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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
3/135

第3話 ゴブリンだよ、ゴブリン!

異世界転移で最初に出てくる魔物と言えばこれですね( ̄ー ̄)b

 結衣の制服が乾き切るのを待って、2人は川沿いに下流を目指して歩き始めた。

 まだ日は高く、出来れば暗くなる前に開けた場所に出たかった。

 結衣の言葉を完全に信じた訳じゃないが、少なくともあんなドラゴンみたいな怪物がいるかもしれない森の中で野宿するのは御免だ。


 川沿いを下っていくうちに慎也は確信を深めた。


(やっぱ沖縄じゃねーな、ここ)


 いまは8月のはずだった。つまり夏真っ盛り。しかも沖縄だ。ジメジメと暑く、旅行中は外にいるだけで汗が止まらないほどだったのに、ここに来て気候ががらりと変わった。

 空は雲ひとつない晴天で、風通しの悪い森の中だというのに汗が出てこない。季節的には初春くらいの感覚だ。

 どう考えても8月の沖縄近辺の島の気候とは思えない。


(植物も見たこと無いものばかりだし。考えたくはないが、マジで異世界転移だったりすんのか?)


 ふと、後ろから付いてくる結衣を振り返ってみる。

 華奢な女子なのに意外と体力があるらしく、歩きにくい森の中や石だらけの川沿いでも平気で進んでいる。そう言えば、さっきも割と流れの速い川の中で普通に泳いでいた。見かけによらずアウトドア派なのかもしれない。


 誰とも出会うことなく川沿いの道無き道を進むこと数時間。


 最初に異変に気付いたのは結衣だった。


「剣崎君」

「なんだ?」

「あそこ、なにかいるよ」


 結衣が指さした方に目を向けると、川沿いの茂みが不自然に揺れているのが見えた。


「うおっ!?」


 動物かなにかだと思った慎也の予想は、数秒後、夢想だにしない形で裏切られる。


 ギャギャギャ!


 耳障りな声を上げて茂みから飛び出して来たものの形容を一言で言い表すなら、「緑色の醜悪な小人」だ。

 数は10匹ほど。身長は1メートルくらい。体毛が一切く、ボロボロの布を腰に巻き、手には刃の欠けた剣や短い槍、棍棒などを持っている。顔の造形は邪悪の一言で、瞳の無い眼に、耳まで裂けた口からは涎が溢れていた。


「おい、お前ら、コスプレ……じゃ、ないよな?」


 醜悪な容姿に引きながらも一応声を掛けて見る。だが、緑色の小人たちはゲギャグギャと意味の判らない鳴き声を上げながらこちらににじり寄ってくる。


「ゴブリンだよ、ゴブリン!」


 緑色の小人を見た結衣が叫ぶように言った。


「なんで判るんだよ?」

「だって、()()()()()()!」

「はぁ?」


 改めて緑の小人――ゴブリンに目を向けた慎也は、そこでようやく気付いた。


 よく見ると、ゴブリンたちの頭上に文字が浮かんでおり、確かに日本語で「ゴブリン」と書かれている。その下には緑色の太い線のようなものが一本引かれていた。

 戦国もののアクションゲームをやり込んでいた慎也には、それがなんなのかすぐにわかった。

 HPゲージだ。


「ゲームか!」


 叫ばずにはいられなかった。


 ギギャー!


 そして、それが合図であったかのようにゴブリンたちが一斉に慎也たちに向かって襲い掛かって来た。


「ちょ――待て!」


 待てと言われて待つバカはいないとばかりに、先頭にいたゴブリンが慎也に向かって棍棒を振り下ろす。


「危ねッ!」


 咄嗟に後ろに下がって躱したが、的を外したゴブリンの棍棒は慎也の足元にあった石を穿ち、ガツンといういい音を立てた。もし身体に当たっていたら骨くらいは逝ったかもしれない。


(本気で殺しに来てやがる!)


 自身に対する明確な殺意を認識した慎也は、即座に思考を切り替えた。


「っざけんな!」


 渾身の力を込めて、棍棒を振り下ろしたゴブリンの左顔面を殴り飛ばす。ボクサーもかくやというほど顔を揺らしたゴブリンは、口から血を吐きながら吹っ飛び、地面に崩れ落ちた。


(血が青い!)


 殴られたゴブリンが口から吐いた血は、赤では無く青い色をしていた。つまり――


(コスプレじゃない。こいつらホントに人間じゃないッ!)


 慎也は確信した。

 こいつらは本当に人外の化け物だと。

 そして、認めたくはないが、自分たちがいるのは本当に異世界なのだと。


「だったら容赦しねーぞ!」


 ゴブリンたちに向かって慎也は拳を構える。

 見る者が見ればすぐに気付いただろう。慎也の構えの型が空手のそれであり、しかもかなりの熟練者であることに。


 ギャー!

 

 奇声を上げて突き出された槍を僅かに横へ身体を反らして躱す。その際、槍の穂先が脇をかすめ、制服が浅く切り裂かれた。


これも本物だ!)


 とっさに槍を手で掴み、ゴブリンの腹に蹴りを見舞う。小柄なゴブリンは「グゲッ」という潰れた悲鳴を吐いて吹っ飛び、地面に叩き付けられた後、腹を抱えてのたうち回っている。

 よく見ると、蹴られたゴブリンのHPゲージが半分ほど減少し、ゲージの色が緑から黄色へと変化している。


(あれは、ダメージを受けてるってことか?)


 ふと最初に殴り飛ばしたゴブリンの方を見てみると、口から血を吐いたまま地面に倒れてピクピクと痙攣していた。HPゲージは8割以上減少しており、ゲージの色は黄色を通り越して赤くなっている。頭を殴られた分、腹を蹴られたゴブリンよりもダメージが大きく、意識も無いらしい。


(っとに、ゲームみたいだな!)


