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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第3話ダン編     異国の神聖な儀式

 ウロウロウロウロ。


 俺は今、隣のカタヤ家の前に居る。

 用があるのだから入ればいいのだが、これがなかなかいざとなると決心が揺らぐというか、とにかく門の前を何往復もしてしまっている。


 ウロウロウロウロ。


 まるで不審者のようにうろつきながらカタヤの屋敷を見ていると、使用人が出て来た。たしかマチルダだったな。

 マチルダは足早に俺の方に向かって来る。

「まあ、ワーガル様。お久し振りです。どうされたのですか? 先程から何度も通り過ぎているようですが」

 う……。

 見られていたのか。

「いや、その、ちょっと会いたいのだが」

「旦那様にですか?」

「いや……、サツキに……」

 俺がそう言うと、マチルダは目を見開いた。

「え……! あ、まあ、まあまあ、そうでございますか。どうぞこちらへ」

 マチルダの案内で客間に行く。

 この部屋に入るのも久し振りだ。

 昔は母に連れられて、よく遊びに来ていたな。

 当時と変わらぬ部屋の中を懐かしさと共に見ているとサツキが来た。

 立ち上がり少し頭を下げると、サツキも同じよう頭を下げてからソファーに座った。

 俺も座る。

 とても緊張するが、ここまで来たのだから腹を括ろう。

 そう決意していると、サツキが上目遣いで訊いてきた。

「わたーし、何用かー?」

 俺は頷く、が、サツキの上目遣いが何となく気恥ずかしくて視線を逸らした。

「その、少々相談があるのだが」

「相談?」

 俺はもう一度頷き、気合いを入れてサツキの目をしっかりと見つめた。

「俺は騎士なのだが、……隊長が俺に笑えと言うのだ。明日試験すると言われてしまったのだが、どうすればよいのか分からない。あなたなら笑顔のコツを知っていると思うのだ。恥ずかしながら、教えてもらいたい」

「……え?」

 いきなりこんな相談をされ驚くのも無理は無い。

 俺だって頑張って、笑顔の練習をしていたのだ。

 しかし今日、何故か隊長は激怒した。

 その上『明日試験する』と言われてしまったのだ。

 もう俺に打つ手は無いと絶望的な気持ちになった時、サツキの事を思い出したのだ。

 あれだけヘラヘラ笑えるのだから、きっと何かコツを知っている筈だ、と。

 背に腹はかえられない。

 俺は恥を忍んでサツキに教えを請う決心をした。

 そのサツキは今、眉を寄せて俺をじっと見ている。

 唸りながら上から下へ視線を移す。そしてパッと明るい表情になった。

 何かよい方法でも思いついたのだろうか?

 俺は期待しながらサツキの言葉を待った。

「ニホンの笑いゲイニンにやる、棒に頭で十回まわり走る、んーと、神聖な儀式、グルグルバット。沢山笑いが出来る」

「グルグルバット……?」

 儀式?

 コツを教えてもらいたかったのだが、どういう事だ?

 ……もしかして、その『グルグルバット』と言う儀式をやる事により、確実に笑えるようになるのだろうか。

 そうか成る程、『ゲイニン』とは神の名だな?

 俺の問うような視線にサツキは笑顔で頷く。

「ちょっと、剣貸す」

 サツキが俺の剣に手を伸ばす。

 え!?

 俺は驚いて剣をしっかり握った。

 剣を何に使おうというのか。

 こんな華奢な体で剣など扱える訳が無い。非常に危険だ。

「ちょっとよー」

 サツキは不機嫌な顔で激しく手を振る。

 うーん……。

 機嫌を損ね、教えてもらえなくなったら困る。

 仕方なく鞘ごとそっとサツキの手に載せた。

 すると、サツキはよろめき倒れそうになった。

 しまった! サツキにはこの剣は重過ぎるのだ!

 咄嗟に手を伸ばして体を支えると、サツキは笑顔で振り向いた。

「ありがーとね」

 …………!!

 か、顔が近い……。

 それに、この体勢はまるで俺がサツキを抱きしめているようではないか。

 助ける為とはいえサツキに失礼な事をしてしまった。

 丁度お茶を運んで来たマチルダも目を見開いている。

 申し訳ない……。事故なのだ……。

 鞘の先を床に付けてサツキの体から手を離すとマチルダが微笑んだ。

 二人共、怒ってはいないようだな……。

「じゃあ、やる。見ておけ」

 実際にやって見せてくれるようだ。

 サツキは柄に両手を重ねて置き、そこに額を付けてまわり始めた。

 ふむ。神への祈り、だな。

 二回まわって剣を置き、両手を広げて走る。

 これはおそらく心の解放を意味しているのだろう。

「十回まわる、本当。分かったかー?」

 うむ。理解した。

「分かった。屋敷に帰ったらやってみよう」

 これで明日は笑う事が出来るだろう。

「頑張るねー」

「ありがとう」

 突然の相談にも親身になってくれるサツキは優しい人だ。

 初めて会った時、『変な女』だと思ったのは失礼だったな。

 反省しながら俺は自分の屋敷へと戻った。


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