表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
80/101

続ー15ダン編      救助すべきか

 昼頃、そろそろ腹が減ったし菓子を食べようかと思っていた俺に、ユイセルが言った。


「ここでお別れだ」


 ……ん? お別れ?

 訝しげな俺に、ユイセルが口角を上げる。

「正直、こんなところまで来るつもりはなかった。この先は、俺の腕では命を落とす」

 そうか、そういうことか。俺はチャマをチュウチュに寄せて、手を差し出した。

「残念だ」

 心の底からそう思う。ユイセルとの旅は、非常に有意義なものだった。

 ユイセルも手を伸ばし、俺達はがっちりと握手をした。

「いいか、ダン。命は二つ無い。絶対に無茶はするな」

「あぁ、また会おう」

「……ああ」

 ユイセルの手が離れ、手綱を握る。そして俺に背中を向け、軽く手を挙げて去って行った。

 遠ざかる後ろ姿を、俺は見つめる。たった数日とはいえ、仲間だった者との別れは寂しい気分になる。だが、俺には俺の目的があるのだ、タマゴをサツキに贈るという目的が。

 踵を返し、チャマの手綱をしっかりと握る。

 さらば、ユイセル。俺はチャマを――。


「ウゴアァアアーン!」


 ――走らせようとして、やめた。

 ん? なんだこの音は? 地響きまでする。


「ウゴアァアアーン!」


 後ろからか。眉を寄せて振り向いた俺は……驚いた。

 あれは、まさに。


「ウ・ドンだ……」

 思わず呟く。少し先に見えるあれは、そう、サツキの故郷の食べ物ウ・ドンだ。

 違いといえば、うちの屋敷程の大きさがあるという点と、先っぽにギザギザの歯が並んだ口があるという点か。そしてその巨大ウ・ドンの側には、ユイセルの姿があった。

 咆哮しながら巨大ウ・ドンは、ユイセルに向かって大きく口を開ける。ユイセルは逃げようと、チュウチュを全力で走らせていた。

 これはマズいな。どうやらかなり危険な邪獣のようだ。

「うーむ……」

 俺は唸った。襲われても助ける必要はないというユイセルの言葉に従うなら、ここは見なかった振りをして立ち去らなくてはならない。だが……。

 ウ・ドンの巨体がユイセルにのしかかる。

「ユイセル!」

 やはり助けるべきだ。

 俺は剣を抜き、巨大ウ・ドンに向かっていく。全力で挑めば、おそらく何とかなる。

「ユイセル!」

 俺の声に気付いたユイセルが、振り向いて叫んだ。

「馬鹿、来るな! 早く逃げろ!」

「待っていろ、ユイセル。今助け――」

 バフッと音がする。俺は目を見開いた。


 ユイセルは食べられた。チュウチュごと。


「…………」

 しまった、一歩遅かったか。

「ウゴアァアアーン!」

 俺は咆哮する邪獣を見上げる。……どうすべきか。

 邪獣は強そうで、このままチャマに乗って逃げれば俺は無傷ですむかもしれない。

 ……いや、駄目だ。俺は騎士なのだ。亡くなったユイセルの弔いをしなくてはならない。

 サツキの愛らしい笑顔を思い浮かべ、魔力を剣に込める。ユイセル、仇を討ってやるからな。

 チャマに乗って走る俺に気付いたウ・ドンが、鎌首をもたげてこちらを見る。その口元に付いた赤い液体に、怒りと悲しみが溢れる。

「はぁあっ!」

 気合と共に、ウ・ドンに剣を振り下ろした。しかし、思ったよりも硬い体に剣が弾かれる。

 薄い傷をつけただけか。

 俺は舌打ちし、のしかかってくるウ・ドンを、寸でのところで転がり避けた。

 大きな体をしているくせに素早い。魔法を使うために魔力を練るが、攻撃されて祈りの言葉が途切れる。剣で攻撃するしかないか。

「サツキ、サツキ、サツキ……」

 愛する妻の名を繰り返し呟き、剣に宿す魔力を高める。

「はあっ!」


「グギャア!」


 ウ・ドンが吠えた。振り下ろした剣は、先程より深い傷を与えたようだ。同じ箇所を集中して狙えば、いけるかもしれない。

 俺はウ・ドンの攻撃を避け、魔力を込めた剣を何度も同じ箇所に振り下りした。そして――。


「サツキー!」

「グギャアアア!」


 ウ・ドンは激しい断末魔の声と共に、地面に倒れる。俺は、まだビクビクと動くウ・ドンをもう数回斬ってとどめをさした。

「ユイセル……」

 ウ・ドンの体液に塗れ、俺は唇を噛みしめて立ち尽くした。後悔が押し寄せる。

 俺が躊躇しなければ助かっていたかもしれない。


「すまない……」


 俺は目を閉じる。

 さらば友よ。安らかに眠れ――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