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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
2/135

第2話 これって異世界転移だと思うんだ

第二話です。

 濡れたままでは風邪をひくということで、慎也はその辺から枯れ木を集めてたき火を起こし、少女の濡れた服を乾かすことにした。

 どうやって火を起こしたかというと、2本の木の棒を使って摩擦熱で火を起こすやり方でだ。


「すごいね。こんな簡単に火を起こせるなんて」

「……まーね」


 たき火の側で感心したように頷く少女に背を向けたまま、慎也は曖昧に返事を返した。


「どうして後ろ向いたまま話すの?」

「いや、だって、なぁ……」


 問題は他ならぬ少女の服装だ。

 着ていた制服がずぶ濡れになり、乾かさなければならなかったのだが、当然のことながら予備の服など持っているはずも無く、仕方が無いので慎也のワイシャツを貸してやった結果、いわゆる裸ワイシャツという危険な絵柄が完成してしまったのだ。

 正直慎也には、少々刺激が強すぎる格好だった。


「恥ずかしがり屋君なんだね」

「いや、君がもうちょっと恥じてくれると助かるんだが」


 慎也と違って少女の方はそれほど羞恥を感じていないのか、割と平然としている。


「そうだ! ねぇ、恥ずかしがり屋君」

「恥ずかしがり屋っていうな! オレは名前は慎也だ! 3年4組の剣崎慎也!」

「そうそう。それを聞きたかったんだよ」


 よく考えたら、いまのいままでお互いに自己紹介をしていなかった。


「3年2組の風美かざみ結衣ゆい。吹く”風”に、美人の”美”で『風美』。結衣は”むすぶ”って字に、”ころも”で『結衣』。よろしくね」

「……よろしく」


 はぁ、とため息を付く慎也。よく考えてみれば、中学になって以降、自分の趣味に熱中してばかりで同学年の女子と話したことなんかほとんどなかったことを思い出し、少しへこんだ。

 で、その趣味というのが――

 

「ん? 剣崎君って、もしかして戦国マニアだったりする?」

「なんで知ってんの?」


 初対面の結衣に自分の趣味をズバリ言い当てられて慎也は愕然とした。

 そうなのだ。剣崎慎也という人間は、実は自他ともに認める筋金入りの戦国マニアだった。

 なにしろ自室にある本棚には戦国時代関係の本で埋め尽くされ、私服のほとんどが有名な戦国大名の家紋のロゴが入ったものばかり。熱中しているゲームはほとんどが戦国時代歴史シミュレーションゲームや、戦国時代を舞台にしたアクションゲームばかりだ。


「やっぱり。なんか、前に友達が言ってたんだ。4組に、剣崎っていう戦国時代からタイムスリップしてきたみたいな男子がいる、って」

「マジか……」


 自分の趣味に付いて隠していたわけじゃなかったが、そこまで有名になっていたとは夢にも思わなかった慎也は再度愕然としていた。


「いや、いまはオレの趣味なんかどうでもいいんだよ」

「あ、誤魔化した」

「誤魔化してない! つーか、オレのことなんかより大事なことがあるだろ!?」

「んー? 私たちがここにいること?」

「そう、それ!」


 のんびりしているというかマイペースというか、あまりにも緊張感の無い結衣に慎也は少し苛立った。


「取りあえず現状確認だ。改めて聞くけど、風美。飛行機の中で起こったこと、なにか覚えてないか?」

「なにか、って言われても、疲れたから飛行機の自分の席で寝てただけだよ? で、気が付いたら、なんでか木の上にいたの」

「気が付いたら、って……いや、その前に、飛行機のエンジンが爆発しただろ?」

「そうなの? 寝てたから気付かなかったな」


 あれほどの衝撃に見舞われて目を覚まさないとか、どんだけ眠かったんだよ、と慎也は心中で呻いた。


「……その後は?」

「なんとか木から降りて、誰かいないかなーって森の中を歩いてたの。で、水の流れる音が聞こえたからそっちに行ってみたら崖に出て、ちょうど剣崎君が見えたから声を掛けようとしたら、脚を滑らせちゃったんだ」


 それで落っこちてきたという訳か。


「ここに来るまで、誰か見かけたり、なにか見つけたりしたか? 例えば、なにかの金属片とか。煙とか」

「ううん。なんにもなかったし、誰もいなかったよ」

「そうか……」


 結局なにも判らずじまいか。けど、単なる事故じゃないんなら、みんなも森のどこかで生きている可能性が高い。


「ここ、どこなんだろうね?」

「さあ? 沖縄近くの島だろ?」

「島かー。でも、なんで私たち、こんなとこにいるの? 飛行機に乗って帰る途中だったよね?」

「判らない。ただ、事故が起こったのは間違い無さそうだけど」

「それで飛行機から落ちたってこと? 普通、死んじゃうよ?」

「だから判らねーって。生きてるもんはしょうがないだろ? それとも、他になんか思い当たることでもあるのか?」


 慎也が聞き返すと、結衣は少し考え込んでから、呟くように言った。


「……心当たり、あるかもしれない」

「なに?」

「何度か本で読んだことがあるの。これと同じようなことが起る本」

「なんだよ、その本って?」

「……言って良いけど、笑わないって約束する?」

「ああ。約束する」

「実はね――」


 結衣がなにかを言おうとした、その時――


 キシャアアアアア!!


