続ー21サツキ編 帰ってきてびっくり
歌って踊って馬鹿騒ぎをしていた時はあれほど楽しかったのに、みんなが帰って寝る時になったら、また悲しくなってきちゃった。
「あぁ……」
溜息を吐きながら階段を上ろうとしていた私の顔を、お母様が覗き込んでくる。
「サツキ?」
う。ごめんなさい、心配かけて。私は急ぎ足で自室に戻って、ベッドに倒れこんだ。
ダン、いつ帰ってきてくれるの? もしかして、私が結婚を望んでいるのに気付いて逃げたの? 一人の女に縛られたくないの?
「ダン……」
私は目を瞑り、そのまま眠った。そして――。
「サツキ……!」
ん?
「サツキ、サツキ! 会いたかった!」
ダンの声が聞こえる。……夢? それにしては激しく揺さ振られるこの感覚と、頬の痛みと異臭は……。
「う…ん……?」
寝不足で重い瞼を薄く開けると、ぼんやりとダンの姿が見えた――って、え!?
「……ダン?」
「サツキ!」
嘘、本当に? ダンが、私を抱きしめている。
「ダン? ダン!」
私はダンに縋り付いた。この筋肉の感触、本物だ、本物のダンだ!
「馬鹿! 長い間何処行ってたの!?」
「ああ、ごめん」
馬鹿馬鹿! ごめんじゃないよ!
ダンの胸の中で、私は声を上げて泣く。う、臭い。信じられない異臭がダンから漂ってくる。いったい今まで何をしてたの? お風呂に入ってなかったの?
ダンが私の頬に口付けるけど、髭が痛い! 何、この伸び放題の髭は! 髪の毛もぼさぼさで、酷い状態じゃない!
眉を寄せる私を尻目に、ダンは床の上に転がっていた白いものを両腕で抱えてベッドの上にのせる。
ん? 私は益々眉を寄せた。
「これ……」
「ああ、サツキが欲しいタマゴだ」
「タマゴ……?」
……は? 私が欲しい? しかもこれ、タマゴなの? 巨大すぎるでしょ、何人分の目玉焼きが作れるの? いや、それよりこれって何のタマゴなの? なんだかもの凄く嫌な予感がするんだけど、猛獣とか出て来るんじゃないでしょうね?
そっと手を伸ばし、タマゴに触れてみる。その瞬間、
「…………!」
タマゴが光り始めた。
うわあ! なんかヤバい、絶対ヤバい! 光るタマゴなんて怪し過ぎる!
パリパリという音と共に殻が破れ、鋭い爪らしきものが飛び出してきて、そして――、
「キシャー!」
ぎゃああ! 角と翼の生えた強暴そうな生物が出てきた! ゴオォオオ、って、ゴオォオって炎を吐いてるよ! ベッドの天蓋が燃えちゃったじゃない。
「ダン、あれ……!」
私はダンの腕を掴み、涙目で訴えた。ねえ、もしかして……ううん、絶対そうだよね。
「ドラゴン……」
呟くように言った私に、ダンが首を傾げる。
「ドラゴンだよ!」
ちょっと、なんでそんなに呑気なの!? 新たな炎を吐いてベッドを燃やしているあれは、小さいけど絶対ドラゴンだよね! 私の頭を撫でてる場合じゃないって!
私がダンに危険を訴えようとした、その時、ドタドタという音が廊下から聞こえ、ドアが勢いよく開いた。
「ダン!」
「ダン様!?」
お父様とお母様、それにマチルダとヤンだ。
お父様がダンを見つめる。
「ダンよく無事で……それに手に入れたのか」
「はい」
え!? お父様お母様まで、何故呑気!? ドラゴンだよ、ドラゴンが炎を吐いて屋敷を燃やしてるよ! 水、水! 消火活動だよ!
お父様、城に連絡って、それより消防隊に連絡を! マチルダ、お風呂の準備じゃなくて、火を消す水……あ、ドラゴンが体当たりで火を消した。
お母様が涙を拭う。
「良かったわね、サツキ。まさか手に入れて……」
「うん……」
火が消えたのは、確かに良かったけど……。
私は部屋中を元気に飛び回る、ちびドラゴンを見つめた。みんな驚いてないってことは、ドラゴンってこっちの世界じゃ普通にいるものなの?
「サツキ」
ダンがもう一度、強く抱きしめてくる。
う、臭いー! うええ! 色々訊きたいけど、取り敢えずお風呂に入って!
私はダンの腕の中で、こみ上げてくるものを必死に我慢した。