続ー5サツキ編 丹精を込めて
ダンのお母さん改め、ダンママから手に入れた味噌と醤油に鼻を近づける。
ああ、素敵な香り。
うっとりだよ。これぞ日本! て感じ。
「味見をお願いします」
ヤンが私に小皿を渡す。
あ、うどんのおつゆが出来たんだ。
「うん。分かった」
熱々のおつゆを火傷しないように慎重に飲む。そして私の体に衝撃が走った。
「こ、これは……!」
濃い目のだしに醤油が加わり、少し濃厚だけど味わい深くて――もうとにかく素晴らしい!
ああ、早く食べたい。うどんの生地を寝かしてからまだそんなに時間が経ってないけど……、いいよね!
「ヤン」
「はい。サツキ様、待ちきれませんか?」
ヤンが笑いながら言い、すぐにうどんの生地を伸ばし始める。さすが物分りのいい使用人。
私は早く早くとそわそわしながら厨房内を歩き回った。
そして私の体内時計で十五分後――。
「サツキ様、出来ましたよ」
ヤンに声を掛けられ、思わず「やったぁ!」と叫びながらうどんに駆け寄った。
うわ、美味しそう。見た目も匂いも完璧。
まずは今までいっぱい実験台になってくれたダンに食べてもらいたいけど今はお仕事中だし、もう待ちきれないから食べちゃおう。
ヤンが、職人さんに特注で作らせた箸を私に渡す。よし、では――。
「いただきまー……」
「サツ――」
背後から聞こえた声に、私は「え!?」と振り返る。
あれ? ダンだ。
うわ、びっくり。こんなに早く帰ってくるなんて珍しい。しかも信じられないほどのグッドタイミング。
私はうどんの入った小鉢をダンに差し出した。
「ダン、おかえりなさい。ちょうど美味しいうどんが出来たの。食べて」
ダンがじっとうどんを見つめる。
「…………」
……おーい、何故動かない?
うーん、今までの印象が悪すぎるのかな?
「美味しいよ」
私は笑顔でダンの口元にうどんを持っていった。
「はい、あーん」
「う、うむ」
ダンが屈んで口を開けたので、その中にうどんを放り込んだ。
どうかなぁ。ドキドキしながらダンの反応を見る。すると……。
「美味い」
ダンが目を見開く。
うわ! すっごく驚いてるよ。
私はヤンにうどんの入った小鉢を押し付け、ダンに抱きついた。
「ダン、本当に美味しい?」
「ああ、美味い」
「嬉しい!」
美味しいうどんが出来て、ダンも喜んでくれて、本当に良かった。
ダンが私を抱き上げる。
きゃぁ! ダンったら、そんなに美味しかったのかな? はしゃいじゃって、可愛いんだから!
恋人同士になってから、ダンは益々可愛くなっていくなぁ。かっこいいダンが見せるこの不器用で可愛いところがまた――なんて思っていたら、ダンが突然真剣な顔をした。
「サツキ、話がある」
ん? 話し?
「何?」
「実は明日から、何日か仕事で遠い場所に行くしかないんだ」
「え?」
仕事? 遠い場所?
「出来るだけ早く帰ってくるから、待っていてほしい」
……えーと、それって出張ってやつ?
まあ仕事なら仕方ないか。出来るだけ早くってことは、きっと二、三日で帰ってくるんだよね。
「うん、分かったよ」
うーん、私って物分かりのいいできた女。
「ありがとう」
ダンが唇を近づけてくる。
え? やだ、こんなところで……、もうダンったら!
そうだ、明日は早起きしておにぎりを作ろう。
妻が丹精込めて作った弁当を持って仕事に行く夫……うん、素敵! ってまだ夫婦じゃないけどね。
ダン大好き! 早く出張から帰ってきてね!
私は力いっぱいダンに抱きついた。