第104話 助け合いって大事なんだな……
本作は主人公チート物ではありません。なので、彼らは誰かを助け、また誰かに助けられながら成長していきます。非常時の助け合い程、大事なことはありません。災害の後のボランティアの人たちを見る度に痛感します(^-^)
助けを呼びに行ったセリシエルがケミナ村の村人たちを伴って戻って来た時には、既に陽が昇っていた。
「ただいまー! みんな来てくれたんだよー!」
「騎士様! シンヤさんたちも無事か!?」
先頭を歩くセリシエルの後には30人ほどの村人たちが続いていた。ほとんどは男だが、女性も混じっている。その中にはヒューゴもいた。
自力で動けない怪我人の為に、布や運搬用の扉サイズの板を何枚か持参していた。
「無事とは言い難いですが、なんとか生きてますよ」
力の無い声で慎也は答えた。
「シ、シンヤさん、腕が!」
半ばで切断された慎也の右腕を見て、ヒューゴは血相を変えた。
「あの怪物にガブッとやられちゃいました」
と、慎也は自嘲した。
彼を初め、疲労や重傷で動くことも出来ない冒険者や騎士の痛々しい姿に、ヒューゴを初めとした村人たちは声も無く佇んでしまう。
彼らは皆、ケミナ村を守る為に戦って傷ついたのだから。
「すまないな、わざわざ来てもらって」
「騎士様!」
腕を吊ったイアンがヒューゴたちに声を掛けた。
「事情はセリシエルさんから聞きました。怪物は倒したけど怪我人が多いので手を貸して欲しい、と」
「ああ、その通りだ。例の怪物は確かに仕留めたから安心して良い。ただ、そのせいで御覧の有様だ。ここでは手当もろくに出来ないので、ひとまず全員を村まで運びたい。手を貸してくれ」
「判りました! みんな、手分けしてすぐにかかれ!」
ヒューゴの言葉で村人たちが一斉に動き出した。
自分たちの村を守ってくれた恩人たちを死なせてなるものか、と、彼らは実に甲斐甲斐しい手つきで傷ついた騎士たちに肩を貸し、意識の無い者は体格の良い者が背負ったり、あるいは板に乗せて2人掛かりで運んでいく。
まだ意識が戻らない者の内、結衣はヒューゴが背負い、フェルナは板に乗せられて運び出された。
イアンは腕を骨折しているものの自力で歩くことが出来たし、ユフィアとシアーシャも回復薬のおかげで自力で歩けるまでに回復していたので、自分たちの足で歩いていく。
「シンヤは私が運ぶんだよ」
「すまない。頼む」
右腕切断に出血多量の慎也はさすがにまだ歩行困難だったので、セリシエルに肩を貸してもらうことにした。
傷ついた冒険者と騎士たちは、彼らが命懸けで守った者たちの手で丁重に運ばれ、村への帰路へ付くことが出来た。
(助け合いって大事なんだな……)
道中、騎士たちの怪我を心配する村人たちに、騎士たちも弱々しく「すまない」「ありがとう」と礼の言葉を述べていた。
それを傍から眺めていた慎也は、スアード伯爵領の騎士たちが領民から慕われていることを改めて実感した。
実際、イアンを初めとした騎士たちも、村を守る為に躊躇無くアシュケロンに立ち向かっていった。彼らも、領民を守るという使命に命を捧げる覚悟と誇りを持っているという証しだし、村人たちもそれを理解している。
これは単に領主であるスアード伯爵の人事や采配が優れているからだろう。慎也は、会ったことも無い領主に改めて畏敬の念を感じた。
村人たちの助けを借りてケミナ村に辿り着いた頃には、空は完全に青くなっていた。怪我人たちはひとまず村の広場に集められ、村人たちが用意していた清潔な水や布、薬草なので応急的に手当てを施されている。ここでも村人たちの献身的な処置がいくつも見られた。
幸い、村人の中に回復魔法が使える女性がいて、騎士団の魔法使いと共に治療に当たってくれた。お蔭でひとまず全員が命に別条が無いまでに回復することが出来たが、やはり辺境の村落で本格的な治療は不可能なので、急ぎキアナの街に戻る必要があるのだが、問題はその移動手段だ。
慎也たちは当初、ケミナ村へは馬車でやって来た。だがその馬車は、フェルナとシアーシャが街に戻る際に乗って行ったままだ。街から戻る時はイアンたち共に騎馬でやって来た為、慎也たちの馬車は騎士団に預けられたままなのだ。
