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東京兵甲  作者: 暗山巧技
[1] 頼みの首謀者と其の傍ら、慥かに死す
8/9

【2】其の双、絢爛のまま翔けることなかれ③

〔3〕

その拳を繰り出すのは、大日本東国が誇る、最強の武闘家にして、最強の人間と畏怖される。名を、霍川大稀。彼の殴打(ストレート)は、人間の肉体を軽く屠れ、人類の到達点とも謂われる。

―がしかし、それは生身の状態の話である。彼の力を圧倒する、技術的な物を身に付けた者が決すれば、話はまた別である。

地球生誕のその時から、『重力』という力が存在する。重力は古来より、我々人類によって研究され、(いま)となっては、人工的に重力を発生させる装置まで存在する。

大稀の拳は、絢信の顔面直前で止まった。拳はその状態から前に進めず、退けなくもなっていた。超小型化され、上限が九千八百ガル、九十八メートル毎秒毎秒もの重力を、半径三十メートル以内の物体、気体に自由な方向から掛けられる、重力発生装置がある。

富士原絢信専用装備『重力制御装置(ノン・グラビティ)』、正式名称、無動力再成甲手型超軽量重力制御変換装置である。

絢信がはめていた手袋的な物は、これであった。大稀の水平方向に重力を掛けることによって、拳は一瞬にして勢いを失うと同時に、反対方向からの重力の影響によって、腕、体全体が動作を封じられる。

「死ぬ選択をするのか、霍川大稀。今直ぐこの場から降りるなら、許す。」

「武士が抜いた刀を仕舞うとでも思っているのか。まあ、米人の血が入った奴には、解るはずも無いな。」

「古代日本の掟を、今になって出すな。我々が生きているのは、世界的(グローバル)な時代だ。そんな古臭い準則何ぞ、関係無い。自身の生命(イノチ)を第一に考えろ。」

「アンタみたいな奴が増えたから、大和魂が引き継がれないんだ。日本の血の入っていない、第一位(ファースト)の方が、よっぽど解っている。彼奴にも負けないように、きちんと()り合え、第二位(セカンド!!」

そう言って、絢信の掛けていた重力を、その馬鹿力で振り切った。

大稀は距離をとり、背後に置いてあった、機械的な鉄塊鞄(アタッシュケース)を手に取る。指紋認証型の押下切換(ボタン)に指を乗せる。

その瞬間、鉄塊鞄(アタッシュケース)から収納された鎧が、大稀を覆う。強化外装である。

霍川大稀専用強化外装『青場魂閣(キュアノエイデス)』。この強化外装に備えられた能力は、理想超能力十一選のうちの一つ、『借力』である。

借力とは、大きな力を自身の身体に重ね合わせる能力。この借力と大稀の元来持つ絶対的力が合体すれば、金鉱石(ダイヤモンド)を拳で割れる、魔王と化す。

そもそも強化外装とは、所謂、補助部品(パーツ)である。筋力強化、硬皮造成など、それぞれによってその性能は違ってくる。

絢信が重力制御装置(ノン・グラビティ)から最大出力で大稀の上方から重力を掛ける。が、大稀はその重さ全く感じさせず、絢信に近づいて行く。

常人が此れを喰らえば、身体が潰れていてもおかしくはない大質量の力である。

それでも、絢信は冷静さを欠かず、抜いた拳銃の引き金を数回引く。

しかし、弾丸は見えない。それが、世界第二位の最終兵器である。

左肩の内側から凍結し始め、左腕を行動不能にしてしまった。

富士原絢信専用拳銃『第五型・叛逆凍夏』の能力である。

抜いてあった拳銃は、凍結の力を有し、それを人の眼には映らない不可視光線状にし、放つことで、相手が知らぬ間に凍らせることが可能となる。この凍結能力は、陽子(プロトン)凍結の応用で、動力源である『陽子雷圧(プロトン・ボルト)』を一発に集中させ、撃った際には、一瞬で大都市を極寒地獄に変えられる。その凍結を解く為には、炎上の力を持つもう一方の拳銃で溶かさなければならない。

凍結を解こうと必死に足掻き、砕こうとしても、砕けない。

「さっさと馬鹿なことは終わりにしろ、霍川大稀。貴様は不本意で、俺に歯向かっている、誰かに(おど)されて。俺は犯罪者に手を染めたくは無い人間に対して死を要求する悪魔ではない。むしろ歓迎する天使だ。特に、力が強く、正義感がある人間をだ。貴様は、それに値する。大人しく投降すれば、命の保証はしてやる。が―」

直後、端にいた取り巻き達に負荷のある重力が掛かり、膝を曲げ、手を床につける。

「お前ら取り巻き共は、拘束させてもらう。少し前から不思議だったんだ。何故、主格様の配下にある筈の取り巻き共が、主君を睨んでいるのかとな。答えは簡単、お前らの本当の主君が、この偽主格を(おど)し、首謀者に仕立て、譬え航空強奪(ハイジャック)に失敗しても、真犯人を察知させない為。良い考えだと、お前らは思っているかもしれないが、俺ではない現職刑事でも推測出来る思考(レベル)だぞ。罪の無い一般人を巻き込み、挙句の果てに、より多くの人間を死に追いやろうとする。外道中の外道だな。おい、坂巻、束ねろ。」

「は、はい。」

翔太は、自身の背負鞄(リュックサック)から、三本の小型の黒色鉄棒を手に、取り巻きの腕と足を縛り、通路の後列側に固まらせる。その黒色鉄棒は、大北米合衆連合国開発の、『全身錠(イト)』である。

この全身錠(イト)は、古来中国の武器、双節棍(ヌンチャク)の応用。両柄を引っ張り、中から常人の数十倍の筋力でも裂かれない糸状の炭素繊維(カーボンファイバー)が二十メートル程出る。これを使って、犯人の拘束をする。しかし基本、刑事は管轄内にしかおらず、その殆んどを殺害してしまう。ので、使用する機会が非常に少ない。

大稀の身体の凍結は、首全体、そして体内臓器にまで届こうとしていた。

首が凍結すれば、呼吸困難から呼吸不可へと状態を変化させ、藻掻き苦しむ。臓器は活動を停止し、やがて死に至る。

そんな状況の打破の方法は唯一つ。帰状することだ。

だが、大稀は、絢信の起こした行動に、怒りを覚えていた。それが、彼を奮迅させる、起爆剤となってしまったのだ。

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