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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
78/101

続ー14ダン編      超古代文明

 中心に向かって三日目――。

 照りつける太陽に体力が奪われ、喉が渇く。出来るだけ水は温存したい。こうなるとあの雨さえも懐かしく感じる。

 溜息を付き、目の前で奇声を発している全身目玉だらけの翼の生えた大きな丸い塊を半分に斬った。その倒した邪獣を抱えてチャマに乗る。

 少し離れたところまできたらチャマを止め、俺は振り向いた。

「ユイセル、火」

 するとユイセルが、肩で息をしながら怒鳴る。


「お前……乱暴だ!」


 乱暴……? 何を言っているのだ?

「もう少し周りにいる者に気を遣え! 危うく俺も斬られるところだった!」

 ああ、そういうことか。

「すまない」

 疲れのせいで、魔力の調整があまり上手くいってなかったようだ。

 ユイセルが文句を言いながら、チュウチュに括り付けられている袋から火打ち石と携帯燃料を取り出す。

「それを食うのか?」

「ああ」

 食う。

「……まあ、まともに食えそうな邪獣が出て来ないから仕方ないと言えばそうだが……」

貰った燃料を置いて火をつける。その上に先程仕留めた邪獣を置いた。

「火力が弱いか?」

「余計なことはするな!」

 うーむ、妙に警戒されている、何故だ?

 少々時間を掛けて焼けた邪獣を剣を使って火から取り出し、チャマの鼻先に置く。

「食べてみろ」

 チャマが少しだけ匂いを嗅いで噛り付く。うむ、食べられるようだ。

 剣で切り分けて、俺も食べてみる。うーむ、甘くない。まあ当然か。腹が満たされるだけマシとしよう。

 俺は邪獣の切り身をユイセルに差し出した。

「食べるか?」

「いらん」

 冷たく言い放ち、ユイセルは荷物の中からパンと塩漬け肉を取り出した。ユイセルは、自分が持っている食料を決して俺達に分けない。馴れ合いは共倒れを生むらしい。

 黙々と食事をし、深く息を吐く。――喉が渇いたな。

 うーむ、どうしようか。少しだけ水を飲むか? 水分不足から倒れては元も子もないし……だが……。

 そこまで考えて、俺は思い出す。そうだ、地下にはおそらく水脈がある。それならば……。

 俺は立ち上がり、剣を地面に突き立てて魔力を思い切り込め――。


「やめろ!」


 ユイセルが怒鳴り、俺の腕を掴む。なんだ?

「お前、何をしようとした!?」

 うむ。

「穴を掘って水を噴き出させようかと――」

「絶対やめろ!」

 やめろ? またか。俺は溜息を吐く。

「あれも駄目これも駄目、いくらなんでも厳しすぎないか?」

 ユイセルが頬を引きつらせた。

「お前……それを言うか? さては天然馬鹿だな?」

 馬鹿とは失礼な。

「昨夜、魔法で水を呼び寄せようとして失敗したばかりだろう?」

 うむ。何故か雷が矢のように降ってきて大変だった。

「だが人とは、失敗を繰り返して学習していくものだろう?」

「もっともらしいことを言うな。とにかく駄目だ」

 ユイセルが首を横に大きく振る。うーむ、困ったな。俺だけではなく、チャマも喉が渇いているだろう。

 仕方ない、持ってきた水を少しだけ――ん!?


「なんだ!?」

「邪獣か!?」


 突然、目の前に溢れた光。

 これはいったいなんだ? 何が起こっている?

 剣の柄を握って何とか目を開けようとするが、眩しくてとても開けられない。チャマも警戒するように低い唸り声を上げる。そして――。

 フッと、光は消えた。俺は細かく瞬きを繰り返しながら状況を確認しようとして……ポカンと口を開けて固まった。


「……なんだ? これは?」


 目の前に、変なものがある。邪獣……か?

 一言で言うと、長方形の物体だ。高さは俺より幾分低く、幅は俺の二倍。鋼で出来ているのか? 上の部分にガラスがあり、そのガラス越しに瓶……だろうか? それがいくつも埋め込まれ、その下が僅かに突起している。

 足下には横長の穴が空いているようだが……。とにかく実に不気味だ。

「これはなんだ? 邪獣なのか?」

 訊きつつ視線を向けると、ユイセルは信じられないものを見たというように目を大きく開き、謎の物体を見つめていた。

「いや、これは……」

 ユイセルは謎の物体に近付き、そっとそれに触れる。

「触っても大丈夫なのか?」

「ああ。おそらくこれは――『キカイ人』だ。そうに違いない」

「キカイジン?」

 なんだそれは?

「一言で言えば『謎』だ」

 謎? 意味が分からず眉を寄せる俺に、ユイセルは説明しだした。 

「遥か昔、タアズに繁栄していた一族がいた。キカイ人は、その一族が築いた超古代文明、『ターツ文明』の遺産だという話だ」

 ……超古代文明? なんだそれは? それに……。

「ターツ? タアズだろう?」

 ユイセルが首を横に振る。

「元々この地は『ターツ』と呼ばれていたんだ。ここ数百年の間に呼び名が変わってしまったがな」

 呼び名が変わった? まあ、そういうことはあるかもしれないが……。

「超古代文明とは?」

「この地には、神に愛され神と対話した一族がいた。現代では考えられないような高度な技術を持ち、このようなキカイ人を多く造って暮らしていたそうだ。ところがその一族は、ある日突然、忽然とその姿を消したらしい」

 高度な技術を持つ、神に愛された一族?

