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頭と心臓

作者: 出島優

よく、「頭に血が上る」っていう表現をすることがある。

人間が怒ったり、大きく感情が動いたときに、頭部への血流が増加して、冷静な判断ができなくなってしまうというものだ。さらにこれの厄介なことは、頭部に血流が集中してしまうため、手足の感覚が多少しびれたようになってしまう。経験あるんじゃないだろうか。

だが俺の場合は、なぜかそこに当てはまらない。俺の場合、感情が大きく動いてるとき、頭からは逆に血の気が失せて、心臓のほうに血流が回ってくる。つまり顔が白く固まっていくということだ。まあいい点として、体に血が回る分反射神経とか運動能力が多少上がるが。

かの哲人アリストテレスの代表的な間違いに、「人間は心臓でものを考える」というものがあるが、今思えばアリストテレスと俺は一緒だったんじゃないかと思う。だって肝心な時に血が行かないものが、重要なパーツだなんて考えないだろ?

友達はこれを面白がって「絶対零怒(フリーズドライ)」とかって呼んでいる。

実は一回だけ、不良に絡まれたときに怒りが振り切れちまったことがある。その時は、気が付いたらぼろぼろの不良たちが這う這うの体で逃げていくところで、俺の腕には女の子がしがみついていた。


それから時がたち、今俺は喫茶店にいる。目の前には、その時の女の子がいた。


「ねえ、私たちもう別れましょう。」

「付き合い始めてもう半年だけど、あなたは私に笑ってくれたことはなかった。」

「言葉だけかけられても、空しいだけなの。」

「きっとあなたは私のことが好きじゃないのね。」

「私は好きよ、あなたのこと。でもつらいの。好きだから、大好きだから、つらいの。」

「ねえ、私のことまだ好きなんだったら、笑って?お願い...。」

「無理よね。...大丈夫、わかってた。さよなら」


俺は感情が大きく動いてるとき、頭からは逆に血の気が失せて、心臓のほうに血流が回ってくる。つまり顔が白く固まっていくということだ。

だから、怒ってるときも、大好きな人を目の前にしてるときも顔は変わらない。

いくら怒ってる顔をしようと思っても、精いっぱいの笑顔を届けようと思っても、顔が動かない。

こんなに怒ってるのに、こんなに好きなのに。

しょうがないんだ。生まれたときからずっとそうだったんだ。俺が楽しいと思っていると、周りの奴はいやいややってると思うんだ。しっかり説明しても、わかってくれない奴もいたんだ。今回もそんなもんだろう。いつものことだ。いつもの...




頭ではこう考えてたのに、俺の体は反射的に走り出していた。

追いつくかって?大丈夫だよ。今は俺、足早くなってるし。




追いついたら抱きしめて、教えてやらなきゃ。俺の心臓が、こんなにドキドキしてるってことを。


評価、感想いただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 ラブレターから読みましたが、こちらも素敵な恋愛小説ですね。 短編が繋がっているのもとても良いです(*^▽^*) タイトルと内容が良くマッチしているのも素敵でした!
2015/06/20 16:13 退会済み
管理
[良い点] 「考える」と「思う」を的確に表現した作品ですね。何だかきゅんとなるラストなのですけど、そんな余韻よりも「上手い!」って感想の方が先行しちゃいました。何だか理性と本能の対比にもなっている風で…
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