続ー6サツキ編 出張の朝
出張の朝――。
え……、それはホンモノですか?
出張に行くダンのお見送りをする為に庭に出たんだけど、そこで私は信じられないモノを見た。
ダンが背中にドデカイ剣を背負っている……。
うわ! そんな大剣、現実に存在するんだ。漫画かアニメかゲームの世界にしかないと思ってたんだけど。
モンスターを狩りに行く系だよね、それ。……いったいなんの仕事しに行くの?
唖然とする私を、ダンが抱きしめる。
「サツキ……行ってくる」
「うん」
大剣が気になって、お別れに集中出来ないよ。
ダンは私から離れてお父様を見た。
「おじ様とおば様、サツキをお願いします」
お父様が頷くと、ダンはマチルダに視線を移す。
「マチルダ、ヤン」
「分かっています」
「任せてください」
なーんか、ちょっと出張に行くだけで大袈裟だな。ダンッたら心配性なんだから。
そう思いながらダンとみんなの別れの挨拶を見ていたんだけど、私はふと、自分が握りしめている物に気付いた。あ、そうだ。忘れるとこだった。
手に持っていた紙袋をダンに渡す。
「ダン、これお弁当。後で食べてね」
頑張って早起きして作ったんだよ。私ってば健気。
「サツキ、ありがとう」
ダンは私にチュッとキスをして、足下に置いてあった、これまたドデカイ鞄――リュックだね、に、お弁当をしまう。
さっきからそのリュックも気になってたんだけど、やっぱりそれって旅の荷物なの? ……荷物多すぎじゃない? 登山家もびっくりな量だよね。ちょっと出張に行くだけで、何で?
私の疑問をよそに、ダンはリュックを剣の上に背負う。
……え? またまたびっくり。剣の上からリュック背負って大丈夫なの? そんな事をしたら、いざという時に剣が抜けないんじゃないの? いや、そもそもそんな大剣、扱えるの?
あ……、行っちゃった。
うーん、お父様もお母様も、マチルダもヤンも誰もツッコミを入れないという事は、こちらの世界では、あれが出張に行く時の定番の格好なのかな? やっぱ日本とは違うなぁ。異世界恐るべし。
顎に手を当てて唸っていると、お母様が背中から私をふわりと優しく抱きしめてくる。
「サツキ……」
ん? 何? 首を傾げていたら、お父様も右側から私を抱きしめてきた。
んん? 更に、マチルダに左側から抱きしめられ、更に更に、ヤンが私を抱きしめるマチルダを抱きしめる。
…………はい? この状況は何?
重くて暑苦しい。ヤンに至っては、何がしたいのか良く分からないし。
どう対応していいか分からず困っていると、お父様が体を離して、私の右手を握って笑った。
「屋敷の中に戻ろう」
はぁ、うん、まあそれじゃあ戻ろうか。笑顔がぎこちないのは気になるけど。
お母様が私の背中に手を添え、マチルダが左手を握る。そのマチルダの空いている手をヤンが握った。……だからこの状況は何?
「サツキ、部屋に戻ったらお茶にしましょう」
「そうだな。一緒にお茶にしよう」
「サツキ様、美味しいお茶をすぐ準備しますね」
「お菓子もありますよ」
みんな、無理矢理明るくしてる?
もしかして、ダンの出張で私が落ち込まないように、気を遣ってくれてるのかな? そりゃ寂しいけど、二日や三日ダンが居なくても大丈夫なのになぁ。
なんだか良く分からないけど、私はみんなに連れられて屋敷の中に戻り、とびきり美味しいお茶を飲んでお菓子を食べた。