「そんな一族が本当にいたのか?」

 実に怪しい話だ。ユイセルは俺の質問には答えず、キカイ人から手を離した。

「ダン、硬貨は持っているか?」

「硬貨?」

 俺は荷物の中から、硬貨を数枚取り出した。ユイセルがそのうちの一枚を手に取る。

「文献によると、硬貨をこの隙間に入れて、この突起を押すと……」


 ガシャン! ピピピピ……。


 なんだ? キカイ人から音が聞こえる。笛の音、ではないな。今まで聞いたことのない音だ。

 もしかしてキカイ人の声なのか? とすれば、このキカイ人とやらは生きているのか? 微かに光も発しているようにも見えるが、いったいどうなっているのだ?

 目の前で起こっていることが、どうにも理解が出来ず戸惑っていると、キカイ人から先程とは別の音がした。


「××××」


 ――――なに?

「おお、出てきたな」

 ユイセルが屈んで、足下にある横長の穴に手を突っ込む。

「見てみろ、ダン。これは瓶ではないぞ」

 穴から出したのは、ガラス越しに見えていた瓶――いや、瓶ではないらしい。いや、それより先程の……。

「中身は飲み物のようだ。……どうした、ダン、驚いて声も出ないのか?」

 肩を叩かれてハッとした。

「あ、ああ」

「ダン、お前もやってみろ」

 ユイセルに言われ、俺は硬貨を入れて突起を押す。

 ガシャン。ピピピピ……パパーン!


「××××」


 ――――! これは、やはり。

「ん? おい、二本出てきたぞ。なんでだ? ほら、早く取り出せ」

 穴を見ると、確かに二本、瓶のようなものが出てきていた。

「……ああ」

 俺は屈んで、キカイ人の下の穴からそれを取り出す。


「××××」


 キカイ人からまた別の音が聞こえ、そして――。

「う……!」

「うわ……!」

 目の前に強烈な光が溢れ、目を開けた時には幻のようにキカイ人は消えていた。

「…………」

「……凄い。文献に書かれていたことは本当だったんだな。本当にキカイ人は存在し、そしてそれを造った一族もまた、間違いなく存在していたのだろう。……これだけの技術を持ちながら、神に愛された一族は何処に消えたのだろうか? もしかしたら何処かでひっそり生きているのかもしれないな……」

「…………」

 興奮気味にユイセルが話す内容を、俺は殆ど聞いていなかった。何故なら――。


 キカイ人から聞こえた音、あれは……サツキがたまに口にする言語と同じだった……。


 ……まさか、いや、そんな馬鹿な。サツキが話すのは、サツキの故郷の言語だ。それがたまたまキカイ人が発する音と似ていただけかもしれない。

 サツキはニホンという国から来て――。


 『ニホン』とは何処にある?


 世界地図で探しても見つからなかった。いや、だが小さい国だから地図に載っていないだけかもしれない。

 そうだ、サツキは犯罪組織の一員だったと俺に告白した。嘘を吐いたとは思えない、サツキに限ってそんなマネはしない。だがもし……いや、ありえない。だが……。

 俺の頭に浮かんだ一つの疑問。

 サツキはタマゴが欲しいと言った。何処でタマゴのことを聞いた? 何故必要なのだ?

「…………」

 神に愛された一族、超古代文明、タマゴを欲しがるサツキ、それに――突然魔力が覚醒した俺。これらすべてが一本の線で繋がっていたら、その答えは――。


「ダン、これはジュースだ。甘くて美味いぞ、ほら飲めよ。飲まないなら貰うぞ」


 肩を叩かれ、ビクリと震えた。俺は手の中のもの――ジュースだったらしい――を見る。

「ここを捻ったら開いたぞ。コルク栓みたいなものか」

「…………」

 言われた通り捻って栓を開け、中身を口に含む。

 甘い……シュワシュワとしている。

 トーラにこんな酒もあるが、少し感じがちがう。


「ニャオン」


 あぁ、と気付いてチャマにもジュースを飲ませてやる。ごくごくと美味しそうにチャマはジュースを飲む。

「元気になった気がするな。これも超古代文明の力か?」

 口を袖口で拭って笑うユイセル。

 超古代文明、神に愛された一族……。


 『まだ何処かでひっそり生きているのかも――』


 ……違う。考えすぎだ。そんなことあるわけがない。俺は何を考えている。

 そうだ、サツキは俺の、俺の愛する妻だ、その事実は揺るがない。


「現代ではタアズは『絶望の地』と呼ばれているが、昔は『神の遊び場』と呼ばれていたそうだ。この地で神は……」


 ユイセルの話を聞き流しながら、俺は手に一本残っているジュースを見つめる。

「…………」

 俺はそのジュースを、荷物の底、一番奥に押し込んだ。


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