逆手
研究所に戻った三人は所員を集めて、事情を説明すると、即座に全員が動き出した。研究用資料を手早く纏め、関連する物と一緒にダンボールに詰め込む。そして、総一や大垣の指示の元、地下のシェルターに運び込む。その姿を見ながら、久米島は何かが腑に落ちなかった。それが何なのか分からなかったが、今は資料を運び込む方が先だ、と言い聞かせ考えない様にした。
「パソコンはどうします?」
ある所員に聞かれた。久米島は大垣と総一に目線を向けて指示を仰ぐ。
「地下に下ろしますか?」
ここのパソコンは殆どがスタンドアローンだ。電源さえ確保出来れば、どこでも使う事が出来るし、資料の閲覧も可能、ただし、パスワードを知っていればだが。
「そうだな、万が一という事もある、大変だろうが下ろしてくれ」
「わかりました」
久米島と所員は頷き、コード類を処理して、運んで行く。他の所員も同じように運ぶ。
「そうだ。地下とここはネットワークで繋がるんですか?」
さすがの久米島も地下の存在を知らなかった為、そこまで把握出来ていない。それだけはどうしても聞いておかねばならなかった。もし、繋がっているとすれば、屋内に進入されでもしたら防ぎようが無い。
「さすがにそれは分からんな……」
大垣も総一も首を捻る。
「分かりました。一台だけここに残して確認しましょう。もし、繋がっている様であれば、ここの接続機器も地下に下ろして、とりあえずの配線をしようと思います」
「すまんな。そうしてくれると助かる」
大垣が目礼をするが、久米島は笑顔で言った。
「礼なんて言わないで下さい。これがここでの俺の仕事なんですから」
苦笑を漏らしながら大垣が言った。
「そうだったな。では、よろしく頼む」
久米島は頷き、作業を始めた。
接続に必要な物は一通り全て地下に下ろしたが、パソコンを一台だけ回線に繋いで、立ち上げた久米島は驚いていた。上の所内のネットワークには繋がっていないのは分かった。それは全く別のパソコンがネットワーク上に表示されたからだ。久米島の手元には所内全てのパソコンのマックアドレスが書かれた紙があったが、そのパソコンは、そのどれとも一致しなかった。それが表示された、となると、この回線はどこかとの専用回線、という事になる。
「所長、たぶん、どこかと専用回線で繋がっているんだと思いますが、相手が分からない以上、繋ぐ訳にはいきませんので、新しく構築する方がいいですね」
久米島の報告を受け、その事を了承した。
「そうか、ではそうしてくれ。その回線の事は後で風巻に聞くとしよう。用心に越した事はないしな」
地下に戻ると久米島は新たな回線を構築していく。もっとも、殆どがスタンドアローンなので、繋ぐパソコンは少なくて済んだ。
一通りの作業が終わると、所員たちはそれぞれ自由にお茶を淹れ、飲み始めて一息付いている。同じ様に久米島もお茶淹れて椅子に座り、一息入れると、先ほど心に浮かんだ違和感とでも言うべき腑に落ちない点が、頭を擡げてきた。
「所長、そういえばあの映像、なんで残ってたんでしょうね」
今更何を、と言った調子で大垣は返す。
「何でって、普通は残るだろう? カメラは二十四時間動作してるんだしな」
カメラは動作している、これを聞いた久米島はあの事が不審な点へと変った。眉根を寄せ、難しい顔をした彼の頭の中では、目まぐるしく思考が動き始めていた。
「どうした、そんな顔をして、何を考え込んでるんだ?」
大垣の問いにも表情を崩さず、思考に没頭している。そんな彼を見て、溜息を付きながら総一に顔を向けると、肩を竦めてみせ、総一は苦笑を返す。すると、彼は、椅子を蹴倒して立ち上がる。
「そうか……! そういう事か!」
突然大声を出した彼を、全員が何事か、と注視する中、彼は慌てた表情を二人に向け、叫んだ。
「あれは罠だったんですよ!」
大垣と総一は顔を顰める。
「いきなり何を言い出すかと思えば、罠とは何の事だ」
総一は彼の慌てぶりを見て、何か有る、と感じた。
「大垣君、彼の話を聞こう。どうやら、何かに気が付いたみたいだし」
惣一は頷き、久米島に向かって促した。
「あれは罠です! 俺達を、いえ、俺達の家族ごと孤立させる為の!」
