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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
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第109話 ただいま、なんだよ!

第3章終了です('◇')ゞ

 冒険者ギルドでのやり取りの後、無事に依頼達成の報告を済ませた慎也たちは、フェルナとシアーシャらと別れ、騎士団に預けていた馬車を返却してもらった上でキアナの街を後にした。


「大変だったね、今回は……」


 馬車の荷台で空を見上げながら結衣がしみじみと呟いている。


「ホントに、予想外の連続でしたよね」


 同意するユフィアも疲れた様子だ。


「とんだ冒険者デビューになっちゃったんだよ!」


 冒険者としての初任務で酷い目に遭ったセリシエルはプンスカと怒っている。


「でも、みんな無事に帰ってこれて良かったよ」


 そう言って結衣は安堵のため息を漏らした。

 冒険者ギルドが襲われた際に複数の犠牲者が出てしまったものの、ケミナ村での騒動では怪我人が大勢出たものの、冒険者、騎士団、村人のいずれにも死者が出なかったのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。


「けど、一番災難だったのは慎也君だね」

「まったくだ……」


 結衣の呟きに、御者をしている慎也が即答して皆を苦笑させた。


 アシュケロンに腕を噛み砕かれ、その治療の為に死ぬかと思えるほどの業苦を味わわされ、挙句の果てにエンキからビンタを喰らった。


(けど、中でも一番最悪だと思えるのが、エンキ先生のビンタ、ってのはどうなんだろうな……)


 腕を噛み砕かれるのと、鬼血神薬(オグル・エリクサー)を打たれるのと、エンキにビンタされるのと、どれが一番嫌かと問われれば、慎也は迷わずビンタを選ぶ。


 で、慎也がそんな目に遭う羽目になった元凶はといえば――


「今度は絶対に壊さないんだよ!」


 買ったばかりの円盾を大事そうに抱き締めていた。


「……ちなみに、それってなんて名前?」

「マルセルなんだよ!」


 恐る恐る訪ねた結衣にセリシエルは元気いっぱいに答えた。

 案の定、前の盾と同じく名前を付けていた。


(丸好きなんだな……)


 なにが良いのか慎也にはいまいち理解出来ないが、口を出すようなことでもないので自重する。


 ただし、彼女には聞いておかねばならないこともある。


「さて、そろそろハッキリさせておかなきゃならないことがある」


 道中に人気が無くなったのを確認して、慎也は本題を切り出すことにした。


「どうしたの、改まって?」

「今回の一件でオレたちは全員レベルアップしただろ?」


 首を傾げて尋ねて来た結衣に慎也は馬を操りながら答えた。


 人造魔獣アシュケロンを倒したことで、慎也たちは急激なレベルアップを果たした。止めを刺した慎也に至っては3つ、他のメンバーもそれぞれ2つもレベルが上がっているのだ。


「はい。経験値が多くて驚きましたけど」

「私もビックリしたけど、結果オーライかな」


 ユフィアと結衣はレベルが上がったことを単純に喜んでいるようだ。


「スキルに関してはどうだ? 新しいスキルとか習得してないか?」

「えーっと……特に無いですね」

「私の方も、元からあるスキルが上昇してるけど、新しいスキルは無いよ。なんで?」


 慎也の問いに、ユフィアと結衣が自分のステータスを確認しつつ答える。


「オレの方はユニーク系のスキルが2つ、あと称号が1つ増えてる」

「ユニークスキルが、ですか?」


 ユフィアが驚きの声を上げる。

 そう、アシュケロンを倒してレベルアップした後、改めて自身のステータスを確認していた慎也は、ユニーク系スキルの一覧の中にいつの間にか新しいスキルが2つ増えていたことに気付いた。

 同時に、そのスキルと関連があると思われる称号も。


 1つは――


<勇敢なる魂>

 自分よりも高レベルの敵と戦う際、各ステータスが上昇する。



「へー……<勇敢なる心>と別バージョン?」

「そんなとこだろうな」


 結衣のセリフに慎也は同意を返した。

 実際、この2つのユニークスキルは効果がよく似ている。<勇敢なる心>は仲間が危機に瀕した時にステータスが上昇するのに対し、<勇敢なる魂>は格上の敵と戦う時に同じ効果が得られる。

