第10話 いただきます
異世界生活2日目です( ̄▽ ̄)V
翌朝、窓から射す朝日と小鳥のさえずりで慎也は目覚めた。
(いま何時だ?)
寝ぼけた頭でそんなことを考えながら、いつもの癖で手だけを動かして目覚まし時計を探しながら、ぼんやりと考える。
(昨日はマジで酷い目に遭ったよなー……せっかくの修学旅行だってのに、米基地のボロレーダーのせいで飛行機は遅れるし、途中で爆発するし、異世界には飛ばされるし、ゴブリンには襲われ……あれ?)
昨日の出来事を思い返しているうちに少しずつ頭が明瞭になってきた。
「ファ!?」
すっかり眠気が覚めた途端、慎也は跳ね起きた。
周りを見回すと、そこは見慣れた自分の部屋ではなく、壁、床、天井に至る全てが木で作られた、飾り気のない質素な部屋。
「そうだ……そうだ、思い出した」
口で喋りながら、心の中であるキーワードを唱えてみる。
ステータス――
それに応えて、慎也の視界に自身の情報を示す立体画面が表示された。
「……やっぱ夢じゃなかったんだな」
そう、自分はいま、住み慣れた日本ではなく、剣と魔法のファンタジー世界にいるのだ。
「なんでこんなことになっちゃったんだか……」
文句を言うべきではないのは判っていた。なにしろ、もし異世界に来ていなければ自分は死んでいた。火を吹いた飛行機と共に、空で盛大な花火になるか、落ちて海の藻屑になるかだった。
自分を異世界に連れてきてくれたなにかに、感謝こそすれ、文句を言うのは間違っている。
「まあ、いまさら悩んでも仕方ない、か」
気合を入れるように、あるいは情けない自分を戒めるように両頬をパチンと叩くと、布団、あるいは布を退けて立ち上がり、残った眠気の残滓を払うように大きく背伸びをしてから部屋を出た。
部屋の外――台所ではすでに慎也以外の全員がそろって食事の準備に勤しんでいた。
「あ、シンヤさん、おはようございます」
真っ先に慎也に気付いて挨拶してきたのは、テーブルの上にせっせと皿を並べているユフィアだった。
「やあ、おはよう、シンヤ君。よく眠れたかね?」
続いて湯気を湛える鍋を運んで来たウィルが優し気な声を掛けて来た。
「おかげさまで」
異世界に来たばかりで右も左も判らない自分たちを拾ってくれた、心優しい娘とその祖父。命の恩人。 この2人にはホントに頭が上がらない。
「慎也君が一番お寝坊さんだよ?」
と、ころころと笑うのは、共にこの世界に飛ばされ、ウィルたちに保護された同級生の少女、風美結衣だった。が、この世界では平民は家名を名乗れないので、いまはただの結衣だが。
彼女の言葉に少々むっと来た慎也は言い返すことにした。
「昨日は重たいものを背負って何時間も歩き回ったからな」
「ひどいよー」
頬を膨らませて遺憾の意を示す結衣。とはいえ、彼女自身、怪我をして歩けなくなっていたのを彼に運んでもらったので文句は言わない。
「それじゃ、ちょうど全員揃ったところで、朝食にしようじゃないか」
見れば、さして大きくないテーブルの上には、スープやパン、野菜の煮つけと言った料理が並んでいる。
ウィルの言葉で4人はそれぞれテーブルに付く。そこで慎也と結衣は再度驚かされることになった。
「「いただきます」」
ウィルとユフィアが両手を合わせ、祈るような格好でそう言ったのだ。それはまさに、慎也たちの見慣れた、食事をする前の日本式の挨拶だった。
「どうしたのかね?」
「あ、いえ、いまの「いただきます」っていうのは……」
「ああ、この国の風習みたいなものです。食物になった命と、作ってくれた料理人に感謝を捧げるという意味らしいです」
と、ユフィアが笑顔で説明してくれた。慎也たちの知る日本の常識そのものだ。
「ってことは、食べ終わった後は「御馳走様でした」って言うの?」
「そうです。御存知なんですか?」
きょとんとした顔でユフィアに聞かれて慎也は苦笑した。間違いなく初代国王――一条悠真の仕業だろう。
「知ってるもなにも、これって私たちの世界の風習だよ」
「そうなんですか!? ということは、王祖様が?」
「たぶんね」
もっとも、彼以外にも過去に大勢異世界人はいたそうだから断定は出来ないが。
「まあ、それはともかく、冷めないうちにいただこうじゃないか」
「そうですね」
せっかくユフィアやウィルさんが作ってくれたものを冷ましてしまうなど、それこそ食材や作ってくれた人への冒涜だ。
「「いただきます」」
意外な形で日本文化を目の当たりにした慎也と結衣は、日本人らしく感謝の祈りを捧げてから朝食に手を伸ばした。
◇◇◇
「さて、2人に渡したいものがある」
朝食を食べ終わり、食器を片付けた後、ウィルがそう言って家の倉庫から持って来たものをテーブルの上に並べた。
「これって、刀と杖……それに、銃ですか?」
慎也の言う通り、ウィルがテーブルの上に置いたのは、一見すると日本刀と、先端に握り拳大の青い宝玉の埋め込まれた木製の杖。そして、拳銃のような物だった。ような、というのは、慎也の知っている地球の拳銃とはかなりデザインが異なっており、どちらかと言うと、SF映画の光線銃のような形をしていたからだ。
「その通り」
ウィルは頷いて続けた。
「わしが若い頃、冒険者をしていた時に手に入れた物でね。使わなくなってずっと倉庫にしまっておいたんだが、君たちに渡しておこうと思ってね」
「いいんですか?」
結衣も目を丸くして驚いた。