これだけでは何の事だか分からない。だから、総一が聞き返した。
「孤立させる、とはどういう事なのかな?」
久米島は話し出した。
「あんな映像が有る事自体おかしいですよ。大体ですね。普通、存在を知られちゃまずい組織が、あんな物を残す訳無いです。しかも、外部からハッキングしていたのなら、突入した者達から連絡を受ければカメラを一時的に無効にする事くらい出来た筈です。ほんの数秒だけ画面が乱れる位なら警備員だって、わざわざ確認には行きません。でも、それがデータとして残っている。これって絶対おかしいですよ」
大垣は首を傾げる。
「家族ごとに孤立させるのと、その事がどう繋がるんだ?」
大垣に食って掛からんばかりの勢いで詰め寄る彼を、総一が押し留めた。
「久米島君、少し落ち着こう。焦るだけでは伝わる物も伝わらないよ」
手近な椅子を引き寄せると、彼を座らせ、その手にコップを握らせた。久米島はコップの中身を一口含むと、息を吐き、気持ちを静め、話し出した。
「判り易く説明するとですね。監視カメラの位置を把握しているなら、外部からハッキングしている者と潜入した者同士でやり取りして、一時的に画像を乱れさせれば、あんな姿を残さずに済むんです。病院で俺が、改竄されてる、と言ったのは覚えてますよね?」
二人が頷く。
「あれは、画面の端に表示されてる時間が飛んでたからなんですよ。たぶん、映っていた部分を切り取って、削除でもしたんだと思います。ハードディスクってやつは、データを消したと思っても、実際には完全に消せる訳じゃない。本当の意味で完全に消すには、その領域に上書きするしかないんです。それをやられたら、いくら俺でも復元は出来ません。でも、それが出来た。奴等はなぜ、そんなすぐにばれる事をしたのか分かりますか?」
大垣は首を振ったが、総一は顎に手を当てながら、呟いた。
「僕達に気が付かせたかった? いや、気付く様に仕向けられた、か」
鋭い視線を総一に投げ掛けながら、久米島は頷いた。
「副所長の言う通り、仕向けられたんですよ。俺が裏切って居る居ないに関わらず、信頼を得てれば必ず連れて行く事まで予想して……。ただ、俺が行かなかったとしても、気付く様には仕向けて来た筈です」
「それは考え過ぎじゃないのか?」
大垣は否定気味に言うと、久米島が問い掛けた。
「それじゃ、もし、もしですよ。復元した映像を見れなかったとして、改竄されている事が分かったら、どう判断しました?」
これには直ぐ様、総一が答える。
「林君を何者かが連れ去った、しかも、一人の犯行ではなく、組織立っての犯行、とここまでは直ぐに分かる。そこから更に進めて行けば、所員全員が狙われている可能性が有る、と考えるね」
久米島は更に質問を重ねた。
「その考えに辿り着いたとして、どういった対策を採りますか?」
「やっぱり今回と同じだね。しばらく閉鎖して、家族と居る方が安全だろうしね」
久米島は溜息を付いた。
「では、もう一つ質問します。ここよりも家庭の方がセキュリティは上でしょうか?」
何を言っているんだ、といった顔で、大垣が答えた。
「うちの所員が襲われても他の家族が連絡出来るじゃないか」
これには首を振って溜息を付くしかなかった。
「所長、よく考えてくださいよ。奴等が真昼間なんかに襲う訳ないでしょう? 俺が奴等の立場なら、襲うなら深夜、それも全員寝静まってから家に侵入しますよ。そして、通報されない様に家族ごと連れ出します」
「そんな事出来る訳ないだろうが。家族ごと連れ出すなんて目立つ事」
総一は二人の会話を静かに聞いていたが、大垣のそれは実に日本的考えだ、と思った。
「大垣君、彼はこう言いたいんじゃないかな。相手は軍隊の様な組織かも知れないって」
「軍隊、ですか? しかし、そんなに大勢が日本に入り込めるものなんですかね?」
久米島はその考えがそもそもの間違い、という事が分かっていた。
「あのですね、軍隊って所長が考えているほど、常に大部隊で動いてる訳じゃないんですよ」
大垣は何かを言いたそうにしていたが、総一に止められた。