 実際、アシュケロンという圧倒的格上の敵と戦い、勝利したことが切っ掛けで得られたのだろう。


 しかし、問題はもう1つのユニークスキルと新たな称号――



<守護天使の盟約100>

<守護天使>の称号を持つ天使族と盟約を交わした者に与えられる専用スキル。盟約者が危機に陥ると<守護天使>のステータスが大幅に上昇する。また、絆が深まってレベルが高くなると様々なスキルが付与される。ただし、盟約を交わした<守護天使>が死亡すると全てのスキルは消滅する。


<守護天使の盟約者>

<守護天使>と盟約を交わした者の総称。ユニークスキル<守護天使の盟約>が付与される。ただし、盟約を交わした<守護天使>が死亡するとこの称号はスキルと共に消滅する。



「<守護天使の……」

「……盟約>?」


 結衣とユフィアの視線が一斉にセリシエルに注がれる。

 彼女の称号に<守護天使>というものがあったのを思い出した。


「えへへ~」


 何故かにっこりと微笑むセリシエル。

 その様子から、慎也がこのユニークスキルを得た原因は彼女にあるとみて間違い無さそうだ。


「これはどういうことだ、セリス?」

「シンヤ、私と約束したんだよ?」


 尋ねる慎也に、こてん、と首を傾げながらセリシエルが逆に問うてくる。


「なにを?」

「私がシンヤに付っきりでお世話する、って。シンヤも了解したんだよ?」

「な――」

「え!?」


 セリシエルの爆弾発言に、何故か結衣とユフィアが驚愕の声を上げた。

 言われて慎也も思い出した。


 あの戦いで、セリシエルと共にアシュケロンを空中に誘き出した際、確かにそんな約束を交わしていたことを。


「だから、これはその証しなんだよ!」


 嬉しそうにセリシエルが宣言する。

 つまり慎也がこのユニークスキルと称号を得たのは、あの時<守護天使(セリシエル)>と交わした約束が原因だったらしい。


「具体的にどういうものなんだ、この称号とスキルは?」

「私にもよく判んないんだよ」

「いや判んない、って、お前がやったんだろ?」

「記憶喪失のせいか、私も詳しいことは判らないんだけど、私とシンヤの間に“絆”みたいなものが出来たんだよ」

「《絆の契約パーティ・コントラスト》みたいなものか?」

「そうだと思うんだよ」


絆の契約パーティ・コントラスト》は主に冒険者としてパーティを組んでいる者同士が結ぶ魔法で、使用した者同士は不可視の経路(パス)によって結ばれる。それにより、パーティメンバーの生命力(HP)魔力(MP)が離れていても確かめられるようになる他、相手の許可を得てステータスを確認出来るようになったり、メンバーのおおよその位置が判るようになったりと、様々な恩恵をもたらしてくれる。


「ちなみに、解除することは出来るのか?」

「無理なんだよ」


絆の契約パーティ・コントラスト》は任意で解除できるのを思い出して慎也は試しに尋ねてみたのだが、セリシエルはきっぱりと言い切った。


「一度結んだ契約はどちらかが死ぬまで解除されないんだよ。つまり、死が2人を別つまで、ってね」


 ニコニコと嬉しそうに笑いながら、セリシエルがとんでもないことを口走った。

 同時に、結衣とユフィアの表情が驚愕に強張ったが、慎也は気付かなかった。


「お前、それってつまり、取り返しが付かない、ってことだろ?」


<守護天使の盟約>は、《絆の契約パーティ・コントラスト》と違って一度結んでしまうと、どちらかが死ぬまで解除出来ない。無論、セリシエルが自身がそれらを承知の上で行ったことなのだからとやかく言うことではないのかもしれないが、問題なのは彼女がいま、記憶喪失であるということだ。


