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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
76/101

続ー13ダン編      焼き魚失敗

 ユイセルと共に街を出てから二日目の朝、目覚めると空が曇っていた。


「雨が降るかな」


 俺が呟くと、まだ寝ていたユイセルがガバッと起きる。

「何!?」

 ユイセルは空を見上げると、荷物を纏めて慌ててチュウチュに乗った。

「行くぞ!」

「どうした?」

「話は後だ!」

 まだ朝食も食べていないというのに、どうしたというのだ?

 ユイセルが俺を置いて走り出したので、仕方なく俺もチャマに乗って後を追いかけた。

「街を出て二日目で雨とは……運が悪い」

 忌々しげに言うユイセルに、俺は首を傾げる。

「そうなのか?」

「タアズにはあまり雨が降らないんだ。そして――雨は危険だ」

「強い邪獣でも出没するのか?」

「邪獣と植物だ」

 ん? 邪獣は分かるが……。

「植物?」

「雨雲から出来るだけ遠くに逃げるぞ」

 俺の疑問には答えず、ユイセルは速度を上げる。俺も更に速度を上げたが――しかし暫くすると、突然大雨が降ってきた。

 濡れて額に張り付く前髪をかきあげる。

「菓子が湿気るのが嫌だな……」

「呑気なことを言ってるな! 来たぞ!」

 ユイセルの鋭い声に「ん?」と前方を見ると、……なんだあれは?

 地面から生えてくる……蔦? いや、触手と言った方がよいか。しかも太いな。極太だ。

 ユイセルが剣を抜きながら説明する。

「あれは生き物の体に直接種を植える。捕まれば最後、生きたまま養分にされるぞ」

 植物に食べられるのか。うーむ、それは嫌だな。タアズは植物までもが人を襲うのか。

 俺も剣を抜き、近付いてくる触手を薙払う。雨は益々強くなり、足下はぬかるんで水溜まりが出来た。チャマの足に絡み付こうとする触手を斬る。

 これではチャマも足が取られて上手く動けない。なるほど、確かにタアズの雨は危険だな。触手を蹴散らして何とか前に進もうか……ん?

 水溜まりから、何かが這い出てきた。その姿に俺は眉を寄せる。

「…………」

 魚、か? 魚っぽいな。

 しかし……鱗に覆われてはいるが、人間のような手足がある。

 手足の生えた魚は水溜りから出ると、二本の足で立ち上がった。俺と同じくらいの大きさがあるな。なかなかの気持ち悪さだが、これも邪獣なのだろうか?


「ギョー!」


 魚が叫び、俺に向かって走ってきた。やろうというのか。

 俺は剣を構え、魔力をしっかり込める。魚が手で体の鱗を剥いで、俺に投げつけた。

 チッ、鋭いな。連続で投げられて避け切れず、腕や頬が切れ、その隙に魚がすぐ目の前まで迫る。剥き出しにした鋭い歯で俺を喰らおうというのか。そうはいかない。

「はぁっ!」

 俺は気合いと共に剣を魚に振り下ろした。


「ギョゲ~!!」


 妙な悲鳴を上げて魚は縦に真っ二つになり、動かなくなった。

 よし、倒した。しかしまた触手がしつこく絡んでくる。鬱陶しいな。一気にいくか。

「ユイセル! 伏せろ!」

 大声で忠告して、自分を中心に円を描くように、思い切り魔力を込めた剣を振り回す。金色の光が伸びて、触手を切り裂いていく。


「え? うわあ!」


 触手と格闘していたユイセルが、慌ててチュウチュと共に地面に体を伏せた。

 バラバラと地面に落ちる触手。ちょうどその時、見計らったように雨が上がって日がギラギラと照り、まだ生きていた触手が地面に潜った。

 なるほど、雨の時のみ地上に出て、晴れれば地下に潜るのか。魚もいるということは、地下深くには水脈でもあるのか?

 顎に手を当てて考えていると、ユイセルの怒鳴り声が聞こえる。

「おい!」

 振り向くと、泥だらけのユイセルが目を見開いていた。

 ん? なんだ? やけに焦った様子だが。

「お前……魔法剣士なのか!? しかも金の魔力じゃないか!」

 なんだ、もしかして気付いていなかったのか? そういえばずっと背中合わせで戦っていたからな。しかし……。

「違う」

 俺は首を横に振る。

「違わないだろう!」

 そうではない。

 興奮気味のユイセルに、俺は胸を張る。うむ、では教えよう。


「俺は『愛の騎士』だ」


 ユイセルの動きが止まった。

「は? 愛の……?」

「そうだ」

「…………」

 何故か呆然としているユイセルを尻目に、俺はチャマから降りて、先程仕留めた魚の死骸に近付く。照りつける太陽のおかげで、地面は急速に乾いていた。

 そして死骸の傍らに立ち――ふと小さな石が転がっているのを発見して拾う。俺は首を傾げた。

 これはもしや獣石か? 俺の知っている獣石と違い、綺麗な水色をしているが……。

「ユイセル!」

 石をセルに向かって投げる。慌てて受け止めたユイセルが目を見開いた。

「これは……上物だ」

「そうか」

 やはり獣石なのか。獣石にもいろいろあるのだな。さて、それよりこの死骸だが……。俺は腕を組んで唸る。

 食えるのか? 手足はあるが魚は魚だ、食えないことはないだろう。そういえばチャマは魚が好きだったな。だが生では腹を壊すかもしれない。

「ニャアオ」

 チャマが切なそうに鳴く。そうか、食べたいのか。

「待っていろ」

 擦り寄ってきたチャマの頭を撫で、俺は指先に魔力を込めて徐々に練る。魔法で火をおこし、この魚を焼いてやろう。祈りの言葉は確か……。


「全知全能なる神々よ、我が思いに応えよ。地獄より集いし業火、地を焼き尽くし、世界を阿鼻叫喚――間違えた」


 確実に間違えた、頭から間違えた。

 我ながら何をしている。戦闘後で少々気分が高揚していたか?

 ボンッ! という音と共に現れた火柱からチャマに乗って急いで逃げる。


「ユイセル! 逃げろ!」


 声をかけるとボーっとしていたユイセルも我に返り、慌ててチュウチュに乗って走り出した。

 炎は渦となり広がりはじめる。

 ある程度離れてから振り向くと、炎の渦は西へ東へと高速で移動し、そして彼方へと消えていった。

 危なかった。あの祈りの言葉は大きな火をおこす用なので料理には向かない。せっかくの魚が塵となってしまった。

「すまない、チャマ」

「ニャオン……」

 力なく返事をしたチャマの頭を撫でる。ユイセルがチュウチュに乗ったまま寄ってきた。

「お前……何をした?」

 ん? 声が震えている気がするが、気のせいか?

「ああ、魚を焼くつもりだったのだが、少々火の勢いが強かった」

「少々……?」

「少々」

「…………」

 ユイセルが何故か口元を引きつらせてじっと俺を見つめる。

「……火が必要なら言ってくれ。火打石を貸す」

「そうか、分かった。ところでそろそろ食事にしないか?」

「…………」

 俺は荷物をおろして中から菓子を取り出した。

 それにしても、先程の魔法は祈りの言葉を間違えただけで、魔力を練ること自体は成功していたような気がする。タアズは広いし人も居ないので、魔法の練習にもってこいだな。これからの戦いに備えて、時々練習をしよう。

 菓子の一つをチャマに食べさせる。

「ニャオ……」

「足りないか? 次は腹いっぱい食べさせてやるから、もう少し我慢してくれ」

「ニャァ……」

 チャマの為に、早く食べられそうな魔獣が現れるといいな。うむ。



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