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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
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続ー8サツキ編     シュークリームとの格闘

 何故、膨らまないの?


 ドーナツの大成功に気を良くした私は、今夜あたり帰って来るであろう彼氏の為にワンランク上のお菓子作りにチャレンジした。


 そう、それはシュークリーム!


 だけど焼きあがったシュー皮は、ほとんど膨らんでいない上に焦げて、まるで亀の甲羅のようだった。

「うーん、どこで間違ったんだろう?」

 ちゃんとヤンに教えてもらったレシピ通り作ったはずなのにな。

 指でシュー皮をちょんちょんと突いてみる。

「硬っ!」

 なにこれ、カッチカチじゃない。

 はぁ、どうしようかな。ヤンはお買い物に出かけちゃったし、このまま諦めるのも悔しい。

 ここは一つ、失敗の原因を考えてみよう。

 膨らまなかったってことは、やっぱり膨らまし粉の量が足りなかったってことだよね。だとしたら膨らまし粉をもっと加えれば成功するはず。

 私は棚から膨らまし粉を取り出して、まだ残っていた生地に加えてみた。で、それを絞り袋に入れて鉄板の上に大きく絞り出す。せっかくだから特大シュークリームにしてみよう。

 鉄板をオーブンへ入れ、よし、オッケー。後は焼けるまで暫く待つだけ。

 その間、マチルダがくれた雑誌みたいなものを読もうかな。えーと。


「あなた、食べる? みんな、言う、も、げ」


 うーん、難しいな。この『も、げ』って部分が良く分からない。ハンバーガーみたいなものが描いてあるけど何か関係あるのかな? 分からないから他のページを見てみよう。

 あ、これはもしかしてファッション特集かな? ドレスの絵がいっぱい描いてある。

 ふむふむ、おそらくこの清楚な感じがする若草色のドレスが、今の一押しなんだね。

 なるほどねー。確かにちょっと可愛いかも。お母様におねだりしようかな。これに合わせてこのリボンもいいな、それから……。

 と雑誌に夢中になっていて、ふと気付けばそろそろシュー皮が焼ける時間になっていた。

「ちゃんと出来たかな?」

 ちょっぴりドキドキしながらオーブンを開けてみると――。


「うわ! 膨らんでる!」


 どっからどう見ても立派なシュークリームだよ! やった、大成功!

 大きなシュー皮を火傷しないように気をつけて取り出……ん?

「…………」

 なんか、やけに硬くない? 試しに拳で叩いてみる。


 コンコン。


 何? このドアをノックした時みたいな音は。

 ……嘘でしょ。見た目は完璧なのに。ていうか、むしろどうやったらこんな硬いシュークリームが出来るのよ。

 はぁ、落ち込む。頑張ったのにな。どうしよう、このシュークリームもどき。捨てるのは勿体無いなぁ。

 そう思っていたら、ちょうどそこにヤンが帰ってきた。


「ただいま戻りました、サツキ様。美味しそうなシュークリームが出来上がりましたね」


 う! ヤンの言葉が心に刺さる。

「これ、見た目はいいんだけど、硬いんだよ」

 私の言葉にヤンは首を傾げた。

「硬い?」

 そしてシュー皮を触り、驚いた。

「これ、どうやって作ったのですか?」

 ヤンに教えてもらった通りに作ったよ! ……たぶん。

「捨てるしかないかな?」

「そうですねぇ。いやでも、小さくしたら料理に使えるかもしれません」

 そう言いながら、ヤンは棚から包丁を取り出してシュー皮に突き立てた。


「硬い!」


 ところが、僅かに切れ目は入ったものの、切れる気配はない。どんなけ硬いのよ……。

「サツキ様、ちょっと待っていてください」

 眉を寄せ、ヤンが厨房の勝手口から出て行く。おーい、何処行くのー? って思ってたらすぐに戻ってきた。戻ってきたけど。


 何故、斧を持っているの?


「サツキ様、離れてください。行きますよ」

 ヤンが斧を持ち上げ、シュー皮に向かって振り下ろす。


 パカーン!


 うわぁ、いい音! じゃなくて……でもシュー皮は綺麗に真っ二つになった。ヤンはそれを更にいくつかに割り、額の汗を袖で拭った。

「サツキ様、これなら器として利用できそうです」

 え? 器? さっきの『料理に使えるかも』ってそういう意味なの?

 シュークリーム作ったはずが器になりました――て、何それ。

 はぁ、でもとても食べられるような感じじゃないから仕方ないか。ダンに大きなシュークリーム食べさせてあげたかったなぁ。

 ……そうだ! せめて可愛いドレスを着て、ちょっぴりお化粧とかもして、帰ってきたダンに『お帰り』って抱きつこう。

 それから……あ!

「ヤン、シュークリーム作って!」

 シュー皮の器にシュークリームを載せよう。うん、自分で作るのは諦めた。

「たくさん作ってね」

 私はヤンにそう言って、ドレスを選ぶために部屋に急いで戻った。


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