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僕と祟り神はもう祟らない  作者: 都久音
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序章



それは、いつの時代にもあったものだ。

そして、これからもきっとあり続けるものだ。

僕はそう思う。




夕闇と夕焼けが混ざり合っていた。薄暗い。もうすぐ夜がくる。

女の子が一人居た。よく知った顔だった。


彼女は死んだのだ。赤く赤く、染まっていく。黒く黒く、果てしない闇に呑まれようとしている。


なぁんにも変わらないんだよ・・・。なぁー・・んにも・・。


彼女は薄く笑って呟いた。


「でも、だけどね、ほら。もう終わりにしようか。」


もう動かない女の子。その身体が蹴り飛ばされるのを見つめながら、もう一度呟いた。

無機質な口調のままで、憐れみと侮蔑の眼差しを湛えながら、どうしようもなく悲しい顔をして。



堪らず伸ばした手は、決して届くことはない。


もう動かない筈の少女の口から、確かに聞こえる。



そうして、夜はやってきたのだ。明けることも知らずに。







                  















彼女の名前は(ゆう)という。

一見、ごく普通の女子高生に見えるが、その正体は数百年前の人間・・・朽ちぬ体をもつ死者である。

そんな彼女と契約を交わしたのは数日前のこと。古から伝わる呪式を利用して、一種の式神のようなものを呼び出す術を、僕はある事情から使った。

その事情の説明は省くが、式神といっても今回のモノは普通のそれよりも遥かに禍々しく強力で、早く言えば祟り神の一種。

この呪式、こっくりさんやキューピッドさんなどの低級霊を呼び出す儀式とは比べものにならない(と言うか、比べるのもどうかと思うくらい)、かなり高度な技術を要するのだ。

なので、当時の僕も『どうせ失敗するだろう。』ぐらいの気持ちだった。


案の定、儀式を終えた僕の前には、祟り神どころか低級霊も降りては来ず、こんなもんか。と、その日はそそくさとベッドに潜ったのだが・・・。


三日後。

彼女は僕の想定外の場所から、いきなり現れた。


「どーも。三日くらい前の呪式で呼び出されたモンでーす。はぁ、どっこいしょ。」


「どぉえええええええっ!?」


早朝五時。スヤスヤと気持ちよく眠っていた僕は、突如部屋に響き渡った馬鹿でかい声に、悲鳴を上げながら目覚めた。声のした方に目を向けると、そこには15~17歳位と思われる少女が、なんともかったるそうに押入れから這い出て来るところだった。


何この状況。何このホラー。


思わず、『誰?』なんて聞きそうになってしまったが、彼女がえらく丁寧(?)な挨拶をしてくれたお蔭で、そこまでアホな真似はせずに済んだ。

僕と同じ位に見えるこの少女が、あの時呼んだ式神だなんてなんだかちょっと信じられないが、此処最近で呪式を使ったのなんてその時位だ。間違いないだろう。



(しかし・・・。)


何で押入れから出て来る!?ドラOもんかお前は!!と、ツッコミたい衝動を抑えて、なんとか自己紹介をする。


「そ、そうか。君があの・・・。僕は加那芽かなめ悠太ゆうた。よろしく。」


完全に押入れから出終わり、ボーっと突っ立って此方を見ている少女にニッコリと手を差し出すが、彼女はそれを一瞥しただけで、握り返そうとはしなかった。

なんて無礼な奴・・・。と、思うことなかれ。何せ相手は何百年前だかの存在である。握手の文化も知らなくて当然なのだ。

まあ、かくいう僕もそのことを一瞬忘れていて、なんじゃこのクソアマ!と思ってしまったが、この際それは水に流そう。


「ゆうた・・・?」


「ああ。」


基本、式神は高位のヤツになればなる程、自我が強くなる。

そして、大抵のモノはその自我の分賢く、強い力を持つと云われているのだが…。



今回の式神…と呼んでいいものか分からないが、彼女、先程から『ゆうた、ゆうた…』と、連呼している。主の名前を覚えるのにも時間を要するのは、かなり下位の式神だけだと思っていたが。


儀式失敗か特例かは分からないが、彼女の自我は薄そうである。


僕は溜息をついた。同時に、彼女も。



「はぁぁ…。」


「え?」



思わぬ展開に戸惑いながら、僕は彼女の顔を凝視した。何かお気に召さない事でもあったのか、その眉間には深い皺が刻まれている。



「乙女の顔をそんなみょーちくりんな顔で見詰めないでよ気持ち悪い。」


「あ、ごめん…なさい。」



ワンブレス。しかも鬼気迫る表情で言われ、思わず謝ってしまった。


(てか、この子…今気持ち悪いって言った…。)


