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夜と月の廻らない軌跡  作者: 空が昏れ
再会と別れは新たな始まりに繋がるだろう
9/18

 食事も食べ終わったのでキヨは頼まれていた水晶を椅子に座りながら自身の影から次々と取り出していく。ルドルフはキヨの魔法のことを知っている数少ない人物の一人であるのでルドルフの前で魔法を使っても問題はない。


「はいよ、これであってるよね。てゆーかお前、なんで魔獣の体の一部だって言わなかったんだよ」


 足もとに転がったいくつもの深く濃い蒼の透明な水晶をテーブルに置いていたキヨはルドルフをにらみながらそう言った。


「言おうが言うまいが関係ないじゃろうて」


「否定はしないがそれとこれとは別だぁ! 言ってくれたっていいじゃんか」


 向かいに座っているルドルフは腕を組みながらなんでもないことのように言うのでキヨも意地になって言い返す。しかし確かにキヨにとってはあれくらいの魔獣どうってことはない。そのことをルドルフもわかっているのでルドルフに特に反省の色は見られなかった。

 確かに全く持って問題がなかったのも事実、それにルドルフがキヨにめんどくさいことはさせども、危険な事を黙っていることはない。納得はできるがどこか消化不良なのものがある。キヨは水晶を全てテーブルに置き終わると先程のように片肘を付き手に顎をのせ、はぁーっとため息をついてこのなんとも言い難い気分を落ち着かせた。

 そんなキヨの葛藤を他所にルドルフは水晶を手に取り、うんうんと浅く頷きながらどこか満足気に水晶を眺めている。

 

「これじゃよ、いやはや流石じゃな」


「どーも。……それにしても魔獣よりもそれの硬さにどちらかといえば驚いたな。剣じゃ傷ひとつ付かなくて刀じゃないと斬れなかった。ビャクが何か言ってたけど……魔石とは違うの?」



「これと魔石ではそもそも性質が違う。本来出回っている魔石は宿っている魔力を使うことが出来るが……この水晶から魔力を引き出すことはできんじゃろうな。

……魔力が宿っているというよりは魔法がかかった状態に近いのかもしれん。あの魔獣が持っている魔力が硬化作用を持ったまま理由はわからないが結晶となって現れたんじゃろうな」

 

 

 キヨの質問にルドルフが水晶を見たまま答える。キヨもその説明に何となくだがこの水晶の硬さの理由を考える。

 魔獣は魔法を使えない代わりに持っている魔力を魔法を使うすべ以外で使用できる生き物だ。その力のひとつとして自身の魔力でウロコや硬い皮膚などを硬化させる補助的なものがある。あの亀も恐らくそれらの魔力による硬化作用で自身を強化していたのだろうが、それが何故か結晶に宿ったのだろう、か……?


「うん。わからん」


 キヨはしばらく腕を組んでできる限りの考察していたがやはりその理屈はわからなかった。キリっなどと音がつきそうな顔つきで言ったが実にあっさりしたあきらめである。


「まぁ、わしもよくわからん。世の中には不思議な事が色々あるわいな」


「まぁな!」


 どこか苦笑しながらルドルフは言った。結局この世のわからないことなんてそんなことで片付けた方が至極簡単である。考えていたらキリがない。だからキヨもルドルフの意見に同意である。それにキヨにとっては別段重要なことでもなかったのもひとつの理由だ。


「それにしてもよくこんなもの見つけたよな。それともあんたらドワーフにとっては一般的なものなのか」


 キヨはふと思い出したようにルドルフに訪ねた。ドワーフは昔から洞窟や鉱物に詳しいので人間が知らないだけで彼らにとっては当たり前のものとして認識されているのかもしれない。


「いやいや、昔たまたまあの魔物を見つけての。何とかひとつ水晶を手に入れたがな、こんなものは見たことがなかったわい」


 どうやらこの水晶なかなか貴重なものだったようだ。キヨは自身もひとつ水晶を手に取り何となく眺めてみる。


「……あっ――!」


「なんだ?」


「……いや」


 キヨはルドルフとビャクの視線を受けながらも意に介さず体を少しずらし棚に置いてある写真立てと水晶を見比べる。透明な深く濃い青はキヨが手に持っている水晶とよく似ていた。


「……あれって、これで作ったの?」


 キヨは最初に姿絵が入った額縁を指出し続いて自身が持っている水晶を指す。ルドルフは少し視線をキヨから逸らし彼にしたら珍しい小さい声で「あぁ」と呟いた、顔も心なしか赤みがさしているように見える。

 恐らく彼自身の作品だろう、基本的にルドルフは鍛治師だがドワーフは手先が器用なので装飾品も作ることはできる。

 キヨはそんなルドルフの様子を笑うのを耐え見ていたのだがキヨの努力も虚しく最後のとどめをさしたのはビャクだった。


「あいつがつけていたペンダントもだな」


「なっ!?」


 ビャクがテーブルからキヨが持っている水晶を眺めながらそう言いルドルフに視線を向けた。キヨもビャクの言葉に驚き大きく目を見開いた。そして徐々にその顔には意地の悪い笑みを浮かべる。ルドルフはもう誤魔化しようもないほど顔を真っ赤にしている。

 

 

「ほぉ……」


「~~っ」


  ペンダントとは彼女がルドルフと一緒に暮らすようになってからずっとその首にかかっていたものである。水晶をそのまま割ったような少し大きめな欠片の周りを金の細工が覆っているというシンプルなものだった 。