 心中で毒づきながらも奪った槍を振り回し、新手のゴブリンが突き出して来た剣を弾き、その反動を利用して石突でゴブリンの側頭部を一撃。それだけでゴブリンのHPはレッドまで減少して倒れた。

 どうやら頭が弱点のようだ。しかも人間よりもずっと脆弱っぽい。


 ギ、ギギッ!?


 立て続けに3匹も仲間を倒されて、残ったゴブリンたちは慎也を警戒して距離を取る。そのうちの1匹が手にした斧を投げ付けてきたが、小学生並みにか細い腕で投げられた斧の速さなどたかが知れており、あっさりと槍で叩き落す。


「きゃあああ!!」


 結衣の悲鳴。

 見れば、剣を持った1匹のゴブリンが結衣に向かって走り寄っていく。自分たちよりも明らかに強い慎也よりも、見るからに弱そうな結衣の方を狙おうという腹積もりだろう。

 実際、戦う術を持たない結衣は、自分よりも小さいとはいえ、武器を持ったゴブリンは脅威でしかない。


(させるかボケ!)


 慎也は足元に転がっていた拳大の石を拾い上げ、結衣に向かっていくゴブリンに投げつける。狙いは寸分違わずゴブリンの頭部に命中。不意打ちに悲鳴を漏らして仰け反ったゴブリンに素早く接近し、槍の穂先でゴブリンの首を突き刺す。

 ズブッ、っという嫌な感触が、槍を通して伝わってきた。


 グゲッ!


 くぐもった悲鳴を漏らしたゴブリンのHPが一瞬で0になる。槍を引き抜くと、青い血を噴水のように噴き出したゴブリンが力無くその場に崩れた。


「ひ――」


 ゴブリンの断末魔というショッキングな光景に、結衣が口を押えて悲鳴を飲み込んだ。


「隠れてろ!」


 慎也の言葉に返事も無く、口を押えたままコクコクと頷いた結衣は、急いで近くの茂みに身を顰めた。


 いまだ警戒したまま、距離を取って様子を伺っているゴブリンの数は全部で5匹。それらに血に染まった槍の穂先を向けつつ、いましがた自分が殺したゴブリンの死体を一瞥する。


(殺しても死体は消えないのか。この辺はゲームとは違うな)


 ゲームに見えても、この世界の死というものも自分たちの世界のそれと同じということだ。


(生き物を殺すのは何年ぶりだ? 相変わらず胸糞悪い)


 以前、『親』に連れられて行ったハンティングで、イノシシやシカを仕留めた経験が慎也にはあった。いくら動物とは言え、生き物の命を奪うという行為はどうしても好きにはなれなかった。とは言え、今回のように、殺さなければ自分や仲間が殺されるといった状況で躊躇を覚えるほど慎也は優しくは無い。


 生まれて初めて経験する”殺し合い”。緊張、そして恐怖。胸に手を当てなくとも耳まで届くほど心臓が高鳴っているのが判る。

 だが不思議と心の中は冷え切っている。まるで不要な感情を抑制するかのように気持ちを落ち着け、高ぶる感情にブレーキがかかっている。震えも無い。

 

いくさに臨む戦国武将たちも、こんな気分だったのかな)


 織田信長。真田幸村。上杉謙信――等々、自身が憧れ、何年も追い続けてきた様々な戦国武将たちの名が浮かぶ。それだけで自身が戦国武将になったかのような錯覚に見舞われる。

 高揚した気分のままに、慎也は叫んだ。


「いざ、勝負ッ!」


 それが合図となった。


 ギャー!


 1匹ずつでは敵わないと思ってか、5匹のゴブリンが同時に慎也を押し包むような形で向かって来る。


(同時攻撃か。狙いは悪くないがね)


 だが慎也は冷静だった。

 足元の砂地を蹴り上げてゴブリンたちに目潰しを喰らわせる。5匹のうち、3匹が目に砂を浴びせられ、両目を押さえて仰け反った。見ようによっては卑怯かも知れないが、向こうも素手の1人に多数で向かって来たり、戦えない女子を襲ったりしたので気にしない。


 そのまま盲目状態の3匹を突き刺し、蹴り飛ばし、殴り倒す。急所狙いの手加減無し。3匹ともHPを根こそぎ奪われて即死した。


 瞬く間に仲間が殺されるのを目の当たりにした残りの2匹は勝ち目が無いと悟ったのか、情けない悲鳴を上げて慎也に背を向けると一目散に逃げ出した。


(終わったか……)


 逃げ出した2匹のゴブリンを追うことはせず、大きく息を吐いて身体の緊張を解いた。


 ヒュン――


 微かに空気を裂く音が耳朶を打った。

 途端、慎也の本能が警鐘を鳴らす。それに導かれるままに慎也は身体を大きく仰け反らせる。目の前――一瞬前まで慎也の頭のあった空間を1本の矢が通り過ぎた。見れば、少し離れた木の枝に弓矢を持ったゴブリンが見えた。

「ゴブリン・アーチャー」という名前も見える。


「っざけんなッ!」


 躱すのが一瞬遅ければ死んでいた――

 恐怖と怒りのままに、慎也は持っていた槍をゴブリン・アーチャーに投げつける。2本目の矢をつがえようとしていたゴブリン・アーチャーは、自身の矢を勝る速さで飛んで来た槍に胸を貫かれ、HPをすべて失い、そのまま木から落下した。


(まだいるか?)


 しばらく不意打ちを警戒していた慎也だったが、周囲の他のゴブリンの気配が無いことを確認して、ようやく警戒を解いた。

 もちろん、瀕死の状態で倒れていたゴブリンにも止めを刺した。

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