続ー17サツキ編 巻貝に連れられて
朝起きて、ご飯食べてゴロゴロして、またご飯食べてゴロゴロして……どんだけだらけてるんだよ私! って生活を何日も繰り返してるけど。
「…………」
いつダンは帰ってくるのかな?
おかしいな、長期出張ってどれくらい長期? まさかとは思うけど、出張じゃなくて単身赴任だったとか?
うーん、誰に訊いても知らないって言うんだよね。もう本当にどうなってるのよ!
はぁ……。溜息が漏れる。
もしかして城に行けば、誰か知ってるかな? ダンの職場だし、そうだ、以前屋敷の完成披露パーティーで会った上司なら何か知ってるよね!
「ちょっと訊きに行くか……」
私は呟くと部屋を出て長い廊下を歩き、周囲に誰もいないことを確認してから玄関から出て、更に門の外へ出る。出掛けるって言ったらお父様もお母様も心配するだろうから、こっそり行こう。
確か城は――こっちだったよね。
コスプレ祭りの時の記憶を頼りに歩く。歩く、歩く……遠い! 城はどこ!?
よく考えたら、虎に乗って移動した距離を徒歩で行ってるんだもん、遠くて当たり前だよね。いや、てゆうか……。私は周囲を見回す。合ってるのかな、この道?
誰かに訊きたいけど、誰もいないしなぁ。どっかのお屋敷をノックしてみようかな?
なんて不審者のように他人のお屋敷の庭を覗きながら歩いていると――あ! 少女発見! 十歳くらいかな? 黒みがかった灰色の髪の毛を、サザエとかの巻き貝みたいにクルクル上に巻いて羽根飾りをつけてる。
ちょっと……いや、かなり変わった髪型だなぁ、なんて思って見ていたら、少女が私に気付いて走り寄ってきた。
「サツキさん!」
んん? この子、なんで私の名前知ってるの?
「これ、素敵でしょう? もらった羽根」
少女が頭に刺さっている髪飾りを指さした。
え? あ! それってもしかして、コスプレ祭りの時にダンが背負ってた羽根じゃない!?
小さく加工して髪飾りにしたんだ。へえ、こんな使い方があったとは……。あ、てことは、この少女とコスプレ祭りで会ったことがあるんだね、覚えてないけど。
だから私の名前を知っているのかと納得していると、少女が訊いてきた。
「何処行くの?」
「えーと、城に」
この少女、道知ってるかなあ?
「城? 私のおじいさんがいるよ」
「おじいさん?」
「でも遠いよ」
あ、遠いんだ。うーん、無計画に出てきたのがいけなかったかな? これは断念するしかないか……。
「待ってて」
「え?」
少女が踵を返してお屋敷に向かって駆けていく。ああ、行っちゃった。
うーん、『待ってて』って言われたけど、待ってた方がいいのかな?
とりあえず少しだけそこで待っていると……、ん? 屋敷の方からなんか来た。馬車? うん、馬車だよね。だけど……、あれ?
「お待たせ」
馬車の窓から顔を出し、少女が笑顔で言う。いや、そんなに待ってないけど……。私は馬車を引いている馬を見つめた。
それよりこれ、ペガサスじゃない?
「乗って」
「う、うん」
少女に促され、私は豪華な馬車に乗った。御者席に乗っていたおじさんが、ペガサスを走らせる。
……走るんだ。飛ばないんだ、翼があるのに。へえー。
まあ、ペガサスも馬は馬だし、巨大ウサギがいるくらいだからペガサスだっているよね。よし、私の順応力凄い!
「ところで、どこに向かってるの?」
私が訊くと、少女が不思議そうに首を傾げる。
「城だよね?」
あ、送ってくれるんだ。この少女、いい子だなぁ。
「うん、そう。城!」
私はうんうんと頷いた。
「サツキさんはどうして城に行くの? 遊びに?」
「え? うん、まあそんな感じ」
恋人がいつ帰って来るか訊きに行く、なんて説明するの面倒だから適当に合わせる。
「虎の子供、生まれたんだって」
「え? 虎の?」
へー。城にも虎いるんだ。しかも赤ちゃん虎?
「見に行く?」
「うん!」
ダンの消息を訊きついでに、虎の赤ちゃん見たい!
ちょっとだけ城に行くのが楽しみになり、私は少女に笑った。