だが、手当は施されたとはいえ、重傷者を大勢抱えて騎馬で街まで戻るのは無理なので、ひとまずケミナ村の荷馬車を借りることが出来ないか、村民たちに頼んでみようということになったのだが、その前に1つ問題が発生した。
「逃げられた!?」
イアンの怒声に、彼の部下である魔法使いが身を縮めた。
もちろん、彼の声は慎也の耳にも届いた。それで思い出した。こんな事態を引き起こした元凶たちの存在を。
ちらり、と視線を広場の片隅にやると、そこには相変わらず鎖で繋がれて気を失ったままのボルドの姿はあったのだが、もう1人、モークという男が見当たらない。
「それが……突然消えてしまったんです」
「消えただと!?」
魔法使いとイアンの会話に聞き耳を立てていると、モークがいないことに気付いたのはつい先程のことだという。
それまでは魔法使いは負傷した仲間の治療をしつつ、言われた通りにモークとボルドを見張っていた。ボルドの方は意識が無く、モークの方は縛られて地面に転がされたまま魔法使いに背を向けてじっとしているだけで、特に逃げるような素振りは見せなかったそうだ。
それからしばらくして、突然遠くの空で大爆発が起こった。
十中八九、というか間違い無く、慎也が魔爆珠を使ってアシュケロンを倒した時のものだろう。
魔法使いも当然驚いて爆発に目を奪われた。やがて夜空で生じた爆炎が収まり、視線を戻した時には既にモークの姿は無かったのだという。
視線を外してから戻すまでの10秒に満たない間に、モークは姿を消してしまったということになる。しかも、ボルドを置き去りにして。
さらに奇妙なことに、モークを縛っていた拘束具も一緒に無くなっていたそうだ。自力で戒めを解いて逃げたのなら、拘束具はその場に残すだろう。
にも拘らず、ほんの数秒の間に拘束具ごと、仲間を見捨てて消えてしまった。だとすれば、考えられる可能性は1つだけ。
(転移珠だな)
モークが持っていた金色のピンポン玉サイズの法珠。あれを使って逃げたに違いない、と慎也は確信した。拘束されていた状態で転移珠を使って逃げたのだとすれば納得がいく。
イアンによれば、あのサイズでは人間を1人転移させるのが限界らしいから、自分1人が逃げ出すので精いっぱいだったのだろう。
「連中の所持品は全部回収したんだろう?」
イアンも同じ結論に達したらしく、改めて魔法使いを問い詰める。
「それは間違いありません」
「くそっ、どこに隠し持っていたんだ!」
忌々しそうにイアンが吐き捨てた。慎也たちの<共有無限収納>と同じようなスキルを持っていたとしても、封印錠が掛けられた状態では使えないはずだ。
慎也はモークの言動などを改めて思い返してみて、なんとなく答えが判った気がした。
(腹に一物ありそうな奴だと思ってたけど、地で来たか)
やれやれ、とばかりに嘆息するが、逃げてしまったものはどうしようもない。心配なのは今回のことを恨みに思って復讐しに来たりしないか、ということだが……
(なんでだろう? あいつとはもう、二度と会うことは無い気がする)
何故かそんな気がする自分を不思議に思って、慎也は1人首を傾げていた。
◇◇◇
「やれやれ、酷い目に遭ったゼ」
ケミナ村から離れた森の中の小高い崖の上で、モークは外した手首の関節をコキコキと戻しつつ、手にした封印錠をその場に投げ捨てた。
「しかし、転移珠を飲み込んどいたのは正解だったナ。身体検査をする時は、腹の中まで調べなきゃいけないんだぜ、ヤマトの騎士さんヨ」
そう言いつつ自らを自画自賛すると同時にイアンたちを虚仮下ろす。
なんと言うことは無い。モークは万が一に備え、事前に転移珠の1つを飲み込んで自らの腹の中に隠していたのだ。仲間であるナヴェットやボルドにも内緒で。そして拘束された後、見張りの魔法使いの目を盗んで吐き出し、隙を付いて転移珠を発動させて1人だけ逃げ出した、という訳だ。
「結局任務は失敗カ。ナベちゃんはくたばっちまうし、ボルちゃんは捕まっちまうシ……おまけに連中が戻って来たということは、アシュケロンもやられちまった、ということだろうナ」
