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悠久の時の彼方でⅠ  作者: 春岡犬吉
第十章
46/52

予感

 彼が研究所の地下の改装に着手したのは三年ほど前、(すなわ)ち、アレクに会った直後の事。何故そうの様な事をしたのかは、今でも研究所の所員は誰一人知らない。ただ、その事を知っているのは当時、風巻が懇意(こんい)にしていた建設業者だけだ。その業者でさえ、雄人の考えに度肝を抜かれ、尻込みをした。しかし、彼の熱意に(ほだ)された当時の社長が、ゴーサインを出し、突貫工事の末、出来上がったのが今の地下室通路だった。それまでの地下室は、ただのシェルターとしての機能しか持たなかったのだが、この改装工事により、要塞、と呼べるほどにまでなり、そのあまりにも堅牢過ぎる構造と施された機能から、工事に関わった者達に、こう呼ばれた。

〝地獄の入り口〟

 そう呼ばれた由縁(ゆえん)は、進入防止に設置された物が、まったく人道的配慮に欠けていた事にもある。それ(ゆえ)に、関わった者全てに緘口令(かんこうれい)が敷かれたほどだった。そして、真一が興味を持ったのも、その機能だった。

「なあ、それってどんなやつなんだ?」

 雄人は困った表情する。あまり話せる様な事では無いからだ。

「聞かない方がいいと思うんだけど……」

 言い渋る雄人に対し、それでも食い下がり聞こうとする真一だが、実夏もそれを聞きたがったのには、少しだけ、彼も驚いた。

「実夏ちゃんも興味有るのかい?」

 実夏は首を振った。

「違うの、少しでもとうさん達を安心させてあげたいのよ」

 それでも雄人は渋る。そんな彼に少々苛付き、真一の声が荒くなった。

「んだよ、なんで話せねえんだよ。なんか理由でもあんのか?」

 雄人は頷いた。

「どんな理由だよ。まさかこれも言えねえって訳じゃねえよな?」

 溜息を付くと、雄人は仕方なく話した。

「人道的配慮が全然無い代物だからだよ」

 真一は益々聞きたくなり、言った。

「そんな事言われると是が非でも聞きたくなったぜ。遠慮してねえで言っちまえよ」

 それでも渋い顔をする雄人を見て、真一は怒鳴ろうとしたが、実夏が先に口を開いた。

「言いたくないなら言わなくてもいいわよ。でも、これだけは教えて。それを使わなかったら、どれくらいで地下に辿り着くの?」

 軽く息を吐くと、雄人は言った。

「軍隊ならば一時間掛からないだろうね」

 真一と実夏は言葉を失った。

「そんな……、それじゃ――、もしも、それを止めちゃったら……」

 頷きながら雄人は言った。

「確実に進入されて終わりだ。だから、小父さんには教えられない。教えれば必ず停止スイッチの場所を聞いてくるし、それも教えなければ、自分から扉を開けるはずだ。それくらい惨たらしい惨状を(もたら)す機能を持たせて有るんだよ、あそこの通路には」

 真一は大きく深呼吸をすると気持ちを落ち着け、真剣な表情で言った。

「よし、それなら俺達だけで聞こう。済みませんが、所員の皆さんは席を外してもらえませんか?」

 真一の言葉に所員達は顔を見合わせ頷くと、部屋を出て行った。

「これで俺達だけだ。俺も腹を括った。聞いた話は墓場まで持って行ってやる。だから、言ってみろよ」

 仕方ない、とばかりに息を吐き、雄人は床の一点を見据えると、話し出した。

「現代の戦車砲は、APDS弾を使えば、二百五十メートルくらいで一メートルほどの鋼板は貫通出来る。だから、今の戦車の装甲はセラミックなんかを積層構造にした複合装甲にしてるんだけど、民間にはそれを作る為のノウハウが無い。だったらどうするか。真一さんなら分かるだろう?」

 真一は彼の言葉を受けて、その続きを呟く様に答えた。

「戦車砲なんかが撃ち込めない位置に複数の扉を作って、進入した兵士を簡単には進めない様な阻む機能を与える……」

 雄人は頷きながら言った。

「普通は――ね。でも、俺が作らせたのは違うんだ」

「違う?」

 眉根を寄せて、真一は(いぶか)しげな表情を浮かべた。

「確かに簡単には入れない様にしてある。でもそれは、対策に時間が掛かるだけで、死人が出る様な物でもない。だから、簡単では無いけど入れる、と錯覚させる為の、()わばオマケみたいな物なんです」

