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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
14/135

第14話 まさに異世界って感じ!

猫は苦手です(=・ω・=)

 刑務所のような外観に反して、キアナの街路は意外と広かった。車が4台くらい並んで通れるほどの幅があり、左右の建物はすべて石造りの建造物だが、木材やレンガの混じった建物も見受けられる。屋根の色はほとんどが茶色だった。


 門のすぐ向こう側は半円状の広場になっていた。街に出入りする者の混乱を避ける為の配慮の他、外敵対策も兼ねているのだろう。狭い門から入ってくる敵軍を、半円状に包囲しながら迎え討つ。城塞都市としては当たり前の設計だ。


「うわー」


 街へ入って最初に口を開いたのは結衣だった。

 初めて遊園地に来た子供のような嬉々とした顔で見つめる先は、通りに溢れ変える人々。その衣装。そして人種――


 簡素なチェニックや、ユフィアの着ているシンプルなワンピースのような衣装が多い一方、金属や革で出来た鎧を纏い、剣や槍、斧などを携えた戦士風の者や、ローブを着込んだ魔法使い風の者も意外と見受けられる。冒険者か、あるいは傭兵なのだろう。

 他にも、商人風、農民風、旅人風、詩人風など、雑多な衣装を纏った人々が通りを行きかっていた。


 しかし、慎也と結衣の関心を最も引いたのは、やはり人種だ。


 二足歩行する犬や猫。人間と同じ姿なのに、身長は慎也たちの腰ほどしかない者たち。さらに、人間の姿形に獣の耳や尻尾、あるいは角が生えている者もいた。


(まるでコスプレ大会だな)


 異世界物にとんと興味の無かった慎也は、視界に映る大勢の人々の衣装や種族的特徴を見てそんな感想を抱いた。


「すごいね。まさに異世界って感じ!」


 一方で、異世界マニアの結衣は、物語の中でしか見たことの無い光景を目の当たりにして大喜びだ。


「さ、こっちだ」


 ウィルに促されて慎也たちは大通りを進む。通りの脇には様々な店が軒を並べ、時折屋台や露店を開いている者もおり、並べられた品々に多くの人々が興味と関心を寄せていた。


「あ――」


 そんな折、楽しそうに周りを見回しながら歩いていた結衣が、不意に足を止めた。ついいまし方まで嬉々としていた表情が、一転して暗いそれに変わっていた。


「どうした?」


 釣られて足を止めた慎也が不思議そうに尋ねた。


「あそこ……」


 結衣が指さした先には、重そうな荷馬車を曳いている1人の男性の姿があった。見た所、ごく普通の人間の男で、変わった特徴は無いように見える。


「あの人、首輪してる」


 よく見ると、確かに男性の首には重厚そうな作りの首輪が付いていた。異世界物に疎い慎也は単なるファッションと受け取ったが、結衣は違った。


「ウィルさん。あの人、もしかして、奴隷ですか?」

「奴隷!?」


 慎也も驚いた。

 彼の中で奴隷と言えば、裸同然の粗末な衣服を着せられ、首だけでなく鎖の付いた手錠、鉄球付きの足枷などを付けられて強制労働させられているイメージがあったからだ。


 だが件の男性は、首輪こそ付けられているものの、衣服は他の市民と大差無いし、なにより鎖どころか手枷も足枷も鉄球もはめていない。首輪を除けば周りの人たちと区別が付かない。


「その通りだよ。あの首輪は奴隷の証しだ」

「いるんですか、奴隷!? だって、初代王は奴隷を開放する為に――」

「確かに王祖ユウマ様の働きで、この国の奴隷の待遇は大きく改善されたが、無くなった訳ではないんだ」


 首を横に振りながらウィルは続けた。


「この国の奴隷?」


 今度は結衣が尋ねた。


「そう。この国で奴隷となる者の多くは、多額の借金を抱えたり、税が払えなくなった者たちさ。金銭と引き換えに自分を、あるいは身内を奴隷商に売り渡す。ただし、奴隷商は購入した奴隷に対し、最低限の衣食住を保証する義務を負うことになる。奴隷商にとって奴隷とは商品だ。身綺麗で、なにより役に立つように常に健康を保ち続けなければ商品としての価値が無くなる。そして、奴隷商から奴隷を買い取った者は、奴隷に対して働きに応じた賃金を支払わなければならない」

「それって、普通に働いてる人とあんまり変わらないんじゃないですか?」


 首を傾げながら結衣が訪ねた。確かにいまの話を聞く限り、奴隷の待遇は一般的な労働者と変わらないように思える。


「その代わり、雇い主には絶対服従しなければならないし、働き先を選ぶ権利も無い。そして、奴隷となった者は契約魔法によって身体のどこかに奴隷紋という印を付けられる。それによって、命令に逆らったり、逃亡したりすると激痛に苛まれることになる」

「そりゃえぐい」


 げんなりした顔で慎也が呟いた。


「ただし、奴隷は働いて貯めた金で、自分を買い戻す――つまり、自分自身を奴隷から解放することも出来るんだ。他にも、例えば一時的な仕事の為に奴隷を買い、仕事が終われば開放するという雇い主も多くいる」

