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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
100/135

第95話 嫌な時に嫌なことが重なってくれたわね

お待たせしましたm(__)m

 時間は少し遡る。

 オーク集落での出来事をギルドに報告する為、慎也たちと判れたフェルナとシアーシャは、彼らの馬車を借りて一路、キアナへの帰還を急いでいた。


「それにしても、妙なことになっちゃったわね」


 あと少しでキアナの街に着く、という時点で、シアーシャが思い出したように口を開いた。


「ねぇ、フェルナ。なにがオークたちをやったんだと思う?」

「知らないわよ。私が知る限り、あんな殺し方をする魔物なんて存在しないわ。少なくとも、この辺りには」


 フェルナの脳裏に、殺されたオークや女性たちの遺体の無残な姿が過った。

獲物の体液を干乾びるまで吸い取る魔物なら存在する。主に昆虫系、植物系の魔物によく見られる習性だ。


 だが問題はオークの方。

 

 魔物の体内から魔晶核(コア)を抜き取ってしまう魔物など、フェルナは聞いたこともなかった。


「じゃあ、やっぱ『渡り』かしら?」


『渡り』とは、他の地域からやって来た魔物の総称だ。

 本来、魔物と言うものは自分たちの生息区域から離れたりはしないが、稀にそう言った常識を破って他の地域から渡ってくる魔物がいる。理由としては、環境の変化――飢饉や災害等でその地に住めなくなったり、天敵などに追われる、というものが多い。

 またごく稀に、魔物をテイムした冒険者などが、冒険者を辞めるなどして従魔の世話が出来なくなって逃がしてしまい、それが野生化する、という、現代日本でもありがちなパターンも存在する。

 この前の様に、遺跡などで眠っていた守護者(ガーディアン)が目覚め、それが原因で特定の魔物が増殖してしまう、というパターンは例外中の例外と言える。


 それらの『渡り』と呼ばれる魔物の存在は、その地域に住まう人々にとっては厄介以外の何物でもない。

 動物のそれと同様、その地域に生息する魔物の生態系は微妙なバランスの上に成り立っている。『渡り』はそれを崩してしまう。『渡り』が原因で普段は現れないはずの魔物が人里に出て来たり、それらを恐れた狩猟動物たちが住処を移動させてしまったりするからだ。


 そして、最悪の場合、魔物の連鎖暴走(スタンピード)さえ起こりかねないのだ。


「もしそうなら、早急に手を打つべき、とギルドは判断するでしょうね」

「やっぱそうなるわよね~」


 面倒くさそうに頭の後ろで手を組んだシアーシャが、空を見上げながら呟いた。


 冒険者ギルドから発行される依頼を熟すのが冒険者の主な仕事であるが、それらは必ずしも完璧に達成出来る訳では無い。なんらかのトラブルのよって、達成不可能になったり、中止される場合もある。


 フェルナとシアーシャも、主に盗賊退治や護衛など、対人関係の依頼を数多くこなして来たが、討伐対象の盗賊が、戦う前から魔物に襲撃されて全滅していたり、荷馬車の護衛依頼が、雇い主の都合で中止されてしまったりしたことが何度かあった。


 冒険者は、引き受けた依頼を達成しなければ報酬は貰えない。それはギルドが厳正にルールとして定めている。だが、不可抗力のトラブルによって依頼が達成不可能になった場合は、報酬の有無は、その状況によって判別される。


 例えば、先に述べた討伐対象の盗賊が戦う前から全滅していた場合、報酬は支払われない。戦っていないのだから当然だ。


 逆に、護衛依頼を途中で打ち切った場合、依頼主は違約金として、成功報酬の何割かを支払わなければならない。途中までは護衛をしてもらっているからだ。ただしこう言った行為を繰り返していると、冒険者ギルドの信用を失い、最悪、依頼そのものを受け付けてもらえなくなるので、よほどの事情が無い限り護衛依頼の途中放棄などという自体は起こり得ないが。