 真一は更に訝しげな表情を深めた。

「それのどこが人道的配慮の欠片も無い機能になるんだ? 十分以上に人道的じゃないか」

 雄人は少し、悲しげな笑顔を見せた。

「そんなのただの見せ掛けです。あそこの四枚目の扉が特殊な形状になってるのと、螺旋階段で垂直に降りてるのには訳が有るんですよ」

「訳?」

 頷く雄人は、僅かに躊躇(とまど)うと口を開いた。

「強度の爆発にも耐えられる様になってるんです。それも通路内で起こる爆発に……」

「通路内で爆発? そんなのどうやって……」

「一種のガス爆発みたいなもんです。もっとも気化爆弾と呼ぶほうがいい代物なんですが。それを狭い通路内で爆発させる。そうするとその爆風と爆炎、衝撃波は外にまで届く。あそこは一種の衝撃波砲みたいな造りになってるんです。その範囲は通路内はもちろん、出口周辺を扇状に、半径百メートルに達します。そこに居る人は確実に死にますよ。もし生き残ったとしても、藻掻(もが)き苦しみながら死んでいくでしょうね。あそこの防御機構は進入防止じゃなくて、ワザと誘い込み、相手を一気に殲滅(せんめつ)させる為の仕掛けなんですよ。今にして思えば、とんでもない物を作らせたもんです」

 悲しげな笑顔で俯く彼を見て、真一も実夏も申し訳ない気持ちで一杯になった。

「だが、そのお陰で総一殿達は守れる。違うでござるか?」

 マルスは雄人に笑顔を向け、誇らしげに言った。

「そうよ。マルスの言う通りよ。総一はあたし達の恩人、とても大切な人なの。その人を危険な目に合わせる奴等に容赦する必要なんてないわ。それに、今頃になって何言ってるのよ。これはあたし達と奴等の戦争でしょ?」

「それはそうだけど……」

 煮え切らない雄人に、アレクは苛付き、ベッドから身を起こして怒鳴った。

「あんたねえ! そんなだから死に掛けるのよ! 男ならもっとシッカリしなさい!」

 雄人と真一は目を見開き、その視線はアレクに釘付けとなり、実夏は慌てふためいた。

「ちょっと何よ、その顔。あたし、変な事言った?」

 二人とも首を振るが視線だけは外さない。実夏は頬を染めながら叫んでいた。

「ま、ま、ま、前を隠しなさいよ!」

 首を傾げて自分の体を見るが、何かおかしいのか分からなかったので、マルスに聞いた。

「ねえ、マルス。あたし何か変なとこある?」

 ベッドに(はま)ったまま、仁王立ち状態でマルスは首を振って答えた。

「どこもおかしくないでござる。おかしいのはあの三人なのでござるよ」

 アレクとマルス、この二人は元々が動物なので、裸を見られて恥ずかしい、といった羞恥心(しゅうちしん)は皆無なのだった。

 実夏は、この二人には何を言っても無駄、と悟り、アレクに飛び付くとシーツを掛け、前を隠した。

「あんた何してんのよ」

 不思議そうな目で彼女を見るアレクに、実夏が言った。

「あ、あのねえ! 人間は異性の前で簡単に素っ裸にはなっちゃいけないのよ!」

 首を傾げながら雄人を見ると、言う。

「そうなの?」

 雄人は真一の顔を見る。すると、彼は頷き、雄人を促した。

「まあ――、うん。実夏の言う通りかな。中には好んで素っ裸になる人も居るけど……。それは、変態、って言われるからね」

 感心した様な顔でマルスを見て、とんでもない事を言った。

「じゃあ、マルスは変態なの?」

 マルスはアレクを見て首を傾げた後、何回か首を捻ると、言った。

「拙者、変態と違うでござる。元々服等着ておらんかったでござるからな」

 腰に手を当て、大声で笑うと、それに合わせて股間の物もベッドの上で上下に跳ねる。それを見た真一と雄人は苦笑を漏らし、実夏はまた顔を真っ赤に染めた。

「って、和んでる場合じゃねえだろ! どうすんだよ、研究所!」

 実夏がハッとして雄人に顔を向けた。

「行くしかないでしょう?」

 簡単に言う雄人に、真一は焦り、がなった。

「簡単に言うなよ! どれだけ距離あるのか知らなねえ訳じゃねえんだろ?! こうしてる間にも親父達はどうなってるか……。お前には実夏ちゃんや俺の気持ちが分かるのかよ!」