「大切にしてたもんな」


 キヨはどこか昔を懐かしむように目を細めうっすらと微笑んだ。あまり装飾品をつけない彼女に少し驚きながらもよくにあっていることをキヨが伝えると彼女は嬉しそうに両手でペンダントを握り締め「ありがとう」と言いながら微笑んでいた。ルドルフからの贈り物だとは思っていたが今思えば一緒に暮らすにあたってのプロポーズ的なものだったのかもしれない。


「あぁ、馬鹿みたいに大切にしとったわい。挙句の果てには死んだ後……一緒に埋めてほしいと頼んできたもんだ――馬鹿じゃろ……?」


 そう言うとルドルフは両肘をテーブルにつき、両手を組んでそこに額をつけた。それは何かを祈っているようにも見えたし赦しを乞うようにも見えた。


「……明日、いや正確には今日か……会いに行ってくるよ」


 少しだけかすれたような声が出た。彼女に会いに行く、ということはずっと望んでいたことだったが思っていた以上に年月がたってしまった。

 ルドルフは組んだ手から少しだけ顔を上げキヨを見たがまた先程と同じように組んだ手に額を当てるとそっと息を吐き出した。


「もうあんたらはここへは来ないかもしれんと思っとったわ」


「あぁ~、誤解だ。これにはその、海よりも深い訳があってだな。いや、ホントだって。なぁビャク――って寝てるし……」


 キヨの言葉の途中でルドルフは組んだ手から少し顔を上げた。そして無言でひたすら据わった様な目で睨まれキヨは期待はできないが助けを求めようとビャクの方を見たのだが体を丸めて寝ていた。

 ……相変わらずマイペースな奴である。そしてキヨはひきつった笑みを浮かべながらルドルフに降参の意を込めて片手をあげた。


「わかった話すから話しますから、だからそんな目で見ないでくださいルドルフさん 」


 それでもルドルフは目でさっさと話せと語って来たのでキヨも簡潔にこれまでの事を語ることにした。


 いつもと一緒であったのだ、あての無い旅をしていた。キヨが前回この場所をさる時にルドルフ達に別れを告げなかったのは…… 自分がいるのは邪魔だと思ったのもあるが、何と声を掛ければ良いのか分からなかったのだ。生き続ける自分の存在が何よりもその場には不釣り合いで、どんな言葉も意味を持てないように思えたのだ。だからあの時はそのまま出ていった。勿論いつもみたいに数年のうちに来るつもりだった。

 


 ただ旅の途中で妙なものに出会ってしまったのである。よくあるような森に囲まれた小さな村があった。森の奥には一本だけ異常に大きな木があり、この大木は森から大量の生命力を根から吸収し成長する。放っておくと森の生態系に異常を及ぼすほどであった。

ただ切り倒すため大木に傷をつけると瘴気を周りにまき、傷つけた者を根で絡め取り自身の糧としたそうだ。……それも生きたまま。これが始まりだった。


「魔獣か……」


「ご名答、そして問題はこれだけじゃなかった」



 この魔物は何十年とかけて生きたまま捕らえた人を自身の体に取り入れていった。不思議と大木に取り込まれるまでは捕えられた人も死ぬことはなかった。その間は森への影響もなくむしろ作物などは豊作になり質も急激ともいえる程格段によくなって村の者は胸をなでおろした。

 ただ大木は獲物を取り込み終わるとまたその影響は森へと帰ってきた。村の者は家畜などを大木に捧げたが一度人を食ろうた大木は家畜を捕らえること無く捧げに来た者をまた捕らえた。


 それから村では何十年に一度大木へと人を捧げ続けたという。


「その村では人柱と言われていたよ」


 キヨはたまたまその村にたどり着き人柱とされている少女とであった。人柱にされてからまだ日は浅かったのか足の部分だけが気に取り込まれていた。切り離すことはできなかったのでキヨは少女が完全に取り込まれるまで少女のそばにいることにした。少しでも寂しくないように……。何十年と時間をかけて最後に頭以外を取り込まれた少女はキヨに礼を言った。そして涙を流しながら長い時間をかけてゆっくりと少女は大木にのまれていったのだ。しばらくたっても少女の顔がのみ込まれていった大木の一部だけはずっと濡れていたように思えた。





「そういう訳だ。だからここへは来れなかったんだ」


「……そうだったんじゃな。……その魔獣はどうしたんじゃ」


「灰すら残らないようにしてやった」


 いつの間に起きたのかビャクが体を丸めたままそう答えた。


「だが瘴気などをだすんじゃろそう簡単に――」


 ルドルフが全て言葉にすることはなかった。いや出来なかったのかもしれない。キヨは自分でもうっすらとだが笑っているのに気づいた。そしてその表情はルドルフが言葉を止めたと同時に消しキヨは片手でピースを作り先程の表情を取り繕うためにニヤリと笑った。


「自分を誰だと思ってんの、瘴気なんて出しても問題ない場所に案内してあげたよ」


 少し胸を張りながらキヨは自慢げに語った 。


「ま~出す暇すらなかったみたいだけど……。いいところはビャクが全部持っていっちゃたんだよね~」


「……」


 唇を軽く尖らせながらのキヨの言葉にビャクは尻尾でテーブルをパタンっと一回叩いて答えた。キヨはビャクに視線を向けながらルドルフの少しだけ強ばっていた体の力が抜けたのを視界に捉えた。


「あんたらを怒らして無事なものなどいないじゃろうな」



 キヨはその言葉にビャクへ向けていた視線をルドルフに戻す。ルドルフはどこか呆けた様な表情でキヨを見ていた。

 その声色からは恐れなどはなかったがキヨはなんと答えていいのかわからずルドルフの言葉に苦笑で返したのだった。



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