 今回の場合、ケミナ村からの依頼内容は「オーク集落の調査」だった。集落自体は見つけているので、慎也たちはケミナ村から報酬を受け取ることが出来る。

 問題は、集落を襲った魔物の正体と、後の対策だ。


「普通に考えたら、調査、もしくは討伐依頼が出るんでしょうけど……」


 以前、討伐対象だった盗賊を魔物が殲滅した時もそうだった。


「けど、なーんか()な予感がするのよねー」

「やめてよ。あんたがそう言う時は大抵、なにかトラブルが起こるんだから」


 そんな他愛のない会話を続けながら馬車を進めていると、やがてキアナの街の市門が見えてきた。


「あれ? なんか、様子が変じゃない?」

「そうね」


 近づいてみて、2人はすぐに異変に気付いた。

 市門の周辺にやたら大勢の人や馬車、荷馬車が集まっている。しかも一部の人たちが門番に詰め寄り、なにか揉めている。


「入市規制ってどういうことだ!?」

「こっちはキリスタ領からはるばる来たんだぞ!」

「我々に文句を言われても困る。こっちは上からの命令に従っているだけだ!」


 と、人々と門番の怒声が聞こえてくる。


「なにがあったのかしら?」

「来る時はなんも無かったよね?」


 2人は首を傾げながらも、市門近くまで馬車を進めた。


「おっちゃん。なんかあったの?」


 顔見知りの門番に、馬車上からシアーシャが尋ねた。


「おお、嬢ちゃんたちか!」


 向こうもこちらに気付いて気さくな様子で答えた。


「どうもこうもねぇよ。今朝になって上から突然、街への通行を規制しろ、って命令が来たんだ」

「通行規制? なにがあったんですか?」


 街への通行が規制されるなど、ただ事ではない。緊迫した様子でフェルナが尋ねた。


「良く判らんが、強盗かなんかが起こって死人が出たらしい。で、犯人がまだ捕まってないんで、その間、街への出入りを規制しろ、って話だ」


 つまり、犯人がまだ街中に潜伏している可能性があるので、逃がさない為に出入りを規制している、という訳だ。


「強盗ですか? けど、それだけで街への通行規制と言うのは、ちょっと大袈裟すぎると思いますけど……」


 比較的平和な田舎町であるが、人間やその同種のコミュニティである以上、キアナの街も犯罪と無縁である、という訳では無い。だが、死人が出たとはいえ、それだけで街への出入りを規制してしまうというのは、いささかやりすぎであるようにフェルナは感じた。

 なにしろ、商人たちが街へ入れなければ、キアナの街の経済は立ち行かなくなってしまうからだ。


「知らんよ。とにかく、そう言うお達しが来たのは確かだ。どうも、結構な大事になってるらしい。憲兵だけじゃなく、騎士団まで出張って来てる」

「えー。じゃあ、あたしたちも街へ入れないの? 急いでギルドに報告しなきゃならないことがあるんだけど?」

「いや、お前さんらは通って良いぞ。身元のはっきりしてる冒険者は規制の対象外だそうだ」

「そーなの? やった、助かった!」


 冒険者はこの世界に置いて、様々な問題を解決してくれる、いわば何でも屋のような存在だ。その出入りまで規制してしまうのは、街にとって自殺行為に等しい。


「じゃあ、入らせてもらうね!」

「すいません……」


 街に入れずに市門の外で屯していた人たちの恨めし気な視線を、シアーシャはまったく気にせず、逆にフェルナは委縮しながら馬車を進め、門を潜るのだった。


 ◇◇◇


「それにしても、強盗かー。どこが襲われたんだと思う?」


 街の大通りを馬車で進みながら、シアーシャはフェルナに尋ねた。

 既に事態は街の住民たちの間に広まっているらしく、大通りを行き来する人はいつもよりもずいぶん少なく、道行く人たちの表情には不安の色が見て取れる。


「街への出入りを規制するくらいだから、よっぽど重要な場所が狙われたんでしょうね。それとも、なにか重要な物が奪われたか……」

「だよねー。まあ、あたしらには関係の無い話だけど」


 などと呑気なことをのたまうシアーシャだが、その考えが間違っていたと気付いたのは間もなくの事だった。


「ちょっと、なにあれ?」


 もうすぐ冒険者ギルドに着くというところで、見慣れた冒険者ギルドの前に人だかりが出来ているのが見えた。後ろ姿から見るに、集まっているのは冒険者たちのようだ。その向こう側、ギルドの正面玄関の前に憲兵が数人、列を為して立っている。冒険者たちがギルドの中へ入ろうとしない所を見ると、どうやら封鎖されているらしい。

