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東京兵甲  作者: 暗山巧技
[1] 頼みの首謀者と其の傍ら、慥かに死す
5/9

【1】斯くなる上は、劔を持って罪人を斬るべし⑤

〔5〕

二千百九十六年十二月十七日、午後零時五十四分。俺は風呂で、休息中に掻いた汗を流し、昼食を済ませた。「これから来る住民って、何しに訪れるんだ、椿。」

「さぁ...警部に何か言いたいことがあるとかで来られると、認知しています。」

「そういうのあまり無いっすよね、普段。少し嫌な予感がしますがね。」

基本、我々刑事は、管轄内住民との交流は殆んど無い。

「そういえば、楓って何処に行ったんだ。俺を看病してくれて、彼奴の部屋出た時から見てないのだが。」

「あぁ...さっき『六牙の馬鹿ァァァー』と叫んで外へ走って行きました。まぁ、何処にいると聞かれれば、言うまでも無く、あそこですよ。」

「俺は何故、そんなことを言われなければならない。」

「それは、六牙さんが楓の想いに答えてあげないからであります。」

恋愛とは、人間の持つ理性を揺さぶる感情的な感情である。此れこそ無ければ、人間ではない。無論、動物でもだ。この感情によって、人間は自分にとって不利益であっても、行動を起こし、その行動にも不合理な点が少なからずある。機械に、そんなものは存在しない。常に自分の利益を考え、無駄を省き、合理的に物事を進める。

だが、それでは進化をすることが出来ないのだ。不必要なものを全て除くことで生まれるのは効率だ。進化に必要なのは、効率ではない。要求されるのは、様々な種類の複雑な感情であり、機械には無いもの。

だからこそ、俺は人間の持つ不利益、不合理、不必要な行動を好むのかもしれない。

「楓は、俺にどんな想いを抱いているのかが分からないのだ。」

「そこからっすか...」

日本人の考えていることなど理解出来る訳無かろう。人間の考えている自体、解らないのだから。

この和やかな雰囲気に突如として、来客の鐘が鳴った。俺に話がある民、どんな奴なのだろう。

椿が言っていたように、楓は班署の玄関で

独り、蹲っていた。来客に気付いた楓は、扉を開け、一階にある応接室へと通す。

その来客と対面した。第一印象は、老けた親父系人物。身長百七十六センチメートル、推定年齢六十四歳、推定体重八十一キログラム、軍隊訓練経験有り。印象通りのオッサンである。

「初めまして、私は大黒中沿という者です。」

「此方こそ。自分は、特殊警察刑事第九班班長、逆戟六牙です。」

欧米式の挨拶、握手をして、自分に名を上げる。今の日本では、普通のことである。御互い、重毛椅子(ソファ)に腰を降ろす。

「今回は、大黒さんの方から自分に申し上げたいことがあるとかで。」

「はい。実は最近、私の息子が殺されまして。」

「成程、殺人犯の捜索願いですか。御伺いします。」

「息子の名は、大黒験似、三十一歳。東京三区在住です。」

俺は、紙のメモ帳を取り出し、大黒氏の話す必要事項をまとめ、殺人犯捜索の為の、依頼書の作成を試みた。

「拝聴致しました。これから元野時文関東地方管轄長に届け出ますので。」

「はい、有難う御座います。それより、刑事さんは、私の息子の名前に聞き覚えは無いですか。」

「残念ながら、自分にはその様な御名前は、記憶に御座いません。」

この一言を聞いた、依頼者は、鬼の形相に変貌した。

「何だと...ふざけるんじゃない!!」

怒鳴り声が、部屋中に響き渡る。声が大き過ぎて、鼓膜が破れてしまいそうなくらい(デカ)い。

「そう言われましても、自分にはそんな名に聞き覚えはありません。自分にどうしろと、言っているんですか。」

「私の息子は、お前に殺されたんだ!!三日前の事件でなぁ!!自分(オマエ)が殺した人間の名前も覚えていないのか!?」

「三日前の事件は、自分の班の管轄内で発生しました。別にその犯罪者達の名前を覚える義務はありません。」

「冗談じゃない。貴様みたいに人の死を悼まない奴など、刑事失格だ!!」

その言葉が耳に入った瞬間、人間側の感情が機会側の理性を押し退け、燃え盛り始めた。

「今、何と言った。」

「貴様は刑事失格だと言ったんだ!!」

「刑事が失格になるのは、特殊警察刑事法に記載されている法令に違反時だ。特警法は、俺はいつも気にかけ、厳守している。多くの者は違反してしまう可能性が、俺は違う。特警で四年も刑事やってるんだ。貴方みたいな住民如きが、現職刑事に軽々しく刑事失格と言うもんじゃない。」

敵意が芽生える。こういうのは、情報提供局(マスコミ)と同じだ。何も知らず、知っていたとしても物事の解決策など考えず、只々批判する野良犬。こんな奴に、一生懸命働いている俺達に対しての侮辱発言をされたら、一体誰がこの世界の平和を維持するのか。