「うおっ!」

「きゃっ!」


 いままで聞いたことも無いような甲高い鳴き声が轟き、思わず2人は身を竦めた。

 黒い影が、2人の頭上をものすごい速さで飛び抜けた。時間にして1秒に満たない一瞬の出来事だったが、慎也ははっきりと見た。


 巨大な怪鳥。

 いや、鳥という単語は適切ではない。何故ならその身体には羽毛の類が一切見受けられなかったからだ。代わりに光沢を帯びた黄緑色の鱗に全身を覆われ、翼は蝙蝠のそれと同じ飛膜で出来ていた。首は長く、トカゲのような頭にはくちばしではなく口があり、牙も除いていた。おまけに自分の身長と同じくらい長い尻尾もある。


 なによりそのサイズ。大きく広げられた翼の翼長はどう見ても10メートル以上あった。


 平たく言えば、ドラゴンっぽい生き物だった。


 幸い、ドラゴン擬きは慎也たちに気付くことなくそのまま飛び去って行った。

 後に残されたのは、呆然と空を見上げる慎也と結衣。


「……沖縄って、大きい鳥がいるんだね」

「鳥に見えたんかいアレが!?」


 素の性格なのか、それともビックリし過ぎて混乱しているのか、アホなことを呟いた結衣に慎也が全力でツッコミを入れる。


「違うの?」

「いや、どう見ても鳥じゃないだろ!? あんな鳥がいるかよ! 羽毛が無くて鱗があって尻尾がある! なによりデカ過ぎるだろ!?」

「10メートルはあったもんね。恐竜の生き残り?」

「恐竜にしたってデカ過ぎる! プテラノドンでもあそこまで大きくないし、姿形も全然違う! あんな生き物、地球上には存在しない!」

「じゃあ、なんなの?」

「う……」


 冷静に聞き返してくる結衣に応えられず慎也は返答に窮した。

 動物に関しては、戦国時代ほどではないにしろ、人並み以上の知識があると自負している慎也だが、少なくともあんな巨大で空を飛ぶ生き物など見たことも聞いたこともなかった。

 一応、ジュラ紀の庭的な映画も見たことがあるので空飛ぶ恐竜についても知っていたが、あれは映画で見た恐竜とは明らかに姿形が違った。


「ねえ、剣崎君。さっきの話に戻るんだけどさ」


 唐突な話の方向転換に、慎也は思わず鼻白んだ。


「なんだよ、さっきの話って?」

「ほら、飛行機に乗ってた私たちが、いつの間にか森にいた理由」

「あ、そう言えばその話をしてたんだったな」


 ドラゴン擬きのインパクトが強すぎてすっかり失念していた。


「思うんだけどさー」


 一拍おいて、結衣は、慎也が夢想だにしていなかったことをさらりと言った。


「これって異世界転移だと思うんだ」

「…………………………はい?」


 慎也が結衣の言葉を飲み込むまで、たっぷり10秒はかかった。


「異世界転移。聞いたこと無い? 現代の少年少女が、ある日突然、剣と魔法のファンタジー世界に飛ばされちゃう、って話」

「いや、あるにはあるけど、それといまの状況となんの関係があるんだよ?」

「だから、私たちがいるいま場所、島とかじゃなくて、異世界なんじゃない? 飛行機に乗ってた私たちがいつの間にか森にいたのは、飛行機から落ちたんじゃなくて、異世界に転移しちゃったからじゃないかなー、って」

「おい、ふざけてるのか!?」

「ふざけてないよ。剣崎君も見たでしょ、さっきのドラゴンみたいなの?」

「う」

「剣崎君が言ってたじゃない? あんなの地球には存在しない、って」


 言った自覚があるだけに、慎也は二の句が言えなくなる。


「あれって、きっとワイバーンってやつだよ」


 ワイバーン。

 名前だけなら聞いたことがある。西洋の伝説に出てくる竜のことだ。もっとも、現代ではRPGゲームに登場するモンスターとしての方が知られているが。


「突然変異で生まれた怪獣とか、遺伝子改良で作られた合成生物か、地球外生命体とかの可能性もあるけど、それだと飛行機の中にいた私たちがここにいる理由が説明できないよ。だったらそれと合わせて、私たちがワイバーンのいる異世界に来ちゃった、って言った方が納得できると思う」


