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悠久の時の彼方でⅠ  作者: 春岡犬吉
第三章
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 昔の武家屋敷を思わせる立派な塀で囲まれた家が在る。建物は家屋と言うより、屋敷と言った方が良いほどの広さを持つ平屋造りで、敷地の三分の一を占めている。庭自体も広大で、普通の家が楽に十棟は建てられそうなほどだ。その庭も見事な日本庭園の様式の一つで、大名庭、と呼ばれる形で作られ、そこを散策出来るようになっている。そして、その門扉に掲げられた表札には〝風巻〟とあった。

 屋敷の窓は全て開け放たれ、風が自由に出入りしている。その家のほぼ中心部の部屋には、刀を脇に置き、目を瞑って座る雄人が居た。

 彼は、昨夜総一に伝えられた事を、未だに反芻(はんすう)していた。

「お前にはこの意味、分かるのか?」

 一体、誰に対して言っているのだろうか? この家には彼しか居ないというのに。

「当主とも在ろう者がなんと言う愚問(ぐもん)。その様な事も解らず家督(かとく)()いだというのか」

 突如として声が流れ、(ほの)かな光と共に、雄人の背後、距離にして五メートルほどの場所に、人影が浮かび上がった。その姿は背光を(まと)い、輪郭しか見て取る事が出来ない。

「ふん。この程度で怒るとはな。(ぬし)は未熟よの」

 心の動きを指摘され、彼の表情が悔しさに変る。

「悔しいか。ならば先代を超えて見せよ。主なら出来るはずだ」

 声の主には雄人の表情や心の機微など、分かるはずが無いのに、何故、それが分かるのだろうか。だが、その事を気にする事も無く、雄人は息を吐き、気持ちを落ち着け、背後を探る。そこにはまだ、気配があった。

「昨日の夜、アレクに何をした」

 背後から驚く気配が伝わってくる。それを感じ、彼の口元が笑いの型に変った。

「気付いておったか。これは油断ならぬな」

「もう一度聞くぞ。何をした」

 しばらくの間、沈黙が続く。すると突然、背後の人物が笑いを()らした。

「これは致し方なし。(われ)を呼び覚ました主には答えねばなるまいな――。彼奴(きゃつ)の願いを叶えてやったまでよ。無論(むろん)()われた訳ではないがな」

「願い?」

「そうだ。もっとも、今一つの願いは簡単では無いのでな、直ぐに、とは()かぬがな」

 何を勝手な事を、と思い、怒りが込み上げてくる。だが、此処で怒る訳にはいかなかった。

「面白い、抑えたか。我が知る限り、以前の主であれば問答無用だったはず」

「以前は、な。だけど、誓ったんだ。これに」

 ペンダントを取り出し、掲げた。

「それは――、先代が妻に創り与えし物。それも受け継いだとは、中々に興味深い」

 息を吐き、気持ちを静める。そして、彼は昨夜と同じ事を問う。

「お前は何者なんだ」

 人影は肩を揺らし、声を上げて笑った。笑い声は家中に響き渡り、時を(きざ)む全ての物を狂わせた。

「それこそ愚問の(きわ)み。だがしかし、一応とは言え風巻の当主に名を乞われては致し方なし。ならば教えて進ぜよう。我はその刀に宿されし神。名は刻結(ときゆい)(とき)を結び、彼方(かなた)から此方(こなた)へ、此方から彼方へ、無限の刻を行き来する者なり」

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