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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
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続ー18サツキ編     落胆

 馬車に揺られてお城へ来た。

 わぁ、凄い。見た目は某テーマパークのお城を大きくした感じだけど、やっぱり迫力が違う。

 その門前で一度止まって、馬車はあっさり敷地内に入る。警備緩いなぁ、大丈夫? あ、前庭美しい!

 馬車の窓から身を乗り出したら、少女――『シエル』って名前なんだって――で、そのシエルが私のドレスを掴む。

「危ない!」

 う、ごめんね。はしゃぎすぎだよ、私。本来の目的を見失うなわないようにしなきゃ、ダンのこと訊きにきたんだから!

 お城の入り口を通過して馬車は走っていく。

「あれ? どこに行くの?」

 私が訊くと、シエルが答えた。

「おじいさんのところ」

 あ、そうなんだ。どんなおじいさんなんだろ、ダンのこと何か知らないかなぁ。

 それから少し走って、馬車は石で出来たアパートみたいな建物の前で停まった。私とシエルが馬車から降りる。

「ここ?」

「うん」

 シエルに手を引かれて建物内へ。ドアがたくさん並んでるけど、一番奥のドアの前でシエルは止まり、ノックをした。

 コンコン。

 中から返事が聞こえ、シエルがドアを開ける。

「おじいさん!」

 シエルが私の手を離して中に飛び込み、そして私は驚いた。


 あ! この前のマジシャンだ!


 え? シエルのおじいさんってマジシャンだったの? びっくりだよ。マジシャンも突然現れた私に驚いてる。

 それにしても、なんで城にいるのかな? 王様お抱えマジシャンとか?

 そんなことを考えていると、マジシャンに抱きついていたシエルが振り向いて私を呼んだ。

「サツキちゃん」

 私は部屋の中に入り、シエルの横まで行くとマジシャンに挨拶をした。

「こんにちは」

 シエルが「あのね……」と、私達が一緒に城まで来た経緯を説明してくれ、マジシャンは納得したのか私に笑顔で挨拶を返す。

「ゆっくりしていきなさい」

「ありがとうございます」

 軽く頭を下げながら、あ、そうだったと私は思い出した。マジシャンはダンと知り合いだったよね。一応訊いてみようかな。

「おじいさん、ダンがいつ帰ってくるか知りませんか?」

 するとマジシャンが、困った顔をして答えた。

「分からない。早く帰って来ればいいが……」

 うーん知らないか、残念。じゃあやっぱりダンの上司に訊いた方がいいかな? 何処に行けば会えるんだろう。

 上司の居場所を訊こうとしたその時、シエルがマジシャンの手を引く。

「おじいさん、虎の子供見に行こ」

 虎!? 見たい! あ、でも上司……うーん。

 悩む私の手をシエルが握ってくる。

「行こうよ、赤ちゃんのところ」

 う……、やっぱり見たい! よし、虎の赤ちゃんを見てから上司のところに行く。決定!

「行く!」

 私が頷くと、マジシャンが笑って立ち上がった。

「じゃあ行こうか」

 マジシャンとシエルと共に建物の外へ出て、再び馬車に乗る。そのまま五分くらい進むと――、あ! 前方に虎発見!

 私でさえ飛び越えられる低い柵で囲われた牧場っぽい場所に、虎が数頭放し飼いにされていた。

 馬車を降りると、シエルとマジシャンが私の右手と左手をそれぞれ握る。

「虎の子供はこっちだよ」

 二人に引っ張られて柵の中に入り、すぐ側に立っている小屋へと向かう。シエルが小屋のドアを開けて――ん? 私は驚いた。


 あ、こないだ私の虎達を連れて帰った美青年が、赤ちゃん虎を抱っこしてる!


 美青年は私に気付くと、赤ちゃん虎を抱っこしたまま私の目の前まで来た。

「サツキちゃん、どうしたのかな?」

 あれ? 名前教えたっけ? 

 私が首を傾げている間に、シエルが美青年の質問に答える。

「遊びに来たの!」

「そう」

 美青年はニコニコ笑って、私に赤ちゃん虎を渡した。

 うわー、ちょっと野性味溢れる猫だ、可愛い! あ、それにあっちにいるのは、うちにいた虎達! 向こうも私に気付いてニャオンって鳴いた。うーん可愛い。

 この美青年は、虎の飼い主じゃなくて、虎の飼育員だったのかな? うん、なんかそんな感じだよね。あ、そうだ。城で働いているならもしかして……。

「ねえ、ダン・ワーガルって知ってる?」

 私が訊くと、美青年が目を見開き、それからニヤリと笑った。……え? そのいかにも何か企んでそうな顔は、なに?