「軍隊の最小単位は分隊と言って、八人から十人ほどで構成されています。その分隊が二個から四個集まると小隊になるんです。そして、その小隊は三十人から五十人で構成されています。その小隊単位でなら、日本に侵入するなんて訳ないですよ。これだけ海に囲まれているんですから、どこからでも侵入し放題ですしね。ただ、重火器は持ち込めない筈です。せいぜい、ライフルと拳銃、あと、爆弾くらいでしょうね」
それでも個人で武装する事が出来ない日本人にとっては、十分脅威だった。
「それでは――、まさか――、その分隊でひと家族襲うという事なのか……」
久米島は、たぶん、と言って頷いた。
「だが、そんな事をすれば風巻が黙ってないぞ」
「その風巻に手出しさせない為に、今回の件を仕組んで来たんですよ」
やっと辿り着いた、と久米島は思い、総一は、なるほどな、と感心した。
「つまり、こういう事だね。研究所が閉鎖されていれば、家族ごと連れ出してしまっても、どこにも連絡をする者が居ない」
久米島は頷き、言う。
「奴等には風巻が相当邪魔なんだと思います。だから、先に狙った。でもそれは失敗している。ならば、手出し出来ない状況に持ち込めばいい。それには所員の横の繋がりを絶つ事です。それをせずに事を行えば、何の連絡も無い事に心配して、こちらから掛ける。そして、繋がらなければ風巻にも連絡が行く可能性が有る。それさえ出来なくしてしまえば、何の心配もなく家族ごと海外に連れ出せる。そうなったら風巻の力も及ばないでしょうからね」
その考えに、大垣の背筋は寒くなり、何も言えなかった。
「ところで、林さんってどういった方だったんですか?」
総一も大垣も僅かに戸惑う。それは他の所員も同じだった。その様子を見た久米島は、不思議そうな顔をしていた。
「実は――、彼は以前、ここの部長を務めていたんだよ」
これを聞いて久米島は、何故、林が連れ去られたのか納得がいった。
「その林さんは、ここで何かをしようとしてませんでしたか?」
「それは……」
口篭った大垣を見て、答え辛い質問だったのか、と思い、変える事にした。
「それじゃ、質問を変えます。林さんを解任したのは誰ですか?」
「風巻だよ」
総一が即座に答えた。そして、久米島は考える。
――林さんが何かをしようとして居たのは間違いない。それは所長の態度を見れば明らかだ。そして、風巻がそれを止める為に解任した……。いや、違うな。風巻の介入にあって失敗して、それで解任させられた。こう考える方がしっくりくる。 でも、待てよ。それなら、何故病院に入院させられた次点で、奴等はなんでさっさと浚わなかった? 精神科に入ってたからか? そんな人物じゃ奴等の役には立たないからか? それが理由なら、今になってなんで……。いや、そうか、今だから役に立つって事か。
久米島は自らが出した結論を口にした。
「林さんも奴等の協力者の一人ですよ、たぶん」
その場に居る全員が響いたが、それでも構わず言葉を続けた。
「林さんが何をやろうとしていたかは俺には分かりません。一つだけは思い付きますけど。ですが、風巻の介入にあってそれが失敗した。その為に部長の座を追われ、病院に入れられた。普通ならそのまま放置するか消されるかする筈なのに、ここでの地位が災いして、今回のこの事態を引き起こす駒として使われたんです。これは俺の推測ですけどね。まあ、なんで病院に入れられたのかまでは分かりませんが、ここで部長をしていた、というなら、かなり詳しく研究内容やこの内部の事も知っている訳ですから、奴等にとっては、成功さえすれば最高の協力者だったに違いありません」
総一は感心して唸った。
「良くそこまで推理するもんだね。思わず関心したよ。それで、一つだけ思い付いた事は何かな?」
「この研究所の全権を掌握する事」
間髪入れずに久米島が答え、それを聞いた大垣の表情が変る。
「そうか! それでか。林が研究所を掌握しようとしていたのは。俺達はその事に気付かずにまんまと乗せられて、そこを彼に助けられたって事か……」
大垣の言葉を総一が訂正する。
「助けられた、というより、偶然そうなっただけ、だね。彼がこの事に気付いていたとは思えないよ。もし、気付いていれば、あの時すぐに対策を講じるはずだ」
所員達はざわめき始める。大垣がそれを沈めると、久米島が再び口を開いた。
