続ー24ダン編 守ると誓う
城から帰ってきた時には、すっかり夜になっていた。ドラゴンは疲れたのか、既に部屋の隅で丸くなって眠っている。サツキも疲れているようなので、俺達ももう休むとするか。
湯浴みを済ませ、サツキと共にベッドに横になろうとしたところで、しかし俺はふと、肝心な事を訊いていないと気づく。
早めにはっきりさせておいた方がいいだろうか……。俺はベッドからおりて立ち上がり、衣装部屋から鞄を持ってきた。
「サツキ」
「ん?」
「これを見てくれ」
鞄から取り出したのは、超古代文明の遺産であるキカイ人から出てきた謎のジュースだ。それをサツキに見せる。
「……知っているか?」
するとサツキが、大きく目を見開いてジュースに飛びついた。
「うわぁ! 久し振りね! どうしたね、これ?」
やはり――知っているのか。
「大きな四角い箱の、出っ張りを押したら出てきた」
「……ん?」
どうやら分からなかったようだ。俺は少し考えて、机の上の紙とペンを持ってくると、記憶を頼りにキカイ人を書き始めた。
「これだ」
うむ、上手く書けた。サツキは俺の絵を、目を瞬いて見つめ、それから呟く。
「ジ・ハンキね……」
ジ・ハンキ……?
「サツキと同じ言葉を話していた。『イラッシャイ、アリガトウ』」
サツキは大きく頷いて、断定する。
「ジ・ハンキね」
あれは、『ジ・ハンキ』と言うのか。そして、それを知っているサツキはやはり……。
「わたーし、同じ、ニホン人どこかいる」
なに……? 同じ一族のものが、世界のどこかにいる……? 神に愛されし一族は滅びてはいないということか。
「あ、そうね!」
突然、サツキは俺を押しのけて立ち上がると、衣装部屋に駆け込んで、すぐに戻ってくる。ん? 持っているのはなんだ?
サツキが手に持っている、四角いものを俺に見せる。
「これ、ケイタイ言うね。シャシンとるね」
「ケイタイ……?」
「ここ、見る」
サツキは丸い模様を見るように俺に指示し、ケイタイを少し上に構えた。いったいこれは、なんなのか。と、その時――カシャッ、と変な音がした。
「ほら」
サツキがケイタイを俺に見せる。
「…………!」
俺は驚き、ヒュッと息を吸った。
先程まで何もなかったケイタイに、俺とサツキの絵が描かれている。いや、絵というにはあまりにも現実感がある。まるで鏡のようだが、鏡でもない。
「これは……いったい……?」
呆然と呟く俺に、サツキは伏し目がちに笑う。
「シャシン。でも、これでおしまい」
「おしまい?」
「もう、使わないね」
使わない……。
「お片付け、するね」
「何故だ?」
「使わない。もう力無くなるが、残念でもいい」
力が無くなる方が良い……? それは力を封印するという意味か。
力とは、この超古代文明の遺産だろう。この力――技術と言った方が良いか――が、もう無いほうが良いとサツキは思っているのか。
「これ、内緒。触れてはいけない、隠すね。みんなビックリ、あれこれ欲しがる破壊する」
触れてはいけないもの? このことは内緒にして隠す、皆が驚き欲しがり、破壊する……。『破壊』、それは――そうか! すべてが一つに繋がった!
「サツキ!」
俺はサツキを強く抱きしめる。
高度な技術を持つ一族、その技術は世界を破滅させる可能性さえある。リュウのタマゴは、伝説では世界を制する力を得るといわれているが、真実はリュウのタマゴではなく、古代文明を築いた一族とその技術を手に入れた者こそが、世界を制する力を得るのだろう。
それらを手に入れようと画策する者達との長い戦いに疲れ、何より技術が悪用されて世界が破壊されることを恐れた神に愛されし一族は、その技術を封印し、世界中に散り散りになることを選んだ。
では『リュウ』とは何か。おそらくは、一族の者を守る為に神が創りし獣。かつては一族と共に戦う存在だったのだろう。
メィイは俺に言った。『サツキを任せた』と。一族の生き残りであるサツキを、リュウと共に悪人から守れと言っていたのだな。俺に突然魔力が備わったのは、神がサツキを守る為の力を俺に与えたからだ。
そしてサツキがリュウのタマゴを欲しがったのは――そう、いつか生まれるであろう神に愛されし一族の血を引く子供達を守る為。サツキがタマゴを欲しいと言いだしたのは、いつか生まれるであろう子供達の将来について話をしていた時期と重なる。
サツキは不安や葛藤をマチルダの前でついポロリと漏らしてしまった。リュウがいれば子供達を守れるのに……と。それをマチルダが覚えていて俺に教え、俺はサツキの為に旅に出た。
そうだ、俺は大きな勘違いをしていた。サツキ自身は犯罪者などではない。
両親が亡くなった後、素直で優しいサツキは誰かに自分が神に愛されし一族の生き残りだと言ってしまい、犯罪者――つまりサツキとその技術を狙う者達に見つかり、世界中を逃げてカタヤの屋敷に逃げ込み、そこで保護された上に運良く養女になったのだろう。
繋がった、まるでドーナツのように。
「サツキ……」
サツキの顔を両手で挟み、上向かせる。
「ずっと守ると約束しよう。愛している」
「……うん」
俺は誓いを込めて、サツキに口づけた。