 若干体を引いた私に、美青年が言う。

「知ってるよ。友達だ」

 え!? ダンの友達? 美青年が?

「じゃあ、ダンがいつ帰って来るか知ってる?」

 ダンから何か聞いてない?

 しかし美青年は、困った顔をして首を横に振った。

「うーん、ごめんね。それは分からないなぁ」

 う……、そっか、知らないのか。

 がっかりして俯く私に、美青年が驚くべき一言を放つ。


「いつ帰って来るか、誰も知らない」


 ええ!? 誰も知らない!? じゃあ、上司に訊きに行っても無駄ってこと!?

 ちょっと、どうなってるの? どういうことなの?

 私の動揺が伝わったのか、腕の中の虎がニャーニャーと鳴く。美男子が屈んで、私の目を覗き込んだ。

「そんなに悲しまないで。そうだ、おいで」

 おいでって何処に? 美青年は私から赤ちゃん虎を取りあげ、手を引いて外に連れて行く。そして馬車には乗らず、少し歩いて城の裏口みたいなところに着くと、そこのドアから城の中へと入った。

 え? 城の中に入っちゃっていいの?

 シエルもマジシャンも当然のような顔をして付いてきているし、いいのかな?

 城の中は外観同様、凄く素敵だった。うちの屋敷もかなり立派だけど、やっぱり城には負けるよね。

 廊下で会ったメイドさんに美青年がお茶の用意を頼み、で、階段で三階へ。沢山並んだドアの一つ、騎士が二人立っているドアをノックして開けた。

 私は部屋の中を見回す。そこそこ広い部屋で、ソファーセットと、壁ぎわにはびっしりと本棚がある。

 奥には大きくて立派な木製デスクがあって、そこで何か書き物をしていた顎髭のおじいさんが顔を上げ、私を見て首を傾げた。

 美青年が、私と繋いでいた手を離しておじいさんのところに行き、おじいさんの耳元何かを囁く。おじいさんは頷き、それからニコニコと笑って立ち上がると私の目の前までやってきた。

 うーん、雰囲気的にそこそこ重要なポストについてるっぽいなぁ。えーと、大臣系かな?  もしかして美青年の上司なのかも。一応挨拶しておこうかな。


「こんにちは、私サツキです。あなたは?」


 すると、おじいさんが真顔になり、じっと私を見つめる。あれ? どうしたのかな?

 おじいさんは美青年をチラリと見て、それから何事もなかったかのように再びニコニコと笑って答えた。

「レムと呼んでくれ」

 レム? ふーん、じゃあ「レムじいちゃん」で決定。

「あ、僕はニィでいいよ」

 レムじいちゃんの隣から美青年が言う。美青年は『ニィ』っていうんだ。ニィが私にソファーを勧める。

「ほら、こっち座って」

 私がソファーに座り、目の前にレムじいちゃんが座る。レムじいちゃんの横にはニィ。それから私の左横にシエルが座って、最後にマジシャンが私の右横に座った。

 あれ? そういえばマジシャンだけ名前聞いてないけど……まあいっか。

 ソファーに座ると、すぐにメイドさんがお茶とケーキを持ってくる。

 あ……、チェルルのケーキだ……。ダンが好きなんだよね、これ。ダンが……、う、悲しくなってきた。

「サツキちゃん?」

 ニィが私の顔を覗き込む。あぁ、涙が出てきちゃった。

「ダン……」

 呟くと、シエルが手を握ってくれた。

「何があったかわかんないけど、大丈夫だよ!」

 う……、事情を知らないのに慰めてくれてありがとうシエル。

「そうだ! ほれ!」

 と、マジシャンは光る蝶や花を部屋いっぱいに出してくれる。ありがとう、マジシャン。凄いよマジシャン。

 レムじいちゃんが立ち上がって、私をギュッと抱きしめて背中を優しく撫でる。

「ダンが帰ってきたら、パーティーをしよう」

 うん、ありがとうレムじいちゃん。おっきなケーキ、用意しなくちゃね。

 私はレムじいちゃんに縋りついた。


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