 しかも、騎士の姿まである。


「もしかして……」

「襲われたのって、冒険者ギルド!?」


 夢想だにしなかった事態に、フェルナとシアーシャは顔を見合わせて驚いた。

 だが間違い無い。そうでなければ、憲兵が冒険者ギルドの入り口を封鎖している理由が説明できない。


「ウソでしょ~、なんで冒険者ギルドが襲われるわけ?」

「私に聞かないでよ」


 考えてみれば、冒険者ギルドには冒険者への報奨金や依頼料など、常に多額の金が補完されている。それだけでなく、冒険者たちが採取した薬草、魔物の素材や魔晶核(コア)など、売れば高額になる貴重品もごまんと存在している。襲われても不思議では無い。


 だが、冒険者ギルドは騎士団などと違って、国からは独立した機関であるが、魔物が跋扈するこの世界で治安や流通などを維持するのに無くてはならない重要な組織だ。それだけに、冒険者ギルドに対する敵対行為は重罪とされ、場合によっては本人だけでなく、家族や一族郎党に至るまで縁座で処刑される場合もあり得る。

 金欲しさに襲うには、あまりにもリスクが大きすぎる。

 実際、何年も冒険者生活を続けている2人も、冒険者ギルドが襲撃を受けた、なんて話は聞いたことすら無かった。


「でも、困ったわね。あの様子だと、中へ入って報告を、って雰囲気じゃないし。出直すしかないのかしら?」

「シンヤ君たちはどうする? 私かフェルナか、どっちかが村へ戻って報せた方が良いんじゃない?」

「そうね」


 見た感じ、冒険者ギルドは現在、機能していない状態と見て間違い無い。となると、報告して事後の指示を仰ぐ、という当初の目的は達成の目途が立たない。そして、ケミナ村で待機している慎也たちは、当然このことを知らない。なら、2人の内、どちらかが村へ引き返し、そのことを慎也たちに報せた方が良い、と2人は考えた。もう1人は事態が沈静化したのを見計らってギルドに報告する為、街に残る。


「いずれにせよ、冒険者ギルドをいつまでも機能させない訳には行かないだろうから、たぶん、ギルドの封鎖自体は長くとも今日一杯で済むはずよ」

「そうだね。それにしても、嫌な時に嫌なことが重なってくれたわね」


 一刻を争う事態だというのに、無関係のトラブルで足止めされるとはついてない、とシアーシャは嘆いた。


「その前に、なにが起こったのか聞いてみましょう」


 フェルナはギルドからやや離れた場所に馬車を停めると、シアーシャと連れ立って、同業者(冒険者)たちの垣根を掻き分け、正面玄関前に突っ立っている憲兵の前までやって来た。