「じゃあ、別に一生奴隷のままという訳じゃないんですね」


 安心したように結衣がほっと息を付いた。


「この国ではね」

「……じゃあ、他の国では違うんですか?」


 慎也が訪ねた。


「むしろ、この国だけが他の国とは違うと言った方が良い。他国では、奴隷は基本的に”物”扱いさ。衣食住も保証されず、一度奴隷に落ちれば解放されることも無く、死ぬまで過酷な労働を強いられることになる。酷い例になると、盗賊が略奪ついでに捕らえた者を奴隷商に売り渡したり、他国を侵略してその地の住民のほとんどを奴隷にしてしまうという例も珍しくない」

「そんな、ひどい……」


 思わず口を押えて絶句する結衣とは対照的に、慎也の方は「さもありなん」という態度で冷静に聞いていた。


 戦国時代にも奴隷は存在していたのだ。

「乱取り」と言って、当時の戦の際には兵士による略奪や強姦などは盛んに行われていた。他国の民百姓を奴隷として自国に連れて来て強制労働させたり、海外に売り飛ばされた者も数多くに上ったという。特に大坂夏の陣の後の、徳川の兵による乱取りは凄惨を極めたらしい。


 そいうい知識を持っていた分、慎也の方は奴隷と言うものをある程度冷静に受け入れることが出来た。


(異世界転移した先がこの国だったことは、本当に幸運だったんだな)


 しみじみと慎也は思った。

 これまでは奴隷と言うものは過去の遺物だったが、いまは現実として目の前に存在する。つまり、自分たちも下手をすれば奴隷に落ちる可能性があるということだ。


「誘拐や略奪による人身売買はヤマト王国では禁じられているが、それでも隠れて違法な奴隷売買に手を染めている者はいる。充分に気を付けなさい」

「「「はい」」」


 慎也と結衣だけでなく、何故かユフィアまでが揃って返事をした。


 ◇◇◇


「おい、聞いたか? ヤラガ村の牧場がまたゴブリンに襲われたらしい」

「またかよ。先月もやられてなかったか?」

「あそこの牛のミルクで作った牛乳とチーズは美味いからなー。狙われるのも無理ないだろ」

「そう言えばさ、クル山で目撃情報のあったワイバーンの件はどうなったの?」

「ギルドが調査依頼を出して確認中だと。後、ウォー・ウルフの方も追加情報待ち」 

「見かけても手ぇ出すんじゃねぇぞ? どっちもレベル30じゃ利かないはずだからな」


 キアナの街の大通りを進んでいくと、そんな会話がそこかしこで聞こえてきた。


「なんか、この辺って冒険者っぽい人たちが多いですね」


 結衣も気付いていたらしく、不思議そうに首を傾げていた。


「すぐ近くに冒険者ギルドがあるんです。寄りませんよ?」

「判ってるよ」


 冒険者になりたがっていた結衣に、ユフィアが念の為に釘を刺し、結衣も苦笑しながら頷いている。そんな2人の会話を他所に、慎也はすれ違う冒険者たちの装備、厳密には武器に目を向けていた。


(剣、槍、槍、斧、刀、杖、杖、弓、剣、棍、鞭。それと、あれはフレイルってやつか? んで、ハルバートに槍、また弓、刀、猫、剣、槍、杖、斧――ん? 猫!?)


 ぎょっとする慎也に、ウィルが気付いた。


「どうした?」

「あ、いえ……冒険者の人たちを大勢見かけるんですけど、銃を持ってる人はいないなー、っと」


 ファンタジーの世界といえば、誰しもが「剣と魔法の世界」をイメージする。しかしこの世界には銃も存在する。元の世界で銃を扱ったことのある慎也としては、他にどんな型の魔法銃が存在するのか気になっていたのだが、予想に反して魔法銃を装備している冒険者は見受けられなかった。


「魔法銃はかなり高価な魔導具だからね。よほど裕福な冒険者か、一握りの騎士くらいだ」

「高価って、いくらくらいするんですか?」

「安くとも300万は下らない」

「ぶっ!」


 あまりと言ってはあまりの値段に慎也は思わず噴き出した。


「ちなみに、キアナの冒険者ギルドで一番多い依頼クエストはゴブリン退治だが、成功報酬はゴブリン1匹につき3000テラだ」


 つまり、ゴブリンを1000匹殺してようやく安物の魔法銃が1丁買える訳だ。もちろん、そこまで貯めるまでに武器や防具の整備や、回復アイテム等の備品を購入したり、生活費などに回していかなければならないことを考えると、とても購入できるものではない。


 そのことを思い知らされた慎也は、急に怖くなった。今現在、何気なしに腰に下げている物は、実はとんでもなく高価な代物だと思い知らされた。


「魔法銃を持っていることは、くれぐれも知られないようにな」

「落しちゃダメだよ?」


 ウィルと結衣に注意を促され、慎也は額に嫌な汗を浮かべて無言で頷いた。

 いままでの会話の内容からして、もし奪われたり失くしたりして弁償しろと言われたら、即奴隷落ちである。


「それだけ高かったら、魔法銃は武器屋とかにも売ってないですね」


 結衣の意見はもっともだ。金額を考えるに、この街の冒険者の稼ぎでは魔法銃には手を出せない。なら、冒険者相手に商売をしているであろう武器屋が、買い手が付かないと判っている商品を置いておくとは考えづらい。


「そうでもないさ」


 と、ウィルは軽く肩を竦めた。


「? 売れないのに置いてあるんですか?」

「どこにでも偏屈な商人はいるものだよ」


 結衣の問いに珍しく苦笑を浮かべながら、ウィルは街路の一角を指さした。

 そこには、『ヨルグ武具店』という看板を掲げた一軒の店があった。

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