プロローグ
木々が鬱蒼と茂る森の中、ぽっかりと開けた場所があった。そこだけは何も生えずに地肌を曝し、まるで、不毛の大地の様にも見える。その中心には、全身を淡く光らせた男が立っている。一体、どれ程の時間を過せばその様になるのか、身に纏ったロングコートは裾が解れ、ボロボロになっていた。男は時折吹く風にコートの裾を靡かせながら、瞼を閉じた顔を月に向け、気持ち良さそうに月光を浴びていた。
閉じられた瞼が静かに開かれてゆく。前方の闇の奥に、何かの気配を感じ取ったのか、ゆっくりと顔を向け、視線を送った。
闇の奥に一対の光が燈る。光はゆっくりと男に近付き、月明かりに姿を晒すと、その体は月光を浴びて、見事なまでに金色に輝いていた。
男の口から声が漏れる。
「御主は――」
金色に輝く者は首を傾げ、貴方が何故此処に居るのか、と、問いかけている様にも見えた。
男もまた、不思議そうに見ている。
二人の間に、何か、意識の光の様な物が流れる。
「何が御主をそうまでして、生き永らえさせる」
また二人の間に光が流れた。
すると、瞳からは堰を切った様に涙を溢れさせ、その口からは、今まで溜め込んでいた想いの全てが放たれた。
「なれば我を持ちて己が想いを込めよ。さすれば、その五体罷り去ろうとも魂は我と共に在り続け、願い叶うであろう」
荘厳な男の言葉が終わると、その姿は掻き消え、そこには月明かりに照らされ、鞘に納まった日本刀が突き立っていた。
それ自体、意思でも有るかのように、ゆっくりと傾き、柄を向ける。
金色に輝く者は、刀を地面から引き抜くと、また、森の奥深くに戻って行った。
拙作を読んで頂、有り難う御座います。
遅筆なもので、更新頻度が遅くなりますが
暖かく見守ってください。
ご意見ご感想など頂けますと、画面の前で小躍りいたします。
何卒、よろしくお願いします。