目を凝らすと、眼下にケミナ村の広場の様子が微かに見える。
アシュケロンと戦っていたはずの騎士や冒険者が、傷だらけになりながらも村人たちに助けられて戻って来たということは、アシュケロンは倒されてしまった、と考えてまず間違い無い。
「このまま手ぶらで帰ったら、ロクなことにはなんねぇナ……」
などと言いつつも、モークには悲観した様子は一切見られない。
「あー、ヤメヤメ。やっぱオイラには工作員なんか向いてねぇワ。ナベちゃんもボルちゃんもいなくなったし、ちょうど良い機会ダ。辛気臭せぇ《ミズガルズ》ともおさらばすっカ」
実際は、その気になればモーク1人でもボルドを救うことは出来るはずだ。
なにしろ慎也たちはアシュケロンとの戦いで傷だらけの疲労困憊状態。誰1人無事な者がいない状態なのだ。それに対し、モークは武器を失ったとはいえほぼ無傷。やろうと思えばボルドを救出することは容易い。
だが、そもそも彼を助け出そうなどと言う考え自体、モークには思い付くことすらなかった。彼らとはそれなりに長い間組んではいたが、仲間と思ったことは一度も無い。打算で付き合っていただけで、《ミズガルズ》という組織にも大した思い入れも無いし、忠誠心も無ければベルカ復権の為に頑張ろうなんて気もさらさら無い。
そうでなければ、イアンに機密情報をペラペラしゃべったりなどしない。
ただ、人を生きたまま切り刻む、というモークの嗜好を満たすのに都合の良い場所だった、というだけで、処罰を覚悟してまで戻ろうという気など最初から持ち合わせていなかった。
「さーて、んじゃま、取りあえずこの国はヤバそうだから、ひとっ走りヴァードナー王国にでも行ってみるカ。それとも、セント・クウィールの方がいいかナ?」
独り言を呟きながら歩き出そうとした、その時――
「そんなとこよりもっと良い場所があるぜ?」
「え?」
独り言に返事を返され、モークがそちらに目を向けようとした瞬間――
ザンッ、という生理的な嫌悪感を催す生々しい音と共に、モークの首が宙を舞った。
「オレのお勧めは“地獄”って場所だ。追手の心配も無いし、お前さんの同類が大勢いる。まさに理想郷、って奴だ。行けて嬉しいだろ? 礼はいいぜ?」
呆けたような表情のまま地面に転がったモークの頭に語り掛けるのは、ぼさぼさの長い髪に髭を生やした中年の人族の男だった。
髪も髭も燃えるような攻撃的な赤色で、濁った青色を湛える相貌はまるで獲物を前にした肉食獣のように鋭い。それでいて口元には掴み所のない飄々とした笑みを浮かべ、いまし方、人の命を奪ったことなどなんとも思っていないことが傍目にもよく判る。
男は、モークの首を刎ねた長剣を漆黒のマントの中に下げた鞘に納めると、無造作に死体を跨いで崖の上に立ち、眼下に見えるケミナ村――その広場に集まった者たちを見下ろした。
「なかなか面白いショーだったぜ? まさか1人の死人も出さずにあの化け物を倒すなんざ、さすがのオレも予想してなかった。まあ、こういう逆転英雄劇もたまには悪くない。それに――」
男の目は、怪我人たちの中に蹲る黒髪の少年――アシュケロンを仕留めた若い冒険者の姿をはっきりと捉えていた。
「確か、シンヤ、だったな。くくくく、その名前、どう考えても日本人だろ?」
男はひとしきりおかしそうに笑うと、唐突に「ん?」と首を傾げた。
「シンヤ? はて、なーんか聞き覚えがあるような気がすんなー……ま、日本人ならありがちな名前だから当然か」
頭に浮かんだ小さな疑問を気にすること無く、男は再び愉快そうな視線をケミナ村へ向けた。
「この辺りで冒険者やってるってことは、キアナの冒険者ギルドに所属ってことだよな……くくく、こいつは面白くなりそうだ」
愉快そうに笑うと、男はその場で踵を返した。
「んじゃ、さっそく準備といくか。ショーってのは下準備が大事だからな。せいぜい頑張って喜劇の主人公を演じてオレを楽しませてくれよ、サムライ・ボーイ」
不気味な言葉を残して、赤毛の男は森の奥へと消えていった。
◇◇◇
ぞくっ、という言い様も無い悪寒を不意に感じて、慎也は身を震わせた。
(なんだ?)
