Introduction「風間静夜」
初めに断言しておくべきことがある。
この物語の主人公である風間静夜、彼の存在は純然たる『悪』だった。
それは絶対に揺るがない不動の真実。そして、彼が『悪』として存在することに、復讐や貧窮や保身などといった他人が理解できる理由は一切なかった。
何故なら、彼という存在は現世に生まれ落ちた瞬間から『悪』だったから。故に、彼の存在はどこまでも純粋な『悪』であった。
人間は積み重ねてきた教育や経験などによって善悪に傾くが、生来の資質によってもその傾き方は大きく作用される。人は丸裸で生まれてくるのではない。人間は生まれ落ちた瞬間、すでに多くのモノを背負わされている。家名や階級や体質や気質など、生まれた瞬間から人間はそれぞれ別の個性を持っている。彼の場合、それが『悪』だった。
風間静夜は『悪』として、この腐敗した世界に降誕した。
『悪』としての資質があることを除けば、風間静夜は素晴らしい人間だった。夜闇を映すような黒髪、悪意を隠した深い闇色の瞳、鼻筋が通った秀麗な顔立ち。長身痩躯ながらも決して華奢な印象は受けない恵まれた体格。一流モデルを前にしても、決して引けを取らない美貌の持ち主だった。全国模試でも一位以外の順位を取ったことのない天才的な頭脳の持ち主で、幼き頃から神童と讃えられてきた。スポーツでも万能な才能を発揮し、静夜が頂点を取れなかったモノは何一つなかった。あらゆる才能に恵まれた真の天才。
しかし、静夜は自らの卓越した能力を過信していなかった。どれほど優れていたとしても個人に為し得ることには限界がある。チェスでは最強の機動力を誇るクイーンも、不用意に動かせば最弱のポーンに打ち取られることもある。個人の限界を知るからこそ、静夜は他者を支配する術を求めていた。そして、彼にはそれを為し得るだけの力があった。
故に、風間静夜は支配者として君臨していた。自らに従わぬ愚かなる者全てを蹂躙し、虐殺し、殲滅する悪魔の王。絶対たる力を持った魔王に誰が抗うことはできない。誰が王のように為り得るのだろうか。誰が王に逆らって戦うことができるのだろうか。
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