「すいません。あの、私たち、いま街に帰ってばかりで事情を知らないんですが、なにが起こって――」


 フェルナが憲兵に尋ねようとした時、憲兵の向こう側にいた騎士の1人が、ぎょっとした顔で彼女を見た。


「おい、お前ら、《槍穹(そうきゅう)の翼》だな!?」

「へ?」

「え?」



 突然、騎士に指さされ、2人はびっくりして顔を見合わせた。周囲にいる冒険者たちの視線も2人に集まる。


「そうですけど……」

「ちょうど良かった! おい、イアン団長を呼んで来い! 当事者たちが戻って来た! 使いを出す必要無い!」


 なにやらギルドの中に向かって騎士が叫んでいる。


「騎士団長のイアン様まで来てるなんて、いったいなにが起こってるんですか?」

「それよか、当事者ってなによ? あたしらなんにもしてないよ!」


 訳が判らず、フェルナとシアーシャはますます混乱した。


「取りあえず、お前たち2人は中へ入れ。話が聞きたい」

「話が聞きたいのはこっちよ!」

「シア。とにかく言う通りにしましょう」


 困惑のままに喚くシアーシャを宥めながら、フェルナは言われた通り、憲兵の横を通り過ぎてギルドの中へと足を踏み入れる。


 普段、見慣れたはずの冒険者ギルドのロビーが、この時ばかりはまるで違う場所のように見えた。

 いつもは多くの冒険者と職員のやり取りで喧々囂々としているのに、いまは異様なくらい静かで、当然の様に冒険者の姿は無く、代わりに張り詰めた雰囲気を放つ騎士や憲兵がロビーの中を行き来している。ギルドの職員の姿も見えるが、その表情は一様に暗い。いつも、受付に来ると柔和な笑顔で迎えてくれる彼ら、彼女らとは別人のようだ。


 なにより場違いなのは、ロビー内を満たす、濃い血臭。


 見れば、ロビーの隅に布を被せられた“なにか”が5つ、担架に乗せられて並べられている。布に滲む紅い染みが、それがなんであるかを如実に物語っている。

 その脇で、1人の女性職員――ウィニアが声を殺して泣き崩れ、別の女性職員が彼女の背中を摩って宥めていた。


「5人も……」

「いったい、なにがあったの?」


 状況がさっぱり飲み込めず、フェルナとシアーシャはますます困惑した。


「それはいまから説明する」


 聞き覚えのある声に振り返ると、ギルドの事務所の奥からスアード伯爵の騎士団長であるイアンが歩いて来るのが見えた。


「イアン様。これはいったいどういうことですか?」

「そうですよ! っていうか、この状況と私たちがなんの関係があるって言うんですか!?」

「落ち着け、2人とも。ちゃんと説明する、って言ったろ。それより、君ら2人だけか? シンヤたちはどうした?」

「えっと……いま受けている依頼にトラブルが起こったんです。シンヤさんたちは現地に残ったままで、私たちがそれを報告する為に戻って――って、どうして私たちがシンヤさんたちと一緒にいたことを知ってるんですか?」


 真面目なフェルナは聞かれるがまま説明し出して、途中で気付いた。いま、自分たちと慎也のパーティが同じ依頼を受けて共に行動していることを、何故イアンが知っているのか?

 そもそも、今回の事件と自分たちがなんの関係があるのか?


「取りあえず、最初から話そう。掛けたまえ」


 そう言って、イアンはロビーの一角にあった冒険者の休憩用のソファーを指さした。2人が言われた通り座ると、自らはテーブルを挟んだその向かい側に腰を下ろす。


「見ての通り、冒険者ギルドが何者かの襲撃を受け、当直の職員2人と警備員3人が殺害された。警備員は全員元冒険者。それがいずれも背後から首や心臓を一撃で貫かれて殺されていた。武器を抜く暇すらなかったようだ。犯人はかなりの手練れで、恐らく複数犯だろう」


 引退した元冒険者が、そのノウハウを生かしてギルドや戦闘関連の業種に再就職するのは良く知られている。


「今朝、いつも通り出勤してきた職員が発見し、憲兵の詰め所に駆け込んで来て発覚。襲われたのは昨日の夜半から今朝に掛けて。ギルド内にいた人間すべてが殺された為、犯人やその足取りは不明だ」


 なるほど、とイアンの説明を聞いていたフェルナは納得した。

 街を封鎖した理由はこの為だったのだ。いまだキアナの街に潜んでいるかもしれない犯人を逃がさない為に。


「職員の遺体はいずれも酷い拷問の形跡があった。犯人が職員からなにを聞き出そうとしたのか知らないが、知っていればきっと吐いているだろう。単なる物盗りじゃない。というか、そもそもなにも盗まれていないんだ」