「その偶然の介入で林さんは失敗した、という事ですね。これで辻褄が合います。林さんを連れ去り、その事を伝えれば必ず確認しに来る。そう踏んだのでしょう。ただ、俺が気付けたのは、あの警備員のお陰でもあるんですよ」
「警備員のお陰?」
眉根に皺を寄せ、大垣は聞き返した。彼はそれに頷き、話す。
「ええ――。あの復元した映像を見ても、彼は何の反応も見せませんでした。普通なら少なくとも驚くか怒るかする筈です。それがまったく無い、と言う事は、彼も協力者の可能性が高いって事です」
「だが、あの場で怒る訳にもいかんだろう? それに自衛隊出身者なら冷静な態度なのもおかしくは無い」
久米島は首を振った。
「どんなに冷静沈着な人でも、気配くらいは必ず変ります。それすらも無かったんですよ? あれを見ても冷静で居られるなんて、当事者じゃなけりゃ有り得ない事ですよ」
大垣は腕を組み考え込んでいる。それは総一も同じだ。
「だが、もしもそうだとしても、確証が無い。仮定の話ではどうにもならんぞ?」
それには久米島に案があった。
「当日の警備員の勤務者が誰だったか調べれば分かる筈です。ただ、これは相手に知られる訳にはいきませんから、直接矢川先生の携帯に連絡を入れてお願い出来ないでしょうか? もちろん、病院の内線を使わない様にと、お願いしなければいけませんが……」
「しかし、あの病院もここと同じで携帯には繋がりませんよ?」
総一の言葉に、大垣は異を唱えた。
「いや、今は繋がるはずです。あいつの勤務時間は終わってますから」
大垣の視線は時計に向いている。それを総一も見ると、頷く。
「ならば大垣君、すぐに連絡してもらえますか? 出来れば今日中にと、お願いしてください。こちらは対策を練り直そう。久米島君、君が中心でやってもらえるかな? 風巻に連絡を入れるのは、それからでも遅くはないだろう」
大垣と久米島は共に頷く。そして、大垣はすぐさま電話を掛け始め、大久保は話し始めた。
「では、初めから説明からさせてもらいます。俺達を孤立させる為の罠、とさっき言いましたけど、その理由はですね――」
久米島は一旦言葉を区切ると、指を一本ずつゆっくりと立て始めた。
「第一に、今は公の事件には出来ない、という事。第二に、人手不足。第三に、後に控える風巻が邪魔。この三つが有るからだと思います。公に出来ないのは組織の性質上、分かると思いますが、人手不足というのは、外部に協力者を求めているからです。それに、誰かが単独、または家族ごと攫われれば、遅くとも次の日の朝には風巻に連絡をしますよね? そうすれば必ず動く筈です。あれだけの権力を持っているのですから、自衛隊をも動かして探し出そうとする筈です。だから組織にとって風巻とは、日本国内に限定すれば非常に厄介な存在なんです。それで命を狙った。でも、それは失敗している。となれば、全所員を孤立させるしかない。それには研究所を一時的に閉鎖させればいいんです。それで横の繫がりが絶てます。そして、家族ごとに攫ってしまえば、どこにも連絡が出来ない。後から気付いて風巻が動いたとしても、すでに国外に連れ出した後、となります。それを狙って林さんを連れ出したんだと思います」
久米島はここで一息入れる。だが、これに畑田が口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。人手不足だから外部に協力者を求めるのは分かります。でも、単独で攫うだけならば、それほど人員は必要ないはずですよ? それに、ここの研究内容を一番知っている取手副所長が狙われないのは何故何ですか?」
久米島はその答えを持ち合わせていなかったが、それには総一が口を開いた。
「それはね、僕が風巻と近過ぎるからだよ。僕を攫えば半日も待たずに彼に連絡が入ってしまう。そうなれば組織は終わったも同然だ。彼なら持てる力全てを使って探し出そうとするからね」
首を傾げ考え込む久米島に向かって、更に言う。
「彼にとって僕は家族同然なんだよ」
大垣以外の全員の目が大きく見開かれる。総一の口から語られた事実は、驚き以外の何者でもなかった。
「単なる知り合いってだけじゃなかったんですね……」
畑田の呟きに総一は頷いた。久米島は一つ息を吐いて気持ちを落ち着け、言う。