 雄人は荒い息を付く真一をジッと見詰め、軽く息を吐くと、言った。

「簡単じゃなくても行かなくちゃいけないんですよ。でも、俺達なら一時間そこそこで行ける筈です。真一さんなら分かりますよね」

 雄人の真剣な瞳に射抜かれ、真一は息を飲んだ。

「あ、ああ……」

 真一から視線を外すと、雄人はアレクとマルスの方に顔を向けて言う。

「実夏はアレクに服を貸してやれ。それから――、マルス」

「何でござる?」

「ベッドなんか壊せ。今のお前には簡単だろ」

 雄人に言われてマルスは目線をベッドに落とすと、軽く拳を握り無造作に腕を振り下ろした。そして、ベッドは拳の当たった場所から伝わる衝撃で、一瞬にして、砕け散った。

「ずいぶんと(もろ)いのでござるなあ」

 しみじみとマルスは言うが、見ていた真一にしてみれば、とんでもない破壊力だ。しかも、あれで全力ではないのだから、その力は想像を絶した。

「お前の服だけど……」

 雄人の物ではマルスは着れない。どうしたものか、と悩んでいると、真一が言った。

「俺の親父のを貸してやるよ。体型がそっくりだしな、たぶん、合うと思う」

 真一に向けて、雄人は頭を垂れた。

「俺は今から着替えて来ますから、それまでに準備してくれると助かります」

 雄人は腰にシーツを巻き付けてベッドから降りると、部屋から出て行く。真一と実夏もすぐにその後を追う様に出る。残された二人は、お互いの顔を見合わせると、笑みを交わした。

 十数分後、三人は再び研究所と繋がるパソコン前に集まる。アレクはジーンズを大腿の付け根から大胆にカットした物に膝上まで有るロングブーツを履き、上は普通のポロシャツ一枚だけ。しかも、胸元がキツイのか、かなり露になっていた。マルスの下は普通にジーンズに皮靴、なのだが、上は革ベストを羽織っているだけ、という、どこかのアニメで見たような格好だ。真一の話だと、これが気に入ったという事だった。そして、雄人は全身黒ずくめ、というか、皮パンに革ジャン、足元はブーツと見事にバイクに乗る時の格好で、その手には、刻結が宿る刀が握られていた。

 アレクが二人の格好を見て、自分の服装に不満をもらした。

「なんかあたしだけ違うわね。ねえ、実夏。雄人達と同じ様なのって無いの?」

 実夏は溜息を付くと、ちょっと待ってなさい、と言い残し奥に走って行く。すぐに戻った彼女の手には、真紅の革ジャンが握られていた。

「これでどう?」

 アレクの目の前に差し出すと、彼女はおもむろに服を脱ぎだし、革ジャンを手に取り羽織る。その光景を見ていた者達は目を丸くした。

「あ、あんたねえ……、恥じらいってもんは無いの?」

 実夏の苦言を鼻であしらう。が、革ジャンのファスナーを締めるのに、悪戦苦闘していた。

「こうするのよ」

 それを見て実夏は苦笑を漏らしながら、締め方を教える。しかし、サイズが合わないのか、やはり胸元は露出したままだった。そんなアレクの胸元を見て自分と比べ、悔しげに呟いた。

「なんか理不尽(りふじん)を感じるわね――」

 実夏の言葉に、アレクは首を傾げているが、雄人と真一は内心で笑っていた。

「マルス、お前にこれやるよ」

 真一はマルスに向かって何かを放る。受け取ったマルスは首を傾げた。

「何でござる、これ?」

「手に()めて見ろ」

 真一に言われ、嵌める。それは指先部分の無い皮グローブだ。しかも、指の付け根から第一間接付近には、何かが入っていた。

「それはな、拳を痛めない様にするのと同時に威力を上げる物なんだよ。こう、ぎゅっと握ってみな。中に入った砂鉄が固まって、お前の力ならコンクリートくらいなら簡単にぶっ壊せるぞ」