「え? 盗まれてない」


 シアーシャが目を丸くして聞き返した。


「ああ。ギルドの職員に確認してもらったが、現金、冒険者が集めた各種素材など、金になりそうなものはなにひとつ無くなっていない」

「じゃあ、犯人はなんの目的でギルドを襲ったんですか?」

「そもそも、それと私たちがなんの関係があるって言うんです?」


 話が見えず、フェルナとシアーシャは困惑するままにイアンに尋ね返した。


「情報だ」

「「情報?」」


 2人の聞き返す声がハモった。


「ギルド内を調べた結果、奪われた物は無かったが、犯人が手を付けた痕跡のある物がいくつか見つかった。その1つが、これだ」


 そう言ってイアンは、1枚の書類をテーブルの上に置いて2人に差し出した。


 それは、冒険者が達成した依頼に関する報告書だった。

 依頼の内容、ランク、依頼者、報酬額、受注した冒険者名、達成の是非、その過程の経過報告などが詳しく書かれている。


「これって……」

「この前の盗賊退治のやつじゃん!」


 そこに書かれていたのは、紛れも無くフェルナとシアーシャが受注し、慎也たちの助力を得てなんとか達成した、盗賊討伐依頼に関する報告書だった。


 改めて内容を読み返してみると、当初は《槍穹(そうきゅう)の翼》フェルナとシアーシャの2人が受注して討伐に向かったものの、盗賊の規模が事前情報より遥かに大規模で、トロルをテイムしていると判明。増援としてシンヤ・パーティ――シンヤ、ユイ、ユフィアが加わり、2パーティ5名で依頼を達成。盗賊の頭目を含む23名とトロルを討ち取り、1名を捕縛した。アジト内にて盗賊たちが奪取したと思われる多数の武具、魔導具、現金を押収。現金以外は本人たちが所持の上、買い取り待ち――と、そのような内容が書き連ねられていた。


「へー、あたしらが受けた依頼って、こんな感じで報告されてるのね」


 普段、依頼を受ける側の冒険者は知り得ない、ギルド側の仕事内容の一面を目の当たりにして、シアーシャは不謹慎にも若干の感動を覚えた。


「どうしてこんなものを?」

「判らん。ただ、もう1つ、犯人が調べた形跡のある書類が、これだ」


 首を横に振った後、イアンは別の書類を2人に差し出した。


「って、いままさにあたしらが受けてる依頼じゃん!」


 驚きのあまり、シアーシャが大声を上げた。


 そう。それはフェルナとシアーシャが、慎也たちと共に受注している、「オークの調査」の依頼伝票だった。

 そこには手書きで「シンヤ・パーティと《槍穹(そうきゅう)の翼》が受注済み」と書かれている。


「どうやら、犯人の狙いはギルドではなく、君たちだったんじゃないか、と言うのが、私の考えだ。で、調査の為に君たちの元に使いをやって街へ呼び戻そうか考えていた所に、ちょうど良く2人がやって来た、という訳だ」


