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トモダチ  作者: 北見剛介


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「じゃぁ、お疲れ様」


「お疲れさまでした」


やるべき仕事も終わったので部下に挨拶をして、会社を出た。川口はなるべく残業をしないことをモットーとしている。もちろん早く家に帰って休みたいのもあるが、仕事を時間内に終わらせられずに残業しているのは、かっこ悪いという持論があるからだ。


自分がまだ新入社員だった時、先輩の残業時間自慢を飲み会で聞かされるたびに辟易した。会社で寝泊まりすることや、徹夜で仕事をすることが何の自慢になるのかわからなかった。


もちろん時間ギリギリに頼まれたり、残業をしている際に頼まれた場合はしょうがない。その場合は夜遅くまで残業をすることもある。だが少なくとも22時には帰って、家で休息をとり、朝いつもより少し早く家を出て仕事を片付けたほうがよっぽど効率的だ。


時計を見ると19時30分過ぎ、今日はまぁまぁ早く帰れそうだ。スマホのメッセージアプリの通知音が鳴ったので見てみると、晴彦と由紀恵が食卓について、由紀恵が笑顔でピースしている写真が送られてきていた。晴彦はどこかそっぽを向いている。


「今日は晴彦作のカレーだよ。早く帰ってきてね」


由紀恵からだった。両親が共働きのため、小さいころから台所に立つことが多かった晴彦は、料理がうまい。その中でもカレー作りは、晴彦の得意とするところだ。正直カレーに関しては川口も、由紀恵も、晴彦にはかなわないと思っている。


やっぱり残業はしないに限るな、そう思いながら、川口はまだまだ明るいオフィスビル街の中を、駅の方向に向かって歩いて行った。


「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」


「・・・・・・・・・はっ」


今日は食べられる前に目が覚めた。隣の由紀恵も寝ているし、叫び声は上げずに済んだみたいだ。昨日食べた晴彦のカレーのおかげかもしれないな、なんて心の片隅で考えながら時計を見るとまだ4時過ぎ。


この時間から起きているとなると、エナジードリンクの量を増やさなくてはいけない。一応健康のためにエナジードリンクは一日一つにしようと決めているので、本来ならもう少し寝ておきたいところではある。


だが、怖いのだ。また寝たら夢の続きを見てしまうのではないか、一度は回避できた、食べられる恐怖をまた味わうことになるのか、そう思うとなかなか寝付けない。


良い大人が情けない話ではあるが。


きっと夢を意識の外に置けないから、いつまでもあの夢に悩まされるづけるのだろう。

そうだ、何か楽しいことを考えよう。


昨日の晴彦のカレーは一段とおいしかった。俺と由紀恵好みの少し辛めの味付け。また腕を上げたな、そう言って褒めてやれば、晴彦は何でもないような顔をして、自分の部屋に引っ込んでいった。もう昔のように、頭をなでてもらおうと、こちらに頭を向けたりはしない。


若干寂しくはあるが、中学生なんてみんなそんなもんだったし、それでいいと思っている。それに、自分では隠しているつもりかもしれないが、褒めた時、若干口角が上がったのを、川口は見逃さなかった。


思いだして、笑みがこぼれる。可愛かった、なんて言えば晴彦は怒るだろうな。本人は大人への階段を上っているつもりだから。でも、そういうところがまだまだ子供で、可愛らしいなと思う。


「うぅん・・・・・」


隣にいる由紀恵が眉をひそめて声をあげた。しまった、起こしてしまったか。いや、そうではない。何か悪い夢でも見ているのか、冬だというのに額には汗をかき、苦しそうな表情をしている。

「由紀恵、由紀恵。大丈夫か?」


「うぅん・・・はっ・・・あれ、修平君?」


「何か悪い夢でも見たのか?うなされてたぞ」


由紀恵は俺の顔を見て、数秒した後、目を潤ませながら抱き着いてきた。


由紀恵はお化けとか、幽霊とかそういう類のものに弱い。幽霊に追いかけられる夢でも見たのかもしれないな、と思いながら、ゆっくりと、子供をあやすように頭を撫でた。


「よかった・・・・本当に夢で・・・・よかった」


よほど怖い夢だったのだろう。声は震えているし、思わず苦しくなるほど強く抱きしめてくる。


「あのね・・・あなたが見知らぬ小さな子供に・・・ひっ・・・・食べられちゃうの・・・それで、私たちも・・・・」


そこまで言うと、由紀恵は口を俺の服に押し当てて、静かに泣き始めた。


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