 確かに、さっきの怪物みたいな生き物の存在はそれくらい非常識なものだ。加えて、自分たちがこんな場所にいる理由も判らない。

 それにしたって、異世界。異世界か――


 ふと、あることに思い至った慎也は、


「……風美。ひょっとして異世界転移ものの小説とか読んでたりする?」

「自慢じゃないけど、いっぱい読んでるよ!」

「いや、ホントに自慢じゃないけどな」


 隠す素振りすら見せず元気良く言い切った結衣に、慎也は軽く脱力した。さっき結衣が言っていた本というのは異世界転移物のライトノベルだったようだ。

 慎也の方はラノベ系には興味が無いので、ほとんど読んだことが無い。


「ちなみに異世界に来た主人公は、転移した後はどうするんだ?」

「一言で異世界に来る、って言っても2種類あるの。転移と転生ね。転移の方は、ある日突然、前触れも無く異世界に来るパターン。転生の方は、現代で死んで、前世の記憶を持ったまま異世界に赤ん坊として生まれてくるパターンね」

「じゃあ、オレたちの場合は前者だな」


 まだここが異世界と決まった訳じゃないけど、と心の中で念を押す。


「転移の場合でも、異世界の人が召還するパターンと、理由も無く突然転移しちゃうパターンがあるの。この場合だと私たちは後者だね」

「なんで異世界の奴が現代人なんかをわざわざ召還するんだ?」

「勇者として魔王を倒して世界を救ってほしい、っていうのが黄金パターンだね」

「……アホくさ」


 自分たちの世界くらい自分らで守れよ、と思う。なにも知らない現代人を無理やり異世界に連れてきて魔王と戦わせるなんて正気の沙汰じゃない。というより、それは完全に誘拐――犯罪だ。


「んで、理由も無く異世界にやって来た主人公は、その後どうするんだ?」

「取りあえず人里を探すっていうのがセオリーかな」


 確かに、こんな森の中にいつまでもいたって始まらない。これがただの事故ならその場に留まって救助を待つべきなんだろうが、さっきの怪物がうろついているような危険地帯には絶対いたくない。


 とは言え、人里を探すとは言っても、ここは人の気配すら感じられない森の中。方角も判らずに闇雲に動き回るのは危険だ。


「……異世界の文明度ってのは、当然、現代日本よりも低いよな?」

「そーだよ。だいたい中世ヨーロッパレベルが一般的だね」


 そうなると、インフラとかのライフラインもまったく整備されていないと考えて良い。つまり、戦国時代のそれと同レベルということになる。


「……よし。もう少ししたら、この川の下流を目指してみよう」

「どうして?」

「水道も存在しない昔の人間にとって川は生命線なんだよ。生活用水を確保する為に大きな川の存在は欠かせない。つまり、集落を造るなら川の近くに造るのがセオリーなんだ。大きな街なら尚更な」


 実際、戦国時代の城なんかは、言ってみれば城塞である。敵の侵攻を防ぐ為、高い山の上に建てられているもの以外、いわゆる平地に造られた平城なんかは堀の水を確保する為に、あるいは水運を利用する為に川や海、湖などの畔に建てられていた。そして大きな城の側には必ず城下町が存在しているのだ。


 それに、もし自分たち以外にも森を彷徨ってる者がいたとすれば、川にやって来る可能性は高い。なにしろ水道も無いのだ。喉が渇けば水を求めるのは当然。自分たちがそうだったように。


「なるほどー。わかった、剣崎君に付いてくよ。危なくなったらちゃんと守ってね?」

「守るって、なにから?」

「異世界の森の中って、危ないモンスターがいっぱいいるのが当たり前なんだよ?」

「……いや、まだ異世界転移と決まったわけじゃないからな」


 すっかり異世界に来たつもりでいる結衣に、慎也は呆れ半分に言った。とは言え、慎也の方も可能性は高いと思い始めていたが。


「あ、そうそう。もうひとつ大事なこと言い忘れてた」

「なんだ、大事なことって?」

「異世界転移といえば、チートだよ!」

「はぁ? チート?」

「そうそう。異世界にやって来た現代人て、たいてい他の人には無い凄い力を持ってたりするんだよ。で、それを使って異世界で名を上げていくっていうのが王道なんだー」

「……なんだそりゃ?」

「だから、もしかしたら私たちもチートみたいな凄い力が宿ってるんじゃないかなー、って……」


 なにやら期待を込めてそんなことを言う結衣に、慎也はますます呆れた。


「宿ってんのか、チート?」

「わかんない!」

「じゃあ、言うなよ」


 あるかもしれない(つまり無いとも言えない)ものを期待するなんて馬鹿馬鹿しいと思った。なにより慎也はチート反対派だっただけに、チートと言うものに対する嫌悪感が強いので尚更だ。


「むー。剣崎君、乗りが悪いよ?」

「現実的なだけだ」


 ゲームだろうが現実だろうが、ルールに則って地道に努力する人間が報われないなんて間違っている。学生として、そしてゲーマーとしての慎也の本音だった。

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