きょろきょろと辺りを見回すが、特におかしなものは見当たらない。
なにかの視線を感じたような気がした。それも、物凄く悪意の籠った目で見られたような嫌な感じだった……
「う~ん……」
不意に近くから聞こえてきた声に、慎也はそちらへと目を向けた。
地面に置かれた板の上で寝かされていた結衣が目を覚ました。
「あ、ユイちゃんが起きたんだよ」
「ユイさん、大丈夫ですか?」
「……んー?」
セリシエルとユフィアが声を掛けると、上半身を起こした結衣はぼやけた目元をごしごしとこすった後、呆けたように辺りを見回して、慎也の姿を見つける。
「しんやくん、ごはんまだー?」
寝ぼけているらしい結衣は、そんな間の抜けたことを聞いて来た。
普通なら「なに寝ぼけてるんだ」と声を掛けて正気に戻す所なのだろうが、慎也はふと悪戯心をくすぐられて――
「まだだから、もう少し寝てろ」
と答えた。
「はーい。ごはんできたらおこしてねー」
結衣はそんな言葉を残して再び横になった。
「あ、あの……」
「また寝ちゃったんだよ」
ユフィアとセリシエルが呆気に取られていると、むにゃむにゃ言っていた結衣の瞼が突然かっと開き、物凄い勢いで飛び起きた。
「って、ごはんとか言ってる場合じゃないよ! あの怪獣は!?」
どうやら意識を失う前の記憶が戻って来たらしく、焦った様子で辺りを見回し、せわしなく手を動かして杖を探し始めた。
「落ち着け」
「あ、慎也君」
そんな彼女の頭を慎也がポンポンと軽く叩いてやると、不思議とそれだけで結衣は落ち着きを取り戻した。
「もう大丈夫ですよ、ユイさん」
「全部終わったんだよ」
ユフィアとセリシエルも声を掛ける。
「ユフィアちゃんにセリスちゃん? 終わった、ってことは、勝ったの?」
「ああ。アシュケロンは倒して、全員で村に戻って来たところだ。怪我人は大勢……ってうか、オレを含めてほぼ全員が怪我人だが、死人は出てない」
慎也は事の次第を簡潔に結衣に説明した。
セリシエルに運んでもらってアシュケロンを空中に誘き出し、ナヴェットが使用した魔爆珠を逆用してアシュケロンの口の中に放り込んで爆殺した経緯を――
「おおー、さすが慎也君」
「私も頑張ったんだよー」
慎也を褒める結衣に、セリシエルが自分も褒めろ、とばかりに頬を膨らませた。
「もちろん、セリスちゃんのおかげでもあるよ」
「えへへ~」
結衣が褒めると、セリシエルは嬉しそうに笑った。
(子供だな……)
さっきまでの自分の不安を知らずに無邪気に微笑むセリシエルを見て、慎也は心中で嘆息した。が、悪い気分ではないので言葉には出さなかった。
「兄ちゃん!」
聞き覚えのある声がして振り返ると、リュンとルピィの兄妹が走ってくるところだった。
近くまで来ると、慎也の腕が目に入ったのか、2人そろって青い顔で立ち止まった。
「に、兄ちゃん、その腕……」
「ああ。あの怪物にガブっとやられてな……」
ポンポンと腕の無くなった肩を叩きながら、さも大したことはない、と言わんばかりに慎也は兄妹の父親に言ったのと同じセリフを軽い調子で言った。
「い、痛くないの?」
泣きそうな顔でルピィが聞いてきた。
「平気だ」
と、慎也はさも涼し気に答えたが、実際はユフィアの回復魔法とさっき飲んだ回復薬に含まれている痛み止めのおかげで多少鈍くはなっているが、それでもまだ激痛と呼ぶに相応しい猛烈な痛痒に苛まれていた。
単にやせ我慢しているだけだ。男は他人に弱みを見せたり、弱みを吐いたりしないものなのだ。
「どうして――」
「ん?」
なにか、意を決したような真剣な顔でリュンが言った。
「どうして平気な顔してるんだよ!? 腕が無くなっちゃったのに! ボクだって、腕が無くなっちゃったら二度と元に戻らないことくらい知ってるよ! なのに、どうして兄ちゃんはそんな平気な顔してるんだよ!」
リュンが大声で捲し立てたせいで、その場にいた全員の注目が集まってしまった。
彼自身、慎也が腕を失ってしまったことにショックを受けたのだろう。なにしろ、自分たちを助ける為にそうなったのだから。なのに、当人が平然としていることに、自分でも良く判らない感情が爆発してしまった。
