だが、1匹1匹は子供程度の強さしかない魔物には高い報酬はかけられない。
なので、依頼としては、安い報酬で討伐数に上限を設けず、達成期間も長めに設定して、なるべく多く仕留めてもらおうと考えているのだろう。
ベテラン冒険者でも、常時高額な仕事にあり付けるという訳では無いので、仕事が無く手持ち無沙汰になった場合、ちょうど良い小遣い稼ぎにもなる。
「やり慣れた相手だし、初めての依頼としてはちょうど良いな。この2つを受注しようと思うんだけど、2人はどう思う?」
「さんせー!」
「私も賛成です」
慎也の提案に、結衣とユフィアは即座に同意した。
「満場一致だ。それじゃあ、この2つの依頼を受注します」
「ありがとうございます!」
慎也の言葉に、ウィニアは満面の笑みで頭を下げた。
「異界の刀銃使い」のPVが1万を超えました。これからもご愛読の程、よろしくお願い致します(*-ω人)
9/13。依頼の説明の方式を少し変えてみました。




