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悠久の時の彼方でⅠ  作者: 春岡犬吉
第三章
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 何馬鹿な事を言っているのか、雄人はそう思った。しかも、自らの事を、神、などと言う者の殆どが、神ではない事を知っていた。

「無限の時を行き来する者? なんだそれは? しかも神? (あやかし)の間違いじゃないのか?」

 背後から含み笑う声が聞こえる。それは雄人を馬鹿にする様に聞こえた。

「何が可笑(おか)しい」

 苛立(いらだ)ちを押さえ(つと)めて平静を装う彼だが、その声は止まず、更なる苛立ちを(つの)らせた。

「何が言いたいんだ! 俺に何か有るなら、はっきりと言えよ!」

 (たま)らず叫ぶ。それでも、背後の笑いは止まる事はない。彼はついに立ち上がり、刀を手に振り向いた。

「ほう、それを使うか。しかし、扱えるかな? 未熟者の当主殿(とうしゅどの)

 (つか)に手を掛け抜こうと力を込めるが、ビクともしない。雄人は奥歯を噛み締め、更に力を込めた。

力尽(ちからず)くで来るか。だが、抜けるかな?」

 彼は焦った。全力を出しても抜けないのだ。今までこんな事は無かった。自分の力がどれ程の物なのかは分かっていた積もりだ。それがまったく通用しない。溜息を付き、(あきら)める素振りを見せ、彼は腰を落とすと、飛んだ。前に。

 不意を付いて、瞬時にして相手の直前まで迫ると、刻結(ときゆい)の胴目掛け、手にした刀を(さや)ごと振り抜く。ざまあみろ! と、ほくそ笑んだのも束の間、彼は何時の間にか元の位置に戻っていた。

「え……? なんで?」

 状況が全く(つか)めない。確かに刻結の眼前まで迫り、振り抜いたはず。なのに、気が付けば元の位置に戻っている。訳が分からなかった。

「先ほど言ったではないか。此方(こなた)彼方(かなた)を結ぶと」

 此方と彼方。雄人はやっと分かった。離れた空間を(つな)ぎ、物体を瞬時に入れ替える力。これでは、近付いた瞬間に移動させられてしまう。ならば、と思い、雄人は刀を手放した。音を立て、刀は畳を転がる。それを刻結は目で追い掛けた。

「手放すか。面白い事をする。さて、次は如何なる事を見せてくれる?」

 目を瞑り、一度、大きく息を吸い、吐く。そして、気持ちを落ち着け、軽く腰を落とし、刻結に視線を向けた。

「むう。これは……」

 彼の視線には先ほどまでとは違い、邪気の欠片(かけら)もなかった。それどころか、間近に居るというのに、気配すら感じさせず、ただ純粋に相手を見ているだけだった。これはまさしく、獲物を狙う獣。襲うその瞬間まで殺気すら消し去り、只、風景の一部と化す。刻結は感嘆した。

「その技、どこで覚えた」

「覚えたんじゃない。身に着けたんだっ!」

 雄人の姿が目の前から()き消え、次に現われたのは右側面。それも一瞬で消える。天井板が(かす)かに(きし)む音がした、と思うと、雄人が眼前に現われた。刻結は、またか、と半分溜息を付いたが、その姿が意に反して僅かに、後退する。刻結の目が一瞬だけ見開かれ、口元に笑いが浮かぶ。雄人の姿が(かす)み、動きを変化させる一瞬だけ残像が見える。これはもう、人間に出来る動きではかった。人を超える速さを持つ者。それを目の当たりにした嬉しさで、刻結の口元が(ほころ)ぶ。しかし、気を抜いた訳ではない。刻結は動きを読み、瞬時に左斜め前の空間を転移させる準備をする。だが、彼はそこを避けた。正確には、その手前で急制動を掛け、刻結の顔面めがけ、拳を叩き込んだのだ。そこで二人の動きが止まった。雄人の拳は寸前で刻結の手に握り止められていた。

「お見事。流石は風巻の者。我に戦いを挑むは、竜雅(たつみや)以来ぞ」

 雄人は拳を降ろすと、刻結と対峙した。

「竜雅? それって、(うち)の初代、風巻竜雅の事か?」

左様(さよう)。人の言葉では、(ぬし)の先祖、と言うべきか」

 冗談もいい加減にして欲しい、と思っていると、刻結は勝手に話し出した。

「主は、戦い方は違えど、竜雅に似た所が有る。あ奴の動きは暴れ狂う流水の(ごと)し。だが、主は吹き(すさ)ぶ嵐の如し。しかし、風巻の名に相応しき戦い方は主だ。我は主を気に入った。刀を取れ。今宵(こよい)、正式に(ちぎ)りを結ぼうぞ」

 その姿は徐々に光を失うと消えていき、雄人はその場にへたり込んでそのまま(たたみ)に横になると、眠ってしまった。

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