【2】其の双、絢爛のまま翔けることなかれ④
〔4〕
絢信は、瞬時に飛ばされ、乗客の奥の壁に激突する。この光景を目の当たりにした翔太は、眼を丸くした。
第二位を飛ばしたのは、凍結され、動かない筈の大稀の左腕。その左手から放たれた『気功術』である。
「殺す、殺してやる、富士原絢信!!」
気功術とは、相手を触れずに吹き飛ばしたり、操ったりと出来る、中国古来の武術の一つ。様々な武術を持っている大稀にとって、絢信は科学に頼るだけの弱者と考えていた。しかし、今回初めて討ち合ったことで、強者であることを理解し、諦めかけていた。それを復活させたのが、知能が良すぎる絢信が起こした行動、真犯人の推測。これは、何故脅されている理由を考えもせずに言葉を放ったのが原因である。
大稀は負傷している眼鏡に突進する。が、同時に誰かの蹴りが入り、偽主格は反対側に後進する。
蹴りの正体は、元野時文が認める超逸材、坂巻翔太であった。
坂巻翔太専用装備『超筋変換装置』、正式名称、脳波再成超高速瞬時筋力強化制御変換装置の能力である。
この装置は、脳波から収集した情報で操作が行われ、発動しすれば、四肢の何れかに、相手の肉体に直撃するその一瞬で、筋力を倍増し、攻撃に利用する。又、素早く移動したい際には、両脚を走り出しと同時に、筋力倍増を行い、約一キロメートル程まで跳べる。この筋力倍増の持続時間は、一秒にも満たないが、これを持続されることが出来れば、高層建築物一棟を片手で持ち上げることの出来る超人になることが可能である。
翔太の場合、元々身体能力が高かった為、上手く使えている。この装置は、周りからは見えないが、腰に輪のような物がはめられており、それは腰で隠されているだけの話である。
「貴方は、人を殺してはいけない。本当にこんな犯罪など犯したくはないのに、無理矢理、殺らされて、殺してしまったら、脅されていようとも関係は無い。貴方は、紛れも無い重犯罪者になってしまう。」
「俺は、あの糞野郎を殺したいだけなんだ!!そこを退け!!」
立ち上がり、威嚇する。その発言に、翔太は重い顔をする。
「退かないのなら、二人まとめてブッ殺―」
「殺すってどういうことか、分かっていますか、理解していますか。」
真剣な眼差しに、力を込め、握られている手。普段、厄介目立っている翔太とは別人のように冷静沈着である。
「相手の生命を奪い、これからの人生も盗り、何より苦痛を与える。殺すとは、そういうことなんです。貴方の大切な人が殺されたとしましょう。その仇討ちをし、大切な人の殺人犯を殺したとしたら、貴方もまた同類の人間だ。本来ならば、相手が犯罪者でも、刃を入れ、弾を撃ち込んではいけない。」
「だったら、アンタ等刑事は常に罪を犯しているということになるぞ。罪を犯すということは、犯罪者になることと同様。刑事は全員、犯罪者だと言ったんだな、自身が刑事という職務に就いているのに。」
「人を殺せば罪であり、人を殺そうとすることすることもまた罪である。つまり、貴方は僕達と同類ということです。」
「なっ!?」
「僕は、善と悪では、無い、中立から、僕達と同類になる人々増やしたくはありません。ですから、少し大人しくして戴きます。」
その直後、大稀の身体が急激に脱力を始める。超逸材の手に、何かがはめられている。
翔太の得意とする術は、剣術だけでは無い。彼は、毒、特に神経毒への関心が高い。翔太は、かの有名な神経毒研究者、東京大学シアトル支校名誉教授の八賀将大教授の門下生である。八賀教授研究成果全てを注ぎ込み、完成させた武器がある。
坂巻翔太専用術毒『暗毒気妨』、正式名称、無動力再成甲手型中枢神経毒気体流用放出機である。神経毒の種類は、クロロホルム。これを気体化し、特定の相手だけにそれを吸引させる機能を使い、気絶、殺害する。
翔太は、長袖の下に隠しておき、即座に直よう出来るよう、工夫している。
大稀は終に気絶し、催眠に掛かっている。
旅客機は安全に、平和の父が眠る地へと降りたって行く。