無口な草食少女と爽やかハンター
高校3年の11月。
家政科の大学へ推薦が決まっていた私は、
静かに卒業までを過ごしていた。
特殊な専門科、というのは
受験者が少ない。
この学校でも私だけなのだと思う。
だから、あと数ヶ月で
同窓会でも行かない限り
道で偶然会わない限り
二度と会うこともない。
だから、黙って過ごしていた。
でも、大人しくしていると
結構な確率でいじめの対象になる。
「その無駄長い髪切れよ、うっとーしー。」
「あの目がマジキモイ。」
「本当、生意気な根暗ちゃん。」
最初は、陰口で、
最近では、教室でも言うようになった。
異性の目というのを気にしているのか
大きな声では言わないけど
私に聞こえるようにしゃべって
あとは、集団でくすくすと笑う。
あと3ヵ月半。
低知能で不躾な同級生の暴言に
耐え切れば、あとは穏やかに
静かな大学生活が待っている。
…はずだった。
運悪くテスト近くにインフルエンザにかかり
10日近く休んでいる間に
中間テストが終わってしまい
補習を受けることになってしまった。
赤点を2つ以上取った生徒もいるので
20人くらい1つの教室で
本テストより軽めのテストを受け
合格したら帰れると言うもの。
問題なく解いていき
そろそろ終わると思ったころ、
前の席の男の子が
「消しゴム貸して」
と小声で言ってきたので、
私は、彼の肩に乗せるように渡した。
横顔を見ると前期生徒会長森川君みたい。
首位と2位を行ったり来たりするほどの
秀才だったと記憶しているけど、
補習を受けるほど今回は調子悪かったのかな?
まぁ、いいや。私には関係ないし。
書き終えるころ、森川君から
消しゴムが返ってきた。………?
何か挟まっている。
消しゴムとカバーの間に
はさまっているものを取ってみると、
“田辺さんのことが好きです。
オレと付き合ってください。
返事は補習の後聞くから、よろしく。
森川 ”
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
な、ななななななななななななななななな
何だってー!!
ここここここっ告白!!?
何でいきなり告白なの!?
森川君のことは、前、生徒会長だったな…
くらいしか…あと男の子と楽しく談笑してるとか。
ああぁ、あの後で聞くって帰りって事!?
そんなのいきなり言われても分からないよ。
逃げよう!!
カバンを持ちプリントは提出したので
(私なりの)全速力ダッシュで
学校から走る。
ハァハァハァ…
や、病み上がりにはキツい…
森川君ごめんなさい。
だって、いきなり付き合うとか
知らないのに好きだとかいわれても…
ごめんなさい。
ごめんなさい……。
「ゴホゴホ、ゴホッ…うー。
ゴホゴホ……ハァハ、ァ…ハ、ァ…」
「大丈夫か?」
やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
咳がなかなか落ち着かないから
歩道にしゃがみこんで落ち着かせてたら
当の森川君が心配そうにうかがってる。
私の…全速力………
「な、ゴホッ…何で…」
「“後で聞く”っつたのに
獲物逃げたし。逃げたら追うだろ、普通。」
わかんない。こういう普通わかんないから。
意味不明なことしゃべって
森川君どっかに行った。
私が無事だとわかって帰った。
……そんなわけなかった。
いつも呑んでるミルクティを
持って私に渡した(ギャグじゃないわよ)
森川君はブラックみたい。
お子様味覚の私には無理な飲み物だ。
「体温めると咳、治るよ。
母さんが気管支弱くてさ。
寒いと咳が止まらないけど
暖かいもん呑むとおさまるんだ。」
「……ありがとう。」
告白から“お断り”するように逃げた私と
“獲物が逃げた”と追いかけてきた告白した男の子。
なんかおかしな感じね。
そして、居た堪れない微妙に居心地悪い空間。
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「やっぱり、ダメか?俺じゃ。」
(ぐっ……………!!)
飲み終るまで何もないと思ったのに
いきなり告白の返事聞いてきたから、
ミルクティ噴出しそうだった。
そんなこと言われても
森川君のこと知らないし。
「受験生だから付き合うとか
そんな状態じゃないのは分かってるけど、」
まぁ、推薦で受かった話は
親と先生以外知らない話だし。
森川君のほうは今大変だろうけど。
「卒業式になったらとか言っても
田辺さんすぐ帰っちゃうだろうし、」
まぁ、式さえ終われば帰るつもりだけど。
友達がいない私には子供だけの騒ぎは苦手。
「同窓会とかにも来ないだろ。
だから、卒業したままお別れ。
って言うのが嫌だったんだ。」
そうなのだろうけど……
でも、好きでも嫌いでもない人と
付き合おうとするのは勇気がいるし、
不安だし、なぜかは知らないけれど。
だいたいなんで私なんだろうとか
よくあるバツゲームなんだろうか
全校女子制覇とか…それはないか。
共通項があまりになさ過ぎる。
にぎやかな所苦手だし、協調性ないし、
ずっと家にいるし、暗いし、
流行ワード知らないし、
「田辺さん。」
「っは、はい!!」
びっくりした。肩つかむから。
驚き森川君を見ると、肩をつかみ
これ以上ない真剣な顔で私に顔を近づけた。
「この話、
1.俺が急ぎすぎた。
2.俺に興味がない。
どっち?」
う…顔近い、近い。ただでさえ
親でも最近そんなことしたことないのに。
キスできる距離に、
18年で一番顔を赤くしたと思う。
どっちって言ったって、ま、まあ…
「………1…かな。」
だよね。
嫌いな外見ではないもの。
趣味嗜好は分からないけれど。
「そっか。…そうか、
望みはなくなってないわけだな!?」
「な!あ、森川君のこと
ぜんぜん知らないか…ゴホゴホっ
1て…コホッ」
「ゴメン。立ち話しすぎた。
送ってくから。…電車通学だよな?」
「いいよ、いいよ。
電車だけど駅から近いから。
森川君この辺だよね。」
「よく知ってんね。」
「一人だけ坂上がるから…」
「近いから別に苦じゃないよ。
それより病人が倒れそうで心配…」
「っもう平気だから!あの、じゃあ!!」
森川君の話が終わらないうちに
強引に別れを告げてまた全力疾走。
慣れない!
男の子と2人きりなんて慣れない!
顔急接近のシーンを思い出してまた火照る。
なんとか駅に着き電車乗り
息を整えて心を落ち着かせるため
電車内の、景…色ーを…………
「俺まだ田辺さんの連絡先も
住所も知らないし、次の日曜の
打ち合わせもまだだよね?」
「~~~~~~~~!!!!」
静かに卒業まで一人ですごさせて
………は、くれないようです。
実は夢で見た話なんです。
補習を受けた時に前の男子生徒から消しゴムと一緒に告白文が来た。
夢なのにすげーときめいて起きて旦那を見て現実に引き戻された(笑)
年甲斐もなくときめいた話だったので、続きがぽんぽん浮かんで
それではシリアスだったんですけどね。切ない系の森川君かっこよかったのに、
この話ではなんか森川君がストーk…なんでもない。
森川君の元気な家族とか彼がなぜ補習受けたのかとか
色々書きたいですがこの辺で。ありがとうございました。