「くっ...とにかく、私は息子の遺体を引き取りたいのだ。これは親として当然の権利、いや義務だ。」

「申し訳ありませんが、多分貴方の息子さんは既に処理され、国営病院機関移送されているはずだ。」

「嘗めるなよ...幾らお前等刑事が様々な特権を持っていようとも、そんなことは出来ない。ある意味の人権侵害だ!!」

特殊警察法犯罪者事項第二条、重犯罪者人権剝奪及びその親族の保護権利剝奪。大日本東国に於ける重犯罪を犯した者に人権など無い。そしてその親は保護権を失う。」

「相手が重犯罪者だったら、何をしてもいいというのか!?」

「その通り。別に国家権力を盾に、横暴に使い振り回したいというわけではない。この国の平和を取り戻すためだ。」

「平和の為だったら、人権を剝奪してもいいのか!?まるで独裁国家だぞ!!」

俺は立ち上がった。此奴の言い分は、何もかもが間違っている。「人間は、他所(よそ)で起こっている事は、他人事だと思って、真に受けない。けれど、それが自分に回ってくると、何故自分はこんな目に遭わなければいけないんだと喚く。それも解らないどこぞのオッサンには言われたくないな。」

「日本の雇われ刑事の分際で...お前を裁判所に訴えてやる!!人間の死を悼まない、非道な奴だとな!!それに勝訴して、私がこの腐った日本を動かしやる!!」

「日本を変えたいのなら、特殊警察という機関を創り出した大日本東国政府を訴えろ。そうでもしないと、貴方の云う理想は実現しない。そしてこの国が創設した特警は誤りだったと言え。そうすれば、どれほど特警が日本にとって重要であったことが解るはずだ。」

俺の論破と共に、目の前のオッサンは黙り込んだ。

それからというもの、オッサンは燃え尽き、班署を去っていった。久しく、この脳機能(かんじょう)を忘れていた、相手と言い合い、争い合う闘争心を。

「結局、あの方は何をしたかったんでしょうか。」

「さぁな。俺を只、ぶちのめしたかっただけじゃないか。だが、結果はひっくり返った。見事に論破されたからな。」

「―怨みを持っているってことっすね。息子が六牙さんに殺されて。けど、それってその息子さんが犯罪集団に入ってからっすね、死んだのは。意味不明っす。」

何をしたかったのか、そんな無意味な論議をしたとして、変わることは何も無い。

二時間後―俺はある者の迎えに新国際第五東京空港に向かった。班署から直線距離で、十九キロメートルあるこの空港までは、そう遠くはない。飛行機動装置で行けば、五分も掛からないが、ここは敢えて車で行く。何しろ、相手は俺にとって最も煩く、厄介な奴だからだ。苦手なタイプだと言ってもいい。

最近の空旅は、活気付いてる。第三次世界大戦後、二千百六十八年から海外への渡航が、一般に解放された。だが、その一年後、ロシア連合モスクワ国際空港に向かっていた日本航空便が日本海に面している中国本土より、推進式爆弾筒が放たれ、着弾、水面へ不時着し、全乗客乗員三百七十五名が死亡した。これ受け、二千百七十九年まで、国際便は一年に数回のみとなった。今は、大日本東国航空陸軍の空中停止可能超音速機(ホバリング・ジェット)が護衛につき、安全な空旅を保証できることにより、一日に数十回と離発着数が回復した。

俺は、発着口へ向かった。相手は、大北米合衆連合国から来る日系米人で大北米特殊警察刑事第六十六班の下っ端だが、腕は立つ。というより、立ち過ぎて困る。階級は現在巡査部長。何故俺が、嫌々迎えに来るのは、元野管轄長の指示、命令だ。

ブツブツと愚痴を零していると、電話が鳴った。俺の電話は、二千二十年代の、所謂多機能携帯端末(スマートフォン)というやつ。百年以上も前の機械が使えるのが、不思議でたまらいないが、一応使えてはいるので、それについては深く触れない。

かけてきた相手は、椿だった。

「何か用か、椿。」

『事件が発生しました。』

「第九班の管轄内でか。」

『いえ、しかし、警部のいる場所が最も近いようです。』

「周りは平然としている。事件なんて一つも起きていないぞ。」

『地上ではありません。空中です。』

航空強奪(ハイジャック)か...便名を教えろ。」

『シアトル発東京着、JL-1217-056ですね。』

聞き覚えのある便名だった。

「おい、椿。その便の乗客名簿を確認できるか。」

『少し待ってください。』

「見つかったら、俺に送れ。」

『はい。了解しました。』

数秒後、端末に名簿が送られてきた。真っ先に、ある人物の名前を確認する。直後、航空強奪(ハイジャック)の情報が空港内放送で一般人たちにも伝わった。

周りが、騒めく。が、暴走する人は見当たらない。

ここからは、自称弟子の者、坂巻翔太の記憶上の話である。

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