「構わんさ。刀と銃は<刀術>と<射撃>スキルがあるシンヤ君が使いなさい。杖はユイ君が使うといいだろう」
「え? <射撃>スキル?」
抑揚に頷くウィルの言葉に、ふと気になるワードがあるのに気付いた結衣が、訝し気な目を慎也に向けた。慎也も、ぎくりと身体を固くした。
「スキルって、私たちが元の世界で培った技術が元になってるんだよね? <射撃>スキルって、慎也君もしかして、銃を撃ったことあるの?」
「……ある」
「ええ!? それって違法だよ?」
「日本では犯罪だったけど、アメリカじゃ銃なんか珍しくもなんともないし、射撃場とかなら子供でもフツーに撃てるんだよ」
「アメリカ?」
「オレは一時、アメリカに住んでたことがあったんだ」
「ええ!? なにそれ、聞いてないよ?」
「言ってないからな。って言うか、言うほど親しくもなかったろうが」
2人は同じ学校の同学生でこそあるが、同じクラスになったことが無いせいか、この世界に来るまでほとんど会話したことも無かったので無理からぬことだった。
なのだが、結衣は何故か恨めし気な目で慎也を見て――
「……アメリカに住んでたってことは、英語ペラペラ?」
「そりゃ、日常会話程度ならな」
実際、アメリカという英語の本場に住んでいたせいか、否が応でも英語に慣れ親しむしかなかった慎也は、学校の英語の成績は学年トップで、テストでは90点以下を取ったことが無かった。
(そう言えば、英語のテスト0点取った、って言ってたっけ)
昨日、ウィルからスキルに関する説明を受けた時、結衣がボソッとそんなことを言っていたのを思い出した。
うー、っと羨まし気な、憎らし気な結衣の視線から逃げるように目を反らした慎也は、テーブルの上の銃に視線を移した。
「この銃、オレの知ってる――向こうの世界の銃とはだいぶ形が違うみたいですけど……」
「これは魔法銃だよ。所有者の魔力を弾にして発射する武器さ」
「おお、魔法銃!? 中二病っぽい!」
一瞬で機嫌を直したらしい結衣が、良く判らないことで喜んでいる。
「そして、この刀はイクサと言ってね。一応、名刀の類に入る一品なんだよ。実際に抜いてごらん?」
(戦?)
日本、というより戦国っぽい名前に興味を引かれながらも、言われるがままに慎也は刀を手に取って、少しだけ抜いてみる。
鞘から露わになった刀身を見た瞬間、慎也の背筋にゾクリとした悪寒が奔った。元の世界でも『親』に連れられて何度か真剣を見たことがあるが、このイクサという刀は日本のそれとは違うと言うか、得体の知れない”なにか”を感じさせる迫力があった。
日本刀に関する知識がほとんど無い慎也でも、これが単なる鈍らでは無いことははっきりと理解できた。
「これ、凄く良い刀だと思うんですけど、ホントに頂いていいんですか?」
さすがに不安になってウィルに確認してみる。
「構わないとも」
が、ウィルは笑って頷いた。
慎也はイクサを鞘に納めると、改めてウィルに「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ユイ君は、魔法が使いたいんだったね?」
「はい」
「だったら、この杖はちょうど良いだろう。『精霊樹の杖』と言って、魔法が使えない人間でも、持っているだけで初歩的な攻撃魔法を使えるようになる。それと、少しだが魔力値が上昇する効果がある」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
魔法が使えるようになると聞いて、結衣は満面の笑みで、文字通り飛び上がるほど喜んでいた。
「この世界は、魔物と言う人外の怪物が至る所で人々の平穏を脅かしている。ここみたいな辺境では特にね」
「はい。オレたちもゴブリンに襲われましたし……」
つい昨日経験した、生まれて初めて経験した殺し合いを思い出し、慎也はぶるっと身体を震わせた。
「襲って来たのがゴブリンだったのは幸運だった。奴らは知能こそ高いが、力は子供程度で、しかも臆病だからね。この森だけでも、いまの君たちには手に負えないような魔物が多く生息している」
それを聞いて思い出したのは、この世界に来て最初に見た、あのワイバーンっぽい生き物だった。
「あの、不思議に思ってたんですけど、ウィルさんとユフィアちゃんは、そんな危険な森の中で暮らしていて危険は無いんですか?」
結衣の疑問はもっともだ。常識的に考えて、ゴブリンやそれ以上の魔物が徘徊している森の中の一軒家が安全とは思えない。
「ここは魔除けの結界で守られてますから、森の魔物たちはここへは近づきません」
ユフィアが笑顔で疑問に答えてくれた。
「へー、そんな便利な物があるんだね」
「おっきな町や村などは、大抵は結界が設置されています。ただ、安全なのは町や村の周囲だけで、街道などには効果は及びません。もちろん、強い魔物なんかは結界が通じないものも存在していますので、確実に安全とは言いきれませんが」
「だからこそ、ここで生きていくには、武器と、それを扱う力が必要なんだよ。判るね?」
有無を言わさぬウィルの言葉に、2人はそろって「はい」と答えた。
毎日更新はここまで。次話からは数日置きに更新していく予定です。不定期ですが、最低でも週一で更新していきたいと思います。
「異界の刀銃使い」が1000PVを超えました。読者の皆さま、今後ともご愛読よろしくお願いします。




