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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
始まりの章
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第1話 是非も無し

太公望の第二作目です。楽しんで読んでいただいたら幸いです。

 彼――剣崎けんざき慎也しんやの耳に最初に届いたのは、小鳥の鳴き声と風に揺れる葉の音だった。

 それを切っ掛けに、ゆっくりと意識が覚醒していく。

 薄っすらと目を開けると、覆い茂る木の葉と、そこから洩れる木漏れ日が見えた。


(森……)


 漠然とした単語が呆けた頭に浮かぶ。


(あれ? オレ、なんで森の中で寝てるんだっけ?)


 眠気で半ば呆けたままの頭で記憶を探る。

 そして、思い出した。


「ファッ!?」


 瞬間、眠気が一気に吹き飛び、その場で跳ね起き、慌てた様子で辺りを持回すが、どう見てもどこかの森の中だ。木と雑草、あるいは知らない花。しかも自分が座っているのは、床どころか舗装すらされていない剥き出しの地面。


「どこだ、ここ!? なんでオレ、こんなとこで寝てるんだ!?」


 訳が判らない。こんな場所に来た覚えが無いのだ。


「確かオレ、学校の修学旅行で沖縄に行ってたよな?」


 もう一度、努めて冷静に記憶を振り返る。


 中学校の修学旅行で、慎也は学友たちと一緒に2泊3日の予定で沖縄に来ていたはずだった。楽しかった旅行の最終日――日程の全てを終え、後は飛行機で東京に帰るだけというところでトラブルが起こった。沖縄のアメリカ軍基地のレーダーのトラブルとかで飛行機の出発が遅れ、何時間も空港で待たされた挙句、ようやく飛行機に乗れた時には外は暗くなり始めていた。


 旅行の疲れと、空港で長時間待たされた疲れが合わさり、機内で慎也を含む生徒たちはほとんどが自分の席で眠りこけていた。

 出発からどれくらい経っただろう。

 ()()は突然やって来た。


 それまでは何事も無く静けさを保っていた機内で、突然爆発音が轟き、機体が激しく揺れた。飛び起きた慎也が見たものは、翼の下にある飛行機のエンジンが真っ赤な炎を噴き出しているという、これ以上ないほど絶望的な光景だった。


「もはやこれまでか……」


 阿鼻叫喚の地獄と化した機内で、慎也は酷く冷静に運命を悟り、そして全てを諦めた。


「せめて49歳までは生きたかったな……」


 それは慎也にとって特別な年齢だった。彼が最も尊敬している人間の享年だったからだ。彼も降って湧いたように訪れた不運に見舞われ、炎の中で命を落としたと言われている。


「彼もこんな気分だったのかね」


 そうぼやいて座席に身を沈め、そっと目を閉じた。 


 そこで慎也の記憶は途切れている。

 気が付いたら森に中で寝ていた。


「いったい、なにがどうなってんだよ?」


 状況が飲み込めず、慎也は頭を捻った。

 考えられるのは、飛行機が墜落、あるいは不時着する際に機体から投げ出されたという可能性。


「いや、無いな」


 即座にその可能性を切り捨てる。

 飛行機の墜落ないし、不時着と言うものはそんなに甘いものではない。もちろん慎也は飛行機の墜落というものを経験したことなど無いが、ニュースの映像でなら何度か見たことがあった。

 自分が生まれるずっと前に起こった飛行機事故。山に激突して粉々になった飛行機の残骸や焼け爛れた山肌の画像をネットで見たことがある。仮に不時着に成功していたとしても、機外に投げ出された人間が無事で済むはずがない。なのに、実際、慎也の身体には傷のひとつもついていない。痛みはおろか、服には汚れすら無かった。


 飛行機から投げ出されて無傷というのは、常識的にはあり得ない。


「それとも、死んだかな?」


 もうひとつの可能性――それは、自分は飛行機の墜落、あるいは空中爆発で死んで、ここが死後の世界ではないか、というものだが。


 慎也は自分の頬を抓ってみた。普通に痛い。

 胸に手を当てて見る。心臓は動いている。

 頭の上を見上げて見る。輪っかは無い。

 足元を見る。ちゃんと足はある。


「うん。生きてる」


 少なくとも死んではいないということははっきりした。


「じゃあ、ここはどこなんだよ?」


 結局最初の疑問に戻ってくる。


 ここはどこなのか? 

 なぜ自分はここにいるのか? 

 他の皆はどうなった? 

 飛行機は?