 ようやく事態の飲み込めた2人は、呆気にとられた顔をお互いに見合わせた。


「で、でも、なんで私たちを……?」

「それはこっちが聞きたい」


 震える声で尋ねるフェルナを、イアンが遮った。


「状況を見るに、これをやったのはプロの暗殺者か工作員だ。おそらく、なにかしら大きな組織に雇われてる。そんな連中に狙われる理由に、なにか心当たりはないのか?」

「そんなこと言われたって……」

「あっ!」


 訳が判らず泣きそうになっているシアーシャの横で、フェルナがなにかを思い出したかのように手を打った。


「もしかして、あの武器と防具……」

「武器と防具? それは、書類に書かれてある、盗賊退治の押収品か?」

「はい。盗賊たちが商隊を襲って奪った物らしいんですが、持ち主が判らない上、盗賊たちが手に入れた経緯が意味不明で……」

「詳しく聞かせてくれ」


 イアンに尋ねられるままに、フェルナは説明した。

 盗賊退治の折、生け捕りにしたテイマーから聞かされた内容を。


 盗賊団の裏にいた、ケイドという謎の男――

 そいつは一時、盗賊たちに罠の設置方法などを指導していた――

 それだけでなく、高価な魔導具まで与えていた――

 そいつの情報を元に、盗賊たちは商隊を大量の武具や魔導具、金品を手に入れた――

 ケイド自身は襲撃の少し前に盗賊団の元から去った――

 後でウィニアから、犯罪者や犯罪組織を援助して、犯罪を助長している人間がいて、ケイドはそいつと特徴が一致する、と聞かされた――


 全てを聞き終えたイアンは、深刻な表情で俯いた。


「犯罪を助長する者……大量の武具……しかも出所不明……」


 なにやら、ブツブツとうわ言のように低い声で呟き始めた。


「犯罪組織……暗殺者……今回の襲撃……武具、大量の……犯罪組織……まさか、あの情報は――」


 突然、イアンの表情が強張った。大きく見開かれた目をフェルナとシアーシャに向ける。2人は思わずびくり、と身体を震わせた。


「その武具はいまどこにある!?」


 怒鳴りつけるような大声でイアンが聞いて来た。2人だけでなく、周りにいた騎士や憲兵、ギルドの職員たちも一様にびっくりしている。


「えっと……シンヤさんが纏めて持っているはずです」

「シンヤはどこにいる!? 一緒じゃないのか!?」

「いえ、いま受けている依頼でトラブルが起こって、それをギルドに報せる為に私たちだけ街へ戻って来たんです。シンヤさんたちはまだ、依頼主の村に残ったままで……」

「すぐに向かう! 案内してくれ!」


 一方的に言うやイアンはソファーから立ち上がり、周りにいた部下たちを見回して――


「表に馬を回せ。マイヤー隊は私と一緒に来い。憲兵本部に使いを出し、街の封鎖は今日一杯続けるように伝えておけ。それと、彼女らが捕らえた盗賊団の生き残りを探して、最優先で身柄を確保しろ。恐らく犯罪奴隷として奴隷商に売られているはずだ。ここの事後処理はラウダに任せる!」


 立て続けに放たれる命令に、部下たちは大慌てで返事を返し、四方へ走り出す。その様子を呆然と見つめていたフェルナとシアーシャだったが、すぐに我に返り、イアンに声を掛けた。


「ま、待ってください。いったいどういうことなのか、説明して下さい!」

「不味い事態だ、と言うことだよ」


 部下に指示を出し終えたイアンが、深刻な顔でフェルナたちに振り返った。


「恐らく君らが手に入れた武具の持ち主は、大規模な犯罪組織か、反政府勢力だ」

「うぇ!?」


 イアンの口から飛び出した恐ろし気な言葉に、シアーシャが変な声を上げた。フェルナも顔を青くしている。


「しかも、連中にとっても相当重要な物なんだろう。それが盗賊に奪われてしまった為、奪還する目的で工作員か暗殺者を派遣した。ところが件の盗賊たちは既に討伐され、武具類は戦利品として持ち去られた後だった。奴らは誰が盗賊たちを退治して武具を持ち去ったのかが判らなかった。だが、盗賊退治は主に冒険者の仕事だから、当然、冒険者がやったのだと判断する。そして、その冒険者を割り出す為に、ギルドを襲ったんだ!」


 イアンの言葉に、フェルナとシアーシャは絶句してしまい、言葉が出なかった。

 だが、確かにそれならギルドが襲われた理由も納得がいく。

 そしてまずい。

 イアンの推測が正しいなら、犯人たちは依頼報告書から、盗賊を討伐したのがシンヤ・パーティと《槍穹(そうきゅう)の翼》であること。そして、現在、ケミナ村でオークの調査に当たってることを突き止めている。


 ということは、犯人たちは、フェルナとシアーシャが街へ戻ったのと入れ違いで、ケミナ村へ向かった可能性が高い。

 冒険者ギルドを襲撃する様な連中が、その後なにをするかは火を見るより明らかだ。


「シンヤたちが危ない。すぐに村へ向かうぞ!」

「は、はい!」

「了解です!」


 ギルドの玄関へ速足で歩き始めたイアンの後を、2人は慌てて追いかけた。

エンジェル・プラネットの方も更新していますので、よかったらそちらもどうぞ。

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