 言われた通りに握ると、確かに何かが凝縮する感覚があった。

「真一殿、(かたじけな)い。有難く使わせてもらうでござる」

 深々と腰を折り礼を言った。

「準備は整ったみたいですね」

 畑田が真剣な表情を向ける。雄人、アレク、マルスの三人は彼に顔を向け、頷いた。

「畑田さん、ここに居るみんなの事、宜しくお願いします」

 畑田は頷き、彼に手を差し出した。雄人がその手を握ると、彼は強く握り返した。

「君が居たからこそ、僕達はここにこうして居られる。だから――、必ず戻って来てくれ」

 雄人も強く握り返しながら、頷き、言った。

「どんな事があっても、必ず生きて帰ってきます」

 お互いの目を見詰め、口元を笑いの形に変えた。

「ちゃんと帰ってきてよね。絶対よ、絶対だからね」

 不安そうな表情で雄人を見る実夏は言う。そんな彼女を抱き寄せながら、囁く様に言った。

「ああ、必ず帰る。小父さん達を連れて。だから――、ここで待っててくれ」

 腕の中で何度も呟く彼女を、優しい眼差しで見詰めながら、しばらくそうしていたが、真一に肩を叩かれると振り向き、頷いた。

「アレク、マルス、行くぞ」

 実夏に、行ってくる、と告げると、その身を離す。だが、実夏は背を向けた雄人を見て、言い知れぬ不安に駆られ、その瞳から静かに涙を流した。

 三人は地下から出ると、邸内に入る。その廊下を歩きながら、アレクが疑問の声を上げた。

「ねえ、どこいくのよ」

「台所」

 雄人の返答に、一瞬呆気に取られ言葉を失うが、すぐに我に返ると静かに怒鳴った。

「ちょっと! 外に出るんじゃないの?!」

「出るよ」

「じゃあ、なんで台所なのよ!」

 雄人は肩越しに振り向くと、ニヤリ、と笑う。それを見たマルスは、面白そうだ、と思った。

 台所に着くと、雄人は徐に床収納の扉を開け、その中に滑り込み、中の物を除けると、更にその床を持ち上げた。

「こういう事さ」

 そこには下に降りる階段があった。

「これって……、隠し通路?」

 雄人は頷く。

「そうだよ。忍者屋敷みたいだろ?」

 楽しそうな顔で言う雄人に、マルスが同意した。

「かっこいいのでござる。敵に囲まれる中、悠々と外に出るのでござるな」

「そういう事。俺が先に降りるから、最後は閉めてくれよ。じゃないと、もしも偵察で進入された時、俺達が居ないのがばれるからな」

 雄人は言うなり降り始める。その次にアレクが続くと、最後のマルスは床収納の扉を閉め、階段へと続く扉も閉めた。

 通路はそれほどの深さを貫いている訳ではなかったが、若干、下り坂になっている。その中を明かりも点けずに三人は進む。しかし、雄人は疑問に思っていた。明かり一つ無い中で、通路がはっきりと見えるのだ。以前はこんな事なかったはず、と思いながら進むと、後から声が掛かった。

「雄人殿、なんだか拙者、人に成る前よりも、暗闇が見通せるのでござるが、気のせいでなのでござろうか?」

 マルスの言葉に、アレクも同意した。

「そうねえ、あたしも前より良く見えるわね」

 二人に言葉に、やっぱり、と思い、雄人も言った。

「実は俺もなんだよ。普通、こんな暗闇じゃ見えないはずなんだけど、通路がやけにハッキリ見えるんだ。これってたぶん、刻結のお陰なんだと思う」

 雄人には二人が納得する気配が感じられる。感覚もまた、以前にも増して鋭敏になっている様だった。

 数分も歩くと通路は水平になった。そして、さらに歩く事数分、前方に階段が見え、その上部からは微かに光が漏れていた。

「もうすぐ着くぞ」

 雄人の言葉通りに階段に辿り着く。そこを昇り、彼は光が四角く漏れている場所の真ん中を僅かに押し上げ、隙間から周りを見渡して誰も居ない事を確認すると、完全に押し上げて外へと出て行く。そして、彼の後からアレクとマルスも出て来た。

「ここは、どこでござろうか?」

 マルスが疑問を口にする。そこは、三畳ほどの広さを持つ、納戸の様な場所だった。

「ここは(うち)の別宅みたいなもんだよ。もっとも、俺以外、誰も知らないけどね」

「ほほう。では、拙者が住んでも構わないのでござるな」

 これには雄人も苦笑するが、釘を刺しておかなければいけなかった。

「それは駄目だ。ここは緊急時の通路と同じで、誰にも知られる訳にはいかない。だから、住む事も出来ない。それに、外に出て扉を閉めると自動で鍵が掛かるし、窓も()め殺しの防弾仕様だから、外からは破れない様になってるんだよ」

 マルスは残念そうに溜息を付いた。

「それよりも、ここはどの辺りなの?」

 アレクの疑問ももっともだ。あの家は監視されていて、そこから目と鼻の先では、すぐに見付かってしまうからだ。

「通り二本挟んだ南側だよ。だから、監視してる奴等にも見付かる事は無い。だたし、でかい音を立てれば見付かるけどな」

 雄人は納戸の扉を開け廊下へと出て行き、二人もその後を着いて行く。そして、玄関まで来た時、彼は突然止まり、マルスに話し掛けた。

「なあ、マルス」

「何でござるか?」

「お前、あの家に、戻ってくれないかな?」

 突然の事にマルスは首を傾げ、訝しげな表情をした。

「お前が居てくれると、俺も安心出来るんだが……」

 なるほど、と思うものの、マルスは、うん、とは言えなかった。

「雄人殿の気持ちは良く分かり申す。だが、これから(おもむ)く場所は戦場(いくさば)でござる。斯様(かよう)な場所にお二人だけを送り出すなど、拙者には出来ないのでござる。それに、お二人は似ているでござるよ」