慎也は困ったように頬を掻くと、ほっと息を吐き出して口を開く。
「確かに腕を失くしたら取り返しが付かない」
「なら――」
「けど、命はもっと取り返しが付かないだろ?」
「そ、それは……」
言い淀むリュンに、慎也は笑って続けた。
「あの怪物は本当に恐ろしい奴だったよ。正直、オレたち全員が殺されていてもおかしくないくらい――というか、全滅しない方が不思議なくらいにな」
自嘲気味な慎也の言葉に、仲間たちが、うんうん、と頷いた。
「けど、みんな怪我こそしたけど、誰も死ななかった。オレも、仲間も、ケミナ村の人たちも、な。その代償がオレの腕1本だと思えば、安すぎるくらいだ」
なんだかんだ言って、今回ケミナ村が見舞われた災難は常軌を逸したものだった。
オークの集落に始まり、《ミズガルズ》の工作員にアシュケロン。
どれか1つでも村を壊滅させるに充分な災難に立て続けに襲われたにも拘らず、犠牲者が出なかったことは奇跡的とも言える。
もちろんそれは慎也たちにも言えることだった。
「冒険者って言うのは、戦えない人たちに代わって危険な仕事を熟す為にいるんだ。見返りは大きいけど、その分、危険も大きい。予想外の事態に見舞われて死んでしまうなんて珍しくもなんともない。そういう意味では、今回はホントにヤバかった。オレたちと村の人たち――全員が死んでもおかしくない出来事が立て続けに起きたのに、みんなこうして生きている。なら、腕を失って嘆くより、腕1本で済んで良かった、と笑うのが冒険者って奴なんだよ」
一通り語り終えた慎也だったが、いまのはあくまで慎也の矜持であって、全ての冒険者がそうという訳ではないことは理解していた。
やはり金や名声を求めて冒険者になる人間は一定数存在することは実際に目にしてきたし、大怪我をして冒険者を続けられなくなった者が酒場で嘆いているのを見たこともある。
だが、少なくとも慎也自身は、他者を助ける為の冒険者でありたい、と願っていた。
2年前、訳も判らない内にこの世界にやって来た自分たちを救ってくれたウィルのように――
自分の師であり、恩人であり、最も尊敬する彼なら、きっと腕を失ったとしても嘆いたりはしない。腕と引き換えに多くの人の命を救えてよかった、と喜ぶだろう。
だからという訳では無い。自分の腕と引き換えに、仲間の命が救えて良かった、と思っていることは確かなのだが、腕を失った以上、冒険者を続けていくことは不可能だろう、という不安と恐怖もまた、慎也の心の中に存在しているのも確かだ。
だが、それを表に出して子供たちに悪影響を与えるのは良くない、という思いと、自身の弱みを他者に見せたくない、というプライドが沸き上がる黒い感情を抑え付けてくれたおかげで、慎也はそれらをおくびにもリュンとルピィに見せずに済んでいた。
「ぼうけんしゃって、かっこいいんだー」
キラキラとした目でルピィが言った。
たぶん、慎也の言った意味を完全には理解していないのだろうけれど……
「村の為にこんなになるまで戦ってくれたのに、オレたち、兄ちゃんたちになにもしてあげられないよ……」
俯いて小さな声でリュンは呟くように言った。
「なに言ってるんだ?」
目をパチクリさせて慎也は肩を竦めた。
「いまこうして、オレたちを助けてくれてるじゃないか」
周りを見ると、傷ついた騎士や冒険者たちを必死に手当てしたり、清潔な布で身体を吹いて回っている村人たちが目に入った。
「村の為に頑張った冒険者や騎士の人たちにお礼がしたいのなら、「ありがとう」って言ってあげれば良いのさ。それ以上のなにかがしたいのなら、それは大人になってからだ。いまは、その一言だけで良い。それが、オレたちに取っては充分過ぎる報酬だよ」
ウィルが言っていたことを思い出す。
冒険者としての優劣を決めるのは、強さでも、名声でも、熟した依頼の数でもない。感謝された数だ、と――
だからこそ――
「あ、ありがとう、兄ちゃん」
「ありがとう!」
頭を下げてお礼を述べる幼い兄弟たちの言葉を聞いて、慎也は心の底から充足感を感じるのだった。




