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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
22/135

第22話 わしのレベルは128だよ

筆者が一番心に残った名言は「私の戦闘力は53万です」です(≧∇≦)b

(街で冒険者たちが噂してた奴か……)


 ウォー・ウルフ――戦争狼。


(ダメだ……)


 視界に表記されたステータスを見て、慎也は絶望した。

 レベル。パラメーター。スキル。すべてが桁外れに高い。レベルは2桁どころか40超えだし、各種ステータスもスキルレベルもすべて3桁超え。HPに至っては5800。HPゲージは3段ある。

 文字通りの桁外れだ。


(オレたちで勝てる相手じゃない。逃げられる相手でもない……)


 人間が、イヌ科の動物相手に逃げきれる訳がない。しかもウォー・ウルフは完全にこちらをロックオンしている。

 震える感触が、慎也の背中をぎゅっと掴んだ。結衣だ。さすがの彼女もウォー・ウルフを迫力とレベルを前に恐怖で顔を真っ青にし、子供の様にガタガタと震えながら慎也の背中に隠れている。



 守ると決めたら、最後まで守り通せ。なにがあっても守り通せ。己が下した「決断」も「約束」も守れないような者にだけはなるな――



 不意に、慎也の脳裏を『親』の言葉が過った。そのせいか、思い出してしまった。この世界に飛ばされた直後、約束してしまっていた。結衣と。「怪物が出たら守る」と。



 私を失望させるなよ、慎也――



(ああ、判ったよ、クソッタレが!)


『親』から散々叩き込まれた戒めが、慎也を縛っていた恐怖を捻じ伏せた。震える手を無理やり動かして、刀の柄を握る。

 その手に、横からすっと伸びて来た、皺だらけの、しかし恐怖の欠片すら感じさせない力強い手が覆うようにして置かれた。


「わしに任せなさい」

「……!」


 ウィルの放った、何気ない一言。

 たったそれだけで、震えがぴたりと収まった。慎也だけではない。その背中で震えていた結衣もだ。

 何故だろう。この人なら大丈夫――そう思わせるなにかが、ウィルの声からは感じられた。見れば、ユフィアもまた、ウォー・ウルフに向かっていく祖父の心配を全くしている様子が無かった。

 そのまま、ウィルは微塵の恐怖も感じさせない足取りでウォー・ウルフに向かって歩いていく。近づいてくるウィルに、ウォー・ウルフは牙を剥いて威嚇の唸り声を上げる。


 ウィルとウォー・ウルフ。

 その対立比は、馬鹿馬鹿しいほど圧倒的だ。なにしろ、巨象サイズの狼である。対してウィルは、ごく普通の老人にしか見えない。ただの人間など、あの強靭な前足とその爪の前では枯れ枝に等しい。

 なのに、慎也は、自分がウィルの心配を全くしていないことに気付いた。


 彼の背中が、ウォー・ウルフの巨体よりも遥かに大きく、力強く見えた。


(これが、戦士の背中って奴か……)


 以前、『父親』が言っていた。

 戦いと言うものは、なにも暴力と命のやり取りに限ったことではない、と。

 社会という世界には、多くの理不尽や不条理が満ちている。人間は誰もがそれに立ち向かわなくてはならない。特に、大切なものを抱える者は、自分だけでなく、その相手も守らなくてはならない。

 家族。恋人。友人。親。子供――

 自分よりも弱い者たちを、暴力から、理不尽から、苦境から、社会から、身体を張って守らなければならない。

 大切な者を、弱い者を、戦ってでも守ると決意した者は、男女、年齢、職業、国籍も関係無く、全てが戦士である。

 守られる者は、そんな戦士の背中と、強さと、意志を見て、安心と、信頼を覚えるのだ――


 慎也の見るウィルの背は、まさに”戦士の背中”そのものだった。


「ウオオオオオオオオオオ――!!!」


 ウォー・ウルフが吠えた。<咆哮>のスキルによるものだろう。消え去ったはず恐怖が、再び慎也の心を鷲掴みにする。思わず、恥も外聞も無く、その場から逃げ出したい衝動に駆られる。

 それを止めたのは、彼の背中をぎゅっと握る、結衣の手の感触だった。


(逃げるな!!)


 その場に踏み止まる。たったそれだけのことに、渾身の力と精神力を振り絞らねばならなかった。

 ある意味、それこそが戦いだった。

 戦士は、身体を張って弱い者を守らなければならない。


(ここで逃げたら、オレは約束を守れなくなるッ! 2度と結衣の前に立つ資格が無くなるッ!)


 そして、それを教えた『親』を失望させることになる――


(それだけは死んでも御免だッ!!)


 血が出るほど強く唇を噛み締め、全身全霊の勇気を振り絞って、慎也は踏み止まった。

 見開いた慎也の視界で、巨狼が動いた。

 どんっ、という重苦しい衝撃音を轟かせ、ウォー・ウルフが跳ねた。


(速いっ!)