怒りとも悲しみともつかぬ気持ちに押し潰されそうになりながら、僕は懸命に主たる威厳を保ちつつ、彼女に問うた。



「えっと…僕、何かした?」


声掛けるの、正直ちょっと怖かった。ということは、この際伏せて置こう。伏せといて下さい。


僕の心情を知ってか知らずか、彼女はこちらを睨みつけると、声高らかに言い放った。



「アンタ、改名しなさいよ。」


「…は?」


「だぁかぁらぁーっ、改名しなさいっつってんの!!アンタみたいなみょーちくりん顔のヘッピリ野郎に『ゆう』と付く名前は勿体ないわ。」


「意味が分からないんだけど!何で僕が改名しなきゃならないんだ!?」



本気で意味の分からない事を言う彼女に、僕は少し語気を荒くした。



「そんなの決まってるじゃない…。アタシの名が『(ゆう)』だからよ!!」



めちゃくちゃな言い分である。

彼女…もとい、『夕』はフンと鼻を鳴らすと、押し入れの襖をピシャンと閉めた。


…前言撤回。コイツはただの無礼者である。

そして、嫌と言うほど無駄に強い自我を持っている。


それは則ち、それだけ高位な存在であるということ。


だが!!



(こんなヤツの力借りるくらいなら延々と一人でこっくりさんしてた方がまだマシだわっっ!!)



僕は布団を被り直すと、怒りを鎮めるべく、再び目を閉じた。


そもそも、遅刻した挙げ句、こんな朝っぱらに突然押し入れから登場してくる時点で有り得ないのだ。常識がまるでなっていない。



頭の中で散々夕を罵倒した僕は、再び夢の世界へと落ちていった。









・・・と、大分長くと言うか、くだらないと言うか…とにかく、それが僕と夕の出会いだった。


ちなみに、当たり前だが、僕は改名していない。

夕には『悠汰』の悠の読み方は『ゆう』ではなく『ゆー』だから。とか何とか、頭がこじれそうになるような無茶苦茶な言い訳をして、納得してもらった。


いや、正直これで納得してくれるとは思わなかったけど…。



「頭が良いのか悪いのか…。」


「何が?」


「いや、何でもない。」


ところで、何故彼女が高校の制服を着ているのかと言うと、この格好の方が何かと動きやすいだろうと思ったからだ。

当初、夕は真っ赤な着物を着ていたが、流石にそれじゃ目立つ。

姿を消したり、特定の人物以外の人間にだけ見えなくなるという事も出来る彼女だが、僕は普段学校に居るし、もし何かあった時、制服姿の方が校内でのコンタクトも取りやすいというものである。

これだけ聞けば、僕以外の人間に見えない様にするだけでいいんじゃ・・・。と思う人も多いかも知れないが、それだと僕達のやり取りを万が一誰かに見られた時に、一人で何かブツブツ言ってるちょっと変な人というレッテルを貼られてしまう。

つまり、これは最良の処置なのだ。


断じて、僕の趣味からきたものではない。そう、断じて。



(しかし…。)



それは、意思によって具現化された制服。もし彼女の力が弱まったりしたら…なんて妄想してしまうのは、健全な思春期男子の証である。



「おい。」


「何?」


「今アンタから邪な気を感じたんだけど。」


「気のせいだよ!気のせい!!」



他に誰も居ない屋上で、今日これからの事について話し合っていた時。ふと過ぎった邪念を、鋭く感知する夕。


気のせいだと言い張る僕を未だジト目で睨めつけながら、彼女はどうでもいいような口調で言った。



「で…。アタシが呼び出されてから五日程経つわけだけど、今日こそ私の出番はあるんでしょーね?」


「ああ。ちょっと相手方の都合が悪くて延びてたけど、今日は何とか会えそうだってさ。つーか、遅刻してきた奴が何を文句…」


「あ?」


「なんでもない。行こうか。」



いつの間にか彼女が刀を握り締めていたので、僕はそれ以上何も言わず、屋上を後にした。

主を脅す式神・・・はっきり言って今すぐにでも契約を解除したい気分である。


しかし、ここで負ける訳にはいかない。今回のことは、どうしてもコイツの力が必要なのだから。

























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