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トモダチ  作者: 北見剛介


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3/3

由紀恵の悪夢

「小さな子ども?」


なるべくゆっくりと、子供をあやすように聞いた。だが実際は心臓が早鐘を打っているし、全身、特に手からは汗が噴き出てくる。幸せだった気持ちは一瞬にして、霧のように消えてしまった。


「うん。いただきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすって言って、あなたが頭から食べられて、私は近くの木々に隠れてたんだけど、動けなくて。その子から隠れてたら、私も見つかって、それで、食べられるんだって思ったら・・・あなたが起こしてくれて」


それを聞いたとき、自分が感じた感情が、恐怖なのか驚きなのか、はたまたその両方なのか、わからなかった。しかし、気を抜けば体は震え、全身から嫌な汗が滝のように噴き出ていただろう。


「大丈夫だ、ただの夢だよ」


そう言って頭をもう一度撫でてやる。そうだ、ただの夢だ。何も怖いことはない。俺のそんな気持ちが伝わったんだろうか、電気もつけていない暗闇の中でも、由紀恵が少しだけ笑ったのがわかった。


「ねぇ、修平君。修平君が前、悪夢見てうなされてたことあったじゃない?あの時はどんな悪夢見てたの?」


由紀恵が俺をあなた、ではなく修平君、と呼ぶのは晴彦がいない場面かつ、由紀恵が俺を頼りにしてくれているときだ。正直由紀恵に頼られるのは、嬉しくもあるし、夫としての役割を果たせている証拠でもあると思う。


こんな状況でなければ、もう少し素直に喜べたかもしれない。


「あの時は、そうだな・・・・・由紀恵や晴彦がある日突然出て行っちゃう夢とか、会社に着いたら気持ち悪い化け物に追いかけられる夢…とかだったかな」


矛盾のない嘘が、考える間もなく口から出てくる。まさに脊髄反射だ。


そういえば、子供のころ、怖い夢を見た時、母親の布団に潜り込んで抱き着いて寝たことがあった。その時母は


「そうかい」


とだけ言って、文句も言わずに私と寝てくれた。


良い成績を取りなさいだの、東大に行けだの、色々口うるさい母親が、あの日は俺の言うことを黙って聞いてくれた。そのことが無性に嬉しかった。


今の俺は由紀恵にあのような安心感を与えられているだろうか。由紀恵の支えにはなれても、あのぬくもりを与えることはできていないのではないか。だとしたら、俺が夫である意味はあるのか。


そう思うと、なぜか胸がいっぱいになって、その後、腹が立った。由紀恵への怒りではない。自分への怒りだ。愛している人に安心の一つもやれていないのか、俺は。


次の瞬間、俺は由紀恵を力の限り抱きしめていた。特に言葉もかけず、頭をなでるわけでもない。ただ抱きしめる、それが、一番良いと思った。由紀恵は一瞬戸惑ったみたいだが、しばらくすると頭を俺の方に預けて、背中に手を回してきた。


一瞬頭の中に、自分たちがあと3年で40台に突入する夫婦であることが頭をよぎるが、今意識するべきことではないだろう。


ただ抱きしめあっているだけなのに、安心する。あの夢を見ていたことで、枯れていた心に、ぬくもりが戻っていくような心地がした。


「ねぇ、申し訳ないんだけど・・もしよかったら、このまま寝てくれない?」


「・・・・・そうだな、俺もそう言おうと思ってた」


そうして二人、抱き着きながらベッドの上に転がっていると、2,3分ほどで由紀恵の規則正しい寝息が聞こえてきた。俺が抱きしめたことで、由紀恵は安心できたはずだ。だからあの夢を見た後でも、ぐっすり眠ることが出来ている。


自分でもわかっていた、わかっていたが認めたくなかった。安心が必要なのは由紀恵だけではない、俺も必要なのだ。寝不足とそれに伴って増えるカフェインは、間違いなく心身の健康をむしばんできている。


最近は常に多少の吐き気がするし、小さなことでもイライラしてしまう。まだその感情をも表に出してはいないが、このままだといつ爆発してもおかしくない状況だ。


ならばどうすればよいか、毎日、先ほどのように抱きしめながら寝てほしいと頼んでみるか。いや、それはダメだ。由紀恵は聡明な女性だ。俺がまだ悪夢を見ていることに気づいてしまうだろう。それだけは絶対に嫌だった。


由紀恵にとって、俺は優しくて賢くて、強い夫。そうでなければいけないのだ。


精神科は役に立たない。以前実証済みだ。ならば、答えは一つ。自分で、あの悪夢に出てくる少年を突き止めるしかない。もし、あの少年が実在した人物であれば、必ずどこかにヒントがあるはずだ。


心が奮い立つのがわかった。


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