続ー9ダン編 絶望の地へ
トーラの端まで来た。
目の前には木で出来た簡単な門があり、王都から派遣されている数人の騎士がそこを守っている。そして魔法師が張っている結界もここまでだ。
チャマから下りると、騎士の一人が俺の前に立ちはだかった。
「タアズに向かう気か?」
「ああ」
俺が頷くと、騎士は厳しい表情で首を振る。
「命を粗末にするな」
「粗末にはしていない。が、俺はタマゴを手に入れなくてはならない」
騎士が首を傾げた。
「タマゴ? そんなものは最早伝説ではないか。見たところどうやら騎士のようだが、何故タマゴを欲するのだ」
そうか、自己紹介がまだだった。
「俺はダン・ワーガル。タマゴを妻への三ヶ月目の贈り物にする為にタアズに向かう」
そう言うと、騎士がポカンと口を開ける。
「……は? まさか君があのダンなのか」
どうやら俺のことを知っているようだ。愛の騎士になってから、俺も随分有名になったな。
「そうだ」
肯定すると、騎士は俺を指差した。
「三ヶ月目の贈り物に――、それは冗談か? それとも馬鹿か?」
ん? 初対面であるのに失礼な奴だ。
「馬鹿ではない。これは愛だ」
そう、サツキへの溢れる愛。俺はきっぱりと言い切って、再びチャマに乗る。
「通してくれ。俺の愛を止める権利はない筈だ」
「愛……は止めないが……」
騎士は後ろにいる他の騎士を一度振り返り、漸く道を開けた。
「いいか。一応許可するが、危険だと思ったら必ず帰ってこい」
「ああ」
俺は頷き、チャマを歩かせる。が、そこでふと気付き振り向いた。
しまった。大切な事を聞くのを忘れたいたではないか。
「ところで、ここから一番近いタアズの街にはどう行けばよい?」
騎士が目を見開く。
「……知らないのか?」
「うむ」
この驚きようは、もしかして遠いのだろうか。
「……行くのはやめておけ」
「いや、行かなくてはならない」
「ではせめて、事前に一番近い街の場所くらい調べておけ!」
ああ、そうか。ここで聞けばよいだろうと思っていたが、事前に勉強しておいた方が良かったか。しかしそんなに怒ることはないだろう。
「まさか邪獣の種類や弱点も知らないのではないだろうな?」
騎士が目を眇める。
「いや、それはある程度知っている」
それらは騎士学校や見習い騎士だった時代に教わったので、何となく覚えている。もし知らない邪獣が出ても、取り敢えずすべて斬ればいいだろう。問題ない。
「…………」
何故か騎士は俺をじっと睨みつけ、それから溜息を吐いた。
「ここから北に真っ直ぐ行ったところに街がある。チャマの足で急げば、日が暮れるまでに着くだろう。いいか、お前が行こうとしている場所は『絶望の地』だ。常識は通用しない。自分の力を過信するな」
うーむ、先程は『君』と呼んでくれていたのに急に『お前』に変わったな。
いや、そんなことより比較的近い場所に街があるとは助かった。そこで情報を集めよう。
「ありがとう」
俺は礼を言い、チャマを走らせた。