「俺とアレクが似てる?」

 雄人は眉根に皺を寄せ、アレクは頷いた。

「お二人は(ほこ)(たて)の矛なのでござる。確かに動きも素早く、身のこなしも軽うござる。されど、守勢に回らねば成らぬ時は、それが(あだ)となるのでござるよ」

 アレクが眉を吊り上げ、怒りの視線を向けた。

「それ、どういう意味よ」

 その視線にもマルスはまったく動じず、逆にアレクを睨み返して言った。

「アレク殿はたった一発の銃弾で沈み申した。しかし、拙者は何発も受け止めたのでござる。これの意味が分からぬアレク殿ではござるまい?」

 マルスの言葉にアレクは言い返す事も出来ず、下唇を噛み、悔しさを(にじ)ませた。

「二人ともここで喧嘩はしないでくれよ」

 雄人は二人の間に入る。そして、マルスに向けて言った。

「要は俺たちだけじゃ、何かの拍子(ひょうし)に追い詰められたら引っくり返すのが難しいって言いたいんだろ?」

 マルスは頷く。雄人もそれは感じていた。それでも、マルスには帰る場所を守っていてほしかったが、無理強いをしても、こっそりと着いて来るだろうと思った。

「分かった。でも、これだけは約束してくれ。何かやばそうだ、と感じたらお前はすぐに後退(さが)るんだ。その時俺達がやばい事になってても、絶対助けには来るな。そのくらい自分達で何とか切り抜けて戻るからさ」

 マルスはしばらく雄人を睨み付けていたが、渋々と頷いた。

「済まないな、マルス。お前が楯なのは俺も分かってたんだよ。だからこそ、頼みたかったんだ。でもお前は――、お前だけは、俺達に何があったとしてもあの家に戻れ」

 マルスは僅かに眉を吊り上げた。

「ならば、この間の約定により義弟(おとうと)として申し上げるでござる。どんな事があっても必ず帰って来る、と約束して下され」

 雄人は頷くと、言った。

「分かった、義兄(あに)としてその言葉を受けよう。何があろうと、どんなに時間が掛かろうと、必ずあの家に帰る。だから、お前があそこを守るんだ」

 マルスも頷き、言う。

「義兄上からのお言葉、しかと(うけたまわ)ったでござる。どんな事があろうとも、義兄上の帰る場所は拙者が守り通してみせるでござる」

 二人が口元に笑みを浮かべていると、隣でアレクは溜息を付いた。

「まったく暑苦しいわね。仕方ないわ、あたしも雄人と同じ約束してあげる、あんたの義姉(あね)としてね。だから、いい? 絶対あの場所は誰にも明け渡すんじゃないわよ?」

 マルスは破顔(はがん)して頷くと言った。

「義姉上のお言葉、この胸にしかと刻み申した。拙者、若輩(じゃくはい)なれど、この身を()す覚悟でござる」

 三人は笑顔でお互いを見詰め合い、そして、雄人が言った。

「そうだ、お前達、苗字はどうする? マルスは風巻を名乗るか?」

 マルスは首を横に振った。

「それは出来ぬのでござる。血の繋がりが無い故、あの刀を受け継ぐ事は無理でござるし、ましてや、義兄上の苗字を名乗るなど恐れ多いのでござるよ。なので、風守(かざもり)、と名乗ろうと思うのでござる」

「風守?」

 マルスは頷き、理由(わけ)を話した。

「風巻の家を守る楯、の意でござる。故に拙者は最強の楯と成らん事をこの名に誓うのでござる」

 雄人は笑顔になると軽く息を吐いて言った。

「そうか――。なら、風守は風巻の分家って事にするか。で、アレクはどうする?」

 そうね、と首を捻り、少しだけ考えると、言った。

「雄人と一緒になれば風巻になるんだし、取手でいいわ。実夏とは姉妹みたいなもんだしね」

 雄人も、妥当だな、と思った。

「それじゃ、決戦の場に向かうとするか」

 二人が頷くと、雄人は扉を開け、静かに外へと出る。その後に二人が続き、三人はそれぞれが周りを警戒し、誰も居ない事を確認すると、走り出して行くのだった。

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