「という事は立場上、一番狙われやすい副所長が一番安全、という事ですね。それでは大垣所長はどうですか?」
ニヤリ、と笑うと大垣は言った。
「俺も大丈夫だよ。風巻が安全を保障してくれている」
久米島は頷くと、今度は畑田に顔を向けた。
「つい最近までヒラの研究員でしたし、部長になったばかりなので、細かい事までは分かりません。この事は林さんも知りませんしね。知っているのは理事の方達でしょうけど、私では利用価値は殆どないと思います」
それならば、と呟くと、久米島は腕を組み考え込んだ。数分ほどそうしていたが、腕を解いて顔を上げると笑っていた。全員がその笑顔に疑問を持つ。すると、彼は驚く事を口にした。
「当初の計画通り休みましょうか」
これには大垣が慌てた。
「ま、待て! 休みにするのは不味いと、言ってたじゃないか!」
久米島はニヤリ、と不適な笑みを見せた。
「それを利用して、これから旅行に行くんですよ。それも長距離旅行にね」
大垣が怪訝な表情を見せたが、総一は笑いながら言った。
「なるほど、良く分かったよ。それでは風巻に今すぐ連絡をして、バスを手配してもらいましょうか。全員、ご家族にも連絡してください。家族も招待したサプライズ慰安旅行と洒落込みますか」
大垣には訳が分からなかった。だがそれは、久米島の言葉ですぐに解消した。
「さっきも言ったと思うんですが、相手は人員不足です。俺達の監視も少人数でやっているはず。だったら、引きずり回してやればいい。休息も出来ないほどの距離をね。いくら訓練を受けていたとしても、夜間の長距離移動ってのはきついんですよ。それも寝る事が出来なければ尚更です。それに乗用車とバスでは航続距離がまるで違いますから、給油のタイミングが必ずずれます。なので、一度離れてしまうと、二度と追い付く事が出来ません。行き先が分からなければ焦りますよ、これは。もっとも、警察に捕まる覚悟があれば追い付けるでしょうけど、奴等は捕まる訳にはいきませんし、トラブルも起こせません。だから旅行に行くんですよ。計画を逆手に取って。そして、帰りはその足で直接風巻家に行きましょう。そうすれば襲われる事もありませんからね」
なるほど、と大垣は関心したが、ふと、別の事が気になった。
「太陽嵐はどうする? その時はここに居ないと問題だぞ?」
その事を久米島は失念していた。どうするか、と考え込んで居る所に、総一の声が掛かった。
「それはまだ数日先になると思うよ。それに、一番問題のCMEは、警告が出されてから通常二、三日の余裕が有る。という事は、明日、警告が出なければ大丈夫、という事だよ」
ふむ、と呟くと、大垣は笑った。
「よし! それでは、サプライズ慰安旅行だ! 全員、家族にすぐ連絡を入れろ! それから畑田!」
名を呼ばれ緊張の面持ちで大垣に顔を向ける。
「はい、なんでしょうか?」
「お前が幹事だ、行き先を決めろ。今すぐ」
「え?! ええええ?! わ、私がですか?!」
笑顔で頷く大垣を見て、久米島はずいぶんと無茶振りをするもんだ、と思った。
「一晩でどれくらい走ればいいんだ?」
大垣は久米島に顔を向け言った。問われた彼は、そうですね、と少しだけ考え込むと答える。
「一晩あれば七百キロは行ける筈です。そこから更に距離を伸ばせますから、目的地は九百キロくらい先で良いと思います」
「だ、そうだ! 頼んだぞ!」
畑田は慌てるが、何処へ行けば良いのかまったく思い付かなかった。
「四国あたりでいいんじゃないですかね」
別の所員が嬉しそうに言う。
「よし、お前が畑田のサポート役をしろ。あと五分で決めるんだぞ」
いきなり言われ、その所員も慌てたが、思い当たる場所が有るのか、その事を告げると、大垣が雄人に連絡を入れた。
「大垣だ。――これから三泊四日の慰安旅行で四国へ行くんでな、バスを一台手配して欲しい。――説明は後だ。とにかくあの場所にバスを向かわせてくれ。――時間は七時ごろで頼む。――つべこべ言わずさっさとしろ! ――ん? 宿泊場所? それも後で伝える。――それでも風巻の当主か! それじゃ頼んだぞ!」
電話を切ると、大垣は笑って親指を立てて見せたが、久米島は苦笑しか出なかった。