「記憶を失ってる間に一時の感情に任せてそんなことしたら、いざ記憶が戻った時に後悔することになるかもしれないぞ?」

「後悔なんかしないんだよ」


 だが、慎也の心配を他所にセリシエルははっきりとした口調でそう言い切った。


「我、事に於いて後悔せず!」

「っ!?」


 セリシエルが口走ったその言葉は、慎也が彼女を助けて腕を失った際、彼自身がセリシエルに言った言葉だった。


「記憶があっても無くても、私は私なんだよ! 私がシンヤが良い、って決めたんだから、記憶が戻っても後悔なんてしないんだよ!」


 強い口調でセリシエルは言い切った。


「それとも、シンヤは嫌だった?」


 それから、急に不安そうな表情になって慎也に尋ねて来た。捨てられた子犬のような目で。


「嫌、という訳じゃないけど……」


 むしろ慎也としては便利そうなスキルが増えた分、得でしかない。自分に説明も了承も無く一方的に契約を結ぶのはどうかとは思うが。

 それに、そのことでセリシエルが記憶を取り戻した後、後悔することになるんじゃないか心配しだったのだが、本人にそこまで言い切られてしまうとなにも言えなくなる。


「じゃあ、なんの問題も無いんだよ!」


 と、本人は朗らかな笑顔で嬉しそうに言った。


「という訳で、改めて、末永くよろしくお願いします、なんだよ」

「……はぁ、判った。よろしく頼むよ、セリス」


 改まった様子で頭を下げてきたセリシエルに、慎也は諦めた様に了承を返した。

 どのみち既に契約が成立してしまっている以上、取り返しは付かないのだ。なら、そう言うことだと割り切り、受け入れて前進するしかない。


「えへへ~」


 慎也が了解の意を返すと、セリシエルは心底嬉しそうな顔で笑った。


「うー、なんかズルいよ、セリスちゃん」

「そういうのは反則だと思います!」


 一方で、何故か結衣とユフィアは不満顔だった。


「?」


 2人が何故頬を膨らませているのか本気で判っていない慎也は、やはり世間一般で言うところの朴念仁に分類される人間なのだろう。


「お、見えてきたぞ」


 そうこうしている内に馬車はマナクレイの森へと差し掛かった。もう少し進めばウィルの待つ森の一軒家に着く。


「なんか、久しぶりに帰ってきた気がするね」

「今回は本当に大変でしたからね」


 しみじみとした様子で呟く結衣に、ユフィアが苦笑気味に同意した。


「オレは、生きて帰ってこれて良かった、というのが本音だな……」


 慎也の言葉に結衣とユフィアがまた苦笑する。

 

 とは言え、今回の事件は、慎也がこの世界にやって来て最も肝を冷やした一件であったことは間違い無い。


 魔物ではなく、悪意を秘めた人間との予期せぬ遭遇ランダム・エンカウント集団戦(レイド)級の魔物の襲撃。片腕の喪失と、地獄の業苦からの再生。

そして、それら全部を合わせたよりも恐ろしいエンキのビンタ!


 生きてて良かった、と慎也が思うのも無理からぬことだった。


「やっぱり、あそこが皆の家なんだね?」


 御者台へ顔を出したセリシエルが呟くように言った。ただ、その声には先ほどまでの元気が感じられない。


「どうした、急に?」

「大したことじゃないけど、私にも家があったのかなー、って思えちゃって……」

「……」

 

 慎也だけでなく結衣やユフィアも言葉を失う。


 セリシエルには過去の記憶が無い。家族がいたのか、帰る家があったのかすら思い出せない。それは心の拠り所を失ったに等しいことだった。幸いにして慎也たちに拾われたお蔭でこうしていられるが、やはりそれだけで不安を完全に消すことは出来ない。


 慎也と結衣にしてみても、ある日突然、身1つで異世界に放り込まれた訳であるが、幸いにして2人はその事実にさほど悲観はしていない。というのも、元の世界での生活が酷かったのが原因であり、元の世界よりもこちらでの暮らしの方がずっと良い、と思えればこそであった。


 唯一心残りがあるとすれば、一緒にこの世界に飛ばされているであろう、友人たちだ。


 慎也や結衣のように、幸運にも親切な現地人に保護されて元気にこの世界で暮らしている、という楽観的な思いを抱くことは出来ない。なにしろそのうちの1人が魔物に喰い殺されていたのだから。


 彼ら、彼女らがいまどうしているのか、心配でならないことが慎也と結衣の思いであるが、セリシエルにはそれさえ無いのだ。


 家族。友人。縋れる者。心配してくれる者――


 はたしてそんな者たちが実際に存在するのかどうかさえ、セリシエルには判らない。


(ひょっとして、オレと<守護天使の盟約>を結んだのは、そういう理由か?)


 セリシエルは、本当の意味で1人ぼっちなのだ。

 頼れる相手、縋れる相手が誰もいない。帰る家も無い。覚えてすらいない。


 慎也たちと出会って一緒に行動するようになってから、まだ間も無い。ようやく最初の冒険を終えた所なのだ。信頼関係を築くには短すぎる。

 そしてその最中に、自分の不注意から慎也に取り返しの付かない怪我を負わせてしまうところだった。

 だから不安になったのかもしれない。捨てられるんじゃないか、と。

 

 なので、決して切れないような繋がりが欲しかったのかもしれない。


(ったく、捨て身にも程があるだろ?)