 慎也が舌を巻くほどの、その巨体には似つかわしくない圧倒的な初速。純白の雪崩と化したウォー・ウルフが瞬きの間にウィルの迫り――


「ウィルさ――」


 慎也の警告は、轟音にかき消された。大木の如き前足が、自身の筋力に加え、跳躍の勢いを上乗せしてウィルの頭上より降り下ろされ、凄まじい破砕音を轟かせて地面を爆砕させ、衝撃波が、10メートル以上離れた位置にいる慎也たちにまで及んだ。


 ザシュ――


「ギャウッ!!」


 鮮血が宙を舞った。真っ白な毛並みに包まれたウォー・ウルフの脇腹に紅い裂け目が生じ、人間のそれと同じ赤い血液が噴き出した。

 そのすぐ脇に、刀を抜いたウィルの姿があった。


(いつの間に!?)


 慎也にも見えなかった。ウォー・ウルフの前足でウィルが虫みたいに叩き潰されたと思った直後、突然、ウォー・ウルフの脇腹から血が噴き出し、そのすぐ側にウィルの姿があった――

 慎也に見えたのはそれだけだった。

 いや、もうひとつ、気付いたことがある。

 ウォー・ウルフのHPが、半分以上減少していた。


「ガアアアアッ!!」


 だが、HPを半分以上失いながらも、ウォー・ウルフは尚も雄叫びを上げて身体を振り回し、巨大なあぎとを開けてウィルに喰らい付こうとする。

 だがその巨大な牙は空を斬り、ガチンという音を立てて互いにかち合っただけだった。


「やれやれ、一撃で倒せなかったか」


 ため息交じりのウィルの声は、あろうことかウォー・ウルフの背から聞こえた。今度は慎也にもなんとか見えた。喰らい付かれる寸前、ウィルがその場からジャンプし、ウォー・ウルフの背に降り立った所が。


「年は取りたくないものだね」


 言いながら刀を逆手に持ち替え、無造作にウォー・ウルフの背中に突き刺す。


「ゴッ――」


 くぐもった苦鳴と共に、ウォー・ウルフの口から鮮血が溢れだし、地響きを立てて巨体が崩れ落ちる。その上にいたウィルは、倒れる前に背中から飛び降り、何事も無かったかのように地面に降り立った。


「マジで……」


 思わずそんな呟きが慎也の口から洩れた。その後ろにいた結衣もポカーンとした顔だ。あれほど圧倒的な巨体、レベル、ステータス、威圧感を有していたウォー・ウルフが、たった2撃で倒されたのだ。


「ウィルお爺様は強いんです!」


 ユフィアはこの結末が最初から判っていたのか、余裕の表情だ。


 だが、ウォー・ウルフはまだ死んではいなかった。HPはまだ辛うじて残っている。とはいえ、立ち上がることすらできず、荒い息を繰り返すだけの瀕死の重傷だ。放っておいてもすぐに死ぬだろう。


「シンヤ君、来なさい」

「は、はい!」


 刀を鞘に納め、手招きするウィルに従って慎也は彼の、つまり、瀕死のウォー・ウルフを側へと歩み寄った。


「君が止めを刺しなさい」


 その一言に、慎也は背筋に悪寒が奔った。

 ウォー・ウルフが、まだ瀕死とは言え辛うじて生きているのは、偶然では無かった。ウィルはわざと、死ぬギリギリ一歩手前でウォー・ウルフを生かしたのだ。


 慎也に止めを刺させる為に。


 ウィルは慎也たちとはパーティを組んでいない。つまり、あのままウィルがウォー・ウルフを殺しても、経験値はすべてウィルの方に入ってしまう。そうならない為に、慎也に仕留めさせる為に、彼はあえてウォー・ウルフを瀕死にまで追い込んだのだ。

 慎也が仕留めれば、レベル42のウォー・ウルフの経験値を慎也、結衣、ユフィアの3人で分かち合えるから。


「……はい」


 恐ろしい人だ、と心の中で戦きながらも、慎也はヴェレタを抜き、ウォー・ウルフの頭に狙いを定め、引き金を引いた。

 ぴったり一撃でウォー・ウルフのHPは0になり、完全に息絶えた。


「わっ!? 凄い、レベルが一気に上がったよ!」


 レベル42の強敵を仕留めたことで、慎也のレベルは一気に9まで、結衣とユフィアもそれぞれ、7と10まで急上昇した。

 結衣は無邪気に喜んでいたが、慎也は頭はそんなことよりも別の事柄で占められていた。


「ちなみに、ウィルさんのレベルって、いくつなんですか?」


 レベル42の魔物をああも簡単に仕留められるということは、相当な高レベルのはずだ。


「おや? そう言えば、伝えてなかったかな……」


 思い出したようにウィルは言った。


「わしのレベルは128だよ」

「……」


 新たな桁外れの登場に、慎也は内心で戦慄する一方、この人が味方で良かった、と心から安堵するのだった。

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