「そうだ、スマホ!」


 現代人の必須アイテム、スマートフォン。

 困ったときは大抵のことならスマートフォンが解決してくれるはず、という慎也の考えは甘かった。


「圏外か……」


 アンテナがまったく立っていなかった。これではなんの役にも立たない。

 唯一の例外は時計だけ。それによると、現在は慎也たちが沖縄を発った翌日、午前9時頃となっている。


(オレの記憶が確かなら、飛行機が離陸したのが午後7時前。事故が起こったのは、それから割とすぐだった。となると、あれから13時間以上過ぎてるわけか)


 飛行機事故ともなると世間を揺るがす一大事だから、今頃警察か自衛隊が大々的に捜索を行っているはずだ。


(時間的に見ても、飛行機がトラブルを起こしたのは海の上だったのは間違い無い。じゃあ、ここはどっかの島か)


 無人島じゃなきゃいいんだけどな、などと考えながら、慎也は大きく息を吸い込んだ。 


「おーい! 誰かいないかー!?」


 大声で叫んでみるが、返事は無い。

 

「……是非も無し」


 ここでじっとしていても仕方が無いと思った慎也は、仕方なく自力で人を探すべく歩き始めた。


 鬱蒼と覆い茂る草木を掻き分けながら進むこと2時間余り。慎也が森の中で最初に見つけたのは川だった。切り立った崖の下を流れる比較的大きな川。


「み、水……」


 長時間の森の散策で喉がカラカラに乾き切っていた慎也にとっては、まさに恵みの水だった。手で水を掬っては飲み、掬っては飲みを何度も繰り返し、乾き切っていた喉を潤す。


「ふぅ……」


 喉の渇きを癒した後、改めて慎也は自分の置かれた状況を考えてみる。


「これだけ探して、なんでなにも見つからないんだよ……」


 2時間以上も森の中を彷徨い、何度も声を張り上げて叫び続けたというのに、誰も、なにも見つけられなかった。

 あり得ないことだ。

 飛行機が爆発したにしろ、墜落したにしろ、不時着したにしろ、痕跡が残らないはずがない。木や岩の乱立する森林の中に飛行機が不時着してタダで済むはずが無い。不時着自体がうまくいったとしても、下手をしたら木や岩にぶつかって機体がバラバラになることだってある。


(なのに、これだけ探しても、金属片ひとつ見つからないなんて、おかしいだろ)


 理屈に合わない。

 飛行機に乗っていたはずの自分が無傷で森の中に倒れていたこと。

 どんなに探しても、痕跡も、飛行機も、破片も、生存者も、死体も見つからないこと。


(いったい、なにがどうなってるんだ)


 答えの出ぬ疑問に慎也が頭を悩ませていた、その時――


「わああああああああ!!」


 突然、甲高い悲鳴が頭上から聞こえてきた。驚いて顔を上げると、崖の上からなにかが落ちてくるのが一瞬見えた。が、慎也が良く確認する前に、そのなにかは盛大な水飛沫を上げて川の中に転落した。


「いまの、人か!?」


 慌てて助けようと川に入りかけた慎也だが――


「ぷはっ!」


 幸いにもすぐに本人が浮きあがって来た。


「失敗失敗」


 どことなく呑気な言葉を口にしながら水面に顔を出しているのは、慎也と同じ年頃の少女だった。

 ショートカットの灰色の髪に、まだあどけなさの残る顔立ち。美人と言うよりは可愛らしいと言った方が良いだろう。


「あ、やっぱり人がいた!」


 慎也と目が合うと、少女は嬉しそうにそう言ってこちらに向かって泳いでくる。泳ぎが得意なようだ。足の着く浅瀬までたどり着いたらしく、首から下が露わになる。少女は慎也と同じ学校の制服を着ていた。顔は知らないが、同級生だ。

 やっと人に会えた。自分以外にも生存者がいた。しかも同じ学校の生徒。

 何時間も一人で森を彷徨い歩いていた慎也にとっては喜ぶべきことだった。それは良かったのだが、取りあえず喜ぶ前に、慎也は岸に上がって来た少女から目を反らした。


「あれ? どうして後ろ向いちゃうの?」


 気付いていないらしい少女が不思議そうに問いかけてくる。


「自分の服を見ろ」

「?」


 後ろを向いたまま慎也が言うと、少女は頭に疑問符を浮かべたまま自分の身体を見下ろした。


「わ! わわっ!?」


 そこでようやく気付いた。

 なにしろ、夏の沖縄に修学旅行に行っていたのだ。当たり前だが暑い。着て行く制服は薄手の夏服だ。特に女子生徒のそれが川に落ちて全身ずぶ濡れになったらどうなるか。

 当然、濡れて身体に張り付き、下着までが丸見えになっている。


「えっち」

「オレのせいか?」

ネタバレですが、異世界転移物です。よろしくお願いします。

サブタイトルは基本的に作中の登場人物のセリフとなっていますのでご了承ください。

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