 そんなことをしなくとも、慎也はセリシエルを見捨てる気はまったく無い。彼自身、拾われた身であるからこそ、同じ境遇にあるセリシエルを見放すなどと言う行為は選択の余地にすら無い。


「確かにオレたちの家だが、いまはお前の家でもあるんだぞ?」


 ポンポン、とセリシエルの頭を優しく叩きながら慎也は諭すように言った。


「お前が「ただいま」と「おかえり」を言う場所だ」

「シンヤ……」

「お前は1人ぼっちじゃない、ってことだ。お前の過去がどうあれ、いまはオレたちの仲間だ。仲間は決して見捨てないのがオレの流儀だ」

()()()、じゃなくて、()()()の、ですよ?」


 そこへユフィアが口を挟んできた。

 そっとセリシエルの肩に華奢な自分の手を置いた。


「セリスさんは()()()の仲間なんですから」

「そうだったな。すまない」


 頬を膨らませるユフィアに、慎也も苦笑して素直に謝った。


「ユフィアちゃん……」

「なにがあっても私たちが一緒にいますから、大丈夫ですよ?」

「そうそう。ユフィアちゃんの言う通り」


 ユフィアが手を置いたのとは反対の肩に、今度は結衣が手を添えた。


「私もセリスちゃんの側にいるからね。絶対に一人ぼっちになんてしないから」

「ユイちゃん……」


 セリシエルの瞳から抑えていた感情が溢れ出し、大粒の涙となって零れ落ちた。


「みんな、ありがとう……」


 ずっと明るく無邪気に振る舞ってはいたが、やはり内心では不安だったのだろう。

そもそもこの過酷な世界で、記憶を失った10代の少女が1人でまともに生きていけるはずも無い。慎也たちに見放されれば、セリシエルに待ち受ける運命は野垂れ死にか奴隷かのいずれかしかない。


 慎也たちの好意があったとはいえ、知り合って間も無い人間に自身の運命を委ねるのは、それこそ深淵に飛び込むくらい勇気のいることだったはずだ。


 そんな中で立て続けに起こった事件の連続で、張り詰めていた感情が限界に達し、慎也たちの優しい言葉で決壊してしまったのだ。


 嗚咽を漏らして泣きじゃくるセリシエルを、結衣とユフィアが慰めている。

 

 この人たちなら、全幅の信頼を寄せても大丈夫だ――


 心の底からセリシエルはそう確信できた。


「ほら、着いたぞ」


 そんなやり取りをしている間に馬車は森の一軒家に達した。


 見れば、ウィルが家の前の畑で野菜に水をやっているところだった。


「やあ、おかえり。みんな無事でなによりだ」


 こちらに気付いたウィルが、にこやかな様子で慎也たちの帰還を喜んだ。


「ただいま戻りました、お爺様!」

「おかえりユフィア。シンヤ君もユイ君もセリス君も、怪我は無かったかい?」

「ただいま、ウィルさん。私たちは怪我は無かったんですけど、慎也君がドジって大怪我して大変だったんですよ!」

「こら、結衣!」


 ここぞとばかりにウィルに告げ口をする結衣を、慎也が慌てて止めるがもう遅い。


「怪我をしたのか、シンヤ君?」

「ただいまです。ええ、まあ……もう治してもらいましたけど」

「そうか。まあ冒険者をしている以上、失敗をしたり怪我をしたりするのは当然のことだが、それを繰り返さないように気を付けなさい」

「ええ。ホント、2度と御免ですよ!」


 強い決意を秘めた口調で言いきった慎也に、結衣とユフィアが笑う。

 怪我をするのが御免なのではなく、怪我をしてエンキに治療されるのが御免なのだというのが手に取るように判った。


「ほら、セリス」


 一歩離れた場所で遠慮がちにその様子を見ていたセリシエルだったが、慎也に背中を押されて前へと押し出される。


「帰ってきたら、まず最初に言うことがあるだろ?」

「ええっと……」


 慎也に促され、恥ずかしそうにもじもじとしていたセリシエルだったが、結衣やユフィアが笑顔で頷くと、意を決して口を開いた。


「ただいま、なんだよ!」


 そんな彼女に――


「おかえり、セリス君」


 ウィルは優しい笑顔で答えた。

前書きでもお知らせしましたが、今回で第3章は終了となります。近日中に3章の登場人物紹介と主人公パーティのステータスをアップした後、新章に突入しますのでご期待ください。


前の章に続いてちょっとネタバレしておくと、第3章のタイトルは「異〇界〇事の章」です。判る方